111 / 837
2 海の国の聖人候補
300 マホロの好景気
しおりを挟む
300
バンダッタの復興は、マホロの魚市場にもいい影響を与えていた。
まず、最初にバンダッタからマホロへ、突然、良質な昆布が大量に持ち込まれてきた。
その時の人々の驚きは、とても大きいものだったそうだ。
それは、流通が再開できるまでにバンダッタの状況が好転し〝休眠地〟を解除されたということの証でもあった。
〝休眠地〟に堕とされた土地が、外部の人間に買われることもなく元の領主を頂いたままそれを解除され、再び隆盛を取り戻した例は皆無と言って良いそうだから、彼らの驚きも当然といえた。
その奇跡のような復興は強烈なインパクトを与えたようで〝バンダッタ昆布〟は縁起物として高値で取引されるようになる。そしてその品質の良さから、ブランドとしての評価も得ていった。
そして、それと同時にバンダッタから〝昆布締め〟という新しい料理法ももたらされる。
高級品である昆布を惜しげもなく使って刺身に上質の味をつけるこの技法は、差別化を図りたい高級料亭や富裕層から非常に高い関心を買うこととなり、お祝い事や高級料理の新しい定番となっていく。
料理法の広がりとともに、このブランド昆布を求めて沿海州の他の地域からも引き合いが増加した。マホロの乾物市場は活気付き、マホロの街全体の景気も浮上の兆しを見せ始めた。
更に、そこへ私プロデュースのオイル漬け商品がバンダッタから投入され始めた。
新しい調理保存法がもたらされたことで、追随する様々な他の商品も増え始め、様々なオイル漬け商品が売り出され始める。
あっという間に魚介のオイル漬けは、アキツの新しい名物として遠い地域へも輸出され始め、貴重な外貨をもたらすようになっていった。
そして、その背後には、例のアレの普及も非常に大きく関わっていたのだ。
「決してご無理を言うつもりはないのですが……もし、もしできましたら、なんとかあと20台分の魔石は手に入らないものでしょうか」
流れる汗を拭きながら、申し訳なさに、躰を小さく畳むようにして頭を下げるマホロ商人ギルドのタスカ幹事を前に、秘書さんの入れてくれた高級茶をすする私ーー
今日は久しぶりに商人ギルドへやってきていた。採取の依頼を受け約束したまま時間が経ってしまった〝イワムシ草〟をちょっと大量に《緑の手》で栽培できたので、その納品のためだ。
買取カウンターの担当さんは、その量に驚きつつ、嬉々として査定してくれた。
相変わらず〝イワムシ草〟の在庫は不足が著しいらしく、私の持ち込んだ分もかなりの高値で買い取られた。私は瞬間的に植物を増殖させられるスキル持ちだから、私がいる間だけなら不足分を補ってあげるのはなんでもないことだが、やはりこの綱渡りな在庫状況はよろしくないと思う。
(バンダッタで発見した時〝イワムシ草〟の不思議な生態は掴めたし、ヒントもあるし、なんとか不安定な採取に頼るだけじゃなく、栽培ができるようにしたいよね)
そんなことを考えながら、喫茶室で会計が終わるのを待っていると、いつもの秘書さんが慌てて駆け込んで来て、グルグルと辺りを見渡し、私を発見すると、更にものすごい勢いで近づいてきた。
「メイロードさま、おいでになられる際はお声をお掛け下さいませ!会計の者に〝イワムシ草〟が大量に入荷したと連絡をもらいましたので、もしかして……と思いまして書類を見て驚きました!
タスカもぜひご挨拶したいと申しております。どうぞ応接室の方へ、お越し頂けませんか」
「今日は納品だけですし、お忙しいかなーっと、思いまして……」
秘書さんの圧力に若干引きつつ、言い訳がましいことをごにょごにょと言う私……
だがその間にも、子供の私に頭を下げまくる美人秘書さんの姿に、周囲からヒソヒソ声と視線が突き刺さり始めた。私はその視線から逃れるためにも、これ以上ここで話す方がマズイと判断して、応接室へそそくさと移動を開始。
応接室への移動中にも、秘書さんに商人ギルドへおいでの節は必ずお声をお掛け下さい、と何度もお願いされてしまった。
「メイロードさまとお会いする以上に大切な要件はないと、タスカも申しております。いつ何時でもお気兼ねなく、お尋ねくださいませ」
(そこまで大事にされると、なんだかこそばゆいのだが、まぁ〝魔石冷蔵庫〟のこともあるし、連絡は取るべきかもね……)
応接室では、もうすでにタスカ幹事が待っていて、時候の挨拶もそこそこに、件の内容を切り出した。
バンダッタの復興は、マホロの魚市場にもいい影響を与えていた。
まず、最初にバンダッタからマホロへ、突然、良質な昆布が大量に持ち込まれてきた。
その時の人々の驚きは、とても大きいものだったそうだ。
それは、流通が再開できるまでにバンダッタの状況が好転し〝休眠地〟を解除されたということの証でもあった。
〝休眠地〟に堕とされた土地が、外部の人間に買われることもなく元の領主を頂いたままそれを解除され、再び隆盛を取り戻した例は皆無と言って良いそうだから、彼らの驚きも当然といえた。
その奇跡のような復興は強烈なインパクトを与えたようで〝バンダッタ昆布〟は縁起物として高値で取引されるようになる。そしてその品質の良さから、ブランドとしての評価も得ていった。
そして、それと同時にバンダッタから〝昆布締め〟という新しい料理法ももたらされる。
高級品である昆布を惜しげもなく使って刺身に上質の味をつけるこの技法は、差別化を図りたい高級料亭や富裕層から非常に高い関心を買うこととなり、お祝い事や高級料理の新しい定番となっていく。
料理法の広がりとともに、このブランド昆布を求めて沿海州の他の地域からも引き合いが増加した。マホロの乾物市場は活気付き、マホロの街全体の景気も浮上の兆しを見せ始めた。
更に、そこへ私プロデュースのオイル漬け商品がバンダッタから投入され始めた。
新しい調理保存法がもたらされたことで、追随する様々な他の商品も増え始め、様々なオイル漬け商品が売り出され始める。
あっという間に魚介のオイル漬けは、アキツの新しい名物として遠い地域へも輸出され始め、貴重な外貨をもたらすようになっていった。
そして、その背後には、例のアレの普及も非常に大きく関わっていたのだ。
「決してご無理を言うつもりはないのですが……もし、もしできましたら、なんとかあと20台分の魔石は手に入らないものでしょうか」
流れる汗を拭きながら、申し訳なさに、躰を小さく畳むようにして頭を下げるマホロ商人ギルドのタスカ幹事を前に、秘書さんの入れてくれた高級茶をすする私ーー
今日は久しぶりに商人ギルドへやってきていた。採取の依頼を受け約束したまま時間が経ってしまった〝イワムシ草〟をちょっと大量に《緑の手》で栽培できたので、その納品のためだ。
買取カウンターの担当さんは、その量に驚きつつ、嬉々として査定してくれた。
相変わらず〝イワムシ草〟の在庫は不足が著しいらしく、私の持ち込んだ分もかなりの高値で買い取られた。私は瞬間的に植物を増殖させられるスキル持ちだから、私がいる間だけなら不足分を補ってあげるのはなんでもないことだが、やはりこの綱渡りな在庫状況はよろしくないと思う。
(バンダッタで発見した時〝イワムシ草〟の不思議な生態は掴めたし、ヒントもあるし、なんとか不安定な採取に頼るだけじゃなく、栽培ができるようにしたいよね)
そんなことを考えながら、喫茶室で会計が終わるのを待っていると、いつもの秘書さんが慌てて駆け込んで来て、グルグルと辺りを見渡し、私を発見すると、更にものすごい勢いで近づいてきた。
「メイロードさま、おいでになられる際はお声をお掛け下さいませ!会計の者に〝イワムシ草〟が大量に入荷したと連絡をもらいましたので、もしかして……と思いまして書類を見て驚きました!
タスカもぜひご挨拶したいと申しております。どうぞ応接室の方へ、お越し頂けませんか」
「今日は納品だけですし、お忙しいかなーっと、思いまして……」
秘書さんの圧力に若干引きつつ、言い訳がましいことをごにょごにょと言う私……
だがその間にも、子供の私に頭を下げまくる美人秘書さんの姿に、周囲からヒソヒソ声と視線が突き刺さり始めた。私はその視線から逃れるためにも、これ以上ここで話す方がマズイと判断して、応接室へそそくさと移動を開始。
応接室への移動中にも、秘書さんに商人ギルドへおいでの節は必ずお声をお掛け下さい、と何度もお願いされてしまった。
「メイロードさまとお会いする以上に大切な要件はないと、タスカも申しております。いつ何時でもお気兼ねなく、お尋ねくださいませ」
(そこまで大事にされると、なんだかこそばゆいのだが、まぁ〝魔石冷蔵庫〟のこともあるし、連絡は取るべきかもね……)
応接室では、もうすでにタスカ幹事が待っていて、時候の挨拶もそこそこに、件の内容を切り出した。
316
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。