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2 海の国の聖人候補
256 姐さんと子分
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256
冒険者ギルドの建物は立派なものだったが、かなり年季の入った建物だった。
入り口を入ると、広いエントランスの割に人の数はまばらで、そう多くない。
世界有数の規模であるイスの冒険者ギルドと比較してはいけないのは分かっているのだが、冒険者ギルドにはたくさんの人が埃っぽい格好で右往左往しているイメージがあったので、落ち着いてまっすぐ歩ける雰囲気にちょっと拍子抜けだ。
それでも人が集まっている場所を覗くと、依頼札の掲示場所だった。
木製の依頼札がたくさん掛った壁があるのはどこの冒険者ギルドも同じのようだ。
イスはもう完全に木札から紙に転換したが、まだまだほとんどの国で紙は貴重品のままだ。
試しに少し依頼内容を読んでみると、危険性のある魚の漁に随行する用心棒の依頼や漁場を荒らすモンスターの討伐依頼など、いかにもこの国らしい依頼も多い。
どうやら採取系はここでも人気薄らしく、かなり古そうな依頼札が幾つも掛かったまま寂しく放置されている。
街に近い場所ならば採取は簡単だが、場所によっては魔物も危険な獣も出没する。難しめの採取はそれを考えると、割りに合わない値段のことが多いため、こうなってしまうのだ。
帝国でも私のような特殊能力持ちでないと、採取でガッチリ稼ぐのは厳しかったことを考えれば、沿海州でも同じ状況なのだろうと推察できる。こういう難しい採取は、メインの依頼の余禄として請け負う場合が多いので、タイミングが悪いといつまでも完了しないのだろう。
それに、採取系の場合は、定期的に必要なものも多いので常時依頼が出ているものも多いはずだ。
(アイテムハンターは、かなり人材不足のようだから、上手くやればかなり稼げそうだなぁ。《鑑定》スキル向上のために、少しやってみてもいいかもしれない……)
その他の依頼を探すと、荷物警備や旅の用心棒の類がかなり多く、治安への不安が感じられる。
一通り依頼札に目を通した後、私は受付に向かった。
レシータさんが冒険者ギルド宛に書いてくれた紹介状と冒険者ギルドの身分証を受付の方に渡す。
「マホロのギルド長は私の子分みたいなものだから、思いっきりこき使っていいわよ。私が許す!」
紹介状を手渡しながら、レシータさんはそう言っていたそうだけど、いったいどんな方なのだろう?
受付のお姉さんは紹介状を見て、若干上ずった声にはなってはいたが、商人ギルドに比べればだいぶ落ち着いて対応してくれた。
通された、おそらく一番良い部屋だと思われる応接室で、周りの調度品をキョロキョロ眺めながら待っていると、大きな声で大きな人が入ってきた。
「いやいや、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。私マホロの冒険者ギルドの幹事を務めておりますアーセルと申します」
アーセル幹事は、文字通り山のような大男で、小さな私からみると〝壁〟という形容がぴったりくる大きな人だった。
(バスケットボールの選手の身長でお相撲さんの横幅って感じ、でも動きは素早くて身軽そうなんだよね)
「レシータ姐さんには若い頃から可愛がって頂きました。お元気にしておられますか?」
巨大だと思えたソファーも、アーセル幹事が座ると小さく見える。
「はい、とてもお元気ですよ。大変活気のあるギルドを運営されてます」
私の答えに大きく頷いたアーセル幹事は、なんだか嬉しそうだ。どうやら、レシータさんをとても尊敬しているとみえる。
若い時に何度も一緒に冒険に出かけ、何度も助けられたのだそうだ。
「レシータ姐さんの天地を切り裂くような見事な太刀さばきは伝説です。あの剣豪っぷりは、帝国随一でございましたよ。それに、当時は帝国どころか他の国のダンジョンにも多く遠征して、いやぁ、稼がせて頂きましたわ。
姐さんが、まだまだ稼げるお歳でしたのにスッパリ辞めて、これからの冒険者のために、冒険者ギルドの立て直しを始めると宣言されたときには本当に驚きました。並の男に太刀打ちできる器の大きさじゃございませんよ、レシータ姐さんは!」
アーセル幹事はアキツの出身だったため、沿海州の冒険者ギルドを仕切れとレシータさんから言われて、地元へ戻ったそうだ。
「〝爆砂〟のダンジョンがないいま、ダンジョン攻略をする冒険者は少ないのではないですか?」
私の言葉に苦笑いのアーセル幹事は、現状を語ってくれた。
〝爆砂〟事件で多くの貴重なダンジョンがなくなったのは間違いない。だが、ダンジョンは常に増えたり減ったりしている。地殻変動や天変地異で突然現れたり消えたりするものだそうだ。
そのスパンは、数年だったり、数百年だったり未知数だ。
その動向を把握し、管理するのも冒険者ギルドの重要な仕事となる。
〝爆砂〟ダンジョンのように人為的な原因で消失するケースは極めて稀だという。
現在でも、もちろんたくさんのダンジョンが存在し冒険者たちが活動している。だが、採取できるものに特徴的なものは少ないらしい。
「貴重品として〝潮の魔石〟が、ごく稀に出ますが、これも使い道が限られておりますし、魔物の骨や皮や肉、あとは鉱物やダンジョンにしかない植物、そしてごく少数の魔石がいい値段で取り引きできる程度です」
〝潮の魔石〟は、真水ではなく塩水が放出される魔石で、塩の取れない場所では高値で売れるため、貴重な輸出品になっているという。
(どこでも海が作れる魔石って、ちょっと面白いね)
アーセル幹事の話を聞きながら、私は俄然マホロのダンジョンに興味が湧いてきた。
冒険者ギルドの建物は立派なものだったが、かなり年季の入った建物だった。
入り口を入ると、広いエントランスの割に人の数はまばらで、そう多くない。
世界有数の規模であるイスの冒険者ギルドと比較してはいけないのは分かっているのだが、冒険者ギルドにはたくさんの人が埃っぽい格好で右往左往しているイメージがあったので、落ち着いてまっすぐ歩ける雰囲気にちょっと拍子抜けだ。
それでも人が集まっている場所を覗くと、依頼札の掲示場所だった。
木製の依頼札がたくさん掛った壁があるのはどこの冒険者ギルドも同じのようだ。
イスはもう完全に木札から紙に転換したが、まだまだほとんどの国で紙は貴重品のままだ。
試しに少し依頼内容を読んでみると、危険性のある魚の漁に随行する用心棒の依頼や漁場を荒らすモンスターの討伐依頼など、いかにもこの国らしい依頼も多い。
どうやら採取系はここでも人気薄らしく、かなり古そうな依頼札が幾つも掛かったまま寂しく放置されている。
街に近い場所ならば採取は簡単だが、場所によっては魔物も危険な獣も出没する。難しめの採取はそれを考えると、割りに合わない値段のことが多いため、こうなってしまうのだ。
帝国でも私のような特殊能力持ちでないと、採取でガッチリ稼ぐのは厳しかったことを考えれば、沿海州でも同じ状況なのだろうと推察できる。こういう難しい採取は、メインの依頼の余禄として請け負う場合が多いので、タイミングが悪いといつまでも完了しないのだろう。
それに、採取系の場合は、定期的に必要なものも多いので常時依頼が出ているものも多いはずだ。
(アイテムハンターは、かなり人材不足のようだから、上手くやればかなり稼げそうだなぁ。《鑑定》スキル向上のために、少しやってみてもいいかもしれない……)
その他の依頼を探すと、荷物警備や旅の用心棒の類がかなり多く、治安への不安が感じられる。
一通り依頼札に目を通した後、私は受付に向かった。
レシータさんが冒険者ギルド宛に書いてくれた紹介状と冒険者ギルドの身分証を受付の方に渡す。
「マホロのギルド長は私の子分みたいなものだから、思いっきりこき使っていいわよ。私が許す!」
紹介状を手渡しながら、レシータさんはそう言っていたそうだけど、いったいどんな方なのだろう?
受付のお姉さんは紹介状を見て、若干上ずった声にはなってはいたが、商人ギルドに比べればだいぶ落ち着いて対応してくれた。
通された、おそらく一番良い部屋だと思われる応接室で、周りの調度品をキョロキョロ眺めながら待っていると、大きな声で大きな人が入ってきた。
「いやいや、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。私マホロの冒険者ギルドの幹事を務めておりますアーセルと申します」
アーセル幹事は、文字通り山のような大男で、小さな私からみると〝壁〟という形容がぴったりくる大きな人だった。
(バスケットボールの選手の身長でお相撲さんの横幅って感じ、でも動きは素早くて身軽そうなんだよね)
「レシータ姐さんには若い頃から可愛がって頂きました。お元気にしておられますか?」
巨大だと思えたソファーも、アーセル幹事が座ると小さく見える。
「はい、とてもお元気ですよ。大変活気のあるギルドを運営されてます」
私の答えに大きく頷いたアーセル幹事は、なんだか嬉しそうだ。どうやら、レシータさんをとても尊敬しているとみえる。
若い時に何度も一緒に冒険に出かけ、何度も助けられたのだそうだ。
「レシータ姐さんの天地を切り裂くような見事な太刀さばきは伝説です。あの剣豪っぷりは、帝国随一でございましたよ。それに、当時は帝国どころか他の国のダンジョンにも多く遠征して、いやぁ、稼がせて頂きましたわ。
姐さんが、まだまだ稼げるお歳でしたのにスッパリ辞めて、これからの冒険者のために、冒険者ギルドの立て直しを始めると宣言されたときには本当に驚きました。並の男に太刀打ちできる器の大きさじゃございませんよ、レシータ姐さんは!」
アーセル幹事はアキツの出身だったため、沿海州の冒険者ギルドを仕切れとレシータさんから言われて、地元へ戻ったそうだ。
「〝爆砂〟のダンジョンがないいま、ダンジョン攻略をする冒険者は少ないのではないですか?」
私の言葉に苦笑いのアーセル幹事は、現状を語ってくれた。
〝爆砂〟事件で多くの貴重なダンジョンがなくなったのは間違いない。だが、ダンジョンは常に増えたり減ったりしている。地殻変動や天変地異で突然現れたり消えたりするものだそうだ。
そのスパンは、数年だったり、数百年だったり未知数だ。
その動向を把握し、管理するのも冒険者ギルドの重要な仕事となる。
〝爆砂〟ダンジョンのように人為的な原因で消失するケースは極めて稀だという。
現在でも、もちろんたくさんのダンジョンが存在し冒険者たちが活動している。だが、採取できるものに特徴的なものは少ないらしい。
「貴重品として〝潮の魔石〟が、ごく稀に出ますが、これも使い道が限られておりますし、魔物の骨や皮や肉、あとは鉱物やダンジョンにしかない植物、そしてごく少数の魔石がいい値段で取り引きできる程度です」
〝潮の魔石〟は、真水ではなく塩水が放出される魔石で、塩の取れない場所では高値で売れるため、貴重な輸出品になっているという。
(どこでも海が作れる魔石って、ちょっと面白いね)
アーセル幹事の話を聞きながら、私は俄然マホロのダンジョンに興味が湧いてきた。
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