【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

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第53話 部屋に来た者

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「気分は如何ですか?」

 ノックの後、部屋に入ってきたのはゲルドだ。一人ではなく、後ろに二人程味方らしき者を従えている。

(表情の乏しい者達ね)

 怖いくらい無表情な二人に比べれば、まだゲルドの方がマシ……な事はないわ。

 ゲルドの目線は私に向いている。どうやら私と話をしに来たようだ。

「最悪ですわ。早く縄を解いて頂戴」

 ぷんぷんと怒ってみるものの、ゲルドは嘲笑うばかりだ。

「それはまだ出来ません。逃げられては困りますからね」

「一体僕らに何の用だ。こんな所に連れてきて、子爵家は何を考えている」

 話に割り込み、激高するローシュ様だが、ゲルドはその言葉に首を傾げる。

「はて。タリフィル子爵は何を考えているのでしょう? お金集めとかではないですかね」

「では狙いは身代金か?」
 その言葉にも首を横に振る。

「さぁ。私共はお金には興味ありませんから」

 不思議なやり取りね。

 ゲルドはタリフィル子爵家の者ではないという事かしら。

 再び目線が私に向けられる、相変わらず下卑た目だ。

「我が主は力を欲しているのですよ、エカテリーナ様」

「気安く名を呼ぶな、下郎が」
 私の前に出てきたポエットを無視し、ゲルドは尚も続ける。

「エカテリーナ様。愛する人を失いたくなければ、言う事を聞いて下さい」

 そう言ってローシュ様に刃を向けられる。

「え?」
 素で驚きの声が上がってしまったわ。

「さぁエカテリーナ様。我々の味方になると誓ってください。そうすれば殿下と、そちらの子爵令息も解放して差し上げましょう」
 喜びに満ちた表情で顔を上げるラウドと、乞うような目で私を見つめるローシュ様。

 怒りで顔を赤くするポエットと、よくわからないが体を震わせているフェイ。

「私が了承しなければ、二人は?」

「生かしておくわけにはいきませんね」
 それを聞いてローシュが吠えた。

「エカテリーナ、お願いだ。ここはひとまずこいつのいう事を聞いてくれ。解放されたら必ず君を助けに戻って来ると誓うから」
 まぁなんて信用のならない誓い。

 あなたはある意味いつだって私の期待を裏切らない男性ね。

「僕からもお願いします、僕もまだ、死にたくない」
 ぐすぐすと泣く理由が分からないわ。

 か弱い令嬢を犠牲に助かりたいと言うなんて、情けないと思わないの?

「身代金でしたら私よりも王族の方が多く貰えると思いますよ。私はただの侯爵令嬢でして」

「ただの侯爵令嬢? そんなわけないでしょう」
 くつくつと笑うゲルドは楽しそうだ。

「あなたは魔女で強い力を持っている。記憶喪失? 婚約解消? 偽装もいいところだ」

 どこから正したらいいのか、困るところですわね。

「記憶喪失は本当です。頭を強く打ったために昔の記憶はないのです。そもそも魔法を使えたらこのように掴まったりはしないでしょう? それに婚約解消も本当。新しい婚約の発表もされているわ」

「しがない子爵家の次男とお聞きしました。だからこその偽装なのでは? ローシュ様と表立って結婚出来ない何某かの理由があるのでしょうが、騙されません。彼はこの国の王子、その婚約者に座を望んで降りるなんてあり得ない」

 あぁ。この男とはどこまでも価値観が合わないわね。

「それがあり得るのです。だから婚約解消しました。私が愛するのはリヴィオ一人。彼ではないわ」

「本当に?」

「本当です」

 変な押し問答だわ。

 ふむ、とゲルドは顎に手を当てる。

「ではエカテリーナ様。あなたは今魔法は使えない?」

「えぇ」

「愛するものとはリヴィオという騎士?」

「えぇ」

「ではこちらの味方には?」

「なりません」

 一つ一つ確認されていく。

「そうでしたか。ならばこの者は、要りませんでしたね」
 ゲルドの短剣がローシュの足に突き立てられる。

 狭い部屋に血しぶきが舞い、絶叫が響いた。
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