利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

292 ランテル参戦騒動

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292

祭りの間、町中がソワソワと落ち着きがないのは例年のことらしいが、今年はことさら騒々しい日が続いているランテル。

祭りが始まる前から、今年の〝ヌノビキの祭り〟は、どこか違う……そういう噂が街に流布し始め、参戦予定の地域はどこも情報を得ようと躍起になっていた。
そんな中、もたらされた知らせは、衝撃的なものだった。

それは、今までこの祭りでは黒子に徹し沈黙を続けていたランテルの参戦決定という大番狂わせ。
今まで、開催地であるランテルは、布ビジネスの中心で〝ヌノビキヒメ〟選考に関わる主催者側に近しい者が多いため、戦列には加わらないという暗黙の了解があった。

だが、今年は〝ヌノビキ大社〟の巫女様にご神託が降りた。
それにより、今年に限り、布に関わるからの参加を求める、ということになったのだ。

(まぁ、これはバンハランに根回しをお願いし、そういう事にしてもらった)

他の地域の人々がとんでもない伏兵の参戦に戦々恐々としているのに対して、そうと決まれば、洒落者だらけのランテル、天地がひっくり返ったような大騒ぎになった。

我も我もと参加希望者が現れ、年頃の娘は全員参加したんじゃないかと思われるほど膨大な参加者による熾烈なランテル代表決定戦は連日開催された。そして、その熾烈な競争の中を勝ち上がったのは〝コウダイ屋〟の推す謎の美女〝セイ〟

〝セイ〟の妖艶な美しさはもちろん他を圧倒していたが、それに加えてランテル随一の美意識と称えられる〝辻練り〟ラーヤが後見であるということも大きく、常に最上の品を纏い、最高の着こなしを見せていた。

突如現れた謎の舞姫〝セイ〟の人気は止まることを知らず、似姿は売り切れ続き、ステージ以外には全く姿を現さない彼女を一目でも見たいと、〝コウダイ屋〟の周りは毎日ひどい混みようだ。

かなり高価なものばかりのはずの〝セイ〟モデルの衣装やアクセサリーだが、それでも飛ぶように売れているので〝コウダイ屋〟もそれなりに儲かってはいるようだ。でも、ほとんどは生産が間に合わず、予約を受けている状態らしい。

(ラーヤさんはノリノリだけど、それでもだいぶ迷惑はかけているので、少しでも還元できるといいんだけど……)

ランテル地方予選が始まってからは、〝セイ〟が出入りする度に大騒ぎになるので〝セイ〟の魔法ってことにして《無限回廊の扉》を〝コウダイ屋〟の中に接続した。

「魔法というのは便利なものですねぇ」

ラーヤさんはしきりに感心している。

面倒なので説明したりしないが、空間を繋げるのは本当は魔法使いにだって相当難しく、ほとんどできる人はいない。それに、そもそも〝ゲート系〟魔法は帝国では使用制限のあるヤバめの魔法だ。

(私のはスキルの応用なので、厳密には魔力を消費するタイプの魔法ですらないんだけどね)

いつもは、見つからないようコソコソ使っているのだが、沿海州の人は総じて魔法に関する知識が乏しく〝魔法なんで……〟と言うだけで、なんとかごまかせてしまうから、ある意味ありがたい。

と言うわけで、今日もするっと回廊を通って〝コウダイ屋〟で打ち合わせ。やっと、次は本戦だ。

今日は、なんとか間に合わせた懸案の着物を使っての本戦用の衣装合わせだ。

「なんとか間に合いましたね」

ラーヤさんが満足そうに、その様子を見ている。
私も目論見通りの出来上がりに満足だ。

「素晴らしい作家の方を紹介して頂きありがとうございました。イメージ通りの仕上がりです。本戦は、きっと素敵なお披露目になりますね」

予選は、ラーヤさんのプロデュースに任せきりになってしまったが、本戦ではどこも隠し球のとっておきの衣装を出してくることが分かっているので、こちらも気合を入れて対抗する事にした。

「この技術、出来ることならご伝授願いたいですが、無理でしょうね……」

ラーヤさんは心底残念そうだが、今回使った方法を再現できるのは私だけなのだ。

(申し訳ないけど、教えて出来るものじゃないんだよね)

予選から、私の専属ヘア・スタイリストのセーヤに〝セイ〟の髪を整えてもらった。セーヤも神獣の髪に触れるというのは初めての経験らしく、その髪質の面白さに興味津々で、快く引き受けてくれた。
このヘアメイクもかなり評価を上げる手助けになっているそうで、〝セイ〟の登場の度に、出来はともかく、街中でも似たような髪型に挑戦している人が多数見受けられた。

最後にマルニール工房渾身の新作アクセサリーを身に付け、立ち上がった〝セイ〟は、一分の隙もない美女、今にも天へと舞い上がりそうな、まさに天女だった。

「本当にような清冽な美しさでございますね……」

ラーヤさんは溜息をつき、感心してその姿を見つめていた。

(まぁ、人ではないんですけどね)

いよいよ明日は本番だ。

私もこの後、音楽の最終リハーサルで、またミゼルにみっちりシゴかれる予定だ。
失敗は許されない1日がやってくる。

(気合を入れていきましょう。頼むよセイリュウ、ミゼル!)
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