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2 海の国の聖人候補
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「メイロード様、ご無沙汰致しております」
目を保護するためのサングラスとゴーグルを合わせたようなメガネを外し、作業着の埃をはらうと、マルニールさんは私の元に笑顔で駆けてきた。
「こちらこそ、お仕事をお願いするばかりで、あまり顔も出さずごめんなさいね」
マルニールさんは私の言葉に大きく首を振る。
「とんでもない。パレス・フロレンシアの名声があっての私共ですよ」
皇室御用達の超高級店であるパレス・フロレンシアは、マルニール工房の最高の加工と、私の魔法によるどこにも真似のできない独自技術、このふたつで差別化に成功し、帝都だけでなく今ではシド帝国全ての女性の憧れのブランドとなっている。
うちの仕事で宝飾品加工専門工房として絶対的な信用を得たマルニールさんの所には、多くの有名店や貴族から注文が入っているそうだ。
実際、彼女の技術は本当に素晴らしく、いまではセーヤの謎技術までもガッツでかなりの精度まで習得し、パレス宝飾界で最も高い技術とステイタスを持つ技術者と誰もが言うほどになった。
名が上がるにつれ、この工房の人数も増え、見習いから一流職人まで、たくさんの人が働いている大きな工房に成長している。
お茶菓子にと思って、持ってきたお土産は、メレンゲの焼き菓子とクッキー五種類、今日のクッキーは食べ応えのあるクッキーケーキというタイプで、ジャムやフルーツなどをたっぷり乗せたり焼き込んだりしてある。それにサックサクのリーフパイの詰め合わせ。
マルニールさんは結構甘党なので、私のお土産を楽しみにしてくれている。
工房の人が増えたと聞いたので、張り切って作って、たっぷり持ってきた。
もちろん、詰め合わせのお菓子を見たマルニールさんの口角が上がったのも見逃さない。
「お忙しいところ申し訳ないんですが、ちょっと特急でお願いしたいことがありまして……」
通されたいつもの応接間で、私はサンプルとしてラーヤさんに借りてきたアクセサリーを机に広げた。
「ほぉ、これは大陸のものじゃないようですね。非常に繊細な作りで、動きのあるものが多いですね。沿海州の方のモノでしょうか。凝ってますね。うーむ、面白い」
ひとつずつ食い入るような真剣な目で吟味を始めたマルニールさんは、すぐにデザイン画を描き始めた。
「これは沿海州のハーラーの方からお借りしてきたものです。現地の最先端の流行が取り入れられておりますので、参考にして頂けたらと思い、持って参りました」
私はまだラフ段階のセイリュウの衣装デザインを見せながら、相談する。
「なるほど、このご衣装ですとネックレス……いやチョーカーの方がいいかな……イヤリング、それに指輪、ブレスレットとアンクレットですか。統一感を出すとなると、色味を揃えた方がいいでしょうか。幽玄な舞姫のイメージで、動くと音が響くようなものもいいですね」
話しながらどんどんデザインは進む。私もいろいろ提案をしながら、あれこれ相談しているうちにほぼデザインは固まった。
「では、これから特急でやらせて頂きます。必ず間に合わせますので、ご安心ください!」
マルニールさんは、新しい挑戦に興奮しているようで、とても楽しげに見えた。
もの作りが大好きと言う点で、私とマルニールさんは姉妹のように話が合い、ふたりであれこれ作りたいモノの話を始めると、いつまでも止まらない。
いまではとても大事な友人のひとりだ。
「私もとても楽しみです。では、よろしくお願いしますね」
(さて次は、どんな仕掛けをしようかな)
ある素材を思いついた私は、ハーラーへ戻ると染色の工房を探し始めた。顔の広いラーヤさんにいくつか紹介してもらい、うまく私の望むことをやってもらえるところを見つけることができた。
相手は不思議そうな顔をしていたが、そこは仕上げを御覧じろってコトで、出来上がった布をラーヤさんに託し、仕立てに回してもらう。
このメイロード・プロデュースの(そのことは、誰にも言っていないんだけど)不思議な布地の説明を聞いたラーヤさんは、しばらく理解できず、実際に見せても、まだ信じられない様子だったが、理解するにつれて顔が紅潮し始め、大興奮状態になりしばらく収拾がつかなくなった。
「これを使ってハーラーそしてランテルらしい図案を細密にそして大胆に入れたいのですが、なにかいい素材はありませんか?」
私の問いに、ラーヤさんは一枚の絵を出してきた。
その絵に描かれていたのは、舞い降りてきた美しい大きな黄金の鳥とそれを見上げる若々しい女性だった。
「この方こそ〝ヌノビキヒメ〟そして〝神宣鳳〟です」
「メイロード様、ご無沙汰致しております」
目を保護するためのサングラスとゴーグルを合わせたようなメガネを外し、作業着の埃をはらうと、マルニールさんは私の元に笑顔で駆けてきた。
「こちらこそ、お仕事をお願いするばかりで、あまり顔も出さずごめんなさいね」
マルニールさんは私の言葉に大きく首を振る。
「とんでもない。パレス・フロレンシアの名声があっての私共ですよ」
皇室御用達の超高級店であるパレス・フロレンシアは、マルニール工房の最高の加工と、私の魔法によるどこにも真似のできない独自技術、このふたつで差別化に成功し、帝都だけでなく今ではシド帝国全ての女性の憧れのブランドとなっている。
うちの仕事で宝飾品加工専門工房として絶対的な信用を得たマルニールさんの所には、多くの有名店や貴族から注文が入っているそうだ。
実際、彼女の技術は本当に素晴らしく、いまではセーヤの謎技術までもガッツでかなりの精度まで習得し、パレス宝飾界で最も高い技術とステイタスを持つ技術者と誰もが言うほどになった。
名が上がるにつれ、この工房の人数も増え、見習いから一流職人まで、たくさんの人が働いている大きな工房に成長している。
お茶菓子にと思って、持ってきたお土産は、メレンゲの焼き菓子とクッキー五種類、今日のクッキーは食べ応えのあるクッキーケーキというタイプで、ジャムやフルーツなどをたっぷり乗せたり焼き込んだりしてある。それにサックサクのリーフパイの詰め合わせ。
マルニールさんは結構甘党なので、私のお土産を楽しみにしてくれている。
工房の人が増えたと聞いたので、張り切って作って、たっぷり持ってきた。
もちろん、詰め合わせのお菓子を見たマルニールさんの口角が上がったのも見逃さない。
「お忙しいところ申し訳ないんですが、ちょっと特急でお願いしたいことがありまして……」
通されたいつもの応接間で、私はサンプルとしてラーヤさんに借りてきたアクセサリーを机に広げた。
「ほぉ、これは大陸のものじゃないようですね。非常に繊細な作りで、動きのあるものが多いですね。沿海州の方のモノでしょうか。凝ってますね。うーむ、面白い」
ひとつずつ食い入るような真剣な目で吟味を始めたマルニールさんは、すぐにデザイン画を描き始めた。
「これは沿海州のハーラーの方からお借りしてきたものです。現地の最先端の流行が取り入れられておりますので、参考にして頂けたらと思い、持って参りました」
私はまだラフ段階のセイリュウの衣装デザインを見せながら、相談する。
「なるほど、このご衣装ですとネックレス……いやチョーカーの方がいいかな……イヤリング、それに指輪、ブレスレットとアンクレットですか。統一感を出すとなると、色味を揃えた方がいいでしょうか。幽玄な舞姫のイメージで、動くと音が響くようなものもいいですね」
話しながらどんどんデザインは進む。私もいろいろ提案をしながら、あれこれ相談しているうちにほぼデザインは固まった。
「では、これから特急でやらせて頂きます。必ず間に合わせますので、ご安心ください!」
マルニールさんは、新しい挑戦に興奮しているようで、とても楽しげに見えた。
もの作りが大好きと言う点で、私とマルニールさんは姉妹のように話が合い、ふたりであれこれ作りたいモノの話を始めると、いつまでも止まらない。
いまではとても大事な友人のひとりだ。
「私もとても楽しみです。では、よろしくお願いしますね」
(さて次は、どんな仕掛けをしようかな)
ある素材を思いついた私は、ハーラーへ戻ると染色の工房を探し始めた。顔の広いラーヤさんにいくつか紹介してもらい、うまく私の望むことをやってもらえるところを見つけることができた。
相手は不思議そうな顔をしていたが、そこは仕上げを御覧じろってコトで、出来上がった布をラーヤさんに託し、仕立てに回してもらう。
このメイロード・プロデュースの(そのことは、誰にも言っていないんだけど)不思議な布地の説明を聞いたラーヤさんは、しばらく理解できず、実際に見せても、まだ信じられない様子だったが、理解するにつれて顔が紅潮し始め、大興奮状態になりしばらく収拾がつかなくなった。
「これを使ってハーラーそしてランテルらしい図案を細密にそして大胆に入れたいのですが、なにかいい素材はありませんか?」
私の問いに、ラーヤさんは一枚の絵を出してきた。
その絵に描かれていたのは、舞い降りてきた美しい大きな黄金の鳥とそれを見上げる若々しい女性だった。
「この方こそ〝ヌノビキヒメ〟そして〝神宣鳳〟です」
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