57 / 70
第57話 人質と交渉
しおりを挟む
少し時が経過し、再び来たゲルド達はある人物を連れて来た。
その人物は、本当に変装なのかと思うくらいにリヴィオに似ている。
(カラムに聞いていなかったら動揺していたわね)
事前に聞いていたから取り乱すことなく見ることが出来た。まぁ私が間違えるなんてことはないけれど。
背丈も顔のつくりも、表情すらもそっくりだ。
だが、違和感がある。上手く言えないが、全体的に見れば何かが違うという雰囲気が感じられた。
「エカテリーナ様、申し訳ありません……不覚を取りました」
悔しそうな顔をし、深々と頭を下げる仕草は、実物と見紛うものだ。
「いえ、いいのよ。それよりも怪我をしたり、酷い事をされていない?」
リヴィオだろうと別人だろうとそこは関係ないわ。
平気でローシュを短剣で刺す者達だから、心配になる。
「はい、ございません、エカテリーナ様もご無事でしょうか?」
気遣いの言葉に少し頬が緩む。
(そう言えばここに連れられてきた時に、そのような言葉もかけられなかったわね)
「えぇ、ないわ。大丈夫。心配をしてくれて、ありがとう」
「当然です。あなたは俺の大事な人なのだから」
真摯な言葉と目は本物のリヴィオのようで驚いてしまう。
そんな彼の首についに短剣があてられた。
「先程した話を覚えていますか、エカテリーナ様。私達の味方をしてくれるかという話だったのですが」
まだそのような戯言を言うのね。ならないと言ったらならないわよ。
(人を脅して従わせて、それで良いと思ってるのかしら)
そんな事してもずっとその関係が続くわけがないじゃないの。そのまま押さえつけていたのでは、いずれ不満が溜まって爆発してしまうわ。
しかしどう動こうかと悩んでしまう。
カラムの同僚ならば騎士よね。そう簡単に殺されたりしないだろうけど、彼もまた武器を持っているようには見えない。
きっと体術に優れているとか、カラム同様何らかの魔法が使えるのでしょう。
それに知りたい事はまだまだある。
「例え魔法を使えるようになっても、私一人では大した力にならないわ。このバークレイには他にも魔女がいる、反逆を行なっても、その方達が止めに来るはずよ。彼女達にかかれば、私なんてすぐに倒されてしまうわ。それでいいの?」
これは本当にそう思っている事だ。
実際に戦った事はないが、実戦経験のない私よりも彼女達は遥かに強いだろう。
「良いのですよ。戦えなくてもあなたは貴重な人ですから。ねぇブルックリン侯爵令嬢様」
そっちも欲しがるのね。何と欲張りな人たちでしょう。
ブルックリン侯爵家の後ろ盾やら財産やらも欲しいという宣言ね、私を人質に侯爵家も脅すつもりなのよ。
お生憎様。タリフィル子爵のように乗っ取られたりはしないわ。私がそうはさせない。
「エカテリーナ様。俺の事は見捨ててください。あなたにそのような事はさせません」
きっぱりとリヴィオ? がそんな頼もしい事を言ってくれる。
しかし後ろ手に縛られているその状態で、挑発なんてして大丈夫かしら?
「ブルックリン侯爵家やあなたに迷惑をかけるのならば、俺はここで果てた方がましです。どうかお許しください」
本当に変装なの? と思うくらいだわ。この生真面目さも、自分で何もかも背負おうという彼の性格がよく出ている。
「そんなことは出来ないわ」
演技とはいえ、このような真摯な態度の彼をこのまま見捨てる気はない。
「エカテリーナ様はこの男を見捨てることは出来ない。とはいえ勝手に話をされては困りますね。エカテリーナ様の気が変わったらどうするんですか」
ぐっと頭を抑えられ、反り返った喉に短剣が近づく。
「待ちなさい!」
「少し見せしめしようというだけです。あまりにもうるさいのでね」
短剣が更に喉元に近づいた。
「彼に手を出さないで。もしそんな事をしたら、許さないわ」
「許さない、ね。記憶を失い、何も出来ないあなたが何を出来るというのですか?」
カチンとくる物言いに、こめかみに青筋が立つ。
「ごちゃごちゃとうるさい男は嫌われるわよ。いいから彼を放しなさい」
もういい、ゲルドを生け捕りにして終わらせましょう。
きっと近くには王家の兵が居るだろうし、これ以上減らず口を聞きたくない。
(記憶が戻ったと言えばいいでしょう)
後でリヴィオには本当の事を話すつもりだが、嘘をずっとついていた事で嫌われないかが心配だが、きっとわかってくれる。
「優しい人ですね、エカテリーナ様は。ありがとうございます」
ニコリと彼は微笑むと、自ら体を動かした。
彼の体に短剣が刺さるのが見えたのは、意を決してゲルドに魔法を放とうとした時だ。
その時、突然の天井が吹き飛び、轟音と荒れ狂う風と砂塵が狭い室内をのみ込んだ。
その人物は、本当に変装なのかと思うくらいにリヴィオに似ている。
(カラムに聞いていなかったら動揺していたわね)
事前に聞いていたから取り乱すことなく見ることが出来た。まぁ私が間違えるなんてことはないけれど。
背丈も顔のつくりも、表情すらもそっくりだ。
だが、違和感がある。上手く言えないが、全体的に見れば何かが違うという雰囲気が感じられた。
「エカテリーナ様、申し訳ありません……不覚を取りました」
悔しそうな顔をし、深々と頭を下げる仕草は、実物と見紛うものだ。
「いえ、いいのよ。それよりも怪我をしたり、酷い事をされていない?」
リヴィオだろうと別人だろうとそこは関係ないわ。
平気でローシュを短剣で刺す者達だから、心配になる。
「はい、ございません、エカテリーナ様もご無事でしょうか?」
気遣いの言葉に少し頬が緩む。
(そう言えばここに連れられてきた時に、そのような言葉もかけられなかったわね)
「えぇ、ないわ。大丈夫。心配をしてくれて、ありがとう」
「当然です。あなたは俺の大事な人なのだから」
真摯な言葉と目は本物のリヴィオのようで驚いてしまう。
そんな彼の首についに短剣があてられた。
「先程した話を覚えていますか、エカテリーナ様。私達の味方をしてくれるかという話だったのですが」
まだそのような戯言を言うのね。ならないと言ったらならないわよ。
(人を脅して従わせて、それで良いと思ってるのかしら)
そんな事してもずっとその関係が続くわけがないじゃないの。そのまま押さえつけていたのでは、いずれ不満が溜まって爆発してしまうわ。
しかしどう動こうかと悩んでしまう。
カラムの同僚ならば騎士よね。そう簡単に殺されたりしないだろうけど、彼もまた武器を持っているようには見えない。
きっと体術に優れているとか、カラム同様何らかの魔法が使えるのでしょう。
それに知りたい事はまだまだある。
「例え魔法を使えるようになっても、私一人では大した力にならないわ。このバークレイには他にも魔女がいる、反逆を行なっても、その方達が止めに来るはずよ。彼女達にかかれば、私なんてすぐに倒されてしまうわ。それでいいの?」
これは本当にそう思っている事だ。
実際に戦った事はないが、実戦経験のない私よりも彼女達は遥かに強いだろう。
「良いのですよ。戦えなくてもあなたは貴重な人ですから。ねぇブルックリン侯爵令嬢様」
そっちも欲しがるのね。何と欲張りな人たちでしょう。
ブルックリン侯爵家の後ろ盾やら財産やらも欲しいという宣言ね、私を人質に侯爵家も脅すつもりなのよ。
お生憎様。タリフィル子爵のように乗っ取られたりはしないわ。私がそうはさせない。
「エカテリーナ様。俺の事は見捨ててください。あなたにそのような事はさせません」
きっぱりとリヴィオ? がそんな頼もしい事を言ってくれる。
しかし後ろ手に縛られているその状態で、挑発なんてして大丈夫かしら?
「ブルックリン侯爵家やあなたに迷惑をかけるのならば、俺はここで果てた方がましです。どうかお許しください」
本当に変装なの? と思うくらいだわ。この生真面目さも、自分で何もかも背負おうという彼の性格がよく出ている。
「そんなことは出来ないわ」
演技とはいえ、このような真摯な態度の彼をこのまま見捨てる気はない。
「エカテリーナ様はこの男を見捨てることは出来ない。とはいえ勝手に話をされては困りますね。エカテリーナ様の気が変わったらどうするんですか」
ぐっと頭を抑えられ、反り返った喉に短剣が近づく。
「待ちなさい!」
「少し見せしめしようというだけです。あまりにもうるさいのでね」
短剣が更に喉元に近づいた。
「彼に手を出さないで。もしそんな事をしたら、許さないわ」
「許さない、ね。記憶を失い、何も出来ないあなたが何を出来るというのですか?」
カチンとくる物言いに、こめかみに青筋が立つ。
「ごちゃごちゃとうるさい男は嫌われるわよ。いいから彼を放しなさい」
もういい、ゲルドを生け捕りにして終わらせましょう。
きっと近くには王家の兵が居るだろうし、これ以上減らず口を聞きたくない。
(記憶が戻ったと言えばいいでしょう)
後でリヴィオには本当の事を話すつもりだが、嘘をずっとついていた事で嫌われないかが心配だが、きっとわかってくれる。
「優しい人ですね、エカテリーナ様は。ありがとうございます」
ニコリと彼は微笑むと、自ら体を動かした。
彼の体に短剣が刺さるのが見えたのは、意を決してゲルドに魔法を放とうとした時だ。
その時、突然の天井が吹き飛び、轟音と荒れ狂う風と砂塵が狭い室内をのみ込んだ。
12
お気に入りに追加
756
あなたにおすすめの小説
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる