121 / 840
2 海の国の聖人候補
310 イスの街
しおりを挟む
310
のんびりした沿海州からやってくると、イスの喧騒には目眩すら覚える。
毎日がお祭り騒ぎのような、ごったで乱雑で、明るく活気に満ち溢れた街だ。
「なんというか……やっぱりスゴい街だね、ここは」
私は馬車の中から、久しぶりにシド帝国随一の商業地の最近の様子を眺めた。
道行く人は皆小走りでどこかへ急いでいて、あちこちで商談なのか喧嘩なのか分からない大声が飛び交い、荷車は常に猛スピードで行き交っている。
広い通りも人だらけで、それぞれに大きな荷物を抱え、買いに来たのか売りに来たのか、とにかく皆商いのための何かを探し、どこかを目指している。
(ああ、イスだなぁ……)
おじさまには、1週間前、一時帰国する事を伝えた。
私には専属飛行士アタタガ・フライがいる事を知っているおじさまは、急な帰国にも驚かなかった。
(実際は《無限回廊の扉》があるから、もっとお手軽なんだけどね)
だが、私の名はまだまだイスでは有名なままらしく、また騒動でも起こされたら困るとでも思ったのか、マリス邸からサイデム商会までの移動用に馬車まで用意してくれた。
その馬車で移動しながら見るイスの街は、以前より更に活気に溢れ、街も明らかに拡大していた。
サイデムおじさまの名も更に高まり、イスの取引額は増える一方だそうだ。街にもサイデム商会と付き合いのある事を誇らしげに書き記した看板の店がいくつも見えた。
そして、キッペイの報告通り、街にはちょいちょいラーメンらしきモノを売る店が出来始めていた。
行列があるほどの店はないが、人はそれなりに入っている様子だ。
(これは、実際食べてみたいところね……)
私がこっそり抜け出して、イスのラーメン屋探訪に出かける算段を考えていると、窓から見える景色が変わり、人の流れが少し落ち着いてきた。どうやら、高級店ひしめくイスの目抜き通り〝ヘステスト大通り〟へ入ったようだ。
おじさまは、今日は店に詰めているというので、サイデム商会へ向かう。
店前で馬車を降りると、既にキッペイが迎えに出ていた。
「お久しぶりでございます。お待ちしておりました。では、早速こちらへ……」
あえて私の名を出さず、そのまま混雑する店内を目立たないように案内するキッペイ。
私も目深に帽子を被った姿で、足早に移動する。
おじさまの執務室に入った時には、ミッションクリアの安堵感で大きなため息をついてしまった。
全くもって気が疲れることだ。
おじさまは相変わらず書類に埋もれて、千手観音の如き仕事ぶり。遠い沿海州から戻ってきた(わけじゃないけど)というのに、こっちを見もしない。
「相変わらずねぇ……」
私はおじさまの仕事が落ち着くのを待つ間に、今回の目的である料理の仕上げを部屋付きの小さなキッチンで始めることにした。
キッペイはおじさまの手伝いに戻ったので、助手はいつもの通りソーヤだ。
今回は味噌ラーメンもバージョンアップ、牛骨の出汁と魚介の出汁のダブルスープに、3種類の味噌をブレンドし、具材も数種の食感の良い野菜をたっぷり乗せてある。
ダブルスープで旨味は確実に上がっている上、複数の味噌でコクも増した。そして、その全てを異世界産で賄うことができるようになった。
「これは……感服です。素晴らしい味を作り上げられましたね。
このとろみすら感じる濃厚さ、今までのスープの中でも最も強い味が致しますのに、次から次へと飲みたくなる不思議な魔力がございます。そして呑み下すのがもったいないとさえ思える、この芳醇な味噌とバターの香り……極められましたね、メイロードさま!」
スープの味見をしたソーヤも満足げだ。
今まで、ずっと味見役を続けてきたソーヤの評価なら、きっとそうなのだと思える。今日は自信の一杯を出すことができるだろう。
そして、もうひとつ、懸案の一杯も出すつもりだ。
(おじさまの評価が楽しみね)
私は麺を茹でるための大量のお湯を用意しながら、でも食事がラーメンだけで終わらないよう、色々と栄養のある副菜の準備をしながら、おじさまのお仕事がひと段落するのを待ちつつ、ソーヤとスープ談義に花を咲かせていた。
のんびりした沿海州からやってくると、イスの喧騒には目眩すら覚える。
毎日がお祭り騒ぎのような、ごったで乱雑で、明るく活気に満ち溢れた街だ。
「なんというか……やっぱりスゴい街だね、ここは」
私は馬車の中から、久しぶりにシド帝国随一の商業地の最近の様子を眺めた。
道行く人は皆小走りでどこかへ急いでいて、あちこちで商談なのか喧嘩なのか分からない大声が飛び交い、荷車は常に猛スピードで行き交っている。
広い通りも人だらけで、それぞれに大きな荷物を抱え、買いに来たのか売りに来たのか、とにかく皆商いのための何かを探し、どこかを目指している。
(ああ、イスだなぁ……)
おじさまには、1週間前、一時帰国する事を伝えた。
私には専属飛行士アタタガ・フライがいる事を知っているおじさまは、急な帰国にも驚かなかった。
(実際は《無限回廊の扉》があるから、もっとお手軽なんだけどね)
だが、私の名はまだまだイスでは有名なままらしく、また騒動でも起こされたら困るとでも思ったのか、マリス邸からサイデム商会までの移動用に馬車まで用意してくれた。
その馬車で移動しながら見るイスの街は、以前より更に活気に溢れ、街も明らかに拡大していた。
サイデムおじさまの名も更に高まり、イスの取引額は増える一方だそうだ。街にもサイデム商会と付き合いのある事を誇らしげに書き記した看板の店がいくつも見えた。
そして、キッペイの報告通り、街にはちょいちょいラーメンらしきモノを売る店が出来始めていた。
行列があるほどの店はないが、人はそれなりに入っている様子だ。
(これは、実際食べてみたいところね……)
私がこっそり抜け出して、イスのラーメン屋探訪に出かける算段を考えていると、窓から見える景色が変わり、人の流れが少し落ち着いてきた。どうやら、高級店ひしめくイスの目抜き通り〝ヘステスト大通り〟へ入ったようだ。
おじさまは、今日は店に詰めているというので、サイデム商会へ向かう。
店前で馬車を降りると、既にキッペイが迎えに出ていた。
「お久しぶりでございます。お待ちしておりました。では、早速こちらへ……」
あえて私の名を出さず、そのまま混雑する店内を目立たないように案内するキッペイ。
私も目深に帽子を被った姿で、足早に移動する。
おじさまの執務室に入った時には、ミッションクリアの安堵感で大きなため息をついてしまった。
全くもって気が疲れることだ。
おじさまは相変わらず書類に埋もれて、千手観音の如き仕事ぶり。遠い沿海州から戻ってきた(わけじゃないけど)というのに、こっちを見もしない。
「相変わらずねぇ……」
私はおじさまの仕事が落ち着くのを待つ間に、今回の目的である料理の仕上げを部屋付きの小さなキッチンで始めることにした。
キッペイはおじさまの手伝いに戻ったので、助手はいつもの通りソーヤだ。
今回は味噌ラーメンもバージョンアップ、牛骨の出汁と魚介の出汁のダブルスープに、3種類の味噌をブレンドし、具材も数種の食感の良い野菜をたっぷり乗せてある。
ダブルスープで旨味は確実に上がっている上、複数の味噌でコクも増した。そして、その全てを異世界産で賄うことができるようになった。
「これは……感服です。素晴らしい味を作り上げられましたね。
このとろみすら感じる濃厚さ、今までのスープの中でも最も強い味が致しますのに、次から次へと飲みたくなる不思議な魔力がございます。そして呑み下すのがもったいないとさえ思える、この芳醇な味噌とバターの香り……極められましたね、メイロードさま!」
スープの味見をしたソーヤも満足げだ。
今まで、ずっと味見役を続けてきたソーヤの評価なら、きっとそうなのだと思える。今日は自信の一杯を出すことができるだろう。
そして、もうひとつ、懸案の一杯も出すつもりだ。
(おじさまの評価が楽しみね)
私は麺を茹でるための大量のお湯を用意しながら、でも食事がラーメンだけで終わらないよう、色々と栄養のある副菜の準備をしながら、おじさまのお仕事がひと段落するのを待ちつつ、ソーヤとスープ談義に花を咲かせていた。
441
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。