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2 海の国の聖人候補
279 ランテル布市場
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問屋街というのは、本当に楽しくて面白い!
ここランテルの布市場もまた、大いに私のクラフト魂を刺激してくれる。
大量生産というものが基本的にないこの世界は、手仕事の世界でもある。どんなに手の込んだ衣装も、全て手作りなのだ。まさにハンドクラフト天国。
そしてこの布市場にはその全てが集約されている。
「わー、ここボタンの専門店だ!うう、全部欲しい!」
「メイロードさま、こちらの店の布は珍しいですよ。これで布製の花を作って帽子に飾ってみるのはどうでしょう」
「いいわね。芯に良さそうな素材はどこに売ってるかな」
子供二人でちょこまか市場を歩き回る姿は、遊んでいるように見えるかもしれない。
でも、今回は手作り大好き系物欲コンビなので、目について気に入った布やら道具やら素材やらを、気に入れば手当たり次第買っていく。
(あ、やっぱりやってることは魚市場の時と変わらないかも……)
その上、今回はお目付役のセイリュウも、用事で後から来るそうで、止める人もない、言わばツッコミ不在状態の買い放題だ。
それにしても、この〝布市場〟はすごい。
この世界のありとあらゆる布関連商品が揃っているという触れ込みも、大げさではなかった。
ボタン屋さんだけでも何十件あるのやら……。
化学繊維はない代わりに、不思議な動植物から採取された素材を使った、見たこともない素材がたくさん売っており、《鑑定》したりお店の人に話を聞いたりしながら、そんな商品を買うのは、本当にワクワクする。
「〝アキツ瑠璃蔓草〟の布はないんですか?」
ふと、さっきのことが気になり、いろいろ買い込んだついでに、お店の方に聞いてみると、
「ああ、あれは昔から品薄の高級品だし、最近では〝瑠璃蔓草〟自体が減ってるらしくて全然入っちゃこないよ。
誰かが買い占めてるって噂もあるけど、どうだかねぇ。
まぁ、元々量がない上、どちらにしろ今の値段じゃ、うちみたいな小さな問屋には回ってこなくてね。欲しかったのかい。ごめんねぇ」
「いえ、それならいいんです。そうですか、そんなに品薄なんですか……」
どうやら、かなり〝アキツ瑠璃蔓草〟は値段が上がっており、ますます貴重になっているようだ。
(そのあたりもさっきのラーヤさんの相談に関係しているのかな……)
そろそろ、約束の時間が近づいてきた。私とセーヤは、まだ後ろ髪引かれつつ、買い物を中断し、カードに書かれたお店の方へ移動する。
市場の中は、大量の荷物を抱えた人たちが右往左往するすごい人混みなので、移動もなかなか骨が折れる。
なんとか時間通りにたどり着いた〝コウダイ屋〟は、市場の中でも高級品を扱う店の多い場所にあり、店構えも歴史の長さと質の高さを感じさせる。店先には買いやすい値段の布もいろいろ置かれているが、中へ入るのは、ちょっと勇気がいる雰囲気だ。
(さて、どうしよう……)
前世の私は対外的には〝お嬢様〟だったので(実態は、ただの忙しい学生兼業主婦)、ワリとこういう高級な佇まいには動じないのだが、どう見ても子供が入るような雰囲気ではない店だ。
(超高級呉服店のようなオーラがあるんだよね……この店)
そこへ、歓声の中、人垣の中から、颯爽とラーヤさんが現れた。
ラーヤさんはここでも大人気だ。
「お嬢ちゃん!来てくれたのね!ありがとう。店の前で待たせてごめんね、さ、中へどうぞ」
ラーヤさんに促され、あっという間に私は店の中へ連れ込まれた。
中へ入ると、外の喧騒が嘘のように静かで落ち着いた店内。
「ラーヤ様、お疲れ様です!」
「ラーヤ様の押された商品、とても評判がいいですよ」
店の人たちは、親しげにラーヤさんに話しかけ、ラーヤさんもそれに応えている。
促されて奥へ向かうと、お客様と着物を選んだりする時に使うという個室へ通された。
「美味しい仕出しを頼んであるから、一緒に食べながら話を聞かせてね。ちょっと着替えてくるわ」
そう言ってラーヤさんはいなくなり、店の方々は私たちのためにお茶や果物を用意してくれた。
店員さんに聞いたところ、やはりこの〝コウダイ屋〟は、元々フォーマルが専門の、上流階級の顧客の多い店なのだそうだ。だが、最近では、オーダードレスの製作や、新しい布の発掘や開発などにも取り組んでいて、その方面でも一定の地位を築きつつあるという。
「すべてはラーヤ様の才覚のおかげです。それにラーヤ様がお召しになれば、あっという間にそれが流行するほどなんですよ」
「それはちゃんと流行に合わせた品を選んでいるからだよ。大げさだね、マイさんは」
笑いながら降りて来たのは、髪を後ろで無造作に束ねた〝男性〟だった。
「改めてご挨拶しますね。私は、このコウダイ屋19代目店主ラーヤ・ホンと申します」
確かにこうしてみると、ラーヤさんの姿はキリッとした男性そのものだ。
ハンサム度はセイリュウといい勝負。
どうやらあのド派手な姿は〝職業的正装〟のようで、本来の姿はこちらということのようだ。
「ご挨拶が遅れました。私はメイロード・マリスと申します。帝国の田舎から出て来まして、物見遊山で沿海州を旅しております。これは連れのセーヤ、この子も私も布仕事が大好きなので、ぜひこの市場に来たかったのですよ」
「おお、それは!ぜひ楽しんでいって下さい。よろしければ私もご案内させて頂きます」
優雅な手つきでラーヤさんが新たに淹れてくれた美味しいお茶を頂き、届いた美味しそうな仕出しの昼ごはんが並ぶと、ラーヤさんは〝魔法屋〟について早速聞いてきた。
お目当の情報は〝魔法屋〟について。
どうやら、ランテルでは〝魔法屋〟と〝辻練り〟の間で、何か深刻な問題があるらしい。
問屋街というのは、本当に楽しくて面白い!
ここランテルの布市場もまた、大いに私のクラフト魂を刺激してくれる。
大量生産というものが基本的にないこの世界は、手仕事の世界でもある。どんなに手の込んだ衣装も、全て手作りなのだ。まさにハンドクラフト天国。
そしてこの布市場にはその全てが集約されている。
「わー、ここボタンの専門店だ!うう、全部欲しい!」
「メイロードさま、こちらの店の布は珍しいですよ。これで布製の花を作って帽子に飾ってみるのはどうでしょう」
「いいわね。芯に良さそうな素材はどこに売ってるかな」
子供二人でちょこまか市場を歩き回る姿は、遊んでいるように見えるかもしれない。
でも、今回は手作り大好き系物欲コンビなので、目について気に入った布やら道具やら素材やらを、気に入れば手当たり次第買っていく。
(あ、やっぱりやってることは魚市場の時と変わらないかも……)
その上、今回はお目付役のセイリュウも、用事で後から来るそうで、止める人もない、言わばツッコミ不在状態の買い放題だ。
それにしても、この〝布市場〟はすごい。
この世界のありとあらゆる布関連商品が揃っているという触れ込みも、大げさではなかった。
ボタン屋さんだけでも何十件あるのやら……。
化学繊維はない代わりに、不思議な動植物から採取された素材を使った、見たこともない素材がたくさん売っており、《鑑定》したりお店の人に話を聞いたりしながら、そんな商品を買うのは、本当にワクワクする。
「〝アキツ瑠璃蔓草〟の布はないんですか?」
ふと、さっきのことが気になり、いろいろ買い込んだついでに、お店の方に聞いてみると、
「ああ、あれは昔から品薄の高級品だし、最近では〝瑠璃蔓草〟自体が減ってるらしくて全然入っちゃこないよ。
誰かが買い占めてるって噂もあるけど、どうだかねぇ。
まぁ、元々量がない上、どちらにしろ今の値段じゃ、うちみたいな小さな問屋には回ってこなくてね。欲しかったのかい。ごめんねぇ」
「いえ、それならいいんです。そうですか、そんなに品薄なんですか……」
どうやら、かなり〝アキツ瑠璃蔓草〟は値段が上がっており、ますます貴重になっているようだ。
(そのあたりもさっきのラーヤさんの相談に関係しているのかな……)
そろそろ、約束の時間が近づいてきた。私とセーヤは、まだ後ろ髪引かれつつ、買い物を中断し、カードに書かれたお店の方へ移動する。
市場の中は、大量の荷物を抱えた人たちが右往左往するすごい人混みなので、移動もなかなか骨が折れる。
なんとか時間通りにたどり着いた〝コウダイ屋〟は、市場の中でも高級品を扱う店の多い場所にあり、店構えも歴史の長さと質の高さを感じさせる。店先には買いやすい値段の布もいろいろ置かれているが、中へ入るのは、ちょっと勇気がいる雰囲気だ。
(さて、どうしよう……)
前世の私は対外的には〝お嬢様〟だったので(実態は、ただの忙しい学生兼業主婦)、ワリとこういう高級な佇まいには動じないのだが、どう見ても子供が入るような雰囲気ではない店だ。
(超高級呉服店のようなオーラがあるんだよね……この店)
そこへ、歓声の中、人垣の中から、颯爽とラーヤさんが現れた。
ラーヤさんはここでも大人気だ。
「お嬢ちゃん!来てくれたのね!ありがとう。店の前で待たせてごめんね、さ、中へどうぞ」
ラーヤさんに促され、あっという間に私は店の中へ連れ込まれた。
中へ入ると、外の喧騒が嘘のように静かで落ち着いた店内。
「ラーヤ様、お疲れ様です!」
「ラーヤ様の押された商品、とても評判がいいですよ」
店の人たちは、親しげにラーヤさんに話しかけ、ラーヤさんもそれに応えている。
促されて奥へ向かうと、お客様と着物を選んだりする時に使うという個室へ通された。
「美味しい仕出しを頼んであるから、一緒に食べながら話を聞かせてね。ちょっと着替えてくるわ」
そう言ってラーヤさんはいなくなり、店の方々は私たちのためにお茶や果物を用意してくれた。
店員さんに聞いたところ、やはりこの〝コウダイ屋〟は、元々フォーマルが専門の、上流階級の顧客の多い店なのだそうだ。だが、最近では、オーダードレスの製作や、新しい布の発掘や開発などにも取り組んでいて、その方面でも一定の地位を築きつつあるという。
「すべてはラーヤ様の才覚のおかげです。それにラーヤ様がお召しになれば、あっという間にそれが流行するほどなんですよ」
「それはちゃんと流行に合わせた品を選んでいるからだよ。大げさだね、マイさんは」
笑いながら降りて来たのは、髪を後ろで無造作に束ねた〝男性〟だった。
「改めてご挨拶しますね。私は、このコウダイ屋19代目店主ラーヤ・ホンと申します」
確かにこうしてみると、ラーヤさんの姿はキリッとした男性そのものだ。
ハンサム度はセイリュウといい勝負。
どうやらあのド派手な姿は〝職業的正装〟のようで、本来の姿はこちらということのようだ。
「ご挨拶が遅れました。私はメイロード・マリスと申します。帝国の田舎から出て来まして、物見遊山で沿海州を旅しております。これは連れのセーヤ、この子も私も布仕事が大好きなので、ぜひこの市場に来たかったのですよ」
「おお、それは!ぜひ楽しんでいって下さい。よろしければ私もご案内させて頂きます」
優雅な手つきでラーヤさんが新たに淹れてくれた美味しいお茶を頂き、届いた美味しそうな仕出しの昼ごはんが並ぶと、ラーヤさんは〝魔法屋〟について早速聞いてきた。
お目当の情報は〝魔法屋〟について。
どうやら、ランテルでは〝魔法屋〟と〝辻練り〟の間で、何か深刻な問題があるらしい。
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