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2 海の国の聖人候補

264 復活!

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264

湾の裏手に続く細い山道を抜け、やってきたクダンの場所の様子を見て、私は暫し呆然としてしまった。

(ひどい、いくらなんでもひどいわ。こんなことをしたら、どうなるか。何も考えなかったとしか思えない……)

間近で見た、バンダッタ湾が見下ろせるアカツキ山の中腹は、無残に荒れ果てていた。

大小の崖崩れ、むき出しの土、放置された腐り苔むした倒木に、無秩序に流れ出ている水。
恐らく、この粘土質と水に阻まれて、ここに巨大な別邸を作る計画は頓挫したのだろう。

(ここが人の暮らす場所じゃないのが、見て判らなかったのかしら。本当に呆れたボンクラだわ)

「これは……山守の皆さんでも、手がつけられなかったのが分かります」

私の言葉に、ここまで案内してくれた山守の親方エダイさんが苦い顔で頷く。

「山守は、山々を見守り時に助けながら、その恵みを頂いて生活するものだ。
長い年月がかかる大変な仕事だが、誇りある職だと思っておる。

今まで、ここはご領主様が出来た方だったので、仕事もしやすかった。何か困ったことがあった時は、ご領主様にご相談すれば、必ず問題の解決のために動いて下さったよ。
森に問題が起これば、できる限りの人や物を準備して下さっていたのだ。

なのに、ご領主様が体調を崩されている間に……このざまに……」

領主のボンクラ息子は、領主である父が病気で動けぬ隙に、勝手にこの土地を直轄地にしてしまった。そして、まず山守たちが長年育ててきた素晴らしい山の樹々を根こそぎ売り払い金を得ようと考えたようだ。

大事に育てていた木を粗雑に切り倒され、その半分をダメにされた山守の気持ちはどんなに悲しいだろう。
悔しくて情けなくてたまらない、深いシワの刻まれた山男の顔は、そんな気持ちが溢れていて、気の毒で見ていられない。

「エダイさん、私はこの山の荒廃が、この街の海をダメにした最初の原因だと考えています。細かい話まではしませんが、山がちゃんと新陳代謝を繰り返していないと、海にその栄養が流れ込まず、海の小さな生物や植物の栄養が足りなくなってしまうのです」

エダイ親方は頷く。

「経験から、山が荒れた次の年の貝は実入りが悪い、という話は伝わってはいたが、そこまで関連があったんだな。ワシにもっと力があれば、あの若造の暴挙も止められたものを……」

「彼の愚かさを言い募っても、今は腹が立つだけですよ。とにかく、親方とタイチだけには、今から私のすることをしっかりと見ていてもらいたいのです。そして、その後のことを考えて頂きたいのです。

で、ですね……ここで起きた全ては、他言無用にお願いします。絶対に誰にも言わないと誓って下さい」

「……分かった。山と海のそして大天御神に誓って他言すまい」
「お、俺ももちろん誰にも言いません!」

彼らの言葉に頷いた私は、深く一度深呼吸をした後、ぬかるんだ泥だらけの地面に手を当て祈るように力を放出する。

(傷付いた全ての森のものたちに癒しと成長を)

私が手をついた場所から、赤土に草が生え始め、急激な速度で大地を覆っていく。

「これは、これは!!」

エダイ親方はあまりのことに、驚きに震えている。

瞬く間に緑に覆われた大地に立った私は、次にセーヤとソーヤが集めてきてくれた木の種を手に持ち、種に成長の力を送る。

種は次々に発芽して、小さな苗木まで成長し、しばらく続けると私の周りは苗木だらけになった。

「エダイさん、苗木を植える位置を指示して頂けますか?
この2人が植えていきますので」

ハッと自分を取り戻したエダイ親方は、苗木の種類を見ながらそれにふさわしい場所の指示を出し、妖精たちは高速でその指示通りの場所に苗木を植えていく。

一通り植林が終わったところで、再び私は地面に手をつく。

(幼い木々よ、深く地中に根を張り、大地を支える大樹となって、元の美しい森を取り戻し、この港を守って!)

植えられた木々は、見る間に成長し始め、メキメキと音を立てて成長していった。

そして数分後には……木漏れ日の差し込む、小鳥の声の響くアカツキの森は復活した。

「セイリュウ、地脈はどう?」

ずっと、状況を観察してくれていたセイリュウが頷く。

「いいね。もう崖が崩れたりすることはないと思う。地脈が完全に整うまでには数日かかりそうだけど、この森は生きてるよ、大丈夫だ」

私はひとつ深く息をついて頷いた。

(よかった。これで第一段階クリア!)

声をかけようとエダイさんの方を振り向くと姿がない。よく見ると、下の方に姿があった。地にひれ伏して、震えているようだ。

(あ、やっちゃいましたか)

隣のタイチも、やはり土下座モードだ。

(そういえばタイチにも、私のチカラは見せたことなかったな……)

綺麗な鳥たちの歌声の響く木漏れ日の美しい森の中で、土下座する大きな体の少年と長老の2人の前で、困惑する帽子を被った小さな子供。この構図はまずい。非常にマズイ!

(これは、もう一度ちゃんと説明してしっかり口止めしないと、帝国の二の舞だわ)

もう一度、大きく溜め息をついた私は、穏やかに2人に話しかけた。



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