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食卓は剣呑な一時
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「失礼致します」
部屋に誰もいないのは分かっているが、これはルールなので、扉を開く前に一声かける。
部屋に入って、アリステラは無駄に長くて大きなテーブルに料理と紙ナプキン、フォーク等を並べていく。
全くもって理解に苦しむテーブルだ。こんなに長い意味とは。向かい合って座るのではなく、1列に1人、1人と並ぶ。会話も弾まないわこれは。端と端の人なんて、互いの声が聞こえるのか?とアリステラはいつも疑問に思う。
家族分、最後の娘の分をテーブルにセットしたところで、ドスドスと大きな足音がしてーー突然扉が激しく開かれた。
「あらっ!あらあらあら!まーだ準備が終わらないのかしら?本当のろまな子ね」
赤毛を縦ロールにした少女、この屋敷の主人の長女、エディナが甲高い声でまくし立てる。エディナに続いて姿を見せたのは、その妹のサーシャだ。
「お姉様ったら、事実を指摘したら可哀想じゃない!やだ、ほら、こっちを睨んでるわよ」
姉のエディナと同じ赤毛を、サーシャはツインテールにしている。もうじき18になろうとしている娘が、幼い子供がするような髪型をいつまでするつもりなのか。それでいて、彼女は自分のことを大人っぽいと考えているようなのだ。アリステラはこっそりと心の中で笑った。
悪口を言ったのに、あまり堪える様子もないアリステラにエディナとサーシャはぎりりと歯ぎしりする。そこで何を思ったか、エディナは料理の皿を手に取り、それを自分の服にひっくり返した。
「きゃあ!なんてこと!使用人の粗相で私の服にシミがっ」
「あぁ、酷いわ!お姉様に何をするのよ、この薄汚い灰被り!」
どうやら、アリステラのせいで服が汚れてしまったと言いたいらしい。彼女達の演技力は凄いなと、アリステラは変なところに関心していた。特に、姉のエディナは演技力も高いが、被害妄想も激しい。無言でいると、彼女はどんどん妄想を膨らませていく。
「この間もこの灰被りは私の服を汚していたわ…!私って、なんて可哀想なのかしら」
この間…、あれのことだろうか?いつだったかは忘れたが、エディナから薄黄色のドレスが色落ちしてきたから、染色してほつれを直せと命令された。アリステラは言われた通り、元の色に染色し直したのだが、渡してみればエディナは今回のように喚きたてたのだ。「こんな色じゃなかったのに、汚い色にされたわ!」だそうだ。
嫌なら着なければいい。何せ、エディナとサーシャのクローゼットは所狭しと、ドレスが並んでいるのだから。
娘達の騒ぎ声を聞きつけたのか、部屋に彼女達の母親が駆けつけてきた。この屋敷の奥様、ラムザ・アルノルドである。ラムザは気の強そうな瞳で部屋を見回し、アリステラを睨みつける。
「また貴方なの?娘を虐めるなんて!罰として、1週間馬小屋で寝なさい!」
ワタシ、虐めてませんが?とは言えず、ぺこりと頭を下げる。この屋敷では彼女達がルールなのだ。下手に逆らえばご飯を抜かれてしまうかもしれない。それに、馬小屋で寝るのも楽しそうでいいんじゃないのかしら。
「申し訳ありませんでした、すぐに替えのお食事を持って参ります」
これ以上とやかく言われる前に、アリステラはさっと身を翻す。エディナの服なんか、どうでもいいに尽きる。代わりを持ってくる間に自分で着替えろ。
アリステラは食事を無駄にされたことを、じわっと怒っていた。
部屋に誰もいないのは分かっているが、これはルールなので、扉を開く前に一声かける。
部屋に入って、アリステラは無駄に長くて大きなテーブルに料理と紙ナプキン、フォーク等を並べていく。
全くもって理解に苦しむテーブルだ。こんなに長い意味とは。向かい合って座るのではなく、1列に1人、1人と並ぶ。会話も弾まないわこれは。端と端の人なんて、互いの声が聞こえるのか?とアリステラはいつも疑問に思う。
家族分、最後の娘の分をテーブルにセットしたところで、ドスドスと大きな足音がしてーー突然扉が激しく開かれた。
「あらっ!あらあらあら!まーだ準備が終わらないのかしら?本当のろまな子ね」
赤毛を縦ロールにした少女、この屋敷の主人の長女、エディナが甲高い声でまくし立てる。エディナに続いて姿を見せたのは、その妹のサーシャだ。
「お姉様ったら、事実を指摘したら可哀想じゃない!やだ、ほら、こっちを睨んでるわよ」
姉のエディナと同じ赤毛を、サーシャはツインテールにしている。もうじき18になろうとしている娘が、幼い子供がするような髪型をいつまでするつもりなのか。それでいて、彼女は自分のことを大人っぽいと考えているようなのだ。アリステラはこっそりと心の中で笑った。
悪口を言ったのに、あまり堪える様子もないアリステラにエディナとサーシャはぎりりと歯ぎしりする。そこで何を思ったか、エディナは料理の皿を手に取り、それを自分の服にひっくり返した。
「きゃあ!なんてこと!使用人の粗相で私の服にシミがっ」
「あぁ、酷いわ!お姉様に何をするのよ、この薄汚い灰被り!」
どうやら、アリステラのせいで服が汚れてしまったと言いたいらしい。彼女達の演技力は凄いなと、アリステラは変なところに関心していた。特に、姉のエディナは演技力も高いが、被害妄想も激しい。無言でいると、彼女はどんどん妄想を膨らませていく。
「この間もこの灰被りは私の服を汚していたわ…!私って、なんて可哀想なのかしら」
この間…、あれのことだろうか?いつだったかは忘れたが、エディナから薄黄色のドレスが色落ちしてきたから、染色してほつれを直せと命令された。アリステラは言われた通り、元の色に染色し直したのだが、渡してみればエディナは今回のように喚きたてたのだ。「こんな色じゃなかったのに、汚い色にされたわ!」だそうだ。
嫌なら着なければいい。何せ、エディナとサーシャのクローゼットは所狭しと、ドレスが並んでいるのだから。
娘達の騒ぎ声を聞きつけたのか、部屋に彼女達の母親が駆けつけてきた。この屋敷の奥様、ラムザ・アルノルドである。ラムザは気の強そうな瞳で部屋を見回し、アリステラを睨みつける。
「また貴方なの?娘を虐めるなんて!罰として、1週間馬小屋で寝なさい!」
ワタシ、虐めてませんが?とは言えず、ぺこりと頭を下げる。この屋敷では彼女達がルールなのだ。下手に逆らえばご飯を抜かれてしまうかもしれない。それに、馬小屋で寝るのも楽しそうでいいんじゃないのかしら。
「申し訳ありませんでした、すぐに替えのお食事を持って参ります」
これ以上とやかく言われる前に、アリステラはさっと身を翻す。エディナの服なんか、どうでもいいに尽きる。代わりを持ってくる間に自分で着替えろ。
アリステラは食事を無駄にされたことを、じわっと怒っていた。
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