【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

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第54話 真相

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「ローシュ様!」
 一応声を掛ける。

「これでとりあえず逃げるような事は防げますね」

 抜くことはしないからそれ以上血が出ることはないが、痛みでのたうちまわるローシュ様を見ても心は晴れない。

(あなたがする事ではないわ、彼にはきちんと裁きを受けて貰わないと)

 そんな風に考えて、そうではないと思い直す。

 彼がしたことは、ここで報いを受けるだけでは足りないの。だからまだ生かしておかなくてはならないから、何とか助けないと。

「どうでしょう。思い直しはして頂けましたか? まぁあなたの大切な人ではないので、駄目かもしれませんが」

 嬉々として聞いてくる。

 確かにこうして実際に実行するなんて、脅しとしてとても効果的だわ。

 ラウド何て青白い顔をして今にも気を失いそうになっている。

「王族に傷を付けて……あなた、碌な死に方をしないわよ」

「攫った時点で既にそうでしょう? ならば今更何をしても罪は変わりませんよ」

 ポエットはばれないように縄を切り、ゲルドに飛び掛かれるように準備をしている。

 私は……どうしましょう。
 魔法を使うべきなのか。でもローシュ様の為にと思うと躊躇いが生まれる。

「エカテリーナ、助けて……」
 痛みで涙や何やらで顔がぐしゃぐしゃだ。

 好みの顔ではないが、美形の部類なのに台無しね。

「ローシュ殿下の手当てをして。話はそれからよ」
 このままにしておいては失血死する可能性があるから、早いところ止血してもらいたいわ。

「生かしておきたいのですか?」

「死なれては困るだけよ」

 そこは訂正させて。

「お優しいのですね。自分が助かりたい為だけに、あなたに私の味方になるように言ったのに」

「切羽詰まればそういう事を言ってしまう事なんて、誰だってあるわ」

「罪もないあなたを放課後デートにかこつけて誘い出し、怪我をさせるようにごろつきをけしかけたのに?」

「あの殺し屋はタリフィル子爵家の仕業でしょ?」

「違います。まぁ怪我させたのは我々ですが、あの場に誘いだしたのはローシュ殿下です。本来であればタリフィル子爵家の子飼いの者達が、エカテリーナ様に襲い掛かる予定だった」

「だから、それがあなた達でしょ? って、ちょっと待ちなさい」
 話しの途中でおかしいところがあった。

 ローシュ様、いや、ローシュが誘い出したですって?

「あなた、まさか……」

 あの企てはこいつらがした事なの?

 こんな男の話に信憑性などないかもしれないが、二人の反応が明らかにおかしい。

「ローシュ様。あなたはそんなに私の事を殺したかったの?」
 そうであれば庇う必要などない、寧ろ今すぐすり潰してやりたい気持ちだ。

「ち、違う。僕達は殺そうなんてしていない。ただ、エカテリーナの顔に傷でもつけば、君と婚約解消がスムーズに行くかなって」

「そんな理由であんなことを?! ますます見損ないました!」
 ポエットも目尻を吊り上げて怒ってくれている。

「案を出したのは、ラウド達だ! 僕はそれに乗せられただけで、悪くない」
 失血の為か、それとも私達に責められているからか、ローシュの顔色が白くなっている。

「今の話は本当ですか、タリフィル子爵令息」

「……」

 目をきょろきょろと泳がせ、決してこちらを見ようとしない。

 それはもう肯定という意味よ。

「何とか言いなさい!」

「ち、違います!」

「嘘だ! フロルだってトニーだって聞いている、皆に確認すればわかるはずだ!」

 なるほど。
 他にもこの馬鹿な意見に同調したものが居たのね。

「真実を知れて、如何でしたか?」

「最低な気分よ」

 吐き捨てるように言うとゲルドは嬉しそうだ。

(性格が悪すぎる、不愉快な男だわ)

 ローシュが私に怪我をさせようと画策していたのを知っていたのに、私の最愛が本当にローシュなんて思ったのかしら。

(いえ、そんな事はないわね。つまり私の反応が見たくて、こうして呼び出して暴露したのね。何て下衆い男!)

 こうして笑っているのが何よりの証拠だ。

「絶対に許さない」

「エカテリーナ様。でしたら私どももその復讐に手を貸しますよ。フロル嬢は無理でしたが、他の者は捕らえていますから」

 嘘か誠か。そんな事までしているのか。

 フロル嬢は無理って、それはそうよね。

 彼女は私への侮辱でどこかで刑を受けているはずだ、でももしもまだ生きていたら追加の罰を与えよう。

 というか、この男。他人事のように言うけれど、私が許さないのはローシュ達もだが、ゲルド達もよ。

 絶対に生きたまま捕らえて、罰を受けてもらうからね。

 それにしてもまさか他の子息・息女も拐かしたなんて、本気で私を味方につける為なのね。

「そうまでして私のご機嫌を取りたかったの?」

 この者達は何を考えているのやら。

 一時は殺そうとしていたのに今度は取り込もうなんて、そんな事出来ると思ってるのかしら。

「えぇ。そうです。魔女の力は絶大ですから、喉から手が出る程欲しい。沢山の同胞も散ってしまったから尚更ですね」

 これは正直な言葉なのだろうな。

 だからと言って敵の敵は味方、何てなりはしない。

「無理ね。魔女の力なんてないもの。あっても、あなた達に貸す道理はないわ」
 最低な者達ばかりに与するわけないでしょ。

 それにローシュを裁くならばこの者達の力などは借りない。

 自分で何とかするわ。

「そうですか。では愛しい愛しいリヴィオ殿の命と引き換えにではどうですか?」

 その言葉にす私は心臓を鷲掴みにされたような心地になる。顔から表情が抜け落ちたのが自身でもわかった。

「それはどういう意味?」
 返答次第では楽な死に方はさせない。
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