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第66話 新しい日々
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ローシュの最期を見届け、暫し私は放心状態であった。
勿論彼を好きだったからではない。
ただ、彼が隣にいる状態で半生を過ごしてきたわけだから、いなくなって若干気が抜けたというか憑き物が落ちたというのか。
少々力が抜け過ぎたのかもと思うくらいふわふわとしてしまった。
その様な状態の私を心配するように、リヴィオが一つの提案をしてくれる。
「エカテリーナ様。俺と共にブルックリン侯爵家を出ませんか?」
「えっ?」
「カルロス様が勧めてくれたのです。王都や侯爵家にいては色々なことが思い出されて辛いのではないかと」
ここから離れる事は寂しくもあるが、このような状態でいるよりはいいのかもしれない。
「モルジフトとは反対側にある辺境伯領ならどうかという話です。それほど外敵も来ずのどかな場所だそうで、昔カラムも少しだけそこに従事していたそうです。騎士の募集もあるので、無職になる事はありません」
こことはまた違った意味で忙しい場所でしょうけれど、王都にいるよりも気は紛れそうね。
処刑された第二王子の元婚約者としてここでは好奇の目しか寄せられないし、辺境伯領にいるのならば社交界への出入りも少ない。
そう言う点ではここより多少静かに過ごせそうだ。
「そうね。ここよりは雑音も少なそうだし、気分転換にもなりそうね」
ほとぼりが冷めるまで、若しくは環境が良ければ居着いても良いかもしれない。
折角リヴィオが私の為にと考えてくれたのもある。でも一番の決め手はそこではない。
「あなたとならば、どこへでも行くわ」
リヴィオの隣であれば、私はどこにだって行くつもりだ。
一人の女性として見てくれるあなたの為に、これからは生きていきたい。
せめてもの区切りとして学園を卒業してから移住しようという話になった。
といっても実際には登園する事はなく、形ばかりのもの。でも期限があるという事は気が引き締まっていい。
(登園してもいいけれど、色々言われるのも嫌だものね)
しばし喧騒から離れのんびりと過ごしていたらミリティア様から会いたいという手紙が届いた。
断る理由もないし、お礼も言いたかったので、予定を合わせ、久々に顔合わせをする。
「ミリティア様、ようこそおいでくださいました」
本日ミリティア様は一人でのお越しだ。婚約者で部下のブライトン様は一緒じゃない。
「急に押しかけてごめんなさいね」
久しぶりに会うミリティア様は少し悲しい顔をしている。
「その、何と言っていいかわからないけれど、もうあなたはローシュとは関係ないからね。元婚約者といっても今はリヴィオ様がいるのだし、あまり気落ちしないでね」
私の気持ちが沈んでないか、心配してくれていたようだ。
「お気遣いありがとうございます。ですが私にとってローシュ様はとうの昔に縁が切れた方、ミリティア様が思う程落ち込んではいませんよ」
今はもうリヴィオとの新しい生活に胸が躍っているので、いつまでもローシュにとらわれてはいない。
辺境伯領に行くのを反対するかと思ったお父様も渋々ながらも賛成してくれた。後は卒なく学園生活を終わらせるのみとなっている。
「そう、ならば良かったわ。本当ならもう少し早くあなたに会いに来たかったのだけれど」
ミリティア様は表情を曇らせたままだ。
「あなたが幸せそうで良かった。そうでなかったら私、あなたに合わせる顔がないくらいに後悔することになっていたわ」
「何の事です?」
ミリティア様が後悔した事って何かしら?
「ローシュは最後あなたに会いに行こうとしていたの」
会いに来るどころか最悪な場での再会をしてしまいましたわ。
まぁ誘拐の件は世間には伏せたので、その辺りの事はミリティア様も知らないのよね。
「あなたへの償いをしたいからと言ってローシュが市井に行くことを許可してしまい、その後彼の処刑が決まったの。ローシュはあなたを殺そうとしたのだから、当然の事だと思いはしたのだけれど」
「えぇ。ですからミリティア様が後悔することはないと思うのですけれど」
「いいえ。私はあの日ローシュを生徒会の仕事から解放し、自由にしてしまった。あなたに殺意を持っていたなんて知らなかったけれど、それでも危害を加えていたかもしれないと思うと……考えるだけであなたに対する罪悪感と後悔で潰されそうだったわ」
もしかしたらという不安に襲われていたのね。
そんな事にはならなかったし、ローシュ程度では私に触れることは出来なかったから大丈夫ですよ。
「リヴィオがいるからいざという時でも大丈夫ですよ」
「それでも、彼をあなたに近づけてはいけないというのに、謝罪したいという言葉に騙され監視の目を緩めたのは私の責任だわ」
仮にミリティア様がその時に解放しなくても、ローシュならば何やら屁理屈をこねて市井に行っていた気がする。
抑えつけているのも限界があっただろうから。
「私としてはミリティア様に感謝しております。生徒会の仕事も私がいない間頑張って頂き、そして記憶喪失を知って、私に負担をかけないようにローシュ様にお仕事を割り振っていたのですよね。ミリティア様の負担は重かったとは思うのですが、おかげ様で穏やかな学園生活を送れました。感謝しております」
私は深々と頭を下げる。
「そんな、良いのよ。あなたはとても大切な友人だから」
ペイルもそうだけれど、ミリティア様もとてもお優しい。
こんな私の友人として、今も変わらず思ってくれているなんて。
この人が王位を継いでくれないかしら、と思ったけれどそれはなかなか難しそうだ。
ミリティア様とカルロス様の関係は悪くない。
それにミリティア様は表に出ることはしたくないと言っていた。生徒会長を今はしているけれど、本当は裏方の仕事をしたいとの事。
(世の中ままならないものね)
その後は今までの空白を埋めるように楽しく歓談をさせて貰ったわ。
ミリティア様は負い目を感じていたのもあり、距離を置いていたそう。
だがこうして胸のつかえがとれたので、以前のように話をすることが出来た。
楽し過ぎて時間を忘れ、ミリティア様の帰りが遅いのを心配したブライトン様が迎えに来るくらい。
ミリティア様達もかなり仲良しよね。
見ていてとても微笑ましいわ。
勿論彼を好きだったからではない。
ただ、彼が隣にいる状態で半生を過ごしてきたわけだから、いなくなって若干気が抜けたというか憑き物が落ちたというのか。
少々力が抜け過ぎたのかもと思うくらいふわふわとしてしまった。
その様な状態の私を心配するように、リヴィオが一つの提案をしてくれる。
「エカテリーナ様。俺と共にブルックリン侯爵家を出ませんか?」
「えっ?」
「カルロス様が勧めてくれたのです。王都や侯爵家にいては色々なことが思い出されて辛いのではないかと」
ここから離れる事は寂しくもあるが、このような状態でいるよりはいいのかもしれない。
「モルジフトとは反対側にある辺境伯領ならどうかという話です。それほど外敵も来ずのどかな場所だそうで、昔カラムも少しだけそこに従事していたそうです。騎士の募集もあるので、無職になる事はありません」
こことはまた違った意味で忙しい場所でしょうけれど、王都にいるよりも気は紛れそうね。
処刑された第二王子の元婚約者としてここでは好奇の目しか寄せられないし、辺境伯領にいるのならば社交界への出入りも少ない。
そう言う点ではここより多少静かに過ごせそうだ。
「そうね。ここよりは雑音も少なそうだし、気分転換にもなりそうね」
ほとぼりが冷めるまで、若しくは環境が良ければ居着いても良いかもしれない。
折角リヴィオが私の為にと考えてくれたのもある。でも一番の決め手はそこではない。
「あなたとならば、どこへでも行くわ」
リヴィオの隣であれば、私はどこにだって行くつもりだ。
一人の女性として見てくれるあなたの為に、これからは生きていきたい。
せめてもの区切りとして学園を卒業してから移住しようという話になった。
といっても実際には登園する事はなく、形ばかりのもの。でも期限があるという事は気が引き締まっていい。
(登園してもいいけれど、色々言われるのも嫌だものね)
しばし喧騒から離れのんびりと過ごしていたらミリティア様から会いたいという手紙が届いた。
断る理由もないし、お礼も言いたかったので、予定を合わせ、久々に顔合わせをする。
「ミリティア様、ようこそおいでくださいました」
本日ミリティア様は一人でのお越しだ。婚約者で部下のブライトン様は一緒じゃない。
「急に押しかけてごめんなさいね」
久しぶりに会うミリティア様は少し悲しい顔をしている。
「その、何と言っていいかわからないけれど、もうあなたはローシュとは関係ないからね。元婚約者といっても今はリヴィオ様がいるのだし、あまり気落ちしないでね」
私の気持ちが沈んでないか、心配してくれていたようだ。
「お気遣いありがとうございます。ですが私にとってローシュ様はとうの昔に縁が切れた方、ミリティア様が思う程落ち込んではいませんよ」
今はもうリヴィオとの新しい生活に胸が躍っているので、いつまでもローシュにとらわれてはいない。
辺境伯領に行くのを反対するかと思ったお父様も渋々ながらも賛成してくれた。後は卒なく学園生活を終わらせるのみとなっている。
「そう、ならば良かったわ。本当ならもう少し早くあなたに会いに来たかったのだけれど」
ミリティア様は表情を曇らせたままだ。
「あなたが幸せそうで良かった。そうでなかったら私、あなたに合わせる顔がないくらいに後悔することになっていたわ」
「何の事です?」
ミリティア様が後悔した事って何かしら?
「ローシュは最後あなたに会いに行こうとしていたの」
会いに来るどころか最悪な場での再会をしてしまいましたわ。
まぁ誘拐の件は世間には伏せたので、その辺りの事はミリティア様も知らないのよね。
「あなたへの償いをしたいからと言ってローシュが市井に行くことを許可してしまい、その後彼の処刑が決まったの。ローシュはあなたを殺そうとしたのだから、当然の事だと思いはしたのだけれど」
「えぇ。ですからミリティア様が後悔することはないと思うのですけれど」
「いいえ。私はあの日ローシュを生徒会の仕事から解放し、自由にしてしまった。あなたに殺意を持っていたなんて知らなかったけれど、それでも危害を加えていたかもしれないと思うと……考えるだけであなたに対する罪悪感と後悔で潰されそうだったわ」
もしかしたらという不安に襲われていたのね。
そんな事にはならなかったし、ローシュ程度では私に触れることは出来なかったから大丈夫ですよ。
「リヴィオがいるからいざという時でも大丈夫ですよ」
「それでも、彼をあなたに近づけてはいけないというのに、謝罪したいという言葉に騙され監視の目を緩めたのは私の責任だわ」
仮にミリティア様がその時に解放しなくても、ローシュならば何やら屁理屈をこねて市井に行っていた気がする。
抑えつけているのも限界があっただろうから。
「私としてはミリティア様に感謝しております。生徒会の仕事も私がいない間頑張って頂き、そして記憶喪失を知って、私に負担をかけないようにローシュ様にお仕事を割り振っていたのですよね。ミリティア様の負担は重かったとは思うのですが、おかげ様で穏やかな学園生活を送れました。感謝しております」
私は深々と頭を下げる。
「そんな、良いのよ。あなたはとても大切な友人だから」
ペイルもそうだけれど、ミリティア様もとてもお優しい。
こんな私の友人として、今も変わらず思ってくれているなんて。
この人が王位を継いでくれないかしら、と思ったけれどそれはなかなか難しそうだ。
ミリティア様とカルロス様の関係は悪くない。
それにミリティア様は表に出ることはしたくないと言っていた。生徒会長を今はしているけれど、本当は裏方の仕事をしたいとの事。
(世の中ままならないものね)
その後は今までの空白を埋めるように楽しく歓談をさせて貰ったわ。
ミリティア様は負い目を感じていたのもあり、距離を置いていたそう。
だがこうして胸のつかえがとれたので、以前のように話をすることが出来た。
楽し過ぎて時間を忘れ、ミリティア様の帰りが遅いのを心配したブライトン様が迎えに来るくらい。
ミリティア様達もかなり仲良しよね。
見ていてとても微笑ましいわ。
応援ありがとうございます!
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