利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
79 / 837
2 海の国の聖人候補

268 バンダッタ再生計画

しおりを挟む
268

翌日、港は大騒ぎだった。

「山が、山が元に戻ってる。たった1日で一体何が起こったっていうんだ!」
「信じられん!前より青々と整然とした綺麗な森になっているじゃないか!山守たちは一体どんな魔法を使ったんだ」
「奇跡だ!山神様はこの山をお見捨てではなかったのだ!」

街の方々の間でも憶測が乱れ飛び、当然、山守の皆さんの間でも大騒ぎになった。

そんな中でも、山守のエダイ親方は私との約束を守って、私の存在には一切触れず、〝山神のお力〟で押し切ってくれた。

その結果、信仰心に厚い街の人たちは

〝神はこの街を救おうとしてくれている〟

という象徴的な奇跡として、この摩訶不思議な状況を解釈し、明日への希望を見出してくれたようで、思ったよりあっさりと、アカツキ山の復活を受け入れてくれた。

(昨日の会議に出た方々は、私がなにかやったのだろうと察しているかもしれないが、さすがに昨日神に誓ったばかりの方々だ。こちらも口はツグんでいてくれるだろう)

おかげで山神を祀った神社には、朝からものすごい数の人がお参りに来ているそうだ。
この神社の宮司でもあるエダイさんは、忙しくて休む暇もないらしい。

エダイさんから、この話を聞いた私の提案で、負担にならない程度の値段の木製のお札を急遽売り出した。

再生したとはいえ、急増の森だ。暫くは状況を見守る必要があるだろうし、木材からの定期収入も短期的にはあまり多くは見込めない。
そこで、倒木を再利用したお札の売り上げを、当面の山の維持費用に当てるように考案してみた。

1日で見事に復活した〝アカツキ山の奇跡〟を目の当たりにした人々は、これは霊験あらたかとみたのだろう。予想を上回るかなりの数が売れているので、このアガリは山守たちの一時的な活動費の確保にかなり寄与してくれるだろう。

「そう言うところ、商魂タクマしいですよね」

と、タイチには笑われたけれど、皆が喜んで買ってくれる上、今回の奇跡について〝山神〟のご加護でウヤムヤにできる、末永く収入確保できる、の一石三鳥となれば、やらない道理がない。

(もちろんタイチには、いづれは、お札やお守りの種類を増やしてさらに収益を上げるよう入れ知恵もしておいた。

一夜にしてフサフサにあやかって、増毛とか育毛にも効くお札とかブラシとかどう?

と言ったら、大笑いされてしまった。本気なのに……)

さて、もう1つの重要な懸案事項。

改善の土壌は整っているとはいえ、大きな自然環境の再生はそう簡単ではない。少なくとも半年以上の完全な禁漁によって、復活のその時を待つしかない。
この間、漁業の仕事ができない人たちの一時的な収入源の確保は緊急課題だ。

会議の時にもその後にも、

〝今度、領主の命に背き禁漁の掟を破ったら神は必ずこの港をお見捨てになる〟

と、エダイさんやヨシンさんを通じて、街全体にそれはそれはエゲツないほど脅しをかけてもらってある以上、皆、海産物で糊塗を凌ぐことはできないのだ。

となれば、食事にも事欠くような経済状態はなんとか脱せるように、即効性のある代替策を考えなければ、この半年から1年に及ぶ禁漁期を乗り越えることは難しい。

私はタイチとヨシンさん、それに家令のセンリさんも交えてこの問題の対策を話し合った。

「農業については経験のないものが多く、あまり期待できないですが、やる意思のある者には、土地と助成金を出してみてはどうでしょう」

タイチの提案に私は頷く。

「いいと思う。海が豊かであったために、偏りすぎた労働人口も、今回の危機の原因のひとつだと思う。
まずは、短期で実りのある収穫サイクルの短い植物の種を提供するわね。

それに、お金だけじゃなく、既存の農家の方を指導員として派遣したり、勉強する機会も作ってあげるといいと思うわ。農業の神様もきっと味方をしてくれるはずよ」

それから、私は地図を見ながらもうひとつの提案をする。

「昨日、湾内を見ていった時にね、沖にあるこの領地内の小さな島、ウサギぐらいしか住んでいないから〝ウサギ島〟っていうのよね。

あそこの外側にとても冷たい水の海流が通っていて、昆布が群生しているのを見つけたの」

私が地図で群生地の場所を指し示すと、ヨシンさんが不思議な顔をする。

「ええ、確かにあの辺りは北から冷たい水が入ってくる層がありまして、多少昆布も取れますが、群生ってほどはなかったような……」

その通り!

確かに、昨日までは、ほんの少し、天然昆布があっただけだ。

でも、既に私の《緑の手》で、規模を100倍ほどに拡大させて頂いたので、今は間違いなく巨大群生地だ。

昆布は2年ほどでまた収穫できる大きさになるし、ちゃんと管理し乱獲さえしなければ、この大きさの群生地なら5年や10年は、十分な収穫が見込めるはずだ。
しっかり定着させられるかは、バンダッタの方々の今後の腕次第だが、うまくいけば長く定期収入を得られる猟場になるだろう。

しかも、この世界では昆布は物凄く値段が高い。

他の地域に売る商品としても非常に期待できる海産物だ。

「おじさん、メイロードさまが見つけて下さったなら、間違いなくはありますよ。
早速、収穫と販売の計画を立てないといけませんね。

センリさん、おじさん、計画に必要な人員の手配をお願いしてもよろしいですか?」

「タイチ様、ご領主に就任なさったのですから、私のことは呼び捨てになさって下さいませ。

昆布の収穫計画につきましては、漁師連の親方衆と協議の上、早急に計画を立てるよう管理部の者に申し伝えます」

センリさんに注意され、頭を掻きながら、タイチは困り顔だ。

「すいません。やっぱりどうにも慣れなくて……気をつけます、センリ」
「いえ、こちらこそ、ご無礼申し上げました、タイチ様」

「俺のことも、いつまでもおじと呼んでは示しがつかないだろう。これからは〝カシラ〟でいい。いいな。ご領主様!」

「は、はい。カシラ、漁師たちの手配、よろしくお願いします」

タイチの領主教育も担当してもらっているセンリさんは、タイチには先生のような存在でもあるので、つい丁寧な言葉遣いで呼んでしまうようだ。

タイチらしくて、可愛いことだが、領主教育、なかなか大変そうだ。

屋敷にはセンリさんの声掛けで、既にほぼ必要な人員が戻っているため、仕事は非常にスムースに行われている。

高価な物は揃えられないが、彼らの給与や活動費に必要な当座の資金も確保できている。

そこから、ないと困る必要最低限の家具や調度品を購入して、みんなで運び込み、掃除をし、執務室の資料もキャビネットに収まった。

もう、ここは復興の前線基地としてしっかり機能し始めている。
トップが決まり、資金が回り始めたことで、全てが正常な機能を取り戻しつつあるようだ。

そして、この急遽手に入った当座資金の話は、
会議の終わった昨日の夜に遡るーーーー
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。