利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
101 / 837
2 海の国の聖人候補

290 アクセサリー発注しました

しおりを挟む
290

「メイロード様、ご無沙汰致しております」

目を保護するためのサングラスとゴーグルを合わせたようなメガネを外し、作業着の埃をはらうと、マルニールさんは私の元に笑顔で駆けてきた。

「こちらこそ、お仕事をお願いするばかりで、あまり顔も出さずごめんなさいね」

マルニールさんは私の言葉に大きく首を振る。

「とんでもない。パレス・フロレンシアの名声があっての私共ですよ」

皇室御用達の超高級店であるパレス・フロレンシアは、マルニール工房の最高の加工と、私の魔法によるどこにも真似のできない独自技術、このふたつで差別化に成功し、帝都だけでなく今ではシド帝国全ての女性の憧れのブランドとなっている。

うちの仕事で宝飾品加工専門工房として絶対的な信用を得たマルニールさんの所には、多くの有名店や貴族から注文が入っているそうだ。

実際、彼女の技術は本当に素晴らしく、いまではセーヤの謎技術までもガッツでかなりの精度まで習得し、パレス宝飾界で最も高い技術とステイタスを持つ技術者と誰もが言うほどになった。
名が上がるにつれ、この工房の人数も増え、見習いから一流職人まで、たくさんの人が働いている大きな工房に成長している。

お茶菓子にと思って、持ってきたお土産は、メレンゲの焼き菓子とクッキー五種類、今日のクッキーは食べ応えのあるクッキーケーキというタイプで、ジャムやフルーツなどをたっぷり乗せたり焼き込んだりしてある。それにサックサクのリーフパイの詰め合わせ。
マルニールさんは結構甘党なので、私のお土産を楽しみにしてくれている。
工房の人が増えたと聞いたので、張り切って作って、たっぷり持ってきた。
もちろん、詰め合わせのお菓子を見たマルニールさんの口角が上がったのも見逃さない。

「お忙しいところ申し訳ないんですが、ちょっと特急でお願いしたいことがありまして……」

通されたいつもの応接間で、私はサンプルとしてラーヤさんに借りてきたアクセサリーを机に広げた。

「ほぉ、これは大陸のものじゃないようですね。非常に繊細な作りで、動きのあるものが多いですね。沿海州の方のモノでしょうか。凝ってますね。うーむ、面白い」

ひとつずつ食い入るような真剣な目で吟味を始めたマルニールさんは、すぐにデザイン画を描き始めた。

「これは沿海州のハーラーの方からお借りしてきたものです。現地の最先端の流行が取り入れられておりますので、参考にして頂けたらと思い、持って参りました」

私はまだラフ段階のセイリュウの衣装デザインを見せながら、相談する。

「なるほど、このご衣装ですとネックレス……いやチョーカーの方がいいかな……イヤリング、それに指輪、ブレスレットとアンクレットですか。統一感を出すとなると、色味を揃えた方がいいでしょうか。幽玄な舞姫のイメージで、動くと音が響くようなものもいいですね」

話しながらどんどんデザインは進む。私もいろいろ提案をしながら、あれこれ相談しているうちにほぼデザインは固まった。

「では、これから特急でやらせて頂きます。必ず間に合わせますので、ご安心ください!」

マルニールさんは、新しい挑戦に興奮しているようで、とても楽しげに見えた。
もの作りが大好きと言う点で、私とマルニールさんは姉妹のように話が合い、ふたりであれこれ作りたいモノの話を始めると、いつまでも止まらない。

いまではとても大事な友人のひとりだ。

「私もとても楽しみです。では、よろしくお願いしますね」

(さて次は、どんな仕掛けをしようかな)

ある素材を思いついた私は、ハーラーへ戻ると染色の工房を探し始めた。顔の広いラーヤさんにいくつか紹介してもらい、うまく私の望むことをやってもらえるところを見つけることができた。

相手は不思議そうな顔をしていたが、そこは仕上げを御覧ゴロウじろってコトで、出来上がった布をラーヤさんに託し、仕立てに回してもらう。

このメイロード・プロデュースの(そのことは、誰にも言っていないんだけど)不思議な布地の説明を聞いたラーヤさんは、しばらく理解できず、実際に見せても、まだ信じられない様子だったが、理解するにつれて顔が紅潮し始め、大興奮状態になりしばらく収拾がつかなくなった。

「これを使ってハーラーそしてランテルらしい図案を細密にそして大胆に入れたいのですが、なにかいい素材はありませんか?」

私の問いに、ラーヤさんは一枚の絵を出してきた。

その絵に描かれていたのは、舞い降りてきた美しい大きな黄金の鳥とそれを見上げる若々しい女性だった。

「この方こそ〝ヌノビキヒメ〟そして〝神宣鳳〟です」


しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。