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第32話 別たれた道(ローシュ視点)
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そして運命の日。
僕はようやくエカテリーナから解放される。
少しだけ揉めたけれど、僕への罰はないものとされた。
個人財産を失ったら、僕は自由に動く事が出来なくなるもの。それは嫌だったから助かった。
そもそもエカテリーナとの婚約は父様が決めたものだ、なのに僕が責任を持つなんておかし過ぎる。そう思わないか?
「お前はエカテリーナ嬢に何も出来ないのだな」
兄様にそう言われたが、僕は何かをしてあげる気なんてさらさらなかった。
だって僕の婚約者だというだけで、彼女は幸せだったはずで、僕を支えることが彼女の存在意義だった。
なのに。
最後の笑顔が忘れられない。
彼女もまた解放されたと言わんばかりに、綺麗な、しがらみのない表情だったのだ。
彼女が僕との婚約を解消した後にリヴィオと婚約を結んだと聞いた。
もう側近ではないため詳しくは知らないけれど、噂話くらいは回ってくる。
政略ではなさそうな雰囲気で、とても仲睦まじい様子だとか。
納得は行かないが、僕から彼女たちに近づくことはない。気にはなっているが正直エカテリーナに構う時間がないのだ。
名実共に彼女が離れた事で、本格的に仕事をしなくてはならなくなった。
生徒会長は嫌がらせのように仕事を多く回してくるし、逃げることはブライトンが許さない。
学園に苦言を呈するものの、学園に通う王族の義務と言われ、逃げることは叶わなかった。
カルロス殿下はもっと卒なくこなしていたなどと言われ、余計に嫌な気持ちになる。
僕は僕だ。そして出来ないものは出来ない。
次の婚約者が決まったらエカテリーナのように仕事を請け負ってもらおうと思ったが、なかなかその話も来ないので不思議だった。
父様に聞いてみると意外な事を言われる。
「お前に非があるのは明らかなのだから、反省が見え、そしてほとぼりが冷めるまでは次の縁談は結べない」
おかしい。
婚約は破棄ではなく、解消だ。
そうなれば僕には非がない事になるはずなのに。
「お前がしたことは皆が知っている。好んで婚約者になろうという令嬢は今のところいないんだ」
その言葉にがっかりした。
では、次の僕の手駒はしばらく来ないという事か。
不貞腐れ、体調がいまいちだといっても、仕事が免除になる事はない。
側近に手伝ってもらってはいるが、リヴィオやポエットのようには進まず歯噛みする。
僕を褒めたたえるだけでは仕事は減らないし、それは僕の求めるものではない。
「ここまで使えないとは思っていなかった」
リヴィオとポエット、そしてエカテリーナがどれだけ有能だったか図らずとも知ることになった。
涼しい顔で卒なくこなしていたから、他の者でも少し学べばきっと同じように動けるだろうと思っていたのに、このところ寝ることもままならない。
忙しいのはあるが、苛立ちが収まらないのだ。
(どうして僕がこんな苦労をしなければいけないんだ。何故自由がなくなるのだ)
雁字搦めの毎日に息が苦しくなり、頭の中がぐるぐるしている。
エカテリーナがいなければ静かな日が過ごせると思ったのに。
気の合う友人や婚約者、そして僕を支える有能な側近。
するりと僕の手から離れてしまったが、僕のせいではない。
全ては周囲が悪いのだから。
皆が僕の為に動かなくてはいけない。
僕は王子で、そしてこの国にいなくてはならない存在で、こんな扱いを受けるような人間ではない。
エカテリーナに戻ってきてほしいわけではないが、彼女がいた時はまだマシだった気がする。
ならば、彼女が記憶を失った事が悪いのでは?
王子妃教育も受け、魔法も使え、生徒会の仕事にも精通している彼女は僕の代わりを務められる数少ない人材だ。
だが僕は彼女に近づくのは禁止されている。
彼女の心の傷が言えるようにとのお達しだが、では僕の傷心は誰が癒す?
少しは彼女の責任を問う事があってもいいのでは?
リヴィオもだ。
幼い頃から一緒にいて、エカテリーナを狙っているとは思わなかった。
好機だと思ったのだろうか? 記憶を失くしたエカテリーナに取り入り侯爵家と繋がれたのは、子爵家にとっては良い事だものな。
心が疲弊していくにつれ、エカテリーナ達への憎しみが生まれた。
最初はほんの小さな火種だったのが、どんどんと燃え上がるのを感じる。
笑顔の仮面の裏で僕は一矢報いることを誓ったのだ。
僕はようやくエカテリーナから解放される。
少しだけ揉めたけれど、僕への罰はないものとされた。
個人財産を失ったら、僕は自由に動く事が出来なくなるもの。それは嫌だったから助かった。
そもそもエカテリーナとの婚約は父様が決めたものだ、なのに僕が責任を持つなんておかし過ぎる。そう思わないか?
「お前はエカテリーナ嬢に何も出来ないのだな」
兄様にそう言われたが、僕は何かをしてあげる気なんてさらさらなかった。
だって僕の婚約者だというだけで、彼女は幸せだったはずで、僕を支えることが彼女の存在意義だった。
なのに。
最後の笑顔が忘れられない。
彼女もまた解放されたと言わんばかりに、綺麗な、しがらみのない表情だったのだ。
彼女が僕との婚約を解消した後にリヴィオと婚約を結んだと聞いた。
もう側近ではないため詳しくは知らないけれど、噂話くらいは回ってくる。
政略ではなさそうな雰囲気で、とても仲睦まじい様子だとか。
納得は行かないが、僕から彼女たちに近づくことはない。気にはなっているが正直エカテリーナに構う時間がないのだ。
名実共に彼女が離れた事で、本格的に仕事をしなくてはならなくなった。
生徒会長は嫌がらせのように仕事を多く回してくるし、逃げることはブライトンが許さない。
学園に苦言を呈するものの、学園に通う王族の義務と言われ、逃げることは叶わなかった。
カルロス殿下はもっと卒なくこなしていたなどと言われ、余計に嫌な気持ちになる。
僕は僕だ。そして出来ないものは出来ない。
次の婚約者が決まったらエカテリーナのように仕事を請け負ってもらおうと思ったが、なかなかその話も来ないので不思議だった。
父様に聞いてみると意外な事を言われる。
「お前に非があるのは明らかなのだから、反省が見え、そしてほとぼりが冷めるまでは次の縁談は結べない」
おかしい。
婚約は破棄ではなく、解消だ。
そうなれば僕には非がない事になるはずなのに。
「お前がしたことは皆が知っている。好んで婚約者になろうという令嬢は今のところいないんだ」
その言葉にがっかりした。
では、次の僕の手駒はしばらく来ないという事か。
不貞腐れ、体調がいまいちだといっても、仕事が免除になる事はない。
側近に手伝ってもらってはいるが、リヴィオやポエットのようには進まず歯噛みする。
僕を褒めたたえるだけでは仕事は減らないし、それは僕の求めるものではない。
「ここまで使えないとは思っていなかった」
リヴィオとポエット、そしてエカテリーナがどれだけ有能だったか図らずとも知ることになった。
涼しい顔で卒なくこなしていたから、他の者でも少し学べばきっと同じように動けるだろうと思っていたのに、このところ寝ることもままならない。
忙しいのはあるが、苛立ちが収まらないのだ。
(どうして僕がこんな苦労をしなければいけないんだ。何故自由がなくなるのだ)
雁字搦めの毎日に息が苦しくなり、頭の中がぐるぐるしている。
エカテリーナがいなければ静かな日が過ごせると思ったのに。
気の合う友人や婚約者、そして僕を支える有能な側近。
するりと僕の手から離れてしまったが、僕のせいではない。
全ては周囲が悪いのだから。
皆が僕の為に動かなくてはいけない。
僕は王子で、そしてこの国にいなくてはならない存在で、こんな扱いを受けるような人間ではない。
エカテリーナに戻ってきてほしいわけではないが、彼女がいた時はまだマシだった気がする。
ならば、彼女が記憶を失った事が悪いのでは?
王子妃教育も受け、魔法も使え、生徒会の仕事にも精通している彼女は僕の代わりを務められる数少ない人材だ。
だが僕は彼女に近づくのは禁止されている。
彼女の心の傷が言えるようにとのお達しだが、では僕の傷心は誰が癒す?
少しは彼女の責任を問う事があってもいいのでは?
リヴィオもだ。
幼い頃から一緒にいて、エカテリーナを狙っているとは思わなかった。
好機だと思ったのだろうか? 記憶を失くしたエカテリーナに取り入り侯爵家と繋がれたのは、子爵家にとっては良い事だものな。
心が疲弊していくにつれ、エカテリーナ達への憎しみが生まれた。
最初はほんの小さな火種だったのが、どんどんと燃え上がるのを感じる。
笑顔の仮面の裏で僕は一矢報いることを誓ったのだ。
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