利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

314 マリリアからの嘆願

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314

「あー、沿海州へ戻る前にもうひとつ片付けてもらいたい仕事があってだな……」

肉増し増し(に私が独断で野菜も増し増しにした)の大盛り味噌ラーメンの丼を今日も抱えたまま、おじさまが言った。

さすが動くなら死人でも働かせる、という噂まで立つサイデムおじさま。
イスに現れた私を遊ばせておいてくれる気はさらさらないようだ。

「そう、いやな顔をするなって。俺も普通の仕事ならお前に振ったりしないさ。
だが、お前が時々繰り出してくる謎技術に関わることだから、こっちだけじゃどうにもならんのだ」

「謎技術って……」

確かに、私は過去生で得た知識をベースに考えているため、この世界の常識と違うことをしてしまうケースはママある。

(今回は、一体どれが問題だったんだろう)

「お前の作った薔薇茶って奴は、かなり好評だ。かなりいい値段にも関わらず、今も予約販売だけで手一杯。生産が間に合わないほどの人気ぶりだ。まぁ、希少価値で売っていく予定の商品なので品不足は想定内だがな。
どういうわけか、この人気は帝国の外、具体的にはロームバルト王国にまで飛び火しているんだ」

(それは、例の婚約式の引き出物に使ったせいだろうなぁ)

ベラミ姫に捧げた薔薇の紅茶〝皇女の薔薇ープリンセス・ローズティー〟は、それは高価なものだが、非常によく売れていると、サイデム商会からの報告でも聞いている。

あの婚約式の時、一緒に献上したガラス製の茶器とティーポットが、今回の私のヤラカシの元らしい。

(そう言えばベラミ姫の御婚儀もそろそろ近づいてきてるよね……)

昨年ベラミ姫の側近であるマリリア様の式典を行った時、この薔薇の紅茶と茶器のセットをロームバルト御一行様への引き出物とした。

中でも正客であったデイシア先王妃様には、他と同じというわけにはいかないだろうと考え、ちょっと細工をしたのだ。やったことは簡単で、絵を描いただけだ。

どうやらデイシア先王妃様、その茶器をいたく気に入って下さったようで、直ぐに薔薇茶の大量注文もしてきたそうだ。そして、あらゆるお茶会で自慢げにそれを披露したそう。

それ自体は友好のシンボルでもあるし、帝国の文化の発展も印象付ける素晴らしいことだったのだが、どうやら自慢が過ぎたらしく、現王の正妃がそれを欲しいと言ってきたのだ。
もちろん、立場上デイシア先王妃には頼めないため、内々になんとか同等のモノを用意してはもらえないだろうか、とマリリア様に王妃様の署名入りの〝お願い〟が来たのだそうだ。

「あれが特別なモノであることは理解している。大変心苦しいが、それでも、もうひとつだけ作ってもらうことはできないだろうか。婚儀が迫る中、姫の姑となられる正妃様のご機嫌を損なうような事態だけはなんとしても回避したい。伏して頼む。依頼料に糸目はつけない。二つの国のため、どうか、出来ると言って下さい」

サイデムおじさま宛にマリリア様から来た手紙を読ませてもらい、私は唖然とした。

「そんなことになっているとは、思いもしませんでしたよ。ちょっとステキ加工しただけなのに、何ですか、嫁姑バトルの引き金とか、二国間の友好とか、どんな大事になってるんですか?!

訳がわかりません!!」

おじさまがため息をつく。

「マリリア様も、もちろん俺も、あらゆるツテを頼って、同じような茶器を作ろうとした。だが、全くお前の作った茶器の繊細さには及ばなかったんだ!

だからこそデイシア先王妃も自慢し倒したんだろうけどな。
正直お手上げなんだ。

だから、とにかく、作ってくれ。1セットだけでいいから、あれをなんとか作ってくれ」

どうやら、皆なんとかしようとかなり努力した末の最後の頼みの綱らしい。
式も迫ってきてしまい、おじさまたちにとっては、私を呼び戻すことも真剣に考えていた所の、グッドタイミングの帰郷だったようだ。
私にも責任の一端はありそうなので、依頼は受けることにした。

(……ていうか、受ける選択肢しかないじゃん!)

「では、正妃様に関する意匠の情報をまず早急に取得して、それを元に前回お願いした絵師の方に図案の依頼をしましょう。
この手配はお願いできますか?
特急になりますから、絵師の方とガラス工房へはしっかり特急料金を割り増しでお支払いして下さいね。
絵が届いたら、あとは私がなんとかします。

そうマリリア様にはお伝えください」

「分かった。その……すまんな、折角の里帰りを仕事漬けで……」

珍しくおじさまが私に気を使ってくれている。
みんな悩んだ末のことだし、私しかできないことならやるしかないんだし、もう覚悟は決めた。

「いいんですよ、それより、今日はマリス邸にご飯を食べに来て下さい。
美味しい魚介類でおもてなししますよ」

私とおじさまは笑いあって、夜の宴会で会おうと約束し、それぞれの仕事の為に立ち上がった。
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