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第13話 告白

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「北杜さん?」

「大好きだ、深春」

 耳もとで囁かれる言葉に体を強張らせながらも、なかなか返事が出来ない。

 それでも北杜さんは言葉を続けていく。

「長年はっきりと伝えられなくてすまなかった。俺はずっと深春と結婚出来ることが嬉しくて待ち遠しくて、ようやく一緒になれるのだと楽しみにしていた。それなのに深春にずっと本当の気持ちを伝えず、不安にさせていた事は、本当に申し訳なけなく思っている」

 急な告白に私はなかなか返す言葉が見つからない。

 そんな私の様子を見ながら、北杜さんはゆっくりとした口調で心の内を話してくれる。

「親に言われたからとか会社の為とかそういうのではなく、純粋に深春が好きなんだ。頑張り屋で家族思いで優しいと君と、ずっと一緒にいたい」

 いまだ体を強張らせている私は、その言葉を静かに受け入れていく。

「俺が何も言わないからずっと不安にさせてたって聞いて、このままではいけないと思って。……なぁ深春、返事を聞かせてもらえないか?」

 じわじわと顔と胸が熱くなっていく。

(私の、返事)

「北杜さん、私は……」

「他に好きな人がいるなら正直に言ってくれ。今ならまだ、引き返せるから」

 そう口にした北杜さんの体が震えている。

(北杜さんもずっと不安だったんだ)

 私と同じで、彼も心配していたのだと気づく。

(自分の事ばかりで、北杜さんの本当の気持ちを見ようとしていなかった……)

 断られるのが怖くて、踏み込まないようにしていたのもあるが、はっきりと自分の本心を告げていなかったのは私も同じだ。

 彼だけを責める事は出来ない。

「私、北杜さんが好きです」

 その言葉と共におずおずと彼の体に手を回す。

 自分からこういった事をしたのは初めてだ。

「ずっと、義務だから側にいてくれているのだと思ってました。でもそうではないと聞いて、とても嬉しいです」

 恥ずかしさで顔が熱くなるけれど、今伝えなくてはと勇気を出す。

「本当は他に好きな人がいて、いつか捨てられてしまうと不安だったのですけど、北杜さんの言葉で安心しました。これからも側にいさせて……」

「捨てないし、ずっと深春だけだ」

 体に回された手に力が込められた。

「そう思わせていたなんて、本当にすまない。他の女性は遠ざけていたはずなんだが、深春からそう見えていたって事は、完璧ではなかったって事だよな」

 落ち込む北杜さんを宥めるように背に回した手で体を擦る。

「いえ、私がそうではないかと思っただけです。だって北杜さんはいつでもどこでもモテるから」

「そんな事はない。仮にそうだとしても、一番好きな人に見てもらわなければ意味がない」

 腕の力を抜いた北杜さんが体を離そうとする。

 私もそれに従い腕の力を抜くと、じっと見つめ合う形となってしまった。

 真っ向から見つめられるのが少し恥ずかしいが、それでもこんなにも真剣な眼差しで見つめられては逸らせるわけもない。

「俺が好きなのは深春だけだ。後にも先にも君しかいない」

 真っすぐから言われて、じわりと涙が浮かんでしまう。

 ずっと欲しかった言葉をこんなにも沢山言われて嬉しくない訳はない。

「私もあなただけです。大好き」

 そう伝えた瞬間に北杜さんの顔が赤くなる。

「こんなに嬉しくなるならば、早くに伝えておけば良かった……」

 照れた顔を隠す為か、北杜さんは手で顔を覆ってしまう。

 私もきっと北杜さんと同じく真っ赤になっているだろうな、だってさっきから顔の火照りがひかないもの。

 頬に置いた手もとても熱く感じる。

「これからはお互いもっと素直に気持ちや考えを伝えて行かないか? その、夫婦になるわけだし」

「は、はい」

 その言葉に恥ずかしくなりながらも頷いた。

 すると北杜さんはすっと表情を変え、顔を上げる。

「では先程の件から聞こうかな。休憩室であの女と何を話していたんだい?」

 優しい声と表情なのに目は笑っていない。

「それと今まで誰に何を言われてきたのか教えて欲しいな。深春を傷つける者を許すわけにはいかないからさ」

 優しくも強く抱きしめられるが、それはまるで逃がさないという意味表示のようで、さっきまでとは雰囲気が違う気がしたが、これでは離してはくれないだろう。

(どうしよう……央さん、来るかしら)

 いや、来たとしてもきっと彼も北杜さんと同じ根掘り葉掘り聞こうとするだろう。

「深春が教えてくれないなら周囲に聞き込みに行くけど、それでもいい?」

 さすがにそれは嫌。

 私は渋々ながら全てを北杜さんに伝え始めた。






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