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第37話 婚約解消の先(リヴィオ視点)
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カルロス様の部屋に入り、まずは俺から質問をする。
「幸せになるべきと先程おっしゃいましたが、具体的にはどのような未来がエカテリーナ様の幸せとお思いですか?」
カルロス様は幸せとはどのようなものだと思うのだろうか。
(それによって伝える内容は精査しなければならない)
エカテリーナ様の味方だとは信じたいが、ローシュの実兄だ。信じきって良いものか。
もしもまだ望まぬ我慢をエカテリーナ様に強いるようであれば、彼とも袂を分かつようになる。
「俺はエカテリーナ嬢と弟との婚約をなしにしたい」
希望する言葉ではあったが、本当にそれは信じていいのだろうか。
猜疑の視線でカルロス様を見るが、平然と話を続ける。
「正直婚約をなしにしたくはない。エカテリーナ嬢はとても優秀で、身分も教養もある。それに魔石を用いずとも魔法を使う事が出来る貴重な人材だ、手放したくはない逸材だよ」
それは便利な物という意味だろう。
「それは記憶のある時のエカテリーナ様の話です。今の彼女は普通の令嬢です」
「いずれ記憶が戻るかもしれないだろう? それに彼女は記憶はなくとも優秀だと聞いた。なにせ一回で物事を覚えてしまうと聞いたからな。その点でもぜひ弟の婚約者にでいてほしいと思うのだが」
学園生活の様子については俺も報告を上げているし、成績については将来の王子妃になれるかと、学園も王家の命を受け報告を上げている。なのでカルロス様が知っていてもおかしくはないが……婚約継続事由の一つにはして欲しくない。
「しかしそれにより彼女が不幸になっていいわけではない。今まで散々お世話になっていたのに、記憶を失くしたエカテリーナ嬢を大切にしないローシュは、身内ながら情けなく思う。エカテリーナ嬢にも申し訳ない。これは王家というよりも、人として大問題だ。当然だがブルックリン侯爵もお怒りで、この前たっぷりとお𠮟りを受けたよ。しっかりと手綱を握れとな」
「そうなのですね」
侯爵様はどれだけの抗議をしたのだろうか。
カルロス様は詳細の説明を避けるためにおどけて言うが、実際はかなりがなり立てられただろうと予想出来る。
だが、おかげでカルロス様がこちらの味方をしてくれる。
それはエカテリーナ様を自由にするための大いなる力になるだろう。
「薄情なローシュをこのまま婚約者に据えていては、侯爵の不興を買うし、エカテリーナ嬢の不幸が継続されるばかりだけだ。ならばこれを機に解き放った方がいいだろう」
カルロス様は苦渋の決断と言った顔をしている。
本当は手放したくはないのだろう、だが止む無し、という事になのだろう。
「ぜひそうなる事を願います」
カルロス様は眉間に皺を寄せ、問うような目を向けた。
「あっさりというものだな、ローシュとの婚約がなくなれば君はエカテリーナ嬢を側にいられなくなるというのに」
「あっ」
その考えには至っていなかった。
(そうだ。俺は本来ローシュに仕えているものだ。今は主の婚約者だからとエカテリーナ様の側にいられるが、そうでなくなれば……)
浅慮に気づいたが、すぐに想いは断ち切る。
「構いません。それでエカテリーナ様が幸せになるのならば」
自分が足かせになるわけにはいかない。
それにポエットが側にいるならば、自分は側にいなくても大丈夫なはずだ。
俺が直接支えることが出来ないのは悔しいが、ここは自分の我儘を通すべきではない。
「お前なら、そう言うと思ったよ」
カルロス様は申し訳なさそうに俯いた後、すぐに表情を切り替える。
「では俺は二人の婚約解消を進めていく。父上の説得に時間を要するが何とかしてくるからな」
そう言ってカルロス様は側近と何やら話をし始めた、俺は退室する。
「失礼します」
そう言って部屋を出ようとした時、最後にまた声を掛けられた。
「……もしもローシュに愛想がつきたら俺の元においで。悪いようにはしないから」
「ありがとうございます」
兄弟でこうも違うものだなと俺は頭を下げた。
同じ言葉をローシュが言ったとしても重みが違うだろうな。カルロス様は自分の言葉から逃げたりはしないだろうし、曖昧なままにはしない。
そしてそんな彼を支える側近が羨ましくなった。
彼らはお互いに信頼し合っているのが傍目から見てもわかる。いい主従関係だ。
(俺はローシュ様とあのような関係になれなかったな)
ローシュだけのせいではなく己の力不足が招いたことも多々ある。
だから婚約解消と共に側を離れることも致し方ない。
主を諫めることが出来なかったのは俺の罪だ。
エカテリーナ様の為ならば甘んじて罰を受けよう。
そうして婚約解消の日がついにやってきた。
「幸せになるべきと先程おっしゃいましたが、具体的にはどのような未来がエカテリーナ様の幸せとお思いですか?」
カルロス様は幸せとはどのようなものだと思うのだろうか。
(それによって伝える内容は精査しなければならない)
エカテリーナ様の味方だとは信じたいが、ローシュの実兄だ。信じきって良いものか。
もしもまだ望まぬ我慢をエカテリーナ様に強いるようであれば、彼とも袂を分かつようになる。
「俺はエカテリーナ嬢と弟との婚約をなしにしたい」
希望する言葉ではあったが、本当にそれは信じていいのだろうか。
猜疑の視線でカルロス様を見るが、平然と話を続ける。
「正直婚約をなしにしたくはない。エカテリーナ嬢はとても優秀で、身分も教養もある。それに魔石を用いずとも魔法を使う事が出来る貴重な人材だ、手放したくはない逸材だよ」
それは便利な物という意味だろう。
「それは記憶のある時のエカテリーナ様の話です。今の彼女は普通の令嬢です」
「いずれ記憶が戻るかもしれないだろう? それに彼女は記憶はなくとも優秀だと聞いた。なにせ一回で物事を覚えてしまうと聞いたからな。その点でもぜひ弟の婚約者にでいてほしいと思うのだが」
学園生活の様子については俺も報告を上げているし、成績については将来の王子妃になれるかと、学園も王家の命を受け報告を上げている。なのでカルロス様が知っていてもおかしくはないが……婚約継続事由の一つにはして欲しくない。
「しかしそれにより彼女が不幸になっていいわけではない。今まで散々お世話になっていたのに、記憶を失くしたエカテリーナ嬢を大切にしないローシュは、身内ながら情けなく思う。エカテリーナ嬢にも申し訳ない。これは王家というよりも、人として大問題だ。当然だがブルックリン侯爵もお怒りで、この前たっぷりとお𠮟りを受けたよ。しっかりと手綱を握れとな」
「そうなのですね」
侯爵様はどれだけの抗議をしたのだろうか。
カルロス様は詳細の説明を避けるためにおどけて言うが、実際はかなりがなり立てられただろうと予想出来る。
だが、おかげでカルロス様がこちらの味方をしてくれる。
それはエカテリーナ様を自由にするための大いなる力になるだろう。
「薄情なローシュをこのまま婚約者に据えていては、侯爵の不興を買うし、エカテリーナ嬢の不幸が継続されるばかりだけだ。ならばこれを機に解き放った方がいいだろう」
カルロス様は苦渋の決断と言った顔をしている。
本当は手放したくはないのだろう、だが止む無し、という事になのだろう。
「ぜひそうなる事を願います」
カルロス様は眉間に皺を寄せ、問うような目を向けた。
「あっさりというものだな、ローシュとの婚約がなくなれば君はエカテリーナ嬢を側にいられなくなるというのに」
「あっ」
その考えには至っていなかった。
(そうだ。俺は本来ローシュに仕えているものだ。今は主の婚約者だからとエカテリーナ様の側にいられるが、そうでなくなれば……)
浅慮に気づいたが、すぐに想いは断ち切る。
「構いません。それでエカテリーナ様が幸せになるのならば」
自分が足かせになるわけにはいかない。
それにポエットが側にいるならば、自分は側にいなくても大丈夫なはずだ。
俺が直接支えることが出来ないのは悔しいが、ここは自分の我儘を通すべきではない。
「お前なら、そう言うと思ったよ」
カルロス様は申し訳なさそうに俯いた後、すぐに表情を切り替える。
「では俺は二人の婚約解消を進めていく。父上の説得に時間を要するが何とかしてくるからな」
そう言ってカルロス様は側近と何やら話をし始めた、俺は退室する。
「失礼します」
そう言って部屋を出ようとした時、最後にまた声を掛けられた。
「……もしもローシュに愛想がつきたら俺の元においで。悪いようにはしないから」
「ありがとうございます」
兄弟でこうも違うものだなと俺は頭を下げた。
同じ言葉をローシュが言ったとしても重みが違うだろうな。カルロス様は自分の言葉から逃げたりはしないだろうし、曖昧なままにはしない。
そしてそんな彼を支える側近が羨ましくなった。
彼らはお互いに信頼し合っているのが傍目から見てもわかる。いい主従関係だ。
(俺はローシュ様とあのような関係になれなかったな)
ローシュだけのせいではなく己の力不足が招いたことも多々ある。
だから婚約解消と共に側を離れることも致し方ない。
主を諫めることが出来なかったのは俺の罪だ。
エカテリーナ様の為ならば甘んじて罰を受けよう。
そうして婚約解消の日がついにやってきた。
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