1 / 19
第1話断れない茶会
しおりを挟む
ミューズは茶会が嫌いだった。
醜いことを馬鹿にされるからだ。
公爵家の次女に生まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
「可愛いミューズ、大好きよ」
父も母も姉もそう言って大切にしてくれていた。
自分が家族と何か違うと気づいたのは姉の家庭教師と新しい侍女が廊下でしていた会話。
知り合い同士だったのだろう。
普通雇い主の家でそのような会話をするのなんて有り得ないのだが、偶然にもミューズは聞いてしまった。
「あんな不細工な令嬢見たことないわ。レナン様は可愛い妹だって言うけど、全然ね」
ショックだった。
会えばにこやかに挨拶してくれたのに。
「そうね、レナンお嬢様は家族ですもの。そう言うしかないわよね。自分の妹に面と向かってブスなんて言わないわよ」
知り合いに会えた気安さからなのか侍女もそう言う。
二人の秘密の会話を聞き、急いで自室に帰り、わんわん泣いた。
初めての悪意ある言葉だった。
泣いて泣いて、父であるディエスが何とか事の経緯を聞き出すと、怒って二人を解雇し紹介状も出さなかった。
紹介状がないということは貴族の信用がないということだ。
二人の再雇用には暗雲が立ち込めるだろう。
自分は不細工なのかと意気消沈し、鏡を見る。
金と青の珍しいオッドアイはしているが、母に似た顔立ちだと思っていてそこまで酷いとは思っていなかった。
しかし悪意のあるあの声が忘れられず、ミューズは疑心暗鬼となり、段々笑顔を忘れてしまった。
茶会デビューを果たすものの、笑顔すら作れず、また不細工と言われているようで、孤立した。
周囲からも姉のレナンと比べられ酷く落ち込んだ。
しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれ、意気消沈してしまう。
そんなミューズを励ましたのは、温室の管理者だ。
年配の女性で、優しくハーブについてや薬草の知識を教えてくれた。
「こちら落ち込んだ気持ちを和らげたり、体が温まるハーブですよ。
こちらは傷に効く薬草です。擦り傷や切り傷にも効き、転んだ時など大活躍です」
新しい知識を増やすことは気が紛れ、とても楽しかった。
家族や親しいメイドにハーブティーを振る舞うと「美味しい」と喜ばれ、皆に好評だったのも自信に繋がった。
まだ外に出るまでには回復してないが、新たな目標が出来て、心が軽くなった。
熱中するものがあるのはとても良いことだ。
明るさを少し取り戻して来た頃に、またミューズの心に翳りを帯びる出来事が来てしまった。
「ミューズは気が進まないかもしれないが…次の茶会には絶対に参加してほしいのだ」
ディエスは暗い表情でそう告げた。
ディエスは国の宰相である。
今回の茶会は国王が直々に開くもので、ディエスは直接声を掛けられた。
「ディエスのところも妙齢の令嬢が二人いるな。是非今度の茶会に来てくれ」
そう国王から直接言われては断ることは出来なかった。
今度の茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るらしい。
十四歳になる第一王子と十歳になる第二王子。
奇しくもレナンとミューズと同い年である。
婚約者選びを兼ねているため、高位貴族のうち令嬢がいる家に声が掛かっているらしい。
勿論ミューズは断りたかった。
しかし、申し訳無さそうな父の姿を見て貴族としての役割だと割り切り、承諾した。
今まで甘えさせてもらったのもあり、これ以上の我儘は気が引けたのだ。
「やっぱり来なきゃよかった」
庭園の隅からこっそりパーティ会場を抜け、たまたま見つけたベンチに座る。
側で守るといったレナンは、レナンの友人の令嬢達に連れて行かれてしまった。
第一王子エリックの元へ行くのに個人で行くのは恥ずかしい、と皆で行くようにしたらしい。
妹もと、レナンは言ってくれたが、
「ミューズ様は年齢的にもティタン様のほうがお似合いよ。ミューズ様もご友人とぜひお話しにいくといいわ」
事情を知らない令嬢がそう言うと、瞬く間に連れていかれてしまった。
ぽつんと取り残されたミューズはハッとし、急いで茶会から逃げ出した
醜いことを馬鹿にされるからだ。
公爵家の次女に生まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
「可愛いミューズ、大好きよ」
父も母も姉もそう言って大切にしてくれていた。
自分が家族と何か違うと気づいたのは姉の家庭教師と新しい侍女が廊下でしていた会話。
知り合い同士だったのだろう。
普通雇い主の家でそのような会話をするのなんて有り得ないのだが、偶然にもミューズは聞いてしまった。
「あんな不細工な令嬢見たことないわ。レナン様は可愛い妹だって言うけど、全然ね」
ショックだった。
会えばにこやかに挨拶してくれたのに。
「そうね、レナンお嬢様は家族ですもの。そう言うしかないわよね。自分の妹に面と向かってブスなんて言わないわよ」
知り合いに会えた気安さからなのか侍女もそう言う。
二人の秘密の会話を聞き、急いで自室に帰り、わんわん泣いた。
初めての悪意ある言葉だった。
泣いて泣いて、父であるディエスが何とか事の経緯を聞き出すと、怒って二人を解雇し紹介状も出さなかった。
紹介状がないということは貴族の信用がないということだ。
二人の再雇用には暗雲が立ち込めるだろう。
自分は不細工なのかと意気消沈し、鏡を見る。
金と青の珍しいオッドアイはしているが、母に似た顔立ちだと思っていてそこまで酷いとは思っていなかった。
しかし悪意のあるあの声が忘れられず、ミューズは疑心暗鬼となり、段々笑顔を忘れてしまった。
茶会デビューを果たすものの、笑顔すら作れず、また不細工と言われているようで、孤立した。
周囲からも姉のレナンと比べられ酷く落ち込んだ。
しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれ、意気消沈してしまう。
そんなミューズを励ましたのは、温室の管理者だ。
年配の女性で、優しくハーブについてや薬草の知識を教えてくれた。
「こちら落ち込んだ気持ちを和らげたり、体が温まるハーブですよ。
こちらは傷に効く薬草です。擦り傷や切り傷にも効き、転んだ時など大活躍です」
新しい知識を増やすことは気が紛れ、とても楽しかった。
家族や親しいメイドにハーブティーを振る舞うと「美味しい」と喜ばれ、皆に好評だったのも自信に繋がった。
まだ外に出るまでには回復してないが、新たな目標が出来て、心が軽くなった。
熱中するものがあるのはとても良いことだ。
明るさを少し取り戻して来た頃に、またミューズの心に翳りを帯びる出来事が来てしまった。
「ミューズは気が進まないかもしれないが…次の茶会には絶対に参加してほしいのだ」
ディエスは暗い表情でそう告げた。
ディエスは国の宰相である。
今回の茶会は国王が直々に開くもので、ディエスは直接声を掛けられた。
「ディエスのところも妙齢の令嬢が二人いるな。是非今度の茶会に来てくれ」
そう国王から直接言われては断ることは出来なかった。
今度の茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るらしい。
十四歳になる第一王子と十歳になる第二王子。
奇しくもレナンとミューズと同い年である。
婚約者選びを兼ねているため、高位貴族のうち令嬢がいる家に声が掛かっているらしい。
勿論ミューズは断りたかった。
しかし、申し訳無さそうな父の姿を見て貴族としての役割だと割り切り、承諾した。
今まで甘えさせてもらったのもあり、これ以上の我儘は気が引けたのだ。
「やっぱり来なきゃよかった」
庭園の隅からこっそりパーティ会場を抜け、たまたま見つけたベンチに座る。
側で守るといったレナンは、レナンの友人の令嬢達に連れて行かれてしまった。
第一王子エリックの元へ行くのに個人で行くのは恥ずかしい、と皆で行くようにしたらしい。
妹もと、レナンは言ってくれたが、
「ミューズ様は年齢的にもティタン様のほうがお似合いよ。ミューズ様もご友人とぜひお話しにいくといいわ」
事情を知らない令嬢がそう言うと、瞬く間に連れていかれてしまった。
ぽつんと取り残されたミューズはハッとし、急いで茶会から逃げ出した
0
お気に入りに追加
551
あなたにおすすめの小説
二度目の結婚は、白いままでは
有沢真尋
恋愛
望まぬ結婚を強いられ、はるか年上の男性に嫁いだシルヴィアナ。
未亡人になってからは、これ幸いとばかりに隠遁生活を送っていたが、思いがけない縁談が舞い込む。
どうせ碌でもない相手に違いないと諦めて向かった先で待っていたのは、十歳も年下の青年で「ずっとあなたが好きだった」と熱烈に告白をしてきた。
「十年の結婚生活を送っていても、子どもができなかった私でも?」
それが実は白い結婚だったと告げられぬまま、シルヴィアナは青年を試すようなことを言ってしまう。
※妊娠・出産に関わる表現があります。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
【他サイトにも公開あり】
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
元平民の公爵令嬢が、幸せをつかむまで
田尾風香
恋愛
ベネット公爵家の令嬢リィカルナは、奴隷のようにこき使っていた婚約者に、婚約破棄を突きつけられた。
その翌日、父の犯した罪により、父と共に地下牢に入れられてしまう。
だが、リィカルナが父と兄に虐待されていた事実が発覚する。涙を流すリィカルナに、第二王子であるアレクシスが取った行動は……。
**第二王子×リィカルナです。婚約破棄からのざまぁを書きたくて、盛大に失敗した作品です。
**自作品『転生ヒロインと人魔大戦物語』の主人公、リィカがもし貴族だったら、という設定でのIFストーリーです。全く話は関係ありませんので、読まなくても問題ありません。
**全42話。最後まで書き終わっていますので、毎日更新していきます。
王太子様お願いです。今はただの毒草オタク、過去の私は忘れて下さい
シンさん
恋愛
ミリオン侯爵の娘エリザベスには秘密がある。それは本当の侯爵令嬢ではないという事。
お花や薬草を売って生活していた、貧困階級の私を子供のいない侯爵が養子に迎えてくれた。
ずっと毒草と共に目立たず生きていくはずが、王太子の婚約者候補に…。
雑草メンタルの毒草オタク侯爵令嬢と
王太子の恋愛ストーリー
☆ストーリーに必要な部分で、残酷に感じる方もいるかと思います。ご注意下さい。
☆毒草名は作者が勝手につけたものです。
表紙 Bee様に描いていただきました
悪役公爵令嬢のご事情
あいえい
恋愛
執事であるアヒムへの虐待を疑われ、平民出身の聖女ミアとヴォルフガング殿下、騎士のグレゴールに詰め寄られたヴァルトハウゼン公爵令嬢であるエレオノーラは、釈明の機会を得ようと、彼らを邸宅に呼び寄せる。そこで明された驚愕の事実に、令嬢の運命の歯車が回りだす。そして、明らかになる真実の愛とは。
他のサイトにも投稿しております。
名前の国籍が違う人物は、移民の家系だとお考え下さい。
本編4話+外伝数話の予定です。
【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい
tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。
本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。
人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆
本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編
第三章のイライアス編には、
『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』
のキャラクター、リュシアンも出てきます☆
悪女の騎士
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
孤児のギルバートは美しい令嬢レティシアに拾われて彼女の騎士になる。
誰もが振り返る美貌の令嬢に類を漏れず懸想したが、彼女は社交界では名高い悪女と名高い令嬢であった。
彼女を最も近くで見ているギルバートはその憂いを帯びた表情や時折みせる少女らしい顔を知っている。
だから地獄から救ってくれた彼女を女神だとは思っても悪女だなんて思えなかった。
だが知ってしまった。
レティシアが騎士を側において育てたのは、ギルバートに自分を殺させるためだった。
「苦しませずに殺してね」
最愛の人をこの手で殺さない未来のためにギルバートは奮闘する。
強制力に縛られたループ令嬢とその忠犬騎士の物語。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる