利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

336 不穏な調査依頼

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336

おじさまはサイデム邸の台所に、イスのマリス邸のように素敵なカウンターを作ってくれたので、普段のように対面しながら料理ができる。
ちゃんとキッチンの高さも私専用に調節してくれてあったので、とても助かった。

(こういう気配りは出来る人なんだよね)

今日は味噌、それにエジンさんからもらった試作品の醤油もあることだし、和食中心のメニューと行こう。

青のり、胡麻、鶏そぼろの三色の松風焼きは、そぼろ肉を固めた和風オードブル。子供も大人も好きな味で、つまみとしてもいける。どういうわけかこの料理、外で購入するより自分で作ったものの方ずっと美味しい。日持ちの良い料理であると同時に、できたてのものには全く違う美味しさがある、一粒で2度美味しい一品だ。
自家製笹かまぼこの板わさに、カニあんかけの茶碗蒸し、里芋の田楽、お漬物色々。

お酒は日本酒、やや辛口で食中酒として長く飲める〝秀松 山吹〟にしてみた。飽きたら麦焼酎〝百助〟にしよう。

ご飯は土鍋で鯛飯、お吸い物は貝とわかめ。

足りなければ、更に追加で作っていこう。この間の酒盗を使って炒め物をしてみるのもいいかもしれない。

台所に張り付いていると、陽の高いうちに早々と博士とセイリュウはやってきたので、つまみと酒を出す。
いつもなら、かなり遅れてくるサイデムおじさまも、本当に早めにやってきた。

「これは珍しいことじゃな。お前さんが、仕事を切り上げてもしなければならない話とは、一体なんだ?」

グッケンス博士が、ちょっとからかうように言う。

首をすくめたサイデムおじさまは、冷酒をキュッと一気に飲み干す。淡麗で、食も進むウマ酒だ。

「おお、これもいい酒だな。疲れが取れるぜ」

落ち着いたおじさまが話し始めたのは、意外なことに沿海州の動向についてだった。
しかも〝西ノ森味噌〟の蔵がある領地に関わる問題。

「あの領地に、新しいダンジョンが現れた話は知っているか?」

「ええ、エジン先生から聞いています。有望らしくて、領主様はその攻略に夢中だとか」

おかげで〝西ノ森〟には関心がなく放っておいてくれるので、とても助かったし、こちらも税金など払うものを払うだけで、特に関心は持っていなかった。

「有望……なのがまずいんだよなぁ……」

実はこの間のパーティーの時も、サイデムおじさまとドール参謀はその話をしていたらしい。

アキツ国にあるデーデン家の領地に新たに現れたダンジョンは、まだ表層階も完全には攻略されていない、かなり難しいダンジョンだという。

得体の知れないダンジョンの攻略には、時間もお金もかかる。
沿海州まで出向いても、どの程度の実入りが得られるか未知数な上、今残されているアキツのダンジョンからは大きな利益になりそうなモノが出ていない状況を考えると、リスクが高すぎて大陸の有名な冒険者たちアタッカーも、あまり食指が動かないらしい。
かといってろくに魔法も使えない者の多い沿海州の冒険者たちではいくら挑戦してもラチがあかず、ダンジョン探索は遅々として進んでいないのだそうだ。

「だが、噂ではどうやらこのダンジョン、大量の〝爆砂〟が取れる可能性があるらしいんだよ。あくまでも、噂だがな」

おじさまの言いたいことが分かったらしいグッケンス博士が、眉をひそめている。

「なるほど。そうなると帝国としては放ってもおけないわけじゃな。〝爆砂〟から作られる強力な爆発物は、戦時下では非常に重宝される兵器になる。それが出ると判れば、ほかの国も狙いに行くかもしれんし、アキツが外交態度を変えてくる可能性もないとは言えん……面倒だの」

「だからといって、まだ全く噂でしかない状態では、軍を出動させるわけにもいかず、かといって悠長にいつまでかかるか分からない攻略を待つのも対応が後手に回る可能性がある、と参謀本部は考えている。なんとかダンジョン内の状況について他国に先んじた情報を最速で知りたい、ということなんだ」

私が沿海州に行ったせいで、最近アキツを中心とした沿海州諸国との取引が伸びているサイデム商会ならば、何か情報を得るためのツテがあるのではないかと、ドール参謀から相談されたそうだ。

「随分と剣呑な〝帝国の代理人〟への初仕事の依頼ですね」

私はおじさまのグラスの氷を取り替え、新しい酒を注ぎながらため息をつく。
だが、この国家を揺るがすかもしれない軍事的均衡に関わる調査、よっぽどの信用がなければ、依頼されない案件だ。

(それだけに、新参の〝帝国の代理人〟としては断れない依頼だよねぇ……)

「メイロード、お前に行けと言ってるわけじゃないぞ!グッケンス博士やセイリュウなら、可能なのか。もしくは、何かツテはないのか聞いてみたかっただけだ」

そうは言うが、おじさまは、私がすでにとんでもない激ムズのダンジョンを踏破したことを知っている。
例の〝厭魅〟に汚染されたアタタガたちのダンジョンだ。

(あれのせいで、私は冒険者としてもイスで名を馳せちゃったんだよねぇ……)

おじさま、あれも私はついて行っただけで、全てはグッケンス博士とセイリュウの手柄だと思っているようだ。それでも、セイリュウとグッケンス博士を動かせ、アキツに拠点も構えている私に話を持ってきたのだろう。
まぁ、私の魔法については、なるべく話さないようにしているので、私が2人に頼りきりだと思われて当然だが。

「僕は行ってみる価値がありそうに思えるんだけど、どうする、メイロード?」

セイリュウがこういう言い方をするときは、そこには何かと思っている時だ。
聖なる龍の勘働きは侮れない。

(ならばここは話に乗ってみようか……)

「どうせ、マホロには戻りますから、ともかくそのダンジョンまでは行ってみましょうか?
お忙しい博士にダンジョン探索のお手伝いをお願いするのは気の毒な気がしますが、これは付き合い頂くしかなさそうですね」

博士は困った顔をしているが、仕方がないという表情だ。国家魔導師の重鎮としては、やはり見過ごせない案件なのだろう。

「すまんな……」

おじさまは、また肩をすくめている。
いくら2人がついているとはいえ、私を危険に晒すのはサイデムおじさまの本意ではない。かといって、今一番あの辺りで影響力を持つだろう大陸人の私を外しては、調査に手間取るのは必定。

「大丈夫ですよ。ただの調査だけですって!危険なことはセイリュウと博士に任せます」

なんだかおじさまが気の毒になり、私は逆に慰めるような形で、さらに酒を注ぐ。

(アキツへ戻ったら、そのダンジョンの現状を調べてみよう。浅い階のダンジョンの様子を見るぐらいなら、大丈夫……だよね?)
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