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第48話 生じる疑問
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扉が閉まってから、その会いたくない人物は真っすぐに私を見つめてくる。
「エカテリーナ、本当に来たの? まさか僕を助けに……」
「いえ違います。私にそのような力はありませんもの」
ローシュ様の顔を見て堂々と嘘を吐き、いかにも騙されて連れて来られたかのようにしおらしい態度を取った。
(そう思われるかもとは考えていたけれど、言葉に出して言われると癪に障るものね)
がっかりしたような表情に更にイライラしながらも周囲を見ると、俯いている男性二人が見える。
「護衛が二人も居ながらこんな事になるなんて、なんと情けない」
ポエットが辛辣な言葉を投げかけると一人は顔を起こし、もう一人はうつ向いたままだ。
「ぼ、僕は護衛ではありません」
顔を上げてそんな声を出した男性に、どこかで見覚えがあった。学園の制服を着ているから関係者とはわかるけれど、どこで会ったかしらね。
「でも確かに、このような事になってしまって申し訳なくは思っています……」
縛られつつも誰だかわからず困惑していると、ローシュ様が補足をしてくれる。
「タリフィル子爵令息のラウドだ。彼に欺かれて僕らはここに集められたんだよ」
苦々しい表情のローシュ様を見て、驚いて口に手を当ててしまったわ。
(あなたがそんな事を言えて?)
私もまた自分を棚に上げてそんな事を思ってしまう。
「本当に、本当にすみません! あの男、ゲルドに脅されて仕方無くだったのです!」
「ゲルド?」
「あのタリフィル子爵家の従者と言った男ですよ」
すっかり忘れていた。だってどうせ捕まえるし、覚えるだけ無駄と思って早々に記憶するのを放棄してしまったの。
「脅されてって、何かあったのかしら?」
そう聞くがラウドはだんまりを決め込み俯く。従者に脅されるなんて、恥よね。言いたくない気持ちはわかるわ。
「ラウド……僕はがっかりした。君がこのような事をするなんて」
ローシュ様の一言でラウドはがばっと勢いよく顔を上げる。
「これは、あなたが望んだから起きた事で……!」
あらあらローシュ様絡みなのね。では碌でもない事決定だわ。
「話しなさい。このような所に無理矢理連れて来られた私達には、知る権利がありますわ。何も言わないのであれば、あなたの罪はより重くなりますわよ」
やんわりと促してみるが、それでも教えてくれなさそうだ。また室内には重い沈黙が訪れる。さてどうしたものか。
(とりあえず状況の確認ね)
何かあった時に戦えそうなのは私とポエット、かしら? 幸いにもポエットは武器を取り上げられていない。
まぁ侍女の足にメイスが括りつけられているとは思わないだろうけど、身体検査くらいするかと思っていた。女だからと油断したのかしらね。
ローシュ様の護衛は剣を取り上げられている。
護衛の彼は茶色の髪をした男性で、口数も少ないどころかまだ一言も声を出していない。
顔は長く垂らした前髪とうつ向いている事でよく見えないが、知っているものではなさそう。縮こまった体はどう見ても強そうには思えない。
まぁ一人だけ厳重に縛られているから、ゲルド達には脅威なのだろうけれど。
リヴィオと同等の力を持つ護衛など早々いないだろうから、急遽つけられた新人だろうか。せめてそこはケチらずに、もう少し強い人や若しくは数をつけてあげれば良かったのに。
まぁローシュ様もこれに懲りて迂闊な事をしないように自戒すればいいだけね。
次があればいいけれど。
「リヴィオ、ちゃんと来てくれるかしら」
ラウドに話す気がないようなので、諦めてポエットと別な話を始める。
「連れて来られた先が子爵家ではない為、どうなるかは分かりませんが……最悪私が命に代えてでもエカテリーナ様を逃がします。だから安心してください」
「無理はしなくていいのよ」
いざとなれば建物全てを破壊して脱出する予定だし、まだ切り札はある。
「そもそも学園長からの呼び出しって、何だったのでしょう? 彼一人だけで聞く話なんて、何かありましたっけ」
「そうねぇ……恐らくそこから罠じゃないかと思ったの。だってタイミングが良すぎるわよね」
リヴィオという護衛が離れてからすぐの出来事だ。
話しかけるタイミングを図る為に、どこかで見張っていたのだろう。
「言われてみれば、そうですよね……後であのゲルドという男、殴りつけてやる」
イライラがどんどん溜まっているようで、ポエットの顔が威嚇する猫のように怖くなっている。
眉間の深い皺はあまり寄せ過ぎると消えなくなってしまうわよ、可愛らしい顔なのに心配だわ。
「助けが来たらいくらでも殴ればいいじゃない。きっと許しは貰えるわ」
私も頼んでみようかしら。このような目に合ったのですもの、一発では足りないわね。
(私はともかく鍛えているポエットの一撃ってどれだけ強いのかしら?)
赤く腫れるだけでは済まなそう。
「助けなんて、本当に来るのかい?」
「……来ますわ」
ローシュ様、女同士の会話に急に入ってこないで頂戴な。
「エカテリーナ、本当に来たの? まさか僕を助けに……」
「いえ違います。私にそのような力はありませんもの」
ローシュ様の顔を見て堂々と嘘を吐き、いかにも騙されて連れて来られたかのようにしおらしい態度を取った。
(そう思われるかもとは考えていたけれど、言葉に出して言われると癪に障るものね)
がっかりしたような表情に更にイライラしながらも周囲を見ると、俯いている男性二人が見える。
「護衛が二人も居ながらこんな事になるなんて、なんと情けない」
ポエットが辛辣な言葉を投げかけると一人は顔を起こし、もう一人はうつ向いたままだ。
「ぼ、僕は護衛ではありません」
顔を上げてそんな声を出した男性に、どこかで見覚えがあった。学園の制服を着ているから関係者とはわかるけれど、どこで会ったかしらね。
「でも確かに、このような事になってしまって申し訳なくは思っています……」
縛られつつも誰だかわからず困惑していると、ローシュ様が補足をしてくれる。
「タリフィル子爵令息のラウドだ。彼に欺かれて僕らはここに集められたんだよ」
苦々しい表情のローシュ様を見て、驚いて口に手を当ててしまったわ。
(あなたがそんな事を言えて?)
私もまた自分を棚に上げてそんな事を思ってしまう。
「本当に、本当にすみません! あの男、ゲルドに脅されて仕方無くだったのです!」
「ゲルド?」
「あのタリフィル子爵家の従者と言った男ですよ」
すっかり忘れていた。だってどうせ捕まえるし、覚えるだけ無駄と思って早々に記憶するのを放棄してしまったの。
「脅されてって、何かあったのかしら?」
そう聞くがラウドはだんまりを決め込み俯く。従者に脅されるなんて、恥よね。言いたくない気持ちはわかるわ。
「ラウド……僕はがっかりした。君がこのような事をするなんて」
ローシュ様の一言でラウドはがばっと勢いよく顔を上げる。
「これは、あなたが望んだから起きた事で……!」
あらあらローシュ様絡みなのね。では碌でもない事決定だわ。
「話しなさい。このような所に無理矢理連れて来られた私達には、知る権利がありますわ。何も言わないのであれば、あなたの罪はより重くなりますわよ」
やんわりと促してみるが、それでも教えてくれなさそうだ。また室内には重い沈黙が訪れる。さてどうしたものか。
(とりあえず状況の確認ね)
何かあった時に戦えそうなのは私とポエット、かしら? 幸いにもポエットは武器を取り上げられていない。
まぁ侍女の足にメイスが括りつけられているとは思わないだろうけど、身体検査くらいするかと思っていた。女だからと油断したのかしらね。
ローシュ様の護衛は剣を取り上げられている。
護衛の彼は茶色の髪をした男性で、口数も少ないどころかまだ一言も声を出していない。
顔は長く垂らした前髪とうつ向いている事でよく見えないが、知っているものではなさそう。縮こまった体はどう見ても強そうには思えない。
まぁ一人だけ厳重に縛られているから、ゲルド達には脅威なのだろうけれど。
リヴィオと同等の力を持つ護衛など早々いないだろうから、急遽つけられた新人だろうか。せめてそこはケチらずに、もう少し強い人や若しくは数をつけてあげれば良かったのに。
まぁローシュ様もこれに懲りて迂闊な事をしないように自戒すればいいだけね。
次があればいいけれど。
「リヴィオ、ちゃんと来てくれるかしら」
ラウドに話す気がないようなので、諦めてポエットと別な話を始める。
「連れて来られた先が子爵家ではない為、どうなるかは分かりませんが……最悪私が命に代えてでもエカテリーナ様を逃がします。だから安心してください」
「無理はしなくていいのよ」
いざとなれば建物全てを破壊して脱出する予定だし、まだ切り札はある。
「そもそも学園長からの呼び出しって、何だったのでしょう? 彼一人だけで聞く話なんて、何かありましたっけ」
「そうねぇ……恐らくそこから罠じゃないかと思ったの。だってタイミングが良すぎるわよね」
リヴィオという護衛が離れてからすぐの出来事だ。
話しかけるタイミングを図る為に、どこかで見張っていたのだろう。
「言われてみれば、そうですよね……後であのゲルドという男、殴りつけてやる」
イライラがどんどん溜まっているようで、ポエットの顔が威嚇する猫のように怖くなっている。
眉間の深い皺はあまり寄せ過ぎると消えなくなってしまうわよ、可愛らしい顔なのに心配だわ。
「助けが来たらいくらでも殴ればいいじゃない。きっと許しは貰えるわ」
私も頼んでみようかしら。このような目に合ったのですもの、一発では足りないわね。
(私はともかく鍛えているポエットの一撃ってどれだけ強いのかしら?)
赤く腫れるだけでは済まなそう。
「助けなんて、本当に来るのかい?」
「……来ますわ」
ローシュ様、女同士の会話に急に入ってこないで頂戴な。
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