上 下
37 / 70

第37話 婚約解消の先(リヴィオ視点)

しおりを挟む
 カルロス様の部屋に入り、まずは俺から質問をする。

「幸せになるべきと先程おっしゃいましたが、具体的にはどのような未来がエカテリーナ様の幸せとお思いですか?」
 カルロス様は幸せとはどのようなものだと思うのだろうか。

 (それによって伝える内容は精査しなければならない)
 エカテリーナ様の味方だとは信じたいが、ローシュの実兄だ。信じきって良いものか。

 もしもまだ望まぬ我慢をエカテリーナ様に強いるようであれば、彼とも袂を分かつようになる。

「俺はエカテリーナ嬢と弟との婚約をなしにしたい」
 希望する言葉ではあったが、本当にそれは信じていいのだろうか。

 猜疑の視線でカルロス様を見るが、平然と話を続ける。

「正直婚約をなしにしたくはない。エカテリーナ嬢はとても優秀で、身分も教養もある。それに魔石を用いずとも魔法を使う事が出来る貴重な人材だ、手放したくはない逸材だよ」
 それは便利な物という意味だろう。

「それは記憶のある時のエカテリーナ様の話です。今の彼女は普通の令嬢です」

「いずれ記憶が戻るかもしれないだろう? それに彼女は記憶はなくとも優秀だと聞いた。なにせ一回で物事を覚えてしまうと聞いたからな。その点でもぜひ弟の婚約者にでいてほしいと思うのだが」
 学園生活の様子については俺も報告を上げているし、成績については将来の王子妃になれるかと、学園も王家の命を受け報告を上げている。なのでカルロス様が知っていてもおかしくはないが……婚約継続事由の一つにはして欲しくない。

「しかしそれにより彼女が不幸になっていいわけではない。今まで散々お世話になっていたのに、記憶を失くしたエカテリーナ嬢を大切にしないローシュは、身内ながら情けなく思う。エカテリーナ嬢にも申し訳ない。これは王家というよりも、人として大問題だ。当然だがブルックリン侯爵もお怒りで、この前たっぷりとお𠮟りを受けたよ。しっかりと手綱を握れとな」

「そうなのですね」
 侯爵様はどれだけの抗議をしたのだろうか。
 カルロス様は詳細の説明を避けるためにおどけて言うが、実際はかなりがなり立てられただろうと予想出来る。

 だが、おかげでカルロス様がこちらの味方をしてくれる。
 それはエカテリーナ様を自由にするための大いなる力になるだろう。

「薄情なローシュをこのまま婚約者に据えていては、侯爵の不興を買うし、エカテリーナ嬢の不幸が継続されるばかりだけだ。ならばこれを機に解き放った方がいいだろう」
 カルロス様は苦渋の決断と言った顔をしている。

 本当は手放したくはないのだろう、だが止む無し、という事になのだろう。

「ぜひそうなる事を願います」
 カルロス様は眉間に皺を寄せ、問うような目を向けた。

「あっさりというものだな、ローシュとの婚約がなくなれば君はエカテリーナ嬢を側にいられなくなるというのに」

「あっ」
 その考えには至っていなかった。

(そうだ。俺は本来ローシュに仕えているものだ。今は主の婚約者だからとエカテリーナ様の側にいられるが、そうでなくなれば……)
 浅慮に気づいたが、すぐに想いは断ち切る。

「構いません。それでエカテリーナ様が幸せになるのならば」
 自分が足かせになるわけにはいかない。
 それにポエットが側にいるならば、自分は側にいなくても大丈夫なはずだ。

 俺が直接支えることが出来ないのは悔しいが、ここは自分の我儘を通すべきではない。

「お前なら、そう言うと思ったよ」
 カルロス様は申し訳なさそうに俯いた後、すぐに表情を切り替える。

「では俺は二人の婚約解消を進めていく。父上の説得に時間を要するが何とかしてくるからな」
 そう言ってカルロス様は側近と何やら話をし始めた、俺は退室する。

「失礼します」
 そう言って部屋を出ようとした時、最後にまた声を掛けられた。

「……もしもローシュに愛想がつきたら俺の元においで。悪いようにはしないから」

「ありがとうございます」
 兄弟でこうも違うものだなと俺は頭を下げた。

 同じ言葉をローシュが言ったとしても重みが違うだろうな。カルロス様は自分の言葉から逃げたりはしないだろうし、曖昧なままにはしない。

 そしてそんな彼を支える側近が羨ましくなった。

 彼らはお互いに信頼し合っているのが傍目から見てもわかる。いい主従関係だ。

(俺はローシュ様とあのような関係になれなかったな)
 ローシュだけのせいではなく己の力不足が招いたことも多々ある。

 だから婚約解消と共に側を離れることも致し方ない。

 主を諫めることが出来なかったのは俺の罪だ。
 エカテリーナ様の為ならば甘んじて罰を受けよう。





 そうして婚約解消の日がついにやってきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ
恋愛
「君のことは大好きだけど、そういうことをしたいとは思えないんだ」 初夜の晩、爵位を継いで伯爵になったばかりの夫、ロン様は私を寝室に置いて自分の部屋に戻っていった。 肉体的に結ばれることがないまま、3ヶ月が過ぎた頃、彼は私の妹を連れてきて言った。 「シェリル、落ち着いて聞いてほしい。ミシェルたちも僕たちと同じ状況らしいんだ。だから、夜だけパートナーを交換しないか?」 「お姉様が生んだ子供をわたしが育てて、わたしが生んだ子供をお姉様が育てれば血筋は途切れないわ」 そんな提案をされた私は、その場で離婚を申し出た。 でも、夫は絶対に別れたくないと離婚を拒み、両親や義両親も夫の味方だった。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...