令嬢はうたた寝中

コトイアオイ

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2.百合亜の策略

口パクでもいいですか(震え声)

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 「カエルを戻してきた?」


学級委員長の牡丹清音が同じ質問を繰り返す。私はこくりと頷く。何も嘘は言っていない。


「信じ難いけど、織花さんならって思ってしまうわね…」


これぞ、日頃の行いというやつか。信じてもらえたようで何より。

清音はあの卒業パーティで私の代わりに怒ってくれた優しい子だ。中等部の頃から私のお姉さんのように面倒を見てくれる。しっかりしてて頼りになる友人なのだ。


「そう言えば、もうすぐ歌のコンクールですわね」


そんな清音がふと思い出したように呟く。それは私が忌み嫌うイベントだ…。


「ううっ…地獄だわ」


この学園では歌のコンクールが1年に2回もある。各クラスで歌の美味さを競い、トーナメント戦で優勝したクラスが表彰される。

このように音楽が重視されているのだが、私にその方面の才能はない。かつて、歌ったら…聞いていた人全員が地に膝をつけ項垂れていた。彼らはひきつり顔で「織花さんは他にも特技あるから…」と慰めてくれた。よっぽど酷かったらしい。

それ以降、私に関しては歌わない方がありがたいという暗黙の了解ができた。私だって下手なものを晒し続けるのは嫌だ。幼心にショックだったんだからね…。


そういうわけで、いつも口パクですが、何か問題でも(震え声)?


以前涙目でそう宣言したら、非常に残念なものを見るような視線が集まった。しかし、何も言われなかったので、納得されたのだろう。


それを清音に聞いたら、「織花さんはいつも寝てるし、数に含まなくても変わらないのではないの?」と言われた。


なるほど、やはり日頃の行いは大事だね!


とは言っても、コンクールのための練習は基本参加が義務となっている。部活生も部活動よりこちらを優先しなければならない。


「暫くはあの女が調子に乗るのが許せませんわ」


清音が綺麗な顔を怒りに染めている。彼女を怒らせるのは、姫咲百合亜ただ一人だ。



そう、ヒロインである百合亜の特技は歌にある。圧倒的な歌唱力を買われ、このエリート校に特別推薦枠で入学したという設定だ。


前世も今世も音痴な私としては、非常に羨ましい。その能力、ちょっとでいいから分けて欲しい。


確か、コンクール関係のイベントは…今朝会った桂雅人とヒロインの出会いだったっけ?中等部でそうした出来事はなかったようだし…。まぁ、王子ルートを一心に攻略してたならそうなるのかもしれない。百合亜は桂雅人がそんなに好きじゃなかったのかな?


今までは珍しい推薦枠の入学者という認識でしかなかったが、彼女の歌声を聞いて興味を持ち始める…というイベント。そろそろ来るかもしれない。


実際は彼らが既に出会っていて、互いに警戒心を抱いているなんてことは、私が知る由もなく。
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