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第1話断れない茶会

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ミューズは茶会が嫌いだった。



醜いことを馬鹿にされるからだ。

公爵家の次女に生まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。

何不自由なく暮らしていた。
家族からも愛されて育った。

「可愛いミューズ、大好きよ」
父も母も姉もそう言って大切にしてくれていた。

自分が家族と何か違うと気づいたのは姉の家庭教師と新しい侍女が廊下でしていた会話。



知り合い同士だったのだろう。

普通雇い主の家でそのような会話をするのなんて有り得ないのだが、偶然にもミューズは聞いてしまった。

「あんな不細工な令嬢見たことないわ。レナン様は可愛い妹だって言うけど、全然ね」

ショックだった。
会えばにこやかに挨拶してくれたのに。

「そうね、レナンお嬢様は家族ですもの。そう言うしかないわよね。自分の妹に面と向かってブスなんて言わないわよ」
知り合いに会えた気安さからなのか侍女もそう言う。

二人の秘密の会話を聞き、急いで自室に帰り、わんわん泣いた。

初めての悪意ある言葉だった。

泣いて泣いて、父であるディエスが何とか事の経緯を聞き出すと、怒って二人を解雇し紹介状も出さなかった。

紹介状がないということは貴族の信用がないということだ。
二人の再雇用には暗雲が立ち込めるだろう。

自分は不細工なのかと意気消沈し、鏡を見る。
金と青の珍しいオッドアイはしているが、母に似た顔立ちだと思っていてそこまで酷いとは思っていなかった。

しかし悪意のあるあの声が忘れられず、ミューズは疑心暗鬼となり、段々笑顔を忘れてしまった。

茶会デビューを果たすものの、笑顔すら作れず、また不細工と言われているようで、孤立した。

周囲からも姉のレナンと比べられ酷く落ち込んだ。

しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれ、意気消沈してしまう。



そんなミューズを励ましたのは、温室の管理者だ。
年配の女性で、優しくハーブについてや薬草の知識を教えてくれた。
「こちら落ち込んだ気持ちを和らげたり、体が温まるハーブですよ。
こちらは傷に効く薬草です。擦り傷や切り傷にも効き、転んだ時など大活躍です」
新しい知識を増やすことは気が紛れ、とても楽しかった。

家族や親しいメイドにハーブティーを振る舞うと「美味しい」と喜ばれ、皆に好評だったのも自信に繋がった。

まだ外に出るまでには回復してないが、新たな目標が出来て、心が軽くなった。
熱中するものがあるのはとても良いことだ。



明るさを少し取り戻して来た頃に、またミューズの心に翳りを帯びる出来事が来てしまった。

「ミューズは気が進まないかもしれないが…次の茶会には絶対に参加してほしいのだ」

ディエスは暗い表情でそう告げた。

ディエスは国の宰相である。
今回の茶会は国王が直々に開くもので、ディエスは直接声を掛けられた。

「ディエスのところも妙齢の令嬢が二人いるな。是非今度の茶会に来てくれ」
そう国王から直接言われては断ることは出来なかった。



今度の茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るらしい。
十四歳になる第一王子と十歳になる第二王子。
奇しくもレナンとミューズと同い年である。

婚約者選びを兼ねているため、高位貴族のうち令嬢がいる家に声が掛かっているらしい。

勿論ミューズは断りたかった。
しかし、申し訳無さそうな父の姿を見て貴族としての役割だと割り切り、承諾した。
今まで甘えさせてもらったのもあり、これ以上の我儘は気が引けたのだ。




「やっぱり来なきゃよかった」
庭園の隅からこっそりパーティ会場を抜け、たまたま見つけたベンチに座る。

側で守るといったレナンは、レナンの友人の令嬢達に連れて行かれてしまった。

第一王子エリックの元へ行くのに個人で行くのは恥ずかしい、と皆で行くようにしたらしい。

妹もと、レナンは言ってくれたが、
「ミューズ様は年齢的にもティタン様のほうがお似合いよ。ミューズ様もご友人とぜひお話しにいくといいわ」
事情を知らない令嬢がそう言うと、瞬く間に連れていかれてしまった。

ぽつんと取り残されたミューズはハッとし、急いで茶会から逃げ出した

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