34 / 70
第34話 事件の時(リヴィオ視点)
しおりを挟む
そしてとうとうエカテリーナ様とブルックリン侯爵より苦言を受ける。
言われたことは尤もな内容なのに、ローシュは不貞腐れていた。
「…決…するか」
小さな声で何かを言うローシュの言葉は、俺の耳にははっきりとは聞こえなかった。
注意を受けた後は素直に反省したようで、ローシュはエカテリーナ様を放課後デートへと誘う。
いい傾向なのだが、エカテリーナ様の笑顔がローシュに向けられるのを見て、少しだけ胸が痛んだ。
(まだ引き返せる)
そう言い聞かせ、自分の気持ちを心の奥底にしまい込む。だがこの時にはもう遅かったらしい。
……後からポエットから気づいていたと指摘された時は顔から火が出る程恥ずかしかった。
市井でのデートは滞りなく進んでいく。
楽しそうな二人を見つめ、邪魔をしないように数歩下がって付き従った。
「……二人は幸せになれるかしら?」
ポエットが小さい声でそんな事を俺に言って来た。
「なるだろう。ローシュ様は王子、エカテリーナ様は侯爵令嬢。身分差もそれほどなく幼い頃から仲が良い。今は少しすれ違っているが、こうして会う時間を増やせばおのずとまた以前のようになるはずだ」
「んー」
ポエットは首を傾げる。
「私からしたらエカテリーナ様を幸せにするのは、ローシュ様ではない気がするの」
「……滅多なことを言うな。そんな言葉を誰かに聞かれたら困るのはお前だぞ」
俺は不敬罪を心配し、釘を刺す。
幸いにも雑踏のおかげで他の者にはポエットの言葉は届いていないようだ。
「誰も聞いてないし、聞かれても事実だもの。そんなに怒られないわよ」
ポエットは気にしておらず、軽い口調で話し続ける。幼い頃から一緒にいるが、このような軽口はいただけない。
「そもそもあんなに放っておいて、急な誘いで許す程エカテリーナ様は軽い女性ではないわ。それにこれだけ長くお付き合いしてるのに、自分の好みも覚えていない男を無条件に愛せるかしら? 先程の呆れたような顔をあなたも見たでしょ。ローシュ様ってばすぐにエカテリーナ様を軽く扱うんだもの、本っ当に許せない」
ケーキ屋での一件を言っているらしい。
ポエットはエカテリーナ様を尊敬というか崇拝しているため、本来の主であるはずのローシュ様への扱いが雑だ。
気持ちはわかるが、表に出し過ぎだ。
「そうだとしてもローシュ様は第二王子だ。エカテリーナ様と釣り合うに相応しい身分の人はローシュ様しかいない」
殆どの高位貴族はこのくらいの年齢になると婚約者がいることが多い。
家の存続に関わる大事な事なので、条件が良い者ほど早めに決める傾向だ。
例え恋愛感情がなくともだ。
「釣り合う身分ね。釣り合う男性って言わないところが何とも含みを感じるわ」
ポエットが何やら口元に笑みを浮かべて俺を見たが、それ以上は何も言わなかった。
話をしながら進んでいくうちに、何やらひと気のないところに出てしまったのもある。
(失態だな。このようなところにエカテリーナ様達を進ませてしまうなんて)
引き返そうとしてる間に殺気が感じられる。
ローシュとエカテリーナ様を守るため、俺とポエットは警戒を強め、すぐさま動いた。
ポエットがすぐさま要請を出した為に他の護衛もすぐさま駆けつけてくれて、事なきを得る。
だがローシュの我儘で場を離れた矢先に悲劇は起きた。
聞こえてくる悲鳴と熱気、そして人が燃える嫌な臭い。
身を翻し現場に戻れば、倒れたローシュと血まみれのエカテリーナ様が見えた。
ばらばらになった物には興味がない。
後から地に落ちていた人だった物がエカテリーナ様を傷つけたと聞いた時、俺はもっと踏みにじっておけば良かったと後悔した。
死してなお辱めることはないと言われるかもしれないが、細切れにしても良かったといまだに思う。
それをポエットにこぼしたら、「証拠がなくなるから何もしなくてよかったわ」と言われてしまった。
その後はすぐに治癒の魔石を扱える者を呼び、エカテリーナ様の回復をしてもらう。王城よりもブルックリン侯爵家の方が近い為にそちらに向かわせてもらった。
エカテリーナ様に触れる名誉を幸運にも頂けたので、私室に入らせてもらい、ベッドに横たわらせる。
余り眺めるわけにはいかないから、ベッドに横にさせた後は、すぐさま廊下に出た。
気を失ったローシュは軽症である事と、護衛の兼ね合いから王城へと運ばれる事となる。
そちらは他の者に任せ、俺とポエットはエカテリーナ様に付き添いたいと強く願い、残させてもらった。
その話になるとエカテリーナ様付の侍女リルハがこう言ってくる。
「ポエットがこちらに残るとなると、ローシュ様が大変なのでは?」
子どもではないし、王城には他にも侍女がいるのだから大丈夫だろうといったが、納得していないようだ。
何やらポエットと二人で話をし、少しもめた後リルハが代わりにローシュの元に行くことが決まった。
「これも侯爵様に後で言わないとね」
何やらげんなりした顔をしているが、今はそれどころではない。
(彼女が助かるならば、俺の命を捧げてもいい)
医師や侍女がひたすら出入りしているが、俺は眺めるしか出来ず、ひたすらに祈る。
(いくら剣の腕を鍛えても肝心な時に揮えないなんて!)
あの時あの場で離れた事を俺は一生後悔するだろう。
言われたことは尤もな内容なのに、ローシュは不貞腐れていた。
「…決…するか」
小さな声で何かを言うローシュの言葉は、俺の耳にははっきりとは聞こえなかった。
注意を受けた後は素直に反省したようで、ローシュはエカテリーナ様を放課後デートへと誘う。
いい傾向なのだが、エカテリーナ様の笑顔がローシュに向けられるのを見て、少しだけ胸が痛んだ。
(まだ引き返せる)
そう言い聞かせ、自分の気持ちを心の奥底にしまい込む。だがこの時にはもう遅かったらしい。
……後からポエットから気づいていたと指摘された時は顔から火が出る程恥ずかしかった。
市井でのデートは滞りなく進んでいく。
楽しそうな二人を見つめ、邪魔をしないように数歩下がって付き従った。
「……二人は幸せになれるかしら?」
ポエットが小さい声でそんな事を俺に言って来た。
「なるだろう。ローシュ様は王子、エカテリーナ様は侯爵令嬢。身分差もそれほどなく幼い頃から仲が良い。今は少しすれ違っているが、こうして会う時間を増やせばおのずとまた以前のようになるはずだ」
「んー」
ポエットは首を傾げる。
「私からしたらエカテリーナ様を幸せにするのは、ローシュ様ではない気がするの」
「……滅多なことを言うな。そんな言葉を誰かに聞かれたら困るのはお前だぞ」
俺は不敬罪を心配し、釘を刺す。
幸いにも雑踏のおかげで他の者にはポエットの言葉は届いていないようだ。
「誰も聞いてないし、聞かれても事実だもの。そんなに怒られないわよ」
ポエットは気にしておらず、軽い口調で話し続ける。幼い頃から一緒にいるが、このような軽口はいただけない。
「そもそもあんなに放っておいて、急な誘いで許す程エカテリーナ様は軽い女性ではないわ。それにこれだけ長くお付き合いしてるのに、自分の好みも覚えていない男を無条件に愛せるかしら? 先程の呆れたような顔をあなたも見たでしょ。ローシュ様ってばすぐにエカテリーナ様を軽く扱うんだもの、本っ当に許せない」
ケーキ屋での一件を言っているらしい。
ポエットはエカテリーナ様を尊敬というか崇拝しているため、本来の主であるはずのローシュ様への扱いが雑だ。
気持ちはわかるが、表に出し過ぎだ。
「そうだとしてもローシュ様は第二王子だ。エカテリーナ様と釣り合うに相応しい身分の人はローシュ様しかいない」
殆どの高位貴族はこのくらいの年齢になると婚約者がいることが多い。
家の存続に関わる大事な事なので、条件が良い者ほど早めに決める傾向だ。
例え恋愛感情がなくともだ。
「釣り合う身分ね。釣り合う男性って言わないところが何とも含みを感じるわ」
ポエットが何やら口元に笑みを浮かべて俺を見たが、それ以上は何も言わなかった。
話をしながら進んでいくうちに、何やらひと気のないところに出てしまったのもある。
(失態だな。このようなところにエカテリーナ様達を進ませてしまうなんて)
引き返そうとしてる間に殺気が感じられる。
ローシュとエカテリーナ様を守るため、俺とポエットは警戒を強め、すぐさま動いた。
ポエットがすぐさま要請を出した為に他の護衛もすぐさま駆けつけてくれて、事なきを得る。
だがローシュの我儘で場を離れた矢先に悲劇は起きた。
聞こえてくる悲鳴と熱気、そして人が燃える嫌な臭い。
身を翻し現場に戻れば、倒れたローシュと血まみれのエカテリーナ様が見えた。
ばらばらになった物には興味がない。
後から地に落ちていた人だった物がエカテリーナ様を傷つけたと聞いた時、俺はもっと踏みにじっておけば良かったと後悔した。
死してなお辱めることはないと言われるかもしれないが、細切れにしても良かったといまだに思う。
それをポエットにこぼしたら、「証拠がなくなるから何もしなくてよかったわ」と言われてしまった。
その後はすぐに治癒の魔石を扱える者を呼び、エカテリーナ様の回復をしてもらう。王城よりもブルックリン侯爵家の方が近い為にそちらに向かわせてもらった。
エカテリーナ様に触れる名誉を幸運にも頂けたので、私室に入らせてもらい、ベッドに横たわらせる。
余り眺めるわけにはいかないから、ベッドに横にさせた後は、すぐさま廊下に出た。
気を失ったローシュは軽症である事と、護衛の兼ね合いから王城へと運ばれる事となる。
そちらは他の者に任せ、俺とポエットはエカテリーナ様に付き添いたいと強く願い、残させてもらった。
その話になるとエカテリーナ様付の侍女リルハがこう言ってくる。
「ポエットがこちらに残るとなると、ローシュ様が大変なのでは?」
子どもではないし、王城には他にも侍女がいるのだから大丈夫だろうといったが、納得していないようだ。
何やらポエットと二人で話をし、少しもめた後リルハが代わりにローシュの元に行くことが決まった。
「これも侯爵様に後で言わないとね」
何やらげんなりした顔をしているが、今はそれどころではない。
(彼女が助かるならば、俺の命を捧げてもいい)
医師や侍女がひたすら出入りしているが、俺は眺めるしか出来ず、ひたすらに祈る。
(いくら剣の腕を鍛えても肝心な時に揮えないなんて!)
あの時あの場で離れた事を俺は一生後悔するだろう。
18
お気に入りに追加
756
あなたにおすすめの小説
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる