【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

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第34話 事件の時(リヴィオ視点)

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 そしてとうとうエカテリーナ様とブルックリン侯爵より苦言を受ける。
 言われたことは尤もな内容なのに、ローシュは不貞腐れていた。

「…決…するか」
 小さな声で何かを言うローシュの言葉は、俺の耳にははっきりとは聞こえなかった。

 注意を受けた後は素直に反省したようで、ローシュはエカテリーナ様を放課後デートへと誘う。
 いい傾向なのだが、エカテリーナ様の笑顔がローシュに向けられるのを見て、少しだけ胸が痛んだ。

(まだ引き返せる)
 そう言い聞かせ、自分の気持ちを心の奥底にしまい込む。だがこの時にはもう遅かったらしい。

 ……後からポエットから気づいていたと指摘された時は顔から火が出る程恥ずかしかった。





 市井でのデートは滞りなく進んでいく。

 楽しそうな二人を見つめ、邪魔をしないように数歩下がって付き従った。

「……二人は幸せになれるかしら?」
 ポエットが小さい声でそんな事を俺に言って来た。

「なるだろう。ローシュ様は王子、エカテリーナ様は侯爵令嬢。身分差もそれほどなく幼い頃から仲が良い。今は少しすれ違っているが、こうして会う時間を増やせばおのずとまた以前のようになるはずだ」

「んー」
 ポエットは首を傾げる。

「私からしたらエカテリーナ様を幸せにするのは、ローシュ様ではない気がするの」

「……滅多なことを言うな。そんな言葉を誰かに聞かれたら困るのはお前だぞ」
 俺は不敬罪を心配し、釘を刺す。
 幸いにも雑踏のおかげで他の者にはポエットの言葉は届いていないようだ。

「誰も聞いてないし、聞かれても事実だもの。そんなに怒られないわよ」
 ポエットは気にしておらず、軽い口調で話し続ける。幼い頃から一緒にいるが、このような軽口はいただけない。

「そもそもあんなに放っておいて、急な誘いで許す程エカテリーナ様は軽い女性ではないわ。それにこれだけ長くお付き合いしてるのに、自分の好みも覚えていない男を無条件に愛せるかしら? 先程の呆れたような顔をあなたも見たでしょ。ローシュ様ってばすぐにエカテリーナ様を軽く扱うんだもの、本っ当に許せない」
 ケーキ屋での一件を言っているらしい。
 ポエットはエカテリーナ様を尊敬というか崇拝しているため、本来の主であるはずのローシュ様への扱いが雑だ。
 気持ちはわかるが、表に出し過ぎだ。

「そうだとしてもローシュ様は第二王子だ。エカテリーナ様と釣り合うに相応しい身分の人はローシュ様しかいない」
 殆どの高位貴族はこのくらいの年齢になると婚約者がいることが多い。

 家の存続に関わる大事な事なので、条件が良い者ほど早めに決める傾向だ。
 例え恋愛感情がなくともだ。

「釣り合う身分ね。釣り合う男性って言わないところが何とも含みを感じるわ」
 ポエットが何やら口元に笑みを浮かべて俺を見たが、それ以上は何も言わなかった。

 話をしながら進んでいくうちに、何やらひと気のないところに出てしまったのもある。

(失態だな。このようなところにエカテリーナ様達を進ませてしまうなんて)
 引き返そうとしてる間に殺気が感じられる。

 ローシュとエカテリーナ様を守るため、俺とポエットは警戒を強め、すぐさま動いた。

 ポエットがすぐさま要請を出した為に他の護衛もすぐさま駆けつけてくれて、事なきを得る。

 だがローシュの我儘で場を離れた矢先に悲劇は起きた。

 聞こえてくる悲鳴と熱気、そして人が燃える嫌な臭い。

 身を翻し現場に戻れば、倒れたローシュと血まみれのエカテリーナ様が見えた。
 ばらばらになった物には興味がない。

 後から地に落ちていた人だった物がエカテリーナ様を傷つけたと聞いた時、俺はもっと踏みにじっておけば良かったと後悔した。

 死してなお辱めることはないと言われるかもしれないが、細切れにしても良かったといまだに思う。

 それをポエットにこぼしたら、「証拠がなくなるから何もしなくてよかったわ」と言われてしまった。

 その後はすぐに治癒の魔石を扱える者を呼び、エカテリーナ様の回復をしてもらう。王城よりもブルックリン侯爵家の方が近い為にそちらに向かわせてもらった。

 エカテリーナ様に触れる名誉を幸運にも頂けたので、私室に入らせてもらい、ベッドに横たわらせる。

 余り眺めるわけにはいかないから、ベッドに横にさせた後は、すぐさま廊下に出た。

 気を失ったローシュは軽症である事と、護衛の兼ね合いから王城へと運ばれる事となる。

 そちらは他の者に任せ、俺とポエットはエカテリーナ様に付き添いたいと強く願い、残させてもらった。

 その話になるとエカテリーナ様付の侍女リルハがこう言ってくる。

「ポエットがこちらに残るとなると、ローシュ様が大変なのでは?」
 子どもではないし、王城には他にも侍女がいるのだから大丈夫だろうといったが、納得していないようだ。

 何やらポエットと二人で話をし、少しもめた後リルハが代わりにローシュの元に行くことが決まった。

「これも侯爵様に後で言わないとね」
 何やらげんなりした顔をしているが、今はそれどころではない。

(彼女が助かるならば、俺の命を捧げてもいい)
 医師や侍女がひたすら出入りしているが、俺は眺めるしか出来ず、ひたすらに祈る。

(いくら剣の腕を鍛えても肝心な時に揮えないなんて!)
 あの時あの場で離れた事を俺は一生後悔するだろう。
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