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2 海の国の聖人候補
317 マホロで交渉
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317
エジンさんを通じて、味噌蔵を支える作物を作ってくれる農家の皆さんへの農業支援金を交付することにした。
新たに始める人たちへの負担を減らし、作っている方たちにも作付面積を増やしてもらうための措置だ。
町役場の方達と協力し、例によって、記憶力に一点の曇りもないエジンさんが、適切に必要な金額を算出。同時により良い作物を収穫するための農業指導も行っていった。
私は種まきが始まる前にこっそり見つからないように田畑を巡り、ちょっとだけ〝地の力〟を上げる程度の助力をした。
「今年は、初めてのはずの農家も皆豊作になりそうですよ。これならいい味噌ができますね」
エジンさんは無邪気に喜んでいる。
(まぁ、私の使った力のことは言わなくてもいいよね)
そして、大量生産開始の前に、もうひとつ保険をかけることを提案した。
「これから、味噌蔵には多くの人が関わるでしょう。いづれは、大規模な味噌蔵を持ちたいと考える人たちが他に現れると思われます。エジン先生もそれは望むところでしょう。
そこに〝種麹〟を売ることはいいですが、その製法は彼らが自らたどり着かない限り、こちらからは明かさないでおきませんか?」
私の提案に、最初エジンさんは驚いたが、すぐに真意を分かってくれた。
〝種麹〟さえあれば、どこでも味噌作りができる。だが、逆にこれがないまま大規模な味噌蔵を維持し成功させるのは不可能に近い。つまり、〝種麹〟さえ握っていれば、生産場所も量もこちらがコントロールできるのだ。
どこぞの欲に目の眩んだ商人の、変な横槍にも対抗できるだろう。
「〝エジン味噌〟の品質と価格を守れるよう、これは徹底すべきだと思います」
「〝エジン味噌〟って、なんだかやだなぁ。地名の方が良くないですか?」
エジンさんが困った顔をする。いいと思ったんだけど、ダメですか〝エジン味噌〟……
でも私も〝メイロード・ソース〟でえらい目にあっているので、そう言われると引かざるを得ない。
(でも、この辺、マホロ西とか西の森の近くの集落とか、適当なぼんやりした地名なんだよね……うーん)
「じゃあ〝西ノ森味噌〟でどうですか?」
「いいですね。そうしましょう!」
ということで、名前も決まった。
そこからは、知名度向上のための作戦会議だ。
私は相変わらず、影でコソコソ暗躍するつもりなので、町長さんなどとの交渉ごとはエジン先生に一任した。
西ノ森の町長さんは、この土地に来てからエジンさんが色々な知識で町の人たちを助けてくれたことで、彼に心酔しているらしく、大抵のことは問題なく進めていくことができそうだ。
「じゃ、私はちょっとマホロで交渉してくるわ」
翌日、計画実行のため、私はマホロの商人ギルドへやってきた。
今日は、以前言われた通り、最初に受付で秘書さんを呼び出してもらい来訪を伝え、話があることをタスカ幹事にちゃんと伝えてもらった。
「こんにちは、タスカ幹事。
ちょっと、ご相談と可能かどうか分からないことがあるので、質問に来ました。
お時間よろしいですか?」
現れたタスカ幹事は、快く時間を作ってくれた。むしろ〝喜んで!〟という雰囲気で、前のめりだ。
どうやら冷蔵庫事業も、相変わらず上首尾のようだ。
私は風呂敷風に作った布に包んで持ってきた〝西の森味噌〟(ただし、私が爆速で熟成したモノ)を、机に置いた。
そして今取り組んでいる巨大味噌蔵建設について話し、その新しい味噌の宣伝を兼ねた商売を始めたいという話をした。
私としては〝味噌〟そのものを売るだけでなく、その派生で得られる収益と仕事を確保することで、西ノ森を活性化したいと考えている。
「西ノ森集落は、マホロから続く街道からやや離れてはいますが、その分広く安い土地がまだ多くあります。
逆にマホロの中は、かなり密集しており、宿泊施設も十分でない上、値段も高い。
そこで、西ノ森に休憩・宿泊を望む方々を引き込もうかと思っているのです」
タスカ幹事は真剣に、でも面白そうに私の話に耳を傾けている。
結構、びっくりするような急展開な話なのだが、さすがに今までの私のやってきたことを知っているタスカ幹事は、もう驚いたりはしない。
むしろ〝どんな商売をするつもりなのか〟に完全に興味は傾いている様子だ。
私はちょっと笑ってしまいそうになったが、なるべく真剣な顔で、こう切り出した。
「マホロに続く街道沿いに屋店を出してもいいですか?」
エジンさんを通じて、味噌蔵を支える作物を作ってくれる農家の皆さんへの農業支援金を交付することにした。
新たに始める人たちへの負担を減らし、作っている方たちにも作付面積を増やしてもらうための措置だ。
町役場の方達と協力し、例によって、記憶力に一点の曇りもないエジンさんが、適切に必要な金額を算出。同時により良い作物を収穫するための農業指導も行っていった。
私は種まきが始まる前にこっそり見つからないように田畑を巡り、ちょっとだけ〝地の力〟を上げる程度の助力をした。
「今年は、初めてのはずの農家も皆豊作になりそうですよ。これならいい味噌ができますね」
エジンさんは無邪気に喜んでいる。
(まぁ、私の使った力のことは言わなくてもいいよね)
そして、大量生産開始の前に、もうひとつ保険をかけることを提案した。
「これから、味噌蔵には多くの人が関わるでしょう。いづれは、大規模な味噌蔵を持ちたいと考える人たちが他に現れると思われます。エジン先生もそれは望むところでしょう。
そこに〝種麹〟を売ることはいいですが、その製法は彼らが自らたどり着かない限り、こちらからは明かさないでおきませんか?」
私の提案に、最初エジンさんは驚いたが、すぐに真意を分かってくれた。
〝種麹〟さえあれば、どこでも味噌作りができる。だが、逆にこれがないまま大規模な味噌蔵を維持し成功させるのは不可能に近い。つまり、〝種麹〟さえ握っていれば、生産場所も量もこちらがコントロールできるのだ。
どこぞの欲に目の眩んだ商人の、変な横槍にも対抗できるだろう。
「〝エジン味噌〟の品質と価格を守れるよう、これは徹底すべきだと思います」
「〝エジン味噌〟って、なんだかやだなぁ。地名の方が良くないですか?」
エジンさんが困った顔をする。いいと思ったんだけど、ダメですか〝エジン味噌〟……
でも私も〝メイロード・ソース〟でえらい目にあっているので、そう言われると引かざるを得ない。
(でも、この辺、マホロ西とか西の森の近くの集落とか、適当なぼんやりした地名なんだよね……うーん)
「じゃあ〝西ノ森味噌〟でどうですか?」
「いいですね。そうしましょう!」
ということで、名前も決まった。
そこからは、知名度向上のための作戦会議だ。
私は相変わらず、影でコソコソ暗躍するつもりなので、町長さんなどとの交渉ごとはエジン先生に一任した。
西ノ森の町長さんは、この土地に来てからエジンさんが色々な知識で町の人たちを助けてくれたことで、彼に心酔しているらしく、大抵のことは問題なく進めていくことができそうだ。
「じゃ、私はちょっとマホロで交渉してくるわ」
翌日、計画実行のため、私はマホロの商人ギルドへやってきた。
今日は、以前言われた通り、最初に受付で秘書さんを呼び出してもらい来訪を伝え、話があることをタスカ幹事にちゃんと伝えてもらった。
「こんにちは、タスカ幹事。
ちょっと、ご相談と可能かどうか分からないことがあるので、質問に来ました。
お時間よろしいですか?」
現れたタスカ幹事は、快く時間を作ってくれた。むしろ〝喜んで!〟という雰囲気で、前のめりだ。
どうやら冷蔵庫事業も、相変わらず上首尾のようだ。
私は風呂敷風に作った布に包んで持ってきた〝西の森味噌〟(ただし、私が爆速で熟成したモノ)を、机に置いた。
そして今取り組んでいる巨大味噌蔵建設について話し、その新しい味噌の宣伝を兼ねた商売を始めたいという話をした。
私としては〝味噌〟そのものを売るだけでなく、その派生で得られる収益と仕事を確保することで、西ノ森を活性化したいと考えている。
「西ノ森集落は、マホロから続く街道からやや離れてはいますが、その分広く安い土地がまだ多くあります。
逆にマホロの中は、かなり密集しており、宿泊施設も十分でない上、値段も高い。
そこで、西ノ森に休憩・宿泊を望む方々を引き込もうかと思っているのです」
タスカ幹事は真剣に、でも面白そうに私の話に耳を傾けている。
結構、びっくりするような急展開な話なのだが、さすがに今までの私のやってきたことを知っているタスカ幹事は、もう驚いたりはしない。
むしろ〝どんな商売をするつもりなのか〟に完全に興味は傾いている様子だ。
私はちょっと笑ってしまいそうになったが、なるべく真剣な顔で、こう切り出した。
「マホロに続く街道沿いに屋店を出してもいいですか?」
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