利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

331 祝賀会サプライズ

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331

西ノ森の味噌蔵で作る味噌は、既に全てサイデム商会が抑えている。
元々の出資者でもあるし、帝国での需要を支えるには、全て輸出用に回すしかないのが現状だ。

貴重な外貨が得られるし、得られた利益でここに蔵を増やしていくことも可能だが、せっかくの味噌造りのノウハウ、国内の人たちの食生活が豊かになるためにも使って欲しい。

「なので、もったいないから、使いましょう。東の里の味噌蔵に関する全ての権利をタガローサ側から一旦エビヤ商会がで売りつけられて下さい」

そうして完全にマホロの事業として、再び事業を再建しようと思う。買い取った権利は、今回大変な目にあったエビヤ商会、バンス穀物商店、それに商人ギルドで1/3づつ権利を買い取り、合弁事業として進めてもらう。
ヘクトルはエビヤ商店に協力して、その販売と味噌蔵の生産計画の指揮をする。

「ヘクトルさん、あなたの責任は重いですよ。できますか?」

「お任せください。一命を賭して、神の御意志に従い、マホロのために働かせて頂きます」

〝種麹〟を提供して、エジン先生が指導すれば、東の里でもちゃんと味噌はできるはずだ。
こんなことになっていると知ったら、タガローサがまた怒り狂いそうだけど、身から出た錆、全く同情の余地はない。

(沿海州にしか流通させないから、多分しばらくは気がつかないだろうけどね)

アキツを中心に沿海州だけで売るので利幅は薄いかもしれないが、長く愛される商品になるだろう。

「……ということで、商人ギルドもこの味噌事業に出資して頂くわけですが、例の件はどうなりました?」

「ああ、あれですか。不心得者たちはつつがなく粛清されましたので、ご安心ください」

今回、商人ギルドを経営陣に加えたのは、この事業を長期的な展望を持って公益性のあるものにしてもらうためだ。
商人ギルドは、公的機関や上の人間との交渉力があり、影響力も強いので、大規模に事を成すには都合がいい。
そこで、まずは経営陣の責任として、例の不心得者の役人のあぶり出しと厳罰対応をお願いした。

案の定、調査の過程で今回のことに加担した連中からは余罪ボロボロ出るわ出るわ。
タスカ幹事を通じて、この分なら極刑にもできますが……と言われたが、それも労働力の無駄かなと思ったので、働かせる方向でお願いした。結果、10名が財産没収の上役職を解かれて無期限の強制労働となった。
山奥の鉱山で、しばらく元気に働いてもらおう。いつか出られるといいね。

「大規模な粛清のおかげで、役所も風通しが良くなりました」

タスカ幹事はすっきり笑顔だ。
これまで、貴族との縁故だの癒着だので、なかなか大鉈を振るえなかった役所の不正だが、帝国まで巻き込んだ大事業における不正ということで、政情も鑑み、一切斟酌なしに取り調べを行うことができたという。
この10名以外も、これまで色々とやった連中は、まとめてお払い箱にしたようで、今回の件のおかげで、長い間の膿が出せたということらしい。

でも、一番深く関わっていたベザサール改めヘクトルの処分は保留とした。
なにもかも話してくれたことは、捜査の役にも立ったし、なによりすでに改心して、もう人が違っちゃっているので、今更罰を与えても〝喜んで〟受けちゃいそうで、あまり罰にならない。それにもうひとつ頼りない沿海州の商人より、海千山千の帝国で鍛えられたヘクトルは確かに有能だ。人材不足の折、両国の事情に通じ商売にも明るい人間は、正直何人いてもいい。
それに、彼からはまたタガローサ関連の情報が引き出せそうなので、誠心誠意この味噌蔵の人たちのために働いてくれるなら、それでよしとしようと思う。それは、決して楽な仕事じゃないはずだから……。

今、彼を監視しているのは〝神〟なのだから、裏切ることもないだろうし、懸命に働いてくれるはずだ。

さて、なんとか今回の仕事にも目処がついた。

西ノ森の味噌蔵に戻った私は、エジン先生に経緯を話し、東の里への〝種麹〟の供給と技術指導をお願いした。
エジン先生は喜んで了承してくれ、ウキウキしている。

「これからの東の味噌が楽しみだね。色々な場所から来た職人さんがいるそうだから、きっと面白い味噌もできるはずだよ。これからの研究が捗りそうだ」

エジン先生に案内されて台所へ行くと、いつもよりかなり綺麗になっていてテーブルには布までかけられ、ちょっとしたパーティ会場のようになっていた。

「ささやかだけど、お祝いをしたいんだ。ありがとう、すべて君のおかげだ」

エジン先生が薄紙に包まれたガラス瓶を私に渡してきた。

〝まだまだだけど、試作品第一号〟

そうラベルに書かれている。

セーヤとソーヤが箸と小皿を私に嬉しそうに渡す。
瓶の蓋を開けて皿に注げば、少し濁りはあるものの、それは醤油と呼べる香りをしたものだった。

「うわぁ、醤油だぁー」

私の驚きと嬉しさが滲んだ言葉に、今度はセーヤとソーヤが刺し盛りの皿と冷奴の皿をぐいぐい押し付けてくる。
私は笑いながら刺身を一切れとって醤油をつけて食べてみる。
そして、お豆腐も……

「エジン先生! ありがとう!充分美味しい!!
これは、とってもこの国の食生活に合う調味料になるから、きっと完成させてね!」

満面の笑みの私にエジン先生もホッとした様子で、請け負ってくれた。

「任せて!」

エジン先生も笑いながら手で刺身をつまんで醤油をつける。

「うん、いいね!これは、イイ!」

やっと私は当初の目的のひとつを達成できたようだ。
これからは、また、新しいレシピに挑戦していける。

私は醤油レシピをあれこれ考えながら、最高の祝賀会を楽しんだ。
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