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2 海の国の聖人候補
298 ラーヤさんと2つの反物
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298
さて、私とセイリュウが、ヌノビキヒメから頂いた反物についても、この街らしい話があった。
この2つの反物、やはりというか……どうやら超の付くのレアモノらしい。
(まぁ、伝説の〝ヌノビキヒメ〟その人が天界で織り上げた品だもん。普通であるはずはないよね)
あらゆる布製品に精通するラーヤさんに調べてもらっても、素材の見当すらつかないそうで、信じられないほど上等であるという以外、詳しいことについては、何の情報も得られなかったそうだ。
「この見たこともない光沢、この軽さ!そしてこの滑りがいいにも関わらずしっとり感のある不思議な肌触り!!
できることならば、たとえ全財産を注ぎ込むことになろうとも手に入れたい珠玉の逸品ですが、これは天上よりお二人に下された品物……それは無理だと分かっております。でも、もし……もしできましたら、見本帳のために小さなハギレで結構ですので頂くことは出来ませんでしょうか?」
布フェチがちょっと入っているらしいラーヤさん、この2つの反物を見ている目が蕩けそうで、ややコワイ。
神様から贈られた物を、他の人に売るなどあり得ない、と頭では解っていても、やはりどうしても手元に置きたいという気持ちが抑えきれない様子だ。
貴重すぎると重々承知の上で、それでも諦めきれないらしく、ものすごく低姿勢でお願いされた。
セイリュウとも相談した結果、見本用の端切れ程度なら問題なさそうだったので、見本帳用に少し切り分けることを承諾した。
(今回本当にラーヤさんにはお世話になったのだ。これぐらいはしないとね)
それにこのランテルの老舗の見本帳に、これが残るのは悪くないと思う。
「今回の騒動の記憶と一緒に、伝えていきますよ」
ラーヤさんは、見本帳に〝ヌノビキヒメの青と白の反物〟と書き記し、細かく今回の騒動についての経緯も書き込んでおくそうだ。これを見る人たちが、少しでも長く、この布の都の平穏を守ることを忘れないでくれたらいいと思う。
この布のための見本帳は記録として保存するためのもので、店で見せる気はないそうだ。
(まぁ、絶対手に入らない布の見本だけ見せてもねぇ……)
それと、記録には私やセイリュウの名も残さないよう頼んだ。今回の事件の全貌は、私たちだけの秘密でいい。
この街には、あの光る衣と共に、伝説の舞姫〝セイ〟の話だけが、残るだろう。
〝コウダイ屋〟自慢のお針子さんたちの作る私のドレスも、もうすぐ仕立て上がる。
色々考えた結果、私は沿海州で暮らすのにちょうど良い、最高の素材を使いながらも目立たない感じの質の良いシンプルな物を3着と公式行事でも大丈夫なフォーマルタイプのドレスを1着作ってもらった。
「どれも本当にお似合いですよ。丈直しの際には、是非こちらにお持ち下さいね」
ラーヤさんは、私の持ち込んだ包みボタンの作り方や襟だけを交換するアレンジを大変気に入ってくれ、
「これからも是非、是非末永くお付き合いさせて頂きとうございます。友情価格で最高のお召し物を必ずお作りいたします!」
と熱く言われている。
確かに〝コウダイ屋〟の技術と人脈は大したものだ。
わがままが利くテーラーが有るというのも悪くないし、何もかも自分で作るというのも変化に乏しくて味気ない気がする。
そこで私は〝コウダイ屋〟の奥の間に《無限回廊の扉》を残していくことにした。
ラーヤさんは口が硬いし、この部屋は滅多に人が入ることもない店主しか鍵を持たない部屋だ。
話を聞いたラーヤさんは快く了承してくれ、合鍵までもらうことができた。
これで気軽に、あの最高の布市場にいつでも行ける。
珍しい素材をいろいろ使って、今回は新しい美味に出会えずむくれているソーヤと、今回大活躍のセーヤのために、沿海州テイストの新しい服を作ってみよう。
私と神様のために忙しく働くことになったセイリュウのためには、最高に美味しい日本酒を選んで、美味しいおつまみもたくさん作ろう。
私は、海が見える自分の別荘のテラスで、ノートにとりとめのない考えを色々書き込みながら、久しぶりの何もない午後を楽しんでいた。
さて、私とセイリュウが、ヌノビキヒメから頂いた反物についても、この街らしい話があった。
この2つの反物、やはりというか……どうやら超の付くのレアモノらしい。
(まぁ、伝説の〝ヌノビキヒメ〟その人が天界で織り上げた品だもん。普通であるはずはないよね)
あらゆる布製品に精通するラーヤさんに調べてもらっても、素材の見当すらつかないそうで、信じられないほど上等であるという以外、詳しいことについては、何の情報も得られなかったそうだ。
「この見たこともない光沢、この軽さ!そしてこの滑りがいいにも関わらずしっとり感のある不思議な肌触り!!
できることならば、たとえ全財産を注ぎ込むことになろうとも手に入れたい珠玉の逸品ですが、これは天上よりお二人に下された品物……それは無理だと分かっております。でも、もし……もしできましたら、見本帳のために小さなハギレで結構ですので頂くことは出来ませんでしょうか?」
布フェチがちょっと入っているらしいラーヤさん、この2つの反物を見ている目が蕩けそうで、ややコワイ。
神様から贈られた物を、他の人に売るなどあり得ない、と頭では解っていても、やはりどうしても手元に置きたいという気持ちが抑えきれない様子だ。
貴重すぎると重々承知の上で、それでも諦めきれないらしく、ものすごく低姿勢でお願いされた。
セイリュウとも相談した結果、見本用の端切れ程度なら問題なさそうだったので、見本帳用に少し切り分けることを承諾した。
(今回本当にラーヤさんにはお世話になったのだ。これぐらいはしないとね)
それにこのランテルの老舗の見本帳に、これが残るのは悪くないと思う。
「今回の騒動の記憶と一緒に、伝えていきますよ」
ラーヤさんは、見本帳に〝ヌノビキヒメの青と白の反物〟と書き記し、細かく今回の騒動についての経緯も書き込んでおくそうだ。これを見る人たちが、少しでも長く、この布の都の平穏を守ることを忘れないでくれたらいいと思う。
この布のための見本帳は記録として保存するためのもので、店で見せる気はないそうだ。
(まぁ、絶対手に入らない布の見本だけ見せてもねぇ……)
それと、記録には私やセイリュウの名も残さないよう頼んだ。今回の事件の全貌は、私たちだけの秘密でいい。
この街には、あの光る衣と共に、伝説の舞姫〝セイ〟の話だけが、残るだろう。
〝コウダイ屋〟自慢のお針子さんたちの作る私のドレスも、もうすぐ仕立て上がる。
色々考えた結果、私は沿海州で暮らすのにちょうど良い、最高の素材を使いながらも目立たない感じの質の良いシンプルな物を3着と公式行事でも大丈夫なフォーマルタイプのドレスを1着作ってもらった。
「どれも本当にお似合いですよ。丈直しの際には、是非こちらにお持ち下さいね」
ラーヤさんは、私の持ち込んだ包みボタンの作り方や襟だけを交換するアレンジを大変気に入ってくれ、
「これからも是非、是非末永くお付き合いさせて頂きとうございます。友情価格で最高のお召し物を必ずお作りいたします!」
と熱く言われている。
確かに〝コウダイ屋〟の技術と人脈は大したものだ。
わがままが利くテーラーが有るというのも悪くないし、何もかも自分で作るというのも変化に乏しくて味気ない気がする。
そこで私は〝コウダイ屋〟の奥の間に《無限回廊の扉》を残していくことにした。
ラーヤさんは口が硬いし、この部屋は滅多に人が入ることもない店主しか鍵を持たない部屋だ。
話を聞いたラーヤさんは快く了承してくれ、合鍵までもらうことができた。
これで気軽に、あの最高の布市場にいつでも行ける。
珍しい素材をいろいろ使って、今回は新しい美味に出会えずむくれているソーヤと、今回大活躍のセーヤのために、沿海州テイストの新しい服を作ってみよう。
私と神様のために忙しく働くことになったセイリュウのためには、最高に美味しい日本酒を選んで、美味しいおつまみもたくさん作ろう。
私は、海が見える自分の別荘のテラスで、ノートにとりとめのない考えを色々書き込みながら、久しぶりの何もない午後を楽しんでいた。
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