【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
38 / 70

第38話 別れの日(リヴィオ視点)

しおりを挟む
 エカテリーナ様とローシュの婚約解消の日となった。

 カルロス様はどうやって国王を説得したのだろうか。

 陛下は渋々ながら、という表情をしており心からの納得してはいなさそうだが、ここまで来たら後には引けないだろう。

 この場での発言権がない俺は、ただエカテリーナ様達のやり取りを聞くしか出来ないが、なかなか辛い……というか腹立たしい。

 ローシュの勝手な持論とエカテリーナ様の思いに、ただ唇を噛み締めて耐えるばかりだ。

 だが、これを乗り越えればきっとエカテリーナ様は解放される。

(もうすぐ、もうすぐだ)

 嬉しいという反面、別れが近づいていることに心が沈む。

 だが俺の気持ちとはまるで違い、ローシュの言葉は煽る様なものばかりで、悲嘆に暮れてばかりはいられなかった。

(この期に及んでも反省の色はないのだな)

 賠償する気もなく更に記憶を失った事すらも、エカテリーナ様の非だと言うその神経が、信じられない。

(本当にこの男は、同じ人間なのか? 言葉が話せるだけの別生物ではないのだろうか。エカテリーナ様の為に何かをしてあげたいという思いは浮かばないのか?)

 あれだけお世話になって、あれだけの迷惑をかけてのこの言い草。
 怒りと、そして自分は今まで一体何をしてきたのかと考えて、落ち込んだ。

 結局自分がローシュの為に行なったことなど何一つ彼には響いていないし、言った事の欠片も伝わっていない。

 彼の心にはそういったものは、全く残らなかったのだ。

 あれだけ共に過ごし話をしてきたローシュには、話は出来るのに話が通じない。

(エカテリーナ様、申し訳ありません)

 忸怩たる思いに目が向けられない。

 今後自分はどうやって償うべきか、これからは側にいることも叶わなくなる。
 その中でいかにして動けばいいか……そんな事を考えている時、驚くべき言葉が聞こえてきた。

「リヴィオとポエットを私の元へ」

 空耳? それとも聞き間違いか。

 咄嗟の声も出ず、目を丸くしているうちにとんとん拍子で話が進む。

 こちらの意思など関係なく了承されていった。

 口を挟むことなど許されない俺とポエットは、互いに顔を見合わせるばかりだ。

 信じられない気持ちのまま、その後話し合いは終わる。

 俺は些か夢見心地で王城を去る準備をした。

 最後にローシュと何を話しただろうか。
 何も心に残っていないのだから、多分大した話はしていない。

 ここで気づく。

 自分が気持ちを向けないの者の話など、耳から抜けていくだけで引っかかることなどないのだと。

 彼にとって俺は不要な人物だ。

 慰謝料を払わずに済むという事で、喜んで差し出されたのもあるだろう、執着などするはずないか。

 後任の者に引き継ぐことは何かあるだろうかと考えていたが、「あなたはローシュ様からの信頼をとうの昔に失っていますので、何も聞くことはありません」と拒絶された。

 それならそれでいい。

 余計な仕事をしなくて済むならば寧ろ楽だ。

 俺にとっても彼は重要な人物ではなくなったし。

 侍女のリルハもエカテリーナ様との繋がりが薄くなることに、安堵した様子であった。

「ローシュ様の事はお任せください。その代わりエカテリーナ様の事をくれぐれもよろしくお願いしますね」

 殊勝な事を言われるが、その言葉の中にやや含みがあるのは口調でわかる。

 彼女はローシュ様に近づくことを望んでいたと、ポエットより話は聞いている。

 その為エカテリーナ様から離れることをリルハは歓迎しているようだ。
 彼女の側で働いて、色々と見てきただろうに。

 もの好きとはどこにでもいるようだ。

 最早ローシュに関わる事はないから、これ以上彼女と会う事もないだろう。

 再びエカテリーナ様の元に現れない事を願う。

 ブルックリン侯爵家の者も彼女の変わり身の早さに呆れ、嫌悪を抱く者も多い。もしも今後戻りたい、帰りたいとなっても歓迎する事はないだろう。

 王子という肩書に惑わされて少し可哀想ではあるが、自分で選んだ道なのだから最後まで頑張ってほしい。

 遠くで見る憧れと近くで見る現実の違いに打ちのめされて悲しい結末を迎えない事を祈るのみだ。

 まぁポエットがあれだけ説得したのに強行した彼女だから、それ相応の覚悟は持っている……はず。

 それよりも俺は俺自身の今後を新たに考えなくてはならない。

 何せブルックリン侯爵家に仕える騎士の一人だと思っていたのに、とんでもない難題が降りかかってきたのだから。

 憧れと現実は違う。

 婿入りなんて分不相応な問題が来るなんて思いもしなかった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

処理中です...