【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
46 / 70

第46話 誘いに乗りましょう

しおりを挟む
(う~ん。それでも行きたくないわね)
 ローシュ様の命を盾に迫られているが、本当にいるのかも怪しい。

 そこまで仔細に彼の行動を知るわけではないし、もしかしたらもうとっくに王城に帰っていた、何てこともあり得る。

 この学園に入れたという事は、この男は本当にタリフィル子爵家の従者なのだろうが、世間では隠している秘密を知っているのはどういうことだろうか。

(殺し屋を雇ったのが、タリフィル子爵なのかしら)
 安直すぎる気もするが、否定する材料も今はない。

 ここでこの男を捕えて尋問出来ればいいが、この前の者達のようにまた自殺してしまうかもしれないし、本当にローシュ様が殺される可能性もある。

(別に彼が死んでもどうでもいいけれど、カルロス様が困るかしら)
 それにリヴィオも困るかもしれない。

 それに貴重な情報を彫られる好機だから、思い切って見ようかしら。

「そんな怪しいところに行くわけが……「行くわ」
 ポエットが尚も拒否したのを遮って、返答をする。

「行けません、エカテリーナ様! このような怪しい男に付いて行くのは駄目です」
 ポエットが慌てて引き止めるが、私は首を横に振る。

「あなたが一緒だから大丈夫よ。それに私を危ない目に合わせるはずはないわよね?」
 ちらりと男を見ると彼は頷いている。

 噓つきの目ね、確約なんてないのでしょう。

「ただリヴィオも連れて行きたいわ。彼を待つ事は出来ない?」

「それなら伝言を残しましょう。子爵家に向かったと伝えれば後ほど迎えにいらしてくれるでしょうから」
 駄目元で言ったが、やはり却下され代替案が出されたわ。それにしても、まるで彼が直ぐに戻らない事を知っているような口ぶりだわ。

(学園長に呼ばれたなんてのはついさっきの事よ? どこからがこの男達の計画かしら)
 なんだか怪しい。

 気にはなるもののここで追及しても言わないだろうから、男の望み通りに適当な学生を捕まえてリヴィオへの伝言をお願いする。

「では急ぎましょう」
 依頼が終わって直ぐ向かうように促される。
 案内された先にあったのは、黒い紋のない馬車だ。

「少しお待ちを。子爵家の馬車に乗る旨を侯爵家の御者にも伝えねばなりませんので」
 そうしてポエットは馬車乗り場付近にいる門衛に伝達を頼む。

 何も言わずに子爵家に行っては、侯爵家の皆に帰りが遅いと心配をされるだろう。
 行先を伝えて、リヴィオと後から来てもらえるようにとお願いした。

 本当はあいての馬車になんて乗りたくないが、侯爵家の馬車一台で学園に来てるから仕方がない。

 ポエットが門衛と話しいる間、従者は私を好奇の目で見てくる。

 私は顔を逸らし不愉快さを示すように眉間に皺を寄せたが、その程度では牽制にもならない。

「ブルックリン侯爵令嬢様は本当に記憶がないのですか?」

「……」
 質問に答える気はない為無言を貫く。

「ローシュ殿下はあなたの事を可愛げがない女性と話していたそうですが、果たしてそうなのでしょうか。優秀なあなたに対して嫉妬したのではないですか?」
 だから何だというのか。

 ぺらぺらと煩い男ね、こういうタイプは嫌いよ。

「嫉妬でこのように美しく、素晴らしい女性を手放したとあれば愚かとしか言えないですね。まぁ失ったものの大きさに今頃になって気づき始めているようですが」

「……あなた、どういうつもりなの?」
 明らかな不敬な言葉はただの従者が言う言葉ではない。

 ここは密室ではなく、開かれた学園の敷地内だ。

 馬車に乗るために他の者も多い。それなのにローシュ様を愚かだというなんて。

 まぁ、事実だけども。

「そのままを言っただけですが、返答が来て嬉しいです」
 変わらずに厭らしい笑みを浮かべているので、もはや存在ごと無視することにした。

 その内に話を終えたポエットがまた間に入り、一緒に男の用意した馬車に乗ったわ。

 中に乗るのは私とポエットだけで、男は別な馬車へと向かう。

 一緒に乗らずホッとしたのだが、今度は外から鍵をかける音が聞こえてきた。やはり罠よね。

「エカテリーナ様、大丈夫です。私がついていますからね」
 ポエットが私の手を握り、安心させるように力を込める。

 強引に誘いに乗ったのは私なのに、怒りもしないなんて本当に申し訳ないわ。

 こんなに甘やかしてくれるポエットには感謝しかない。

(ごめんなさいね、本当は飛び込むものではないのだろうけれど)
 この怪しい男の言う事を突っぱねてすぐに調査を頼めばいいとはわかっている。

 しかしそれでは真実が私の耳に入ってくるのが、かなり遅くなるだろう。

 カルロス様が教えてくれたあの話も恐らくだいぶ前に判明している事だし、全てを話してくれたわけではないと思う。

 それならば私自身が現場に飛び込んだ方が、まだ真実に近い話が聞ける可能性がある。

(カルロス様は嘘は言っていないのだろうけれど、全ては教えてくれないもの)
 悪いとは言わない。

 彼はそういう立場の者だし、ローシュ様より余程自分の役割をわかっている。

 少なからず味方してくれたから信用はしてるけれど、それでは足りないわ。

(私は私の命を奪おうとしたもの達を許したくない)
 王家の処刑で許してあげるつもりはない、この手で罰を与えたいのよ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜

みおな
恋愛
 子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。  この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

処理中です...