利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

321 メイロード式爆速農業

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321

「それじゃ行くよー!」

《風魔法》に無数の種を乗せて、広大な高原の土地に何度目かの種蒔きを行う。

種まきが終わったら《緑の手》を使い、おなじみの超促成栽培。
《火魔法》と《風魔法》を混合してしっかり乾燥させてから、今度は圧縮して薄い円盤状にした風を回転させ、チェーンソーのようにして一気に刈り取った後、再び《風魔法》で脱穀。

いつも私の大規模超促成栽培に付き合って慣れっこの力持ち妖精セーヤとソーヤも大活躍。なんであの小さな躰で持てるのか、未だに不思議でしょうがないのだが、大量の豆の入った重い麻袋を担いでひょいひょいと運んでいる。

エジン先生に5日以内に戻る宣言をしてから帝国へ戻ると、直行で博士の牧場側の高原に作ってある〝隠された農地〟へ向かい〝メイロード式突貫農法〟を開始、豆の準備を急いだ。

大規模な味噌蔵で使用する量の豆を収穫するとなると、どんなに頑張ってもさすがに1日では無理で、今日は2日目。
なんとか明日中にはかたずけたいところだ。

それにしても、私たちの補給を絶って、味噌蔵の稼働を止めようとは、敵ながらいい目の付け所だ。
大量の農産物の補充となれば、モノが次の収穫期まで手に入らないので、金があったところでどうにもならない。

その状況で相手の資材を奪い取り、それを使って自分たちが先に味噌を作り始めれば一石二鳥、と思ったのだろう。こういう悪知恵だけは相変わらず見事な手際だ、恐れ入る。

(私がいなかったら、その目論見は多分成功したんだろうけど、そうはいかないからね)

相手がその気なら、こちらもそれなりの作戦を取らせてもらうとしよう。
きっと豆を奪ったことで、こちらはもう手も足も出ないだろうと、彼らは油断している。
ならばこちらにも勝機ありだ。
敵の油断に乗じて一気呵成に勝負をかける。

そのために、たとえ腕が痛くても、肩がバキバキでも、目がしぱしぱしても、今はひたすら種蒔きと収穫の繰り返しだ。

(私が隠れて作ってしまえば、どの流通経路にも乗らないから、絶対見つからないし邪魔もされないからね)

困ったことに敵の黒幕は陰日向に強い影響力を持つ大商人。
当然、私たちが沿海州以外から、豆を調達しようとする可能性も考えて動いているだろう。ソーヤの報告によれば、実際港には網を張っているそうだし、仮に買い付けに成功しても大量の豆が動けば、また邪魔をされる可能性が高い。

となれば方法はひとつ。自家栽培で調達し《無限回廊の扉》を通じて運び込んでしまう、の一択だ。

結構な労働量と魔力消費量なので、大量の作物を一気に作る作業は大変は大変なのだが、幸か不幸か、この辺りの無茶には慣れっこだ。必ず間に合うように用意できる。
エジン先生の味噌蔵をスパイしている人には、突然現れる大量の豆袋を見て、せいぜい驚いてもらおう。
裏をかかれて地団駄を踏んでくれれば、いっそ小気味好い。

(私は怒っているのだ。もう、激オコなのだ!)

ソーヤのスパイ活動によって分かったこと。

やっぱり、裏で糸を引いていたのはタガローサだった。

ソーヤはエビヤ商会に入り込んで、話を全て聞き取り、証拠も確認してきた。
その報告を聞いた私は、あちら側の事情を把握した。

どうやらエビヤ商会も、ある意味巻き込まれた被害者のようだ。
彼らの大口取引先であり、帝国との唯一のパイプでもあるパレスの大商店が、突然アキツでの味噌蔵建設を委託してきたのだ。彼らとの取引を絶対に失うわけにはいかないエビヤ商会には、それを断るという選択は事実上なかった。

そう、彼らは何が何だか分からぬまま、タガローサから巨大味噌蔵の建設を強引に押し付けられたのだ。

巧妙にタガローサの存在は隠されているため、沿海州の人たちはパレスの商店のことしか分かっていないが、そのパレスの商店の背景を探り、更に資金の流れを追った所、その商店の出資者はタガローサ、関与は明らかだった。
加えて、送り込まれた責任者らしき男がタガローサに向けた報告書を作っている様子も、ソーヤがしっかり確認済みだ。

全く何もない状態からいきなり巨大な味噌蔵を突貫で作り上げるための莫大な資金も、全てタガローサ側が送金しており、指示も全てタガローサが送り込んだスパイたちを通じて行われている。
バンス穀物卸での騒動も、もちろん彼らの差し金で、虚偽の密告をした上で下級役人を抱き込んで豆を横流しさせたのだ。

そして、バンスさんたちが急ぎに急いで必死に証拠品を揃え、不正の事実のないことを証明した後もひどかった。
今度は〝売ってしまった分もそれ以上の金額で金を戻したのだから問題なし。疑われるような商売をしたお前たちが悪い。だから文句は受け付けない〟と、お役所らしい横柄な態度で横流しの事実もうやむやのまま、あとは門前払い。

この話も、私を大変憤慨させてくれた。

東の里の味噌蔵の連中は、今になってマホロ国内のあらゆる村から味噌造りの経験のある者を金にあかせて無理矢理呼び寄せている。彼らに味噌造りを任せる算段らしい。

(そんなことで、なんとかなるならエジン先生がとっくに成功してるよ……)

タガローサはサイデムにできることが自分にできないなどあり得ないと思っているらしく、よく知りもしないのにできるつもりでいるようだ。アリーシア様からの手紙にもあった通り、新侯爵となられる日も近いドール参謀の前で大恥をかかされたことに執念深く怒っているようで、なんとしても味噌に関する利権を奪いたいらしい。

(モノ作りをナメてるにもほどがある。恥をかいたのも自業自得だし、そんなの逆恨みだよ。迷惑な……)

エビヤ商会は指示に従って右往左往している感じで、もちろん海産物問屋の彼らに味噌の知識があるわけもなく、言われたものを用意するだけのようだし、こんな付け焼き刃では十中八九成功しないだろう。

……というような敵の状況がはっきりしたので、向こうの蔵の動きは監視はするが放っておくことに決定。

おそらく大半が無駄になってしまうだろう豆が可哀想だが、こればっかりは致し方ない。味噌造りの難しさ、身をもって体験して頂くことにしよう。

「メイロードさま、こちらの豆もお使いになるのですか?」

ソーヤが赤い印のついた一袋の豆を掲げて見せた。

「ええ、特別な初出しの味噌だから、今回だけはちょっとイタズラにしようと思ってるの」

「分かりました!じゃ、これも運んでおきますね」

さて、こちらの準備は完了。
西ノ森に戻っていよいよ味噌の仕込み開始だ。
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