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第55話 ローシュの護衛兼?

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「エカテリーナ様、落ち着いてください。私に何かあればリヴィオ殿がどうなるかわかりませんよ」

「落ち着けないわよ。どういう意味で、そう言ったの?」

 彼に何かしたのだろうか。

 その可能性は低いが、ないとは言えない。

(何もないわよ、ただの挑発だわ)

 彼に何か出来るなんて、あり得ない。ローシュとは違うもの。

「あなたの婚約者は余程急いでいたのか、馬車ではなく馬でタリフィル子爵家へと来たそうです。乗り込んできた彼を私の仲間が捕まえ、今こちらに向かっていると連絡が来ました」

 そんな事あるわけないわ。

 こんなもの達に掴まるわけがない。それに私は学園でずっと視線を感じていた。それは恐らく王家がつけた目のはずだ。

 だからリヴィオがここまで来れると踏んでいた。なのに。

「全てはあなたの婚約者が着いてからまた話をしましょう、よく考えていて下さい。ローシュ様の治療は、後ほど人を来させますから」

 ゲルドはそう言って出て行ってしまう。

 少ししてから人が来て止血を行なう。しかしじわじわと包帯からは血が滲み出ていた。
 治療が中途半端過ぎて駄目だわ、急いで治癒師に見せないと。

 私であればすぐに治せるが、したくないのが本音。いまだ魔法が使えるとは言っていないし、ローシュに使うのは気が引けるわ。
 憤りが収まったわけではないもの。

「ポエット。そろそろ行きましょうか」

「はい」

 男が去った後、私とポエットは縄を解いて立ち上がる。

 リヴィオにまで何かをするというのなら容赦はしない。追いかけて目にもの見せてやるんだから。

「お待ちください、エカテリーナ様」

 ローシュの護衛のフェイが声を掛けてくる。

「何か用? あぁ、あなたも解いて欲しいのかしら」

 助ける義理もないが、置いてかれたくないわよね。

 それにこの護衛は他の二人に比べ、私に何かしたわけではないし。ただ力がなくて犠牲になっただけかもしれない。仕方ないから外してあげましょうか。

(後の二人はこの男に任せればいいでしょうし、特別に助けてあげるわ)

 そう思い、フェイに近づこうとしたが、その時には既に縄が緩んでるのに気づいた。

「あら。もう解けているのね」

 縄には鋭利な刃物で切られたような跡があり、床に落ちた。
 ナイフでも隠し持っていたのかしら。

「はい。実はいつでも外せたのですが、様子を見たく、縛られていた振りをしていたのです。いざとなった時に外すつもりではありました」

「いざ、ね……それならローシュ様のピンチの時に外せばよかったんじゃないかしら? 何故そうしなかったの?」

 いざという場面は先程あった。この距離であれば身を挺して守る、とか出来た気もするわ。

「命の危機でない限りは不要と言われていますから」

 フェイは冷たい目でローシュを見下ろしている。対するローシュは、冷ややかな声のフェイに困惑し、ただただ彼を見上げていた。

「それって……誰に?」

「無論、主であるカルロス様に、ですよ」

 私の問いかけに、フェイは今度は素直に答えてくれた。

「まっ、ある程度は自己判断です。カルロス様がこの場にいたら、傷つく前に止めろ、とか言われたかもしれませんね」

 彼が手を翳すと風が巻き起こる。それらは、ローシュとラウドを縛る縄を切っていく。
 どうやらフェイは魔法が使えるようだ。

「何故今になって話したの?」

「先程はまだタイミングではなかっただけです。ローシュ様が自ら犯した罪を告白してくれたおかげで、ようやく明かせた、という所ですね」

 フェイは自分の頭に手を置き、つけていたウィッグを外す。

 狐色の髪と、伏せられていて見えなかった黄緑色の目が、ようやく顕になった。

「こうすれば誰かわかるだろ? ポエット」

「……いつもと違うから気づかなかったわ。普段はもっと宝石ジャラジャラの、派手な格好しているじゃないの」

 知り合いなのね。
 でも欺かれていた事が悔しいらしく、口調は苦々しいものだわ。

「だからだよ。そういうギャップのおかげで他の皆も俺に気付かないし、ローシュ様も気付かなかった。だから側にいる事も、すんなりと見張る事も出来た。あとは俺なら武器がなくても戦えるから選ばれた、ってところだな」

 先程彼は風を操って、鋭利な刃に変えていたわね。魔法を使うための魔石をどこかに隠し持っているのだろうけど、よく身体検査で取り上げられなかったものだわ。

「改めて自己紹介を失礼します、エカテリーナ=ブルックリン侯爵令嬢。俺はカラム=ノーサイドと申します。王家、というよりもカルロス様個人に仕えております。その為あまりこちらの殿下への忠義がないんですよね」

 凄い。
 堂々とこんな失礼な事を王子相手に言うなんて、なかなか普通の者では出来ないわよ。
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