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2 海の国の聖人候補
329 新たな〝帝国の代理人〟
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329
タガローサは怒りが頂点に達して意識を失い、大騒ぎの中従者たちに運ばれ皇宮を辞した。
本来ならば、謁見終了後には暫しの休憩の後、献上品について説明する機会が設けられている。いかに自分が皇帝陛下のことを考えているかをアピールする大事な機会なのだが、主人であるタガローサがヒステリーで失神中ではどうにもならず、せっかく揃えた献上品は置かれたまま、説明すらできずリストだけが従者によって読み上げられた。
このような、急遽決定したお召しの際の献上品は、高価な物よりも目利きの度合いを見せるプレゼン的な意味合いが強く、最近話題の商品や目先の変わったものが好まれる。
サイデムは最高級の紙を使い、金箔をふんだんにあしらった とてつもなく手間のかかった美しい装丁のノートと日記帳を、皇子皇女、すべての妃の分まで用意していた。皇帝陛下のものは更に豪華な別注。もちろん、こういう機会を想定して事前に準備していたものだ。
興味を惹かれた正妃が一冊を手に取ると、ふわりと漂う百合の香り。
「なんとも雅やかなものだな。それに羊皮紙のように重くなく、厚くもない。これならば側に置くのも持ち歩くことも苦もなくできよう。あの子の勉強も捗るやもしれぬな。良いものだ……」
その場で定期的な納入が決まる。
同時にそれぞれの紋章の入った香り付きのレターセットも受注。もちろん特注品だ。
次に献上したのはハードチーズの塊。パルメザンチーズだ。
これにもいたく興味を示され、新しくできたチーズは、味見のため全て厨房に入れて欲しいと要望された。
「まだ研究は半ばでございますが、新商品が完成致しましたら、またご紹介申し上げます」
次に紹介したのは新しい菓子。
「こちらは〝ギモーブ〟と申します。まだ、イスの私共が経営する食堂で試験的に作成しているものでございますが、きっと皆様のお気に召すだろうと、アレが更に改良したものでございます。ふわふわの食感と果物の風味をお楽しみください」
〝大地の恵み〟亭のマルコとロッコの兄弟シェフがメイロードから教わったこのフランス菓子は、フルーツの風味が凝縮したマシュマロのような風味のもので、色々な果実やナッツと合わせて食べられるものだ。食感も新しく一口サイズで食べやすい。
正妃も嬉しそうに頷き、一口試食すると目を細め、その繊細な風味を褒め称えた。是非、茶会の席で振る舞いたいとこちらも大量受注。
他にも多くの献上品を紹介した後、最後にサイデムが見せたのはひとつの樽だった。
「こちらは、味噌というものでございます。実は今アレはマホロ近郊の別荘で静養中なのでございますが、アレが見つけてまいりました新商品の初蔵出し、とても特別な品でございます。
大げさに療養とは申し上げましたが、あちらの気候が合っているようで健康に過ごしておりますので、ご安心ください」
アレがメイロードを指すことは周りにはわからない。だが、メイロードを知る正妃リアーナの瞳は優しげに輝いた。
実は、ここではメイロードの名は出さないことになっているのだ。
例の婚約式に子供が関わっていることを知られるのは対外的にも良くないとされ、まだ子供のメイロードにとっても危険が伴うとして、緘口令が敷かれた。
そのような事情があり、この宮廷内でもメイロードの名前を知る者はごく僅か、さすがのタガローサもその存在を掴むには至らなかったのだ。
「おお、そうであったか。小さき躰で色々と無理をさせたな。あれは働きすぎというものであろう。
沿海州での静養で、健康を取り戻しているようでなによりだ。
場所が変わっでも、相変わらず面白いことをしているようだな」
サイデムは、塩ラーメンの材料となる素材は沿海州でも天然にしか取れない高価なものが多いため、庶民には手が届きにくいこと。味噌は躰にもとても良い食品だが、大量生産が今までできていなかったため、帝国にもほんの少量しか輸出されていないこと、そしてマホロに住む天才的な頭脳を持つ学者の力を借り、遂に大量生産に成功したことを告げた。
「こちらにお持ち致しましたのは、その〝西ノ森味噌〟の初蔵出しの貴重な品、特別な逸品でございます。アレより預かって参りましたいくつかのレシピを厨房にお預け致しますので、ぜひご賞味下さい」
正妃は楽しげに微笑んで頷く。
「皇帝陛下の体調まで気を使ってくれるとは、さすがよの褒めてとらす。そしてサイデム商会もいいモノを紹介してくれた。大儀であった。これからも頼むぞ」
「ありがたき幸せでございます」
こうして、新たな〝帝国の代理人〟となったサガン・サイデム、そしてサイデム商会は、パレスへの進出の地盤を固め始めた。
今までパレスへの出店を控えていたサイデム商会だが〝帝国の代理人〟となった今、パレスにしっかりとした拠点を作り、地盤を固めることが必要となった。
いよいよ、タガローサ傘下の商店との全面対決が近づいてきている。
タガローサは怒りが頂点に達して意識を失い、大騒ぎの中従者たちに運ばれ皇宮を辞した。
本来ならば、謁見終了後には暫しの休憩の後、献上品について説明する機会が設けられている。いかに自分が皇帝陛下のことを考えているかをアピールする大事な機会なのだが、主人であるタガローサがヒステリーで失神中ではどうにもならず、せっかく揃えた献上品は置かれたまま、説明すらできずリストだけが従者によって読み上げられた。
このような、急遽決定したお召しの際の献上品は、高価な物よりも目利きの度合いを見せるプレゼン的な意味合いが強く、最近話題の商品や目先の変わったものが好まれる。
サイデムは最高級の紙を使い、金箔をふんだんにあしらった とてつもなく手間のかかった美しい装丁のノートと日記帳を、皇子皇女、すべての妃の分まで用意していた。皇帝陛下のものは更に豪華な別注。もちろん、こういう機会を想定して事前に準備していたものだ。
興味を惹かれた正妃が一冊を手に取ると、ふわりと漂う百合の香り。
「なんとも雅やかなものだな。それに羊皮紙のように重くなく、厚くもない。これならば側に置くのも持ち歩くことも苦もなくできよう。あの子の勉強も捗るやもしれぬな。良いものだ……」
その場で定期的な納入が決まる。
同時にそれぞれの紋章の入った香り付きのレターセットも受注。もちろん特注品だ。
次に献上したのはハードチーズの塊。パルメザンチーズだ。
これにもいたく興味を示され、新しくできたチーズは、味見のため全て厨房に入れて欲しいと要望された。
「まだ研究は半ばでございますが、新商品が完成致しましたら、またご紹介申し上げます」
次に紹介したのは新しい菓子。
「こちらは〝ギモーブ〟と申します。まだ、イスの私共が経営する食堂で試験的に作成しているものでございますが、きっと皆様のお気に召すだろうと、アレが更に改良したものでございます。ふわふわの食感と果物の風味をお楽しみください」
〝大地の恵み〟亭のマルコとロッコの兄弟シェフがメイロードから教わったこのフランス菓子は、フルーツの風味が凝縮したマシュマロのような風味のもので、色々な果実やナッツと合わせて食べられるものだ。食感も新しく一口サイズで食べやすい。
正妃も嬉しそうに頷き、一口試食すると目を細め、その繊細な風味を褒め称えた。是非、茶会の席で振る舞いたいとこちらも大量受注。
他にも多くの献上品を紹介した後、最後にサイデムが見せたのはひとつの樽だった。
「こちらは、味噌というものでございます。実は今アレはマホロ近郊の別荘で静養中なのでございますが、アレが見つけてまいりました新商品の初蔵出し、とても特別な品でございます。
大げさに療養とは申し上げましたが、あちらの気候が合っているようで健康に過ごしておりますので、ご安心ください」
アレがメイロードを指すことは周りにはわからない。だが、メイロードを知る正妃リアーナの瞳は優しげに輝いた。
実は、ここではメイロードの名は出さないことになっているのだ。
例の婚約式に子供が関わっていることを知られるのは対外的にも良くないとされ、まだ子供のメイロードにとっても危険が伴うとして、緘口令が敷かれた。
そのような事情があり、この宮廷内でもメイロードの名前を知る者はごく僅か、さすがのタガローサもその存在を掴むには至らなかったのだ。
「おお、そうであったか。小さき躰で色々と無理をさせたな。あれは働きすぎというものであろう。
沿海州での静養で、健康を取り戻しているようでなによりだ。
場所が変わっでも、相変わらず面白いことをしているようだな」
サイデムは、塩ラーメンの材料となる素材は沿海州でも天然にしか取れない高価なものが多いため、庶民には手が届きにくいこと。味噌は躰にもとても良い食品だが、大量生産が今までできていなかったため、帝国にもほんの少量しか輸出されていないこと、そしてマホロに住む天才的な頭脳を持つ学者の力を借り、遂に大量生産に成功したことを告げた。
「こちらにお持ち致しましたのは、その〝西ノ森味噌〟の初蔵出しの貴重な品、特別な逸品でございます。アレより預かって参りましたいくつかのレシピを厨房にお預け致しますので、ぜひご賞味下さい」
正妃は楽しげに微笑んで頷く。
「皇帝陛下の体調まで気を使ってくれるとは、さすがよの褒めてとらす。そしてサイデム商会もいいモノを紹介してくれた。大儀であった。これからも頼むぞ」
「ありがたき幸せでございます」
こうして、新たな〝帝国の代理人〟となったサガン・サイデム、そしてサイデム商会は、パレスへの進出の地盤を固め始めた。
今までパレスへの出店を控えていたサイデム商会だが〝帝国の代理人〟となった今、パレスにしっかりとした拠点を作り、地盤を固めることが必要となった。
いよいよ、タガローサ傘下の商店との全面対決が近づいてきている。
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