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第15話 これから
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あれから北杜さんと話し合いを沢山行なった。
ずっと一緒にいたのに本音を話す事をお互いしていなかったので、今までの分を埋めるようにと積極的に話す事が増えたのである。
入籍や挙式、そして今後の生活についてなど決めなければいけない事がいっぱいなのに何もしていなかったために急ピッチで進める事になったのだが、焦る気持ちは生まれるものの苦には感じられなかった。
恐らく自分達で決めるのだと明確に気持ちが定まったからだろう。今までよりも距離も近くなる。
(今までも信頼していなかったわけではないけれど)
大きな壁を破ったような新たな気持ちである。
「これからはもっと言葉で伝えていくから」
北杜さんは十分に気持ちを伝えてくれていた。受け止めきれなかった私のせいなのにそんな風に言ってくれるなんて。
「私も北杜さんにきちんと気持ちを言うようにします」
北杜さんの気持ちに応えたいので大きく頷いた。
(何だか北杜さんも少し変わった? 笑顔が増えた様な気がする)
これまでも優しかったけれど、緊張感がとれてリラックスしているような気がする。
(これからどんどんと良い方向に向かうといいな)
その為に支えられるばかりではなく、今度は私が北杜さんを支えられるように頑張らないと。
それが私に出来る数少ない事なのだから。
◇◇◇
関係性が変わってすぐの休日に、北杜さんの家にお邪魔させてもらう事となった。
(家まで来るのは久しぶりだわ)
自分に自信がなく、結婚に対して尻込みして避けてしまっていた。
緊張しながらインターフォンを押すと、北杜さんと北杜さんの母親である愛《めぐみ》さんが出迎えてくれる。
「久しぶりね、来てくれて嬉しいわ」
優しい笑顔を向けられ、ホッとするものの今までの失礼を思うと申し訳ない。
(ずっと政略結婚だと思っていたなんて、どう謝ったらいいかしら)
私一人が勘違いをして壁を作っていたような状況なので、どう話を切り出そうかと迷ってしまう。
「まずは中へ。ゆっくりと話をしよう」
北杜さんが緊張している私に気づいてか手を取って、家の中へと案内してくれる。
そのまま手を引かれるままに中に入ると懐かしさがこみあげて来る。やや内装は変わっているが昔の記憶のままだ。
(最後に来たのは、央さんと話をした時かしら。高校を卒業したら働きたいと相談したあの時……)
あの頃から、ずっと変わる事なく優しく接してくれていたのだと、今更ながら気づく。
そう考えつつリビングのソファに腰かけると、北杜さんも私と同じソファに座ってくる。
最近では寄り添うのが当たり前のようになってきたけれど、北杜さんのお母さんとはいえ他の人のいる前、緊張してしまうわ。
向かいに愛さんも座るが、私達を見てやや神妙な面持ちとなる。
「深春さん、今日は来てもらえて嬉しいわ。ずっと話をしたかったのだけど、もしかしたら重圧を感じているんじゃないかと思って、言い出せずにいたの。本当は私から声掛けをすれば良かったのに、ごめんなさい」
唐突な謝罪の言葉に驚いてしまう。
婚姻前なのに距離が近すぎる事を咎められるのかとばかり思ってしまったからだ。
「そんな事ないです。私も、何も相談をせずにいてすみません」
私がハッキリしない態度だったせいで、愛さんも言えなかったのだろう。余計な気を遣わせてしまって申し訳ないわ。
(もっと早くに相談していたらよかった)
あんなにも優しくしてくれていたのにと胸が痛む。
「今更だけど、本当は北杜が嫌いとかない?」
「それは、ないです」
隣に座っている北杜さんの体が一瞬強張るのを感じるが、私が即座に否定すると安堵のため息が聞こえてきた。心配そうだった愛さんも一転して笑顔になる。
「それなら良かったわ。北杜の片思いだったら取りやめも仕方ないと思っていたから」
「もういいだろう。そういう話は」
北杜さんが焦ったような声で私と愛さんの間に入ってくる。
「母さん、折角深春が俺との結婚に乗り気になってくれたんだから、余計な事は言わないでくれ」
私がやはり嫌だと撤回してしまうと考えてしまったのかしら。
「心配しなくて大丈夫です、凄く楽しみなので」
彼の手に触れてそう言うと何とか気持ちが伝わったようで、安心したように目を細めてくれる。
「深春にそう言ってもらえるととても嬉しい」
私達の様子を見てうんうんと愛さんが頷いていた。
「言葉にして伝えるのってとても大事よ。これからも迷ったり何かあったら話をしてみてね、もちろん私も力になるから何でも相談して頂戴」
「はい、ありがとうございます」
愛さんの優しい心遣いに、私もこういう言葉かけが出来る人になりたいと思う。
そこから式についての段取りという事で、日にちや場所の話をした。
入籍から半年後に式をするという事は親しい人には口頭で伝えられ、場所も既に確保しており招待客のリストアップも、ほぼほぼ済んでいるそうだ。
「あまりギリギリだと準備が間に合わないかもと思って。希望が合ったのならごめんなさい」
「いえ特に強く希望もありませんでしたので、助かります。ただちょっと気になるところが……」
そんなに式や衣装にお金を掛けないくて良いと思うのだけれど、予算の額が凄い。
「あら、これくらいはしてもらわないと。やはり五百雀に来てもらうのだからね」
そうだった。大きな家へと嫁ぐのだから私が考えているような式とは違うのだ。
「あの、こちらの値段って……」
「いいのいいの気にしないで。央さんからも気にしなくていいからって言われてるから」
「そうだよ深春。一生に一度の事だし、そんな事は気にしなくていい。絶対に最高の日にするから」
なるべく控えめなものにしたいのだが体裁もあるだろうし、何より二人の熱意に負けてしまう。私の希望したものに添おうとはしてくれるが、希望に近いながらもグレードの高いものに変えられていく。
(大事にしてはくれてるのよね?)
とは思うものの、気持ちがついていかない。
愛さんと北杜さんの押しはあるものの決められて良かったのだが、帰宅してから疲れが一気に出たようで、翌日の発熱し体調を崩してしまった。
ずっと一緒にいたのに本音を話す事をお互いしていなかったので、今までの分を埋めるようにと積極的に話す事が増えたのである。
入籍や挙式、そして今後の生活についてなど決めなければいけない事がいっぱいなのに何もしていなかったために急ピッチで進める事になったのだが、焦る気持ちは生まれるものの苦には感じられなかった。
恐らく自分達で決めるのだと明確に気持ちが定まったからだろう。今までよりも距離も近くなる。
(今までも信頼していなかったわけではないけれど)
大きな壁を破ったような新たな気持ちである。
「これからはもっと言葉で伝えていくから」
北杜さんは十分に気持ちを伝えてくれていた。受け止めきれなかった私のせいなのにそんな風に言ってくれるなんて。
「私も北杜さんにきちんと気持ちを言うようにします」
北杜さんの気持ちに応えたいので大きく頷いた。
(何だか北杜さんも少し変わった? 笑顔が増えた様な気がする)
これまでも優しかったけれど、緊張感がとれてリラックスしているような気がする。
(これからどんどんと良い方向に向かうといいな)
その為に支えられるばかりではなく、今度は私が北杜さんを支えられるように頑張らないと。
それが私に出来る数少ない事なのだから。
◇◇◇
関係性が変わってすぐの休日に、北杜さんの家にお邪魔させてもらう事となった。
(家まで来るのは久しぶりだわ)
自分に自信がなく、結婚に対して尻込みして避けてしまっていた。
緊張しながらインターフォンを押すと、北杜さんと北杜さんの母親である愛《めぐみ》さんが出迎えてくれる。
「久しぶりね、来てくれて嬉しいわ」
優しい笑顔を向けられ、ホッとするものの今までの失礼を思うと申し訳ない。
(ずっと政略結婚だと思っていたなんて、どう謝ったらいいかしら)
私一人が勘違いをして壁を作っていたような状況なので、どう話を切り出そうかと迷ってしまう。
「まずは中へ。ゆっくりと話をしよう」
北杜さんが緊張している私に気づいてか手を取って、家の中へと案内してくれる。
そのまま手を引かれるままに中に入ると懐かしさがこみあげて来る。やや内装は変わっているが昔の記憶のままだ。
(最後に来たのは、央さんと話をした時かしら。高校を卒業したら働きたいと相談したあの時……)
あの頃から、ずっと変わる事なく優しく接してくれていたのだと、今更ながら気づく。
そう考えつつリビングのソファに腰かけると、北杜さんも私と同じソファに座ってくる。
最近では寄り添うのが当たり前のようになってきたけれど、北杜さんのお母さんとはいえ他の人のいる前、緊張してしまうわ。
向かいに愛さんも座るが、私達を見てやや神妙な面持ちとなる。
「深春さん、今日は来てもらえて嬉しいわ。ずっと話をしたかったのだけど、もしかしたら重圧を感じているんじゃないかと思って、言い出せずにいたの。本当は私から声掛けをすれば良かったのに、ごめんなさい」
唐突な謝罪の言葉に驚いてしまう。
婚姻前なのに距離が近すぎる事を咎められるのかとばかり思ってしまったからだ。
「そんな事ないです。私も、何も相談をせずにいてすみません」
私がハッキリしない態度だったせいで、愛さんも言えなかったのだろう。余計な気を遣わせてしまって申し訳ないわ。
(もっと早くに相談していたらよかった)
あんなにも優しくしてくれていたのにと胸が痛む。
「今更だけど、本当は北杜が嫌いとかない?」
「それは、ないです」
隣に座っている北杜さんの体が一瞬強張るのを感じるが、私が即座に否定すると安堵のため息が聞こえてきた。心配そうだった愛さんも一転して笑顔になる。
「それなら良かったわ。北杜の片思いだったら取りやめも仕方ないと思っていたから」
「もういいだろう。そういう話は」
北杜さんが焦ったような声で私と愛さんの間に入ってくる。
「母さん、折角深春が俺との結婚に乗り気になってくれたんだから、余計な事は言わないでくれ」
私がやはり嫌だと撤回してしまうと考えてしまったのかしら。
「心配しなくて大丈夫です、凄く楽しみなので」
彼の手に触れてそう言うと何とか気持ちが伝わったようで、安心したように目を細めてくれる。
「深春にそう言ってもらえるととても嬉しい」
私達の様子を見てうんうんと愛さんが頷いていた。
「言葉にして伝えるのってとても大事よ。これからも迷ったり何かあったら話をしてみてね、もちろん私も力になるから何でも相談して頂戴」
「はい、ありがとうございます」
愛さんの優しい心遣いに、私もこういう言葉かけが出来る人になりたいと思う。
そこから式についての段取りという事で、日にちや場所の話をした。
入籍から半年後に式をするという事は親しい人には口頭で伝えられ、場所も既に確保しており招待客のリストアップも、ほぼほぼ済んでいるそうだ。
「あまりギリギリだと準備が間に合わないかもと思って。希望が合ったのならごめんなさい」
「いえ特に強く希望もありませんでしたので、助かります。ただちょっと気になるところが……」
そんなに式や衣装にお金を掛けないくて良いと思うのだけれど、予算の額が凄い。
「あら、これくらいはしてもらわないと。やはり五百雀に来てもらうのだからね」
そうだった。大きな家へと嫁ぐのだから私が考えているような式とは違うのだ。
「あの、こちらの値段って……」
「いいのいいの気にしないで。央さんからも気にしなくていいからって言われてるから」
「そうだよ深春。一生に一度の事だし、そんな事は気にしなくていい。絶対に最高の日にするから」
なるべく控えめなものにしたいのだが体裁もあるだろうし、何より二人の熱意に負けてしまう。私の希望したものに添おうとはしてくれるが、希望に近いながらもグレードの高いものに変えられていく。
(大事にしてはくれてるのよね?)
とは思うものの、気持ちがついていかない。
愛さんと北杜さんの押しはあるものの決められて良かったのだが、帰宅してから疲れが一気に出たようで、翌日の発熱し体調を崩してしまった。
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