121 / 837
2 海の国の聖人候補
310 イスの街
しおりを挟む
310
のんびりした沿海州からやってくると、イスの喧騒には目眩すら覚える。
毎日がお祭り騒ぎのような、ごったで乱雑で、明るく活気に満ち溢れた街だ。
「なんというか……やっぱりスゴい街だね、ここは」
私は馬車の中から、久しぶりにシド帝国随一の商業地の最近の様子を眺めた。
道行く人は皆小走りでどこかへ急いでいて、あちこちで商談なのか喧嘩なのか分からない大声が飛び交い、荷車は常に猛スピードで行き交っている。
広い通りも人だらけで、それぞれに大きな荷物を抱え、買いに来たのか売りに来たのか、とにかく皆商いのための何かを探し、どこかを目指している。
(ああ、イスだなぁ……)
おじさまには、1週間前、一時帰国する事を伝えた。
私には専属飛行士アタタガ・フライがいる事を知っているおじさまは、急な帰国にも驚かなかった。
(実際は《無限回廊の扉》があるから、もっとお手軽なんだけどね)
だが、私の名はまだまだイスでは有名なままらしく、また騒動でも起こされたら困るとでも思ったのか、マリス邸からサイデム商会までの移動用に馬車まで用意してくれた。
その馬車で移動しながら見るイスの街は、以前より更に活気に溢れ、街も明らかに拡大していた。
サイデムおじさまの名も更に高まり、イスの取引額は増える一方だそうだ。街にもサイデム商会と付き合いのある事を誇らしげに書き記した看板の店がいくつも見えた。
そして、キッペイの報告通り、街にはちょいちょいラーメンらしきモノを売る店が出来始めていた。
行列があるほどの店はないが、人はそれなりに入っている様子だ。
(これは、実際食べてみたいところね……)
私がこっそり抜け出して、イスのラーメン屋探訪に出かける算段を考えていると、窓から見える景色が変わり、人の流れが少し落ち着いてきた。どうやら、高級店ひしめくイスの目抜き通り〝ヘステスト大通り〟へ入ったようだ。
おじさまは、今日は店に詰めているというので、サイデム商会へ向かう。
店前で馬車を降りると、既にキッペイが迎えに出ていた。
「お久しぶりでございます。お待ちしておりました。では、早速こちらへ……」
あえて私の名を出さず、そのまま混雑する店内を目立たないように案内するキッペイ。
私も目深に帽子を被った姿で、足早に移動する。
おじさまの執務室に入った時には、ミッションクリアの安堵感で大きなため息をついてしまった。
全くもって気が疲れることだ。
おじさまは相変わらず書類に埋もれて、千手観音の如き仕事ぶり。遠い沿海州から戻ってきた(わけじゃないけど)というのに、こっちを見もしない。
「相変わらずねぇ……」
私はおじさまの仕事が落ち着くのを待つ間に、今回の目的である料理の仕上げを部屋付きの小さなキッチンで始めることにした。
キッペイはおじさまの手伝いに戻ったので、助手はいつもの通りソーヤだ。
今回は味噌ラーメンもバージョンアップ、牛骨の出汁と魚介の出汁のダブルスープに、3種類の味噌をブレンドし、具材も数種の食感の良い野菜をたっぷり乗せてある。
ダブルスープで旨味は確実に上がっている上、複数の味噌でコクも増した。そして、その全てを異世界産で賄うことができるようになった。
「これは……感服です。素晴らしい味を作り上げられましたね。
このとろみすら感じる濃厚さ、今までのスープの中でも最も強い味が致しますのに、次から次へと飲みたくなる不思議な魔力がございます。そして呑み下すのがもったいないとさえ思える、この芳醇な味噌とバターの香り……極められましたね、メイロードさま!」
スープの味見をしたソーヤも満足げだ。
今まで、ずっと味見役を続けてきたソーヤの評価なら、きっとそうなのだと思える。今日は自信の一杯を出すことができるだろう。
そして、もうひとつ、懸案の一杯も出すつもりだ。
(おじさまの評価が楽しみね)
私は麺を茹でるための大量のお湯を用意しながら、でも食事がラーメンだけで終わらないよう、色々と栄養のある副菜の準備をしながら、おじさまのお仕事がひと段落するのを待ちつつ、ソーヤとスープ談義に花を咲かせていた。
のんびりした沿海州からやってくると、イスの喧騒には目眩すら覚える。
毎日がお祭り騒ぎのような、ごったで乱雑で、明るく活気に満ち溢れた街だ。
「なんというか……やっぱりスゴい街だね、ここは」
私は馬車の中から、久しぶりにシド帝国随一の商業地の最近の様子を眺めた。
道行く人は皆小走りでどこかへ急いでいて、あちこちで商談なのか喧嘩なのか分からない大声が飛び交い、荷車は常に猛スピードで行き交っている。
広い通りも人だらけで、それぞれに大きな荷物を抱え、買いに来たのか売りに来たのか、とにかく皆商いのための何かを探し、どこかを目指している。
(ああ、イスだなぁ……)
おじさまには、1週間前、一時帰国する事を伝えた。
私には専属飛行士アタタガ・フライがいる事を知っているおじさまは、急な帰国にも驚かなかった。
(実際は《無限回廊の扉》があるから、もっとお手軽なんだけどね)
だが、私の名はまだまだイスでは有名なままらしく、また騒動でも起こされたら困るとでも思ったのか、マリス邸からサイデム商会までの移動用に馬車まで用意してくれた。
その馬車で移動しながら見るイスの街は、以前より更に活気に溢れ、街も明らかに拡大していた。
サイデムおじさまの名も更に高まり、イスの取引額は増える一方だそうだ。街にもサイデム商会と付き合いのある事を誇らしげに書き記した看板の店がいくつも見えた。
そして、キッペイの報告通り、街にはちょいちょいラーメンらしきモノを売る店が出来始めていた。
行列があるほどの店はないが、人はそれなりに入っている様子だ。
(これは、実際食べてみたいところね……)
私がこっそり抜け出して、イスのラーメン屋探訪に出かける算段を考えていると、窓から見える景色が変わり、人の流れが少し落ち着いてきた。どうやら、高級店ひしめくイスの目抜き通り〝ヘステスト大通り〟へ入ったようだ。
おじさまは、今日は店に詰めているというので、サイデム商会へ向かう。
店前で馬車を降りると、既にキッペイが迎えに出ていた。
「お久しぶりでございます。お待ちしておりました。では、早速こちらへ……」
あえて私の名を出さず、そのまま混雑する店内を目立たないように案内するキッペイ。
私も目深に帽子を被った姿で、足早に移動する。
おじさまの執務室に入った時には、ミッションクリアの安堵感で大きなため息をついてしまった。
全くもって気が疲れることだ。
おじさまは相変わらず書類に埋もれて、千手観音の如き仕事ぶり。遠い沿海州から戻ってきた(わけじゃないけど)というのに、こっちを見もしない。
「相変わらずねぇ……」
私はおじさまの仕事が落ち着くのを待つ間に、今回の目的である料理の仕上げを部屋付きの小さなキッチンで始めることにした。
キッペイはおじさまの手伝いに戻ったので、助手はいつもの通りソーヤだ。
今回は味噌ラーメンもバージョンアップ、牛骨の出汁と魚介の出汁のダブルスープに、3種類の味噌をブレンドし、具材も数種の食感の良い野菜をたっぷり乗せてある。
ダブルスープで旨味は確実に上がっている上、複数の味噌でコクも増した。そして、その全てを異世界産で賄うことができるようになった。
「これは……感服です。素晴らしい味を作り上げられましたね。
このとろみすら感じる濃厚さ、今までのスープの中でも最も強い味が致しますのに、次から次へと飲みたくなる不思議な魔力がございます。そして呑み下すのがもったいないとさえ思える、この芳醇な味噌とバターの香り……極められましたね、メイロードさま!」
スープの味見をしたソーヤも満足げだ。
今まで、ずっと味見役を続けてきたソーヤの評価なら、きっとそうなのだと思える。今日は自信の一杯を出すことができるだろう。
そして、もうひとつ、懸案の一杯も出すつもりだ。
(おじさまの評価が楽しみね)
私は麺を茹でるための大量のお湯を用意しながら、でも食事がラーメンだけで終わらないよう、色々と栄養のある副菜の準備をしながら、おじさまのお仕事がひと段落するのを待ちつつ、ソーヤとスープ談義に花を咲かせていた。
339
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。