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ゲーム終了なのです

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「これで僕の力を認めてくれた?」
あれからカミュが呼んだ警備隊が到着する前に、リオンは屋敷の者全てを先程の蝶を放って眠らせた。

人質か屋敷の者かわからないから全ての人を無差別に。

些かリオンらしくない荒っぽい遣り口だが、相当気が昂ぶっているらしい。

「初めてこんなに動かしたけど、意外と魔力減らないね」
まだまだ余力があるそうだ。

この蝶は毒やら眠りやら、身体への異常を齎すようなじわじわとした攻撃が得意だという。

なかなかねちっこい魔法だとマオは思った。

「今からでもゲーム再開してくれる? 今すぐ結果を出したい」
実践で使えたことで自信を持ったようだ。

「もういいです、僕の負けです」
マオはあっさりと降参した。

あの数の蝶が自分に向かって来たら、キラキラになってしまいそうだから。

目立つのは嫌いだ。

「リオン様は随分強くなられたのですね。凄かったです」
ある意味であんな派手な魔法見たことない。

部屋中が虹色になるなんて、そうそうお目にかかれないだろう。

「君に認められる男になりたかったからね」
跪きマオの手を取る。

「では約束通りどうか俺の妻になってくれ」
ガラリと変わる口調、真剣な眼差し、
ギラギラした男の目。

もはや昔の少年ではないのだ。

「謹んでお受けいたします」
マオも真っ直ぐに見返し、目線を合わせ跪く。

「普通淑女まで跪かないんじゃない?」

「僕は普通の淑女じゃないので」
そっとマオはフードを外す。

「綺麗な髪だったのに……切っちゃったのかい?」

「リオン様に会った時の自分に戻ろうと思いまして。短いのは嫌いですか?」

「まさか! マオなら何でも似合うよ、でも切った髪はどこにやったの?」
凄みのある声は鬼気迫るものだ。

「屋敷を出る前に切ったから、多分自室のゴミ箱に」

「ティタン兄様にすぐ連絡する」
髪をどうするかなんて、分かりきっているが聞いてみた。

「髪をどうするですか?」

「君の一部だ、勿論取っておく」
立ち上がって、すぐに通信石で連絡を取る。

「兄様、急な連絡をすみません。えぇこちらは大丈夫です、はい、はい、マオと帰りますよ。それより至急の用事が」
隠すでなく、堂々と言うものだ。

警備隊と一緒に捕縛を手伝っていたカミュが戻ってきていたが、呆れ返っている。

「パーティの時も思ったが、あれは本当にリオン様なのか?」
一緒に外遊していた主は、穏やかでいつも柔和な表情をし、敬語を忘れない、聡明な人だった。

でもどこか作り物めいていて本心を晒すことなどしなかった。

それが今や感情を顕にし、表情をくるくると変えている。

兄に対して好きな女の髪を取っておくよう頼むなんて、真面目な主の意外な一面だ。

「信じられないですよね、でも本当に同一人物です。この兄弟達は好きな人に出会うと変わるのです」
自分がその相手になるとは思ってなかったが。

「ずっと聞きたかったのだが、マオやニコラと俺はどう違う? いくら尽くしてもリオン様は俺に心を開いてくれない。何故だ?」
同じ従者という立場だから聞かれた質問か。

真剣な声音は余程思い詰めているのだろう。

「簡単です、王族として扱わなければいいのです」
サラリと言った言葉は信じられないものだった。

「それは、不敬にあたるのでは?」

「あたりますよ。普通に無礼な事をしたら、首無くなるです」
当然だと言わんばかりの言葉だ。

誂われているのかとカミュは苛立った。

「意味がわからん」

「少し意地悪したのです、言い方変えると人間扱いすればいいんです。彼らは王族である前に、人間ですから」
リオンは上二人とは少し年が離れていた。

それ故可愛がられる事が多かったが、悪意に晒される事も多かった。

勉学が出来た事で、リオンを担ぎ上げ、王にのしあげようとするものもいた。

年齢的に傀儡に出来ると考えたのだろう。

嘘ばかりを言って近づく者も多く、聡明なリオンでも信頼できるものが、わからなくなった。

頭はいいが人の機微を知るには幼すぎた。

柔和な笑顔は拒否しない代わりに受け入れないという決意。

そうして自身を守っていた。

「意外と思ったままに言えば返してくれるですよ。二年も従者にしていたのなら、カミュの事嫌いじゃないはずです」

「二人で何を話しているんだい?」
ティタンとの通信が終わったリオンがこちらに近づいてくる。

声には若干嫉妬が混じっている。

「従者としての心得を教えていたのです」
ちらりとマオはカミュを見た。

「えぇ色々と教わっておりました。リオン様は良き伴侶を得られ、羨ましいです」

「そうだろ?誰にも渡さないからね」
リオンは庇うようにマオを抱きしめた。

思わずカミュは笑ってしまう。

「何がおかしい?」

「いえ、リオン様は余程マオが好きなのだなと思いまして。見てるこっちが恥ずかしくなるのですが」

「僕は恥ずかしくない。誰かに取られるより断然いい」
愛おしむようにリオンはマオを撫でた。

「家に帰ろう、皆が心配している」



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