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1.水底の世界
訪問者
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小波がフラリと立ち寄っては、彼女が持ってくるもので遊んだり、色々な話をしたりして日々が過ぎていった。
彼女は初めて会った時から変わらない。人間の娘だと知っても、彼女は屈託なく笑ってくれた。今まで友達がいなかった琥珀にとっては、彼女がもたらすものは何もかも新鮮だった。
そんな彼女は世間通であるがゆえに、噂好きでもあるということを知ったのは今日だった。
水無月と琥珀の元へ新たな訪問者がやって来たのだ。川に住む鯰の化身、赤佐と鯉の化身透鯉と言うらしい。彼らは魚の姿のまま名乗ってきたので、私は少なからず驚いた。
ズカズカと乗り込んできた彼らーー、いや、ビチビチと乗り込んできたの間違いか。えらく活きの良いやつがいると思っていたら、その鯰と鯉はふわりと白い靄に包まれる。
一体何事か、さっぱり理解できない。靄が晴れた先に現れたのは、色黒で赤髪を短く揃えた大男と、色白で長い前髪を顔の片方に寄せている儚げな美少年だった。
赤毛の男は琥珀をギリッと音がしそうなくらい睨みつける。それはまるで、長年探してきた親の敵にでも出会ったかのようだ。…私には彼に睨まれる心当たりがないのだが。
「おい、水無月!話は聞いたぞ、どういうことだ。また懲りもせず、人間の娘なんぞ助けてどうする」
………心当たりありありだった。人間の娘と言った瞬間の彼らの雰囲気は尖りに尖っていた。
そりゃそうだ。この水底で私だけが人間で、皆と違うのだから。水無月や小波は受け入れてくれたから忘れそうになるが、私はどこにおいても決して溶け込めない異質な存在なのだろう。
顔を下に向け、情けなく歪んだ表情を隠す。弱みを見せてはいけない。つけ込む隙を作るな。
あの疎外されてきた村で学んだことを、私は繰り返し念じる。大丈夫、今までだってそうやって生きてきた。今更、何を怖がる必要があるというのだ。
「琥珀、来い」
水無月の声が聞こえたかと思えば、暖かな水の流れに背中を押され、琥珀は水無月の胸元へ飛び込む形となった。正直、顔が隠せて助かった。それに、水無月の穏やかな鼓動を感じ、不安に苛まれていた心も、少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「……ありがとう、水無月」
水無月は何でもないことのように、琥珀の頭をくしゃりと撫でた。それから、突然の訪問者達に向き直る。その顔はいかにも面倒と言いたげだ。
「で?何だお前達。俺もそうそう暇ではない。要件はもう終わりか?」
暇ではないと強調しながら、水無月は欠伸を噛み殺している。要するに早く寝たいらしい。
流石にそんな態度を取っていると怒らせてしまうのでは、という私の不安は的中した。赤毛が水無月の緩く着崩した着物を乱暴に掴む。それをひ弱そうな少年が慌てて止めようとしているが、どう見ても彼では止めきれないだろう。
「水無月…!何故お前は人間を庇う?」
「何を今更…。俺のような神にとって、人間の信仰は大きな糧となる。それが分からないほど、お前は頭が悪かったか?」
「本当にそれだけか?その割には随分と面倒を見ているみたいだな」
水無月の説明を聞いても、赤毛は疑わしそうに水無月と私とをジロジロ見比べる。
「五月蝿い…。俺は騒音が嫌いだと知っているだろう?お前の質問には答えた。もう要は済んだはずだな、さっさと帰れ」
水無月が手で追い出すような仕草をしたかと思えば、赤佐と透鯉を激しい水流が押し流していく。問答無用とばかりの力技に、琥珀は目を見開く。赤佐なんて、ひっくり返っていたが大丈夫だっただろうか。
ソワソワと落ち着かない私の横で、水無月は静かに眠っていた。どうやら寝起きで多少?機嫌が悪かったらしい。
これぞ、触らぬ神に祟りなしというやつか。
彼女は初めて会った時から変わらない。人間の娘だと知っても、彼女は屈託なく笑ってくれた。今まで友達がいなかった琥珀にとっては、彼女がもたらすものは何もかも新鮮だった。
そんな彼女は世間通であるがゆえに、噂好きでもあるということを知ったのは今日だった。
水無月と琥珀の元へ新たな訪問者がやって来たのだ。川に住む鯰の化身、赤佐と鯉の化身透鯉と言うらしい。彼らは魚の姿のまま名乗ってきたので、私は少なからず驚いた。
ズカズカと乗り込んできた彼らーー、いや、ビチビチと乗り込んできたの間違いか。えらく活きの良いやつがいると思っていたら、その鯰と鯉はふわりと白い靄に包まれる。
一体何事か、さっぱり理解できない。靄が晴れた先に現れたのは、色黒で赤髪を短く揃えた大男と、色白で長い前髪を顔の片方に寄せている儚げな美少年だった。
赤毛の男は琥珀をギリッと音がしそうなくらい睨みつける。それはまるで、長年探してきた親の敵にでも出会ったかのようだ。…私には彼に睨まれる心当たりがないのだが。
「おい、水無月!話は聞いたぞ、どういうことだ。また懲りもせず、人間の娘なんぞ助けてどうする」
………心当たりありありだった。人間の娘と言った瞬間の彼らの雰囲気は尖りに尖っていた。
そりゃそうだ。この水底で私だけが人間で、皆と違うのだから。水無月や小波は受け入れてくれたから忘れそうになるが、私はどこにおいても決して溶け込めない異質な存在なのだろう。
顔を下に向け、情けなく歪んだ表情を隠す。弱みを見せてはいけない。つけ込む隙を作るな。
あの疎外されてきた村で学んだことを、私は繰り返し念じる。大丈夫、今までだってそうやって生きてきた。今更、何を怖がる必要があるというのだ。
「琥珀、来い」
水無月の声が聞こえたかと思えば、暖かな水の流れに背中を押され、琥珀は水無月の胸元へ飛び込む形となった。正直、顔が隠せて助かった。それに、水無月の穏やかな鼓動を感じ、不安に苛まれていた心も、少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「……ありがとう、水無月」
水無月は何でもないことのように、琥珀の頭をくしゃりと撫でた。それから、突然の訪問者達に向き直る。その顔はいかにも面倒と言いたげだ。
「で?何だお前達。俺もそうそう暇ではない。要件はもう終わりか?」
暇ではないと強調しながら、水無月は欠伸を噛み殺している。要するに早く寝たいらしい。
流石にそんな態度を取っていると怒らせてしまうのでは、という私の不安は的中した。赤毛が水無月の緩く着崩した着物を乱暴に掴む。それをひ弱そうな少年が慌てて止めようとしているが、どう見ても彼では止めきれないだろう。
「水無月…!何故お前は人間を庇う?」
「何を今更…。俺のような神にとって、人間の信仰は大きな糧となる。それが分からないほど、お前は頭が悪かったか?」
「本当にそれだけか?その割には随分と面倒を見ているみたいだな」
水無月の説明を聞いても、赤毛は疑わしそうに水無月と私とをジロジロ見比べる。
「五月蝿い…。俺は騒音が嫌いだと知っているだろう?お前の質問には答えた。もう要は済んだはずだな、さっさと帰れ」
水無月が手で追い出すような仕草をしたかと思えば、赤佐と透鯉を激しい水流が押し流していく。問答無用とばかりの力技に、琥珀は目を見開く。赤佐なんて、ひっくり返っていたが大丈夫だっただろうか。
ソワソワと落ち着かない私の横で、水無月は静かに眠っていた。どうやら寝起きで多少?機嫌が悪かったらしい。
これぞ、触らぬ神に祟りなしというやつか。
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