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第56話 計画と実行
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「お前、何て不敬を……」
ラウドの言葉に、カラムは露骨に口元を歪めている。
「黙れ屑共、お前らは犯罪者だ。ブルックリン侯爵令嬢を陥れて怪我をさせたのだからな。実行したのはあいつらだとしても、計画したのはお前らだ。あんなことを思いつかなければ、こんな事にはならなかった」
計画はローシュ達、実行はゲルド。でも……変だわ。
「待って。共犯なのに、何故ローシュ様達はゲルドに拘束されているの?」
矢が降り注いで来た時も、伏兵に狙われた時も、ローシュだけを避けるなんてされていなかった。ローシュ様を傷つけないようになんては考えていない攻撃だったわよ。
「こいつらと、あのゲルドは共犯ではなかったのです。だから捜査が遅れてしまったのもありますね」
不甲斐なさそうにするカラムの言葉に、私は目が点になってしまった。
「こいつらの計画は、直前で実行を乗っ取られたのですよ。だから実行者がどうやって侯爵令嬢達があのようなひと気のないところにいたのかを知れたのか、わからなかった。そもそも市井の買い物に行くという話はその日の昼に決められたはずで、こんなにも早く情報が漏洩するなんておかしいとは思われていたんです。疑われたのはローシュ様の友人とされる下位貴族達ですが、あんなにも手慣れた殺し屋を雇うなんて、こんな坊ちゃん方に出来るわけがないと考えられていました。そんな大それたことが出来る予算も人脈もない。だから、あんな事件は起こせないと可能性から除外されていたんです。だが後日、様子のおかしいラウドを見て調査をしたところ、タリフィル子爵家の子飼いが姿を消した事や、事業の規模を縮小し始めた事で辿り着きました」
探った結果、同じ組織仲間が起こした事ではなく、別な組織が絡んでいた。というわけね。
だから矛盾が生まれ、上手く遡れなかったのかしら。
「そうして見張っているとあのゲルドという男が新しい従者として入り込み、そこを皮切りに子爵家に出入りする人の層が変わった。こっそりと王家の者を忍ばせ内情を探ると、どうやらタリフィル子爵家は乗っ取られた、というのが分かりました」
今タリフィル子爵邸に居るのは全てゲルドの所属する組織の者らしい。
「侯爵令嬢を襲う計画を立てた事をゲルド達に知られ脅されたようです。最初は単なるいたずらに過ぎなかったものが、まさか愚息のちゃちな考えのせいで王族の命を失いかけない大事件になるなんて、恐らく夢にも思わなかったでしょう。侯爵令嬢、あなたを襲った犯人やゲルドはそうしてタリフィル子爵家を乗っ取り、意のままに操っているわけです」
王族を暗殺しようとしたとなれば一族郎党皆処刑だ。ラウドを切り離せば終わり、というわけには行かない。
何としても隠し通さなければいけない事柄だ。
「タリフィル子爵はそこをつけこまれ、子爵家を守るためにいう事を聞いている。対してゲルド達の守りたいものは違う、彼らは死ぬのが怖くない」
「そのような事も掴んでいるの?」
カラムは頷いた。
「あんな酷い拷問、もとい尋問に耐えた者達が、一斉にモルジフト国の名を出して自死するなんておかしい。恐らく時間を稼ぎの為と捜査の間を撹乱するためだろうなと思いました。死んだ者達の狂信的な様子やバークレイ国とモルジフト国両方に恨みがあり、そしてこのように統率がある程度取れる組織という事で、とある宗教が該当するのではないかとカルロス様はお考えです」
「ふぅん……」
名までは言ってくれないのね。
あの日あの時侯爵家で話をしてくれなかったのは何故かしら。ブルックリン侯爵家を信用していない? それとも裏が取れたのは最近だから?
寧ろあの夜に話を聞いていたら……ローシュの稚拙な企みでお父様とお兄様が王家から離脱するという話に発展したかもしれないわね。
「色々と教えてくれてありがとう」
その危険はまだ払えたわけではないが、今は後だ。
そろそろリヴィオを助けに行かなくては。
「カラム様。私はここを出てリヴィオを助けに行きます。あなたはこの二人をお願いします。無事に帰り、裁判を受けさせましょう」
「裁判は御尤もですが、わざわざ行かなくても彼はここまで来てくれます。寧ろ待っていた方がいい」
「いいえ。万が一本当に捕らえられていたらと思うと手をこまねいて待ってるなんて出来ませんわ」
先程ゲルドは捕らえたと言っていた。嘘であればいいが、もしも本当なら。
「大丈夫です。その捕らえられたリヴィオというのは変装した俺の同僚ですから」
「またしてもカルロス様の策略なの?」
「はい。本当のリヴィオはカルロス様と共にこちらに向かわれているはずですよ」
一体いつから、そしてどこまで手を伸ばしていたのかしら。
私は拍子抜けしてその場に座り込む。
「何のためにここまで来たのかしらね……」
ポエットを見てため息を吐いた。
意を決してここまで入り込んだのに、既に全てを把握されていて、自分では新たな情報を得られなかった。
いや、ローシュの口から直接あの襲撃を計画したという話を聞けたことだけは、カルロス様も知らない新たな情報だろう。
「囚われの姫として騎士を待つ、それでよろしいのではないでしょうか」
そうなのだろうか。
なんだか真面目に考えるのが馬鹿らしくなってきたと同時に怒りがこみあげてくる。
対するはローシュと、そしてカルロス様へと。
ラウドの言葉に、カラムは露骨に口元を歪めている。
「黙れ屑共、お前らは犯罪者だ。ブルックリン侯爵令嬢を陥れて怪我をさせたのだからな。実行したのはあいつらだとしても、計画したのはお前らだ。あんなことを思いつかなければ、こんな事にはならなかった」
計画はローシュ達、実行はゲルド。でも……変だわ。
「待って。共犯なのに、何故ローシュ様達はゲルドに拘束されているの?」
矢が降り注いで来た時も、伏兵に狙われた時も、ローシュだけを避けるなんてされていなかった。ローシュ様を傷つけないようになんては考えていない攻撃だったわよ。
「こいつらと、あのゲルドは共犯ではなかったのです。だから捜査が遅れてしまったのもありますね」
不甲斐なさそうにするカラムの言葉に、私は目が点になってしまった。
「こいつらの計画は、直前で実行を乗っ取られたのですよ。だから実行者がどうやって侯爵令嬢達があのようなひと気のないところにいたのかを知れたのか、わからなかった。そもそも市井の買い物に行くという話はその日の昼に決められたはずで、こんなにも早く情報が漏洩するなんておかしいとは思われていたんです。疑われたのはローシュ様の友人とされる下位貴族達ですが、あんなにも手慣れた殺し屋を雇うなんて、こんな坊ちゃん方に出来るわけがないと考えられていました。そんな大それたことが出来る予算も人脈もない。だから、あんな事件は起こせないと可能性から除外されていたんです。だが後日、様子のおかしいラウドを見て調査をしたところ、タリフィル子爵家の子飼いが姿を消した事や、事業の規模を縮小し始めた事で辿り着きました」
探った結果、同じ組織仲間が起こした事ではなく、別な組織が絡んでいた。というわけね。
だから矛盾が生まれ、上手く遡れなかったのかしら。
「そうして見張っているとあのゲルドという男が新しい従者として入り込み、そこを皮切りに子爵家に出入りする人の層が変わった。こっそりと王家の者を忍ばせ内情を探ると、どうやらタリフィル子爵家は乗っ取られた、というのが分かりました」
今タリフィル子爵邸に居るのは全てゲルドの所属する組織の者らしい。
「侯爵令嬢を襲う計画を立てた事をゲルド達に知られ脅されたようです。最初は単なるいたずらに過ぎなかったものが、まさか愚息のちゃちな考えのせいで王族の命を失いかけない大事件になるなんて、恐らく夢にも思わなかったでしょう。侯爵令嬢、あなたを襲った犯人やゲルドはそうしてタリフィル子爵家を乗っ取り、意のままに操っているわけです」
王族を暗殺しようとしたとなれば一族郎党皆処刑だ。ラウドを切り離せば終わり、というわけには行かない。
何としても隠し通さなければいけない事柄だ。
「タリフィル子爵はそこをつけこまれ、子爵家を守るためにいう事を聞いている。対してゲルド達の守りたいものは違う、彼らは死ぬのが怖くない」
「そのような事も掴んでいるの?」
カラムは頷いた。
「あんな酷い拷問、もとい尋問に耐えた者達が、一斉にモルジフト国の名を出して自死するなんておかしい。恐らく時間を稼ぎの為と捜査の間を撹乱するためだろうなと思いました。死んだ者達の狂信的な様子やバークレイ国とモルジフト国両方に恨みがあり、そしてこのように統率がある程度取れる組織という事で、とある宗教が該当するのではないかとカルロス様はお考えです」
「ふぅん……」
名までは言ってくれないのね。
あの日あの時侯爵家で話をしてくれなかったのは何故かしら。ブルックリン侯爵家を信用していない? それとも裏が取れたのは最近だから?
寧ろあの夜に話を聞いていたら……ローシュの稚拙な企みでお父様とお兄様が王家から離脱するという話に発展したかもしれないわね。
「色々と教えてくれてありがとう」
その危険はまだ払えたわけではないが、今は後だ。
そろそろリヴィオを助けに行かなくては。
「カラム様。私はここを出てリヴィオを助けに行きます。あなたはこの二人をお願いします。無事に帰り、裁判を受けさせましょう」
「裁判は御尤もですが、わざわざ行かなくても彼はここまで来てくれます。寧ろ待っていた方がいい」
「いいえ。万が一本当に捕らえられていたらと思うと手をこまねいて待ってるなんて出来ませんわ」
先程ゲルドは捕らえたと言っていた。嘘であればいいが、もしも本当なら。
「大丈夫です。その捕らえられたリヴィオというのは変装した俺の同僚ですから」
「またしてもカルロス様の策略なの?」
「はい。本当のリヴィオはカルロス様と共にこちらに向かわれているはずですよ」
一体いつから、そしてどこまで手を伸ばしていたのかしら。
私は拍子抜けしてその場に座り込む。
「何のためにここまで来たのかしらね……」
ポエットを見てため息を吐いた。
意を決してここまで入り込んだのに、既に全てを把握されていて、自分では新たな情報を得られなかった。
いや、ローシュの口から直接あの襲撃を計画したという話を聞けたことだけは、カルロス様も知らない新たな情報だろう。
「囚われの姫として騎士を待つ、それでよろしいのではないでしょうか」
そうなのだろうか。
なんだか真面目に考えるのが馬鹿らしくなってきたと同時に怒りがこみあげてくる。
対するはローシュと、そしてカルロス様へと。
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