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第33話 幼い頃から(リヴィオ視点)
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恋と呼べる感情が芽生えたのがいつだったかは覚えていない。
小さい頃はただ、主と同じく大事な人だと教えられ、命に代えても守るようにと言いつけられた。
穏やかで笑顔で会話するローシュ様とエカテリーナ様は傍目にはとてもお似合いであったのに。何時からだろうか、綻びを感じ始めたのは……
覚えている限りでは、贈り物の件辺りからだ。
幼い頃のローシュ様は身体が弱くて、起きていられる時間が少なかった。その為エカテリーナ様の好きそうなものを侍従たちが調べ、ピックアップしてローシュ様に選んでもらっていた。
だがある日それら全てを侍従たちで決めていいと言われた。
「それでよろしいのですか?」
乳兄弟でその当時一番近しい存在であった俺が代表でローシュ様に確認を取る。
「良いよ。君らを信頼しているし。贈り物を選ぶのも神経を使って疲れてしまうからね」
そう言われて無理強いは出来ない。
一応ローシュ様が健康になるまでの事、そして決定した品をローシュ様に確認して頂く事は了承頂いた。
暫くはそれで良かった。なのに。
「たまには僕の贈ったものを身につけて欲しいな」
その言葉にエカテリーナ様が動きを止めたのが分かる。その後すぐに我に返っていたが、確認するように目線を向けられ、俺達は心臓が止まる思いだ。
だが、聡いエカテリーナ様は何も言わず、ただローシュ様の言葉を受けて謝罪をし、「次回はぜひ」と答えるにとどまった。
俺達は言えない。
エカテリーナ様が身につけているのはローシュ様名義で贈ったプレゼントであるのに、それを告げることは出来ない。
今話したところで二人の面子を潰すことになる。エカテリーナ様はそれを見越して話を合わせ、自らが引くことで穏便の済ませてくれた。
慈悲深い彼女に頭が下がる。
ローシュ様にと伝えることもしたが、「そうだったの?」という言葉だけで終わらせられてしまった。
もう一度どういうものを贈ったか、目録も用意したが流し見で終わりだ。
次回試された事で完全に事は露呈するのだが、それでも彼女は静かに微笑んでいた。
たまらず謝罪を行いたいと思ったが、目が合ったエカテリーナ様は首を横に振り、静かに微笑むばかり。
(許すという事か)
それ以降エカテリーナ様はそういう面を気にしなかった。ローシュ様も特に触れることもない。
二人の関係性は変わる事はないが、エカテリーナ様の謙虚な態度に申し訳なさと、そして優しさに胸が打たれる思いであった。
このような方がローシュ様の妻になるなんてと、その幸運に涙した。
いつでもローシュ様を立て、支えてくれる。けして不平も不満も言わない。
身を挺してローシュ様も守ってくださった事もあり、一生主と、そして彼女に尽くしていこうと誓った――はずだった。
それを打ち砕いたのは、我が主ローシュの愚行だ。
成長するにつれてエカテリーナ様への扱いはぞんざいになってしまった。
健康になっているにも関わらず、贈り物など相変わらずこちらに丸投げだ。
エカテリーナ様は心を込めた贈り物をしてくれるのに、それに釣り合うものも用意しない、用意される資金もどんどん減らされている。
王家からの予算は変わらないのに、だ。
だがそれでも義務を果たすならばと思ったのだが、その義務すらもサボり始めた。
学園に入り、更にローシュは変わった。王族として流されてはいけないのに、簡単に周囲に流され、良いように扱われる。
ローシュには幾許かの交際費が割り当てられており、それを使うのは構わない。良い人材を確保するのには交流し、話を聞くのは良い事だから。
だが、エカテリーナ様を蔑ろにしていいわけではない。
しかもローシュが交流を図るのは下位貴族の子息・息女ばかり。
悪いとは言わないが、せめて実力のあるものにして欲しい。
実力のある者達であれば何も言わなかったが、彼・彼女たちは王族に使える者として必要な知識や知恵、才覚がないように思えた。
それならば知識も教養もある者から、ぜひとも将来の側近候補を探して欲しかったのだが、ローシュはそのような事をしなかった。
そして気づく。
ローシュは自分にとって耳障りの良い言葉を吐く者としか話をしていない、と。
ローシュに何回も進言もするがのらりくらりと交わすばかり。
有能なものと話をする機会を設けても何だかんだと理由をつけて、中座してしまう。
その内に相手の方がこちらから離れてしまった。
「リヴィオの気持ちはわかるが、話をする気もないものと話しても意味がないよ」
苦笑と共にそう言われ、申し訳なくなる。
何を言っても暖簾に腕押しで、ポエットと共に話をしても真剣には聞いてもらえなかった。
何をどう言っても伝わらないし、変わらない。歯がゆいことだ。
折角学園に通っているのだから、有益な交流を多く持ってもらいたいのに。
生徒会のミリティア様がいい例だ。
彼女のように真っ向から議論をぶつけてくる相手がローシュは苦手なようだが、意見が対立するというのはけして悪い事ではない。
別視点からの貴重な意見が聞けて、しかもミリティア様は博識で色々な切り口で物事を考える才女だ。
なのにローシュはそれを避け。ミリティア様と話すのをエカテリーナ様に任せるようになる。
最初は色々な事で衝突した二人だが話をするうちにいい関係となっていく。
こうしてぶつかる事によって高まる事もあるのに、ローシュはそれを厭い、すぐさま楽な道へと行きたがる。
「過保護にし過ぎたな……」
ようやく俺は自分が、自分達が過ちを犯したことに気づいた。
幼い頃に形成された人格が、今尚色濃く残るのだろう。
守られるだけでいいと思わせてしまったのはこちらの落ち度だ。
今のローシュに自分の足で立たねばならないと思わせるには、どうしたらいいのだろうか。
小さい頃はただ、主と同じく大事な人だと教えられ、命に代えても守るようにと言いつけられた。
穏やかで笑顔で会話するローシュ様とエカテリーナ様は傍目にはとてもお似合いであったのに。何時からだろうか、綻びを感じ始めたのは……
覚えている限りでは、贈り物の件辺りからだ。
幼い頃のローシュ様は身体が弱くて、起きていられる時間が少なかった。その為エカテリーナ様の好きそうなものを侍従たちが調べ、ピックアップしてローシュ様に選んでもらっていた。
だがある日それら全てを侍従たちで決めていいと言われた。
「それでよろしいのですか?」
乳兄弟でその当時一番近しい存在であった俺が代表でローシュ様に確認を取る。
「良いよ。君らを信頼しているし。贈り物を選ぶのも神経を使って疲れてしまうからね」
そう言われて無理強いは出来ない。
一応ローシュ様が健康になるまでの事、そして決定した品をローシュ様に確認して頂く事は了承頂いた。
暫くはそれで良かった。なのに。
「たまには僕の贈ったものを身につけて欲しいな」
その言葉にエカテリーナ様が動きを止めたのが分かる。その後すぐに我に返っていたが、確認するように目線を向けられ、俺達は心臓が止まる思いだ。
だが、聡いエカテリーナ様は何も言わず、ただローシュ様の言葉を受けて謝罪をし、「次回はぜひ」と答えるにとどまった。
俺達は言えない。
エカテリーナ様が身につけているのはローシュ様名義で贈ったプレゼントであるのに、それを告げることは出来ない。
今話したところで二人の面子を潰すことになる。エカテリーナ様はそれを見越して話を合わせ、自らが引くことで穏便の済ませてくれた。
慈悲深い彼女に頭が下がる。
ローシュ様にと伝えることもしたが、「そうだったの?」という言葉だけで終わらせられてしまった。
もう一度どういうものを贈ったか、目録も用意したが流し見で終わりだ。
次回試された事で完全に事は露呈するのだが、それでも彼女は静かに微笑んでいた。
たまらず謝罪を行いたいと思ったが、目が合ったエカテリーナ様は首を横に振り、静かに微笑むばかり。
(許すという事か)
それ以降エカテリーナ様はそういう面を気にしなかった。ローシュ様も特に触れることもない。
二人の関係性は変わる事はないが、エカテリーナ様の謙虚な態度に申し訳なさと、そして優しさに胸が打たれる思いであった。
このような方がローシュ様の妻になるなんてと、その幸運に涙した。
いつでもローシュ様を立て、支えてくれる。けして不平も不満も言わない。
身を挺してローシュ様も守ってくださった事もあり、一生主と、そして彼女に尽くしていこうと誓った――はずだった。
それを打ち砕いたのは、我が主ローシュの愚行だ。
成長するにつれてエカテリーナ様への扱いはぞんざいになってしまった。
健康になっているにも関わらず、贈り物など相変わらずこちらに丸投げだ。
エカテリーナ様は心を込めた贈り物をしてくれるのに、それに釣り合うものも用意しない、用意される資金もどんどん減らされている。
王家からの予算は変わらないのに、だ。
だがそれでも義務を果たすならばと思ったのだが、その義務すらもサボり始めた。
学園に入り、更にローシュは変わった。王族として流されてはいけないのに、簡単に周囲に流され、良いように扱われる。
ローシュには幾許かの交際費が割り当てられており、それを使うのは構わない。良い人材を確保するのには交流し、話を聞くのは良い事だから。
だが、エカテリーナ様を蔑ろにしていいわけではない。
しかもローシュが交流を図るのは下位貴族の子息・息女ばかり。
悪いとは言わないが、せめて実力のあるものにして欲しい。
実力のある者達であれば何も言わなかったが、彼・彼女たちは王族に使える者として必要な知識や知恵、才覚がないように思えた。
それならば知識も教養もある者から、ぜひとも将来の側近候補を探して欲しかったのだが、ローシュはそのような事をしなかった。
そして気づく。
ローシュは自分にとって耳障りの良い言葉を吐く者としか話をしていない、と。
ローシュに何回も進言もするがのらりくらりと交わすばかり。
有能なものと話をする機会を設けても何だかんだと理由をつけて、中座してしまう。
その内に相手の方がこちらから離れてしまった。
「リヴィオの気持ちはわかるが、話をする気もないものと話しても意味がないよ」
苦笑と共にそう言われ、申し訳なくなる。
何を言っても暖簾に腕押しで、ポエットと共に話をしても真剣には聞いてもらえなかった。
何をどう言っても伝わらないし、変わらない。歯がゆいことだ。
折角学園に通っているのだから、有益な交流を多く持ってもらいたいのに。
生徒会のミリティア様がいい例だ。
彼女のように真っ向から議論をぶつけてくる相手がローシュは苦手なようだが、意見が対立するというのはけして悪い事ではない。
別視点からの貴重な意見が聞けて、しかもミリティア様は博識で色々な切り口で物事を考える才女だ。
なのにローシュはそれを避け。ミリティア様と話すのをエカテリーナ様に任せるようになる。
最初は色々な事で衝突した二人だが話をするうちにいい関係となっていく。
こうしてぶつかる事によって高まる事もあるのに、ローシュはそれを厭い、すぐさま楽な道へと行きたがる。
「過保護にし過ぎたな……」
ようやく俺は自分が、自分達が過ちを犯したことに気づいた。
幼い頃に形成された人格が、今尚色濃く残るのだろう。
守られるだけでいいと思わせてしまったのはこちらの落ち度だ。
今のローシュに自分の足で立たねばならないと思わせるには、どうしたらいいのだろうか。
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