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第44話 自由時間(ローシュ視点)
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身の回りの護衛も増え、なかなか息苦しい生活が続いていた。一番ひどいのは学園での時間だ。
そこかしこに人はいるし、多くの貴族が要るから守衛が多い。いつでもどこでも視線を感じ、実に居心地が悪い。
人の出入りに対するチェックも厳しくて安心というが、間諜が混じり過ぎてはいないか?
何しろ僕の同行は逐一ミリティアに見張られている、いつも急き立てられている気がする。
ひと休憩するだけでも「仕事はどうしたの?」と声をかけられるのだ。これは常に動向をみられていることに他ならない。
こんな風に頻繁に声を掛けられ、溜まったものではない。
この学園は僕にとってはまるで監獄のようなもの……でも今日だけはつかの間だが、解放されるんだ。
「エカテリーナ様への贈り物を買いに行く?」
「そろそろエカテリーナの誕生日だからね。この機会に日頃のお礼をしたいんだ」
「あら婚約破棄したのだからそういう気遣いは要らないと思うわ。寧ろ不要で迷惑じゃない?」
ズバッというミリティアは本当に可愛げがなく、意地も悪い。
そんな事を言っても言いくるめられるだけだから、抗議するようにブライトンを睨むが、こちらもまるで意に介していないという視線を向けるだけだ。
「……今までのお詫びを込めて、という意味で、これで最後にするつもりさ。だからお願い、今日だけは見逃してくれないか?」
そう頼み込むと、ミリティアは少し考える素振りを見せる。
「……あなたからの本当の贖罪は、エカテリーナ様の迷惑にならないように生きる事よ。その為にその力をつける事に集中して欲しいのだけど」
「その集中の為に今回だけはお願いしたい。僕がどれだけエカテリーナに寄りかかって生きてきたのか、こうして身を持って知ったのだから。直接会う事はないし、突き返されてもいい。でも、行動しないでただ終わるのは嫌なんだ」
ミリティアの目を真っすぐに見つめながら真剣に訴える。
睨みつけるように見つめ返されるが、しばしの沈黙の後でハァとため息を吐かれた。
「……そう言うなら、まずは呼び方を改めなさい。元婚約者に軽々しく名を呼ばれるなんて、余計嫌がられるわ」
じろりと睨まれ、僕は肩をすくめる。
「わかった。ブルックリン侯爵令嬢の為に何かをしたいんだ。お願い、この通りだよ」
そう言って頭を深く下げると、ミリティアは悩みつつも渋々了承してくれた。
「そうね。このところ逃げずにしっかりと色々な事に向き合ってくれてるものね。では今日だけ許してあげるわ」
尊大な態度と物言いが気になるが、余計な事を言って取り消されるわけには行かない。
(ミリティアは意外と情に脆いんだよね)
特にエカテリーナの事を大事に思っているから、彼女の事になると少し当たりが弱くなる。
そんなミリティアだから僕から贖罪の機会を奪いたくないと思ったのだろうな。
「ありがとう、恩に着るよ」
「ただし市井に行くなら護衛は必ずつける事、そしてエカテリーナ様に無断で会いに行かないように。渡す時は私も同行するからね。許可した責任があるのだから、それくらいは良いでしょ」
本当かどうかの立ち合うという事か。
タリフィル子爵の商会には色々なものがあると聞いているし、ラウドに女性受けする物を適当に見繕ってもらおう。
噓を実にしないと、次からますます身動きが取れなくなってしまう。
そうして僕はラウドの待つところに向かって急いだ。
ようやくの自由だ、つい早足になってしまう。
僕の護衛をしてくれているレイルは余計な事を何も言わない。
こうしてミリティアを欺くことを言った時も、ラウドの元に行くと言った時も何も反対しなかった。
訝し気な顔をしただけで、それだけだ。
待ち合わせをしていた場所に行くとラウドと、そして見知らぬ者がいる。
「君は誰だ?」
学園内に居るのだから怪しい者ではないだろうけど、初顔に警戒心が生まれる。
「こちらは私の新しい従者です。さぁローシュ様に挨拶をして」
そうラウドが促すとその男は僕に向かい、頭を垂れて挨拶をしてくる。
「ローシュ殿下、お初にお目にかかります。こうして直にお会いする事が出来て、光栄です」
僕やラウドよりも背が高くひょろりとしたその従者は、目をキラキラさせて僕を見てきた。
余程僕に会いたかったのだろう、期待に満ちた目に嬉しさで胸が詰まる。
このような身分の者も僕に忠誠を誓ってくれている、嬉しい事だ。
紋のない黒塗りの馬車に乗り込み、先程ミリティアに話したエカテリーナへの贈り物について相談をしてみる。
「エカテリーナ様への贈り物もどうぞ我が商会からお選びください。最高のものを用意させますので」
にこにこと張り付けたような笑顔でラウドの従者が口を挟んでくる。
ラウドを見れば、コクコクと必死になって顔を縦に振っていた。
(不思議な気分だ)
本来なら主の言葉を遮って従者が喋るなどないだろう。
やはりラウドはあまり体調が良くないのだろう、話を聞いたら静養するように促してあげなくては。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
お読み頂き、またエールまでありがとうございます!
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そこかしこに人はいるし、多くの貴族が要るから守衛が多い。いつでもどこでも視線を感じ、実に居心地が悪い。
人の出入りに対するチェックも厳しくて安心というが、間諜が混じり過ぎてはいないか?
何しろ僕の同行は逐一ミリティアに見張られている、いつも急き立てられている気がする。
ひと休憩するだけでも「仕事はどうしたの?」と声をかけられるのだ。これは常に動向をみられていることに他ならない。
こんな風に頻繁に声を掛けられ、溜まったものではない。
この学園は僕にとってはまるで監獄のようなもの……でも今日だけはつかの間だが、解放されるんだ。
「エカテリーナ様への贈り物を買いに行く?」
「そろそろエカテリーナの誕生日だからね。この機会に日頃のお礼をしたいんだ」
「あら婚約破棄したのだからそういう気遣いは要らないと思うわ。寧ろ不要で迷惑じゃない?」
ズバッというミリティアは本当に可愛げがなく、意地も悪い。
そんな事を言っても言いくるめられるだけだから、抗議するようにブライトンを睨むが、こちらもまるで意に介していないという視線を向けるだけだ。
「……今までのお詫びを込めて、という意味で、これで最後にするつもりさ。だからお願い、今日だけは見逃してくれないか?」
そう頼み込むと、ミリティアは少し考える素振りを見せる。
「……あなたからの本当の贖罪は、エカテリーナ様の迷惑にならないように生きる事よ。その為にその力をつける事に集中して欲しいのだけど」
「その集中の為に今回だけはお願いしたい。僕がどれだけエカテリーナに寄りかかって生きてきたのか、こうして身を持って知ったのだから。直接会う事はないし、突き返されてもいい。でも、行動しないでただ終わるのは嫌なんだ」
ミリティアの目を真っすぐに見つめながら真剣に訴える。
睨みつけるように見つめ返されるが、しばしの沈黙の後でハァとため息を吐かれた。
「……そう言うなら、まずは呼び方を改めなさい。元婚約者に軽々しく名を呼ばれるなんて、余計嫌がられるわ」
じろりと睨まれ、僕は肩をすくめる。
「わかった。ブルックリン侯爵令嬢の為に何かをしたいんだ。お願い、この通りだよ」
そう言って頭を深く下げると、ミリティアは悩みつつも渋々了承してくれた。
「そうね。このところ逃げずにしっかりと色々な事に向き合ってくれてるものね。では今日だけ許してあげるわ」
尊大な態度と物言いが気になるが、余計な事を言って取り消されるわけには行かない。
(ミリティアは意外と情に脆いんだよね)
特にエカテリーナの事を大事に思っているから、彼女の事になると少し当たりが弱くなる。
そんなミリティアだから僕から贖罪の機会を奪いたくないと思ったのだろうな。
「ありがとう、恩に着るよ」
「ただし市井に行くなら護衛は必ずつける事、そしてエカテリーナ様に無断で会いに行かないように。渡す時は私も同行するからね。許可した責任があるのだから、それくらいは良いでしょ」
本当かどうかの立ち合うという事か。
タリフィル子爵の商会には色々なものがあると聞いているし、ラウドに女性受けする物を適当に見繕ってもらおう。
噓を実にしないと、次からますます身動きが取れなくなってしまう。
そうして僕はラウドの待つところに向かって急いだ。
ようやくの自由だ、つい早足になってしまう。
僕の護衛をしてくれているレイルは余計な事を何も言わない。
こうしてミリティアを欺くことを言った時も、ラウドの元に行くと言った時も何も反対しなかった。
訝し気な顔をしただけで、それだけだ。
待ち合わせをしていた場所に行くとラウドと、そして見知らぬ者がいる。
「君は誰だ?」
学園内に居るのだから怪しい者ではないだろうけど、初顔に警戒心が生まれる。
「こちらは私の新しい従者です。さぁローシュ様に挨拶をして」
そうラウドが促すとその男は僕に向かい、頭を垂れて挨拶をしてくる。
「ローシュ殿下、お初にお目にかかります。こうして直にお会いする事が出来て、光栄です」
僕やラウドよりも背が高くひょろりとしたその従者は、目をキラキラさせて僕を見てきた。
余程僕に会いたかったのだろう、期待に満ちた目に嬉しさで胸が詰まる。
このような身分の者も僕に忠誠を誓ってくれている、嬉しい事だ。
紋のない黒塗りの馬車に乗り込み、先程ミリティアに話したエカテリーナへの贈り物について相談をしてみる。
「エカテリーナ様への贈り物もどうぞ我が商会からお選びください。最高のものを用意させますので」
にこにこと張り付けたような笑顔でラウドの従者が口を挟んでくる。
ラウドを見れば、コクコクと必死になって顔を縦に振っていた。
(不思議な気分だ)
本来なら主の言葉を遮って従者が喋るなどないだろう。
やはりラウドはあまり体調が良くないのだろう、話を聞いたら静養するように促してあげなくては。
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