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断罪、その後(メイベルク家にて③)

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 泣くステラをレナンは慰める。

「ステラ様、つらい時は心行くまで涙を流すとすっきりしますわ。大丈夫です、この部屋で話したことは誰にも言いませんから。どうか思いっきり泣いて辛い思いを吐き出してください」
 ステラの背を摩りながらレナンは優しく声を掛ける。

「ラスタ様にも見捨てられ、エリック様にも振り向いてもらえない……私は価値のない人間だわ」

「そんな事はありません。ステラ様を愛する人はいっぱいいます。今は心が苦しいから、その事に気づけないだけなのです。ステラ様はたくさんの人に勇気や元気を与えてくれる、憧れの女性ですわ」
 頑張り屋でどのような困難にも立ち向かうステラ、そんな彼女を支えてくれる人は必ず現れると、自信を持って言う。

「他国の方からの評判も良く、陛下もステラ様の努力をお認めになられています。婚姻相手ではなくとも、友人やファンクラブの者など、信頼できる者を増やしましょう。そうすればきっとステラ様を支えてくれる者が現れますわ、こうして悲しみや苦しみを一人で抱え込むことなどなくなります」
 涙は止まらないものの、ステラを思って慰めの言葉を言ってくれているのが伝わる。

「ステラ様の本当の望みは何ですか?」

「私の望み……」
 ラスタ王太子とでは叶わなかったが、エリックとレナンのような強い絆を、自分も誰かと結びたいと思った。

 そのきっかけを作ったのはエリックであるが、彼が振り向くことはけしてない。

 彼の優しい言葉も行動力も、全てがレナンの為だ

 だがそこまで彼が尽くすことに今ではステラも納得している。レナンはこんな自分にも優しいのだ。

 もうこの女性から婚約者を奪おうなんて気持ちは無くなっていた。

「虫のいい話ではあるのですが……レナン様、私と友人になってもらえませんか?」
 ステラは少し躊躇しながらお願いをする。

 エリックの顔色を伺うが彼は何も言わない。レナンの判断に任せるようだ。

「わたくしとですか?」
 そんな恐れ多いと思いながら、レナンは悩む。

(今まで遠くから眺めるくらいしかしてこなかったのですが、そんなわたくしがステラ様の友人となってもいいのでしょうか?)
 正直自分では釣り合わないと思うのだが、ステラが望むのならば叶えてあげたい。

「わたくしでよければ、喜んで」
 様子を伺いながら手を差し伸べると、ステラは優しく握り返してくれた。

「嬉しいわ……ありがとう」
 ふわりと微笑むステラを見て、レナンも高揚する。

 この笑顔が見たかった。

 ここ何年も暗い笑顔しか見られなかったのに、ようやくこのような心からの笑顔を見られたのだ。

 ステラもレナンも心がほわほわとなる

 名残惜しそうに手を離し、ステラは気まずそうに頭を下げる。

「ごめんなさい。あなた達を引き裂くようなことをしてしまって。陛下に今回の件を取り下げてもらうように進言してくるわ」
 取り返しのつかない間違いを犯してしまった事は間違いない。

 愛する二人を無理矢理離そうとしたことは許しがたい事だ。

「ステラ様、顔を上げてください。わたくしは大丈夫、ではないですけど完全にエリック様との仲を裂かれたわけではないですから」
 レナンが慌ててステラにそう言う。

「私が言うのも何だけれど、あなたはもう少し私に対して怒っていいのよ? 婚約者を奪おうとした女だし、それなのに友人になりたいなんて自分勝手な事ばかりを言うのだもの。私が逆の立場だったら、許せないと思うわ」
 ステラはレナンの事が心配になる。

 騙し合いもあるこの社会では、レナンのような性格は搾取されやすい。

 事実メイベルク家は侯爵家という高位貴族なのに侮られやすい。家族皆がお人好しだからだ。

「怒る気持ちがないわけではないのですが、内心複雑でして。わたくしはステラ様に憧れていて、そしてエリック様もとても有能な方ですもの。そんなお二人が一緒になったら確かにお似合いだとも思ったのです」

「……」
 エリックは腕を組み、無言ではあるが不機嫌さを醸し出していた。

「ステラ様がエリック様の事を欲しいという気持ちを抱いた事、実は少し嬉しかったのです。やはり皆が認める男性なのだと思いまして。ですがわたくしもエリック様を愛しております、そこはステラ様であっても譲れませんわ」
 レナンは頭を下げる。

「わかっていますわ。ぜひ幸せになってくださいね」
 自分の分まで、と思うのは烏滸がましいが、素直なレナンにはこのまま良い人生を歩んで欲しいと願う。

「はい!」
 憧れの人からの祝福を受け、レナンも笑顔で答えた。





 両侯爵の猛抗議、そしてステラからの謝罪と撤回も受けて、国王は発言を引っ込めた。

 これでまた下がっていた王家への信用が更に落ちた。

 王太子の件で既に信頼はガタガタだ、今生の治世で賄うには重すぎる課題である。

「今後同じような失態があれば離反もあり得ますよ」
 とウィズフォード家とメイベルク家に言われ、アドガルム王家は大人しくなる。さすがに二家の侯爵家にそう言われては国の存続も危ない。

 そしてステラの実家、ブランシェ公爵家から申し出もあった。

「勝手な事を言ってしまい、申し訳ありません。今後はステラのために王都を離れ、療養させたいと思います」
 と。

 心身の衰弱が見られるステラを静養させたいと、願い出が出されたのだ。

 ステラの受けた王太子妃教育が泡に帰すのは惜しいものだが、弱っていると言われては強制できない。

 ただでさえ負担の多い業務ばかりだ。健康体でなければ勤め上げることは出来ない、という事でステラは療養のために他国に移るようになる。

 アドガルムでは噂という雑音が多すぎるからと。

「王都を離れ、もう少し落ち着いてから、これからについてゆっくりと考えて行こうと思うわ」
 出立前に最後に会ったステラは穏やかな笑みを浮かべていた。

 レナンはステラがこの国から離れてしまうのを寂しく思ったが、新天地で穏やかな暮らしが出来ればと願い、笑顔で見送りをする。

 落ち着いたら手紙をくれると言っていたし、信じて待っていよう。
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