上 下
16 / 18

癇癪リボン

しおりを挟む
 「ちょっと、何なのこれ!私が頼んだのは真っ赤なリボンよ!?」


朝から家中に響くような声で怒鳴るのは、この家の次女サーシャ。責められているのは勿論、使用人の如く生活するアリステラだ。


サーシャは手に取ったリボンを力任せに床に叩きつけた。


いや、それ貴方のだけどそんなに乱暴に扱っていいの?というか、サーシャはリボンのストックが豊富過ぎて、彼女の望むリボンがどれなのか分かりづらい。


アリステラは、ちらりとサーシャの部屋のクローゼットの横にある、これまた真っ赤なリボン入れを見る。その中には、端から端まで真っ赤なリボンがズラリと並んでいる。よくよく見れば、わずかに布や意匠の違いがあるが、色についてはもはやアリステラに理解できない。


面倒なので、アリステラは右から赤1、赤2と勝手に呼んでいる。今日サーシャが選んだのは先日選んだものと同じだったので、間違いはないはずだが、本人としては違うらしい。もう自分で選んで欲しい。


「え、と、今日はこの赤54…じゃなかった。ブリブリ赤リボンではないのですか」


口が滑った。



「ブリブリとは何なの!!」


そして、怒られた。


見た者全員が納得すると思うんだけどなぁ。リボンのサイズは特大、中央にはムーンストーン等の宝石が、そしてリボンの端にはこれでもかとフリルが付いている。


正直、服を隠されるよりも、このリボンを付けて人前に出ろと言われた方が拷問である。


「信じられないわ、私が美しいから僻んでいるのね!?欲しがったってこのリボンはあげないわ」


いらないわ、心の底から。


嫌そうな顔を浮かべたアリステラに、サーシャの堪忍袋の緒が切れた。元々切れてはいたが。


サーシャは、ずかずかとアリステラの近くまで大股で近づき、力いっぱい彼女を突き飛ばした。サーシャが力任せなことをするとは思わなかったアリステラは、受身も取れずに床に転がった。その拍子に、かけていた眼鏡がアリステラ同様に床に叩きつけられた。


「ふん!芋虫みたいでいい気味!あたしは出かけるから掃除でもしとくのね」


鼻息も荒く、サーシャはそう言い捨てて勢い良くドアを閉めた。その姿をぼーっと眺めてアリステラは思った。


あの癇癪リボン、絶対夫なんてできないわ。似合わないツインテールもそろそろやめた方がいいだろうに。


彼女が家庭に入る姿がまるで想像できない。結婚してもすぐに離婚しそうだ。


やれやれと、アリステラは突き飛ばされた時に吹っ飛んだ眼鏡を回収する。拾い上げた眼鏡の片方のレンズには、細長くヒビが入っていた。


「おおぅ、なんてことを…。ま、伊達眼鏡だからそこまで問題でもないか。テープで補強しておこう」


その後、サーシャの部屋をそれっぽく掃除して、アリステラは眼鏡の手当を行った。これでも、長い付き合いなのだ。物を大事にするアリステラとしては、ヒビが入ったから替えようという考えは浮かばなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...