31 / 70
第31話 解消へ向けて(ローシュ視点)
しおりを挟む
そうして父と母、更に兄のいるところに呼び出された。
「一体どうしたのですか?」
和気あいあいとした空気ではない。
ピリピリとした空気に僕は思わず縮こまる。
「これは本当か?」
そう言って差し出された書類は、僕がエカテリーナに対して不誠実であるというものだ。
「記憶のないエカテリーナ嬢を支えるようにと何度も言ったはずだが。そしてこのフロルという女、これは本当にお前の愛人なのか?」
「愛人?!」
さすがに首を横に振って否定する。
「彼女は友人の一人で、愛人なんてとんでもない! そんなつもりはかけらもありません」
そこは気をつけていたつもりだ。
婚約者以外の女性と二人きりになる事も、そのような距離に近づくこともしていない。
「では何故彼女がエカテリーナ嬢に生徒会の仕事を手伝えと言って来たのだ? フロルは生徒会に関係ないし、エカテリーナ嬢との接点はない。この女はローシュの為にとエカテリーナ嬢の元に怒鳴り込んだそうだぞ。そんな事をするなんて、ローシュと親しいものなのではないかと、ブルックリン侯爵からも真偽を問う手紙が来ている」
「誤解です。フロルには生徒会の仕事が大変だとは零しましたが、エカテリーナにそのような事を言えなどとはいってはおりません!」
僕は必死だった。
エカテリーナと婚約解消はしたいが、父たちの不興を買いたいわけではない。
「そうか。ではフロルという女がしたのは独断だという事だな」
「はい」
友人であるフロルには悪いが、ここで彼女を救おうとして一緒に断罪されても嫌だ。
彼女は確か男爵家……だったか。
高位貴族に対し、怒鳴り込むなんて、そのような事をただの男爵令嬢がしたとあれば、侯爵家は黙っていない。
無論エカテリーナの保護をする立場である王家もだ。
「ローシュ。エカテリーナさんはずっとあなたを支えてくれていたわ。このような不誠実な事がもし本当であれば、許されないことよ」
いつも優しい母が怒っているのを見て、大事な話だとはわかる。
しかし納得出来ない部分も多くあり、なかなか返事が出ない。
「お前は学園で何をしているのだ」
家族の責める視線に手足が冷えて、感覚がなくなってくる。
エカテリーナを守れていない僕にも少なからずお咎めが来そうだ。
「侯爵からの手紙にはそれ以外にも数々の事が書かれている。お前がエカテリーナを大事にしていないという旨の事がな」
「いえ、大事にしていないわけではありません。僕は忙しくて、だからリヴィオにしてもらっていて」
「他の者が王子の代わりになるか?」
そんな父の言葉に僕は何も言えない。
「お前がエカテリーナ嬢を大切にしているという姿勢が大事なのだ。それを一介の騎士にさせるとは、エカテリーナ嬢を軽んじているという事。それは王家がブルックリン侯爵を軽んじている事と同義となる。わかるか?」
貴族は何よりも侮られることを嫌う。
それはそのまま自分の命や生活に直結するからだ。
「王家がブルックリン侯爵を大事にしないとなれば、侯爵は王家を信用しなくなる。侯爵ほどの地位のものが王家から離れれば、それはそのまま国力に影響を与えるのだ。彼の派閥がごっそりと抜けることになり、王家は衰退する。そうならないためにエカテリーナ嬢をお前の婚約者にして、つなぎとめていたという意味もあるのに」
はぁっと父様はため息をついた。
「……これからは気をつけろ」
「はい」
退室を促され、僕は部屋へ帰る。
許された、そう思ったのだ。
(何だかんだ言って父様は僕に甘い)
胸を撫でおろし、僕は自室へと戻る。
お茶を飲み、しばし待ったりしていると、ノックの音が聞こえる。
来たのはカルロス兄様だ。
「今大丈夫か?」
「はい」
何だろう、まだ説教だろうか。
ソファに座ってもらい、侍女にお茶を淹れてもらう。
「彼女は、エカテリーナ嬢の侍女だったな」
「えぇ。ポエットがエカテリーナの為に向こうに言っているために代わりに来てもらっているのです。彼女もここが気に入ったようです」
ぺこりと頭を下げるリルハを兄様は笑顔もなく見つめている。
「……お前は本当に何もわかっていないな」
静かに息を吐いた後、兄様は驚くべきことを口にした。
「エカテリーナ嬢との婚約を解消しないか?」
まさか兄の口からそのような言葉が出るとは。
「それは願ってもない事ですが、父様がきっと反対しますよ」
兄様が出した話なのに、僕の返事を聞いて更に鎮痛な面持ちになっている。
何故だろう。
「……お前が解消したいというなら飲み込むさ。あの人はお前を大事に思っているからな」
苦々しい顔と口調で視線を床に落としている兄様は更に続ける。
「ローシュがエカテリーナ嬢との婚約継続を望まないならば、これを機に解消に持っていけるはずだ」
僕は少し悩んだが、兄様に心情を吐露した。
「そうですね。正直エカテリーナの婚約者でいるのは荷が重いというか大変というか……彼女を助けることが出来るのは僕ではない気がします」
そして僕を支えるのもきっと彼女ではない。以前の彼女はとても頼りになる存在だったが、僕の心には寄り添ってくれなかった。
ならば次は能力が劣ろうとも僕に優しく微笑みかけてくれて、側にいてくれる女性がいい。
「では俺が父上に掛け合う、しかし本当にそれでいいか? 未練はないのか?」
確認するように、そして懇願するような眼差しを感じる。
(兄様は僕とエカテリーナの婚約解消に賛成? 反対? どっちなんだろう)
兄の真意はわからないけれど、僕は僕の心を知っている。
「えぇ。エカテリーナとの婚約解消をお願いします」
「……わかった。俺に任せろ」
兄様はそう言うと僕の頭を撫でてくれる。
「きっといい人がみつかるさ」
やはり兄は優しい、その言葉に僕は勇気を貰った。
◇◇◇◇◇
お読み頂きありがとうございます。
日に日に読む方が増えており、ご意見・感想も増えて嬉しいです。
ですが話はまだ途中でして、疑問に思う部分が多々あるかと思うのですが、先の話で明かされることもありますので、気長にお待ち頂ければと思います。
また建設的な意見はともかく批判はご遠慮下さい。
結構凹みます。
お願いが多くて申し訳ありません。
執筆意欲継続の為に書かせて頂きました。
出来れば完結まで投稿を続けたいのでよろしくお願いします。
「一体どうしたのですか?」
和気あいあいとした空気ではない。
ピリピリとした空気に僕は思わず縮こまる。
「これは本当か?」
そう言って差し出された書類は、僕がエカテリーナに対して不誠実であるというものだ。
「記憶のないエカテリーナ嬢を支えるようにと何度も言ったはずだが。そしてこのフロルという女、これは本当にお前の愛人なのか?」
「愛人?!」
さすがに首を横に振って否定する。
「彼女は友人の一人で、愛人なんてとんでもない! そんなつもりはかけらもありません」
そこは気をつけていたつもりだ。
婚約者以外の女性と二人きりになる事も、そのような距離に近づくこともしていない。
「では何故彼女がエカテリーナ嬢に生徒会の仕事を手伝えと言って来たのだ? フロルは生徒会に関係ないし、エカテリーナ嬢との接点はない。この女はローシュの為にとエカテリーナ嬢の元に怒鳴り込んだそうだぞ。そんな事をするなんて、ローシュと親しいものなのではないかと、ブルックリン侯爵からも真偽を問う手紙が来ている」
「誤解です。フロルには生徒会の仕事が大変だとは零しましたが、エカテリーナにそのような事を言えなどとはいってはおりません!」
僕は必死だった。
エカテリーナと婚約解消はしたいが、父たちの不興を買いたいわけではない。
「そうか。ではフロルという女がしたのは独断だという事だな」
「はい」
友人であるフロルには悪いが、ここで彼女を救おうとして一緒に断罪されても嫌だ。
彼女は確か男爵家……だったか。
高位貴族に対し、怒鳴り込むなんて、そのような事をただの男爵令嬢がしたとあれば、侯爵家は黙っていない。
無論エカテリーナの保護をする立場である王家もだ。
「ローシュ。エカテリーナさんはずっとあなたを支えてくれていたわ。このような不誠実な事がもし本当であれば、許されないことよ」
いつも優しい母が怒っているのを見て、大事な話だとはわかる。
しかし納得出来ない部分も多くあり、なかなか返事が出ない。
「お前は学園で何をしているのだ」
家族の責める視線に手足が冷えて、感覚がなくなってくる。
エカテリーナを守れていない僕にも少なからずお咎めが来そうだ。
「侯爵からの手紙にはそれ以外にも数々の事が書かれている。お前がエカテリーナを大事にしていないという旨の事がな」
「いえ、大事にしていないわけではありません。僕は忙しくて、だからリヴィオにしてもらっていて」
「他の者が王子の代わりになるか?」
そんな父の言葉に僕は何も言えない。
「お前がエカテリーナ嬢を大切にしているという姿勢が大事なのだ。それを一介の騎士にさせるとは、エカテリーナ嬢を軽んじているという事。それは王家がブルックリン侯爵を軽んじている事と同義となる。わかるか?」
貴族は何よりも侮られることを嫌う。
それはそのまま自分の命や生活に直結するからだ。
「王家がブルックリン侯爵を大事にしないとなれば、侯爵は王家を信用しなくなる。侯爵ほどの地位のものが王家から離れれば、それはそのまま国力に影響を与えるのだ。彼の派閥がごっそりと抜けることになり、王家は衰退する。そうならないためにエカテリーナ嬢をお前の婚約者にして、つなぎとめていたという意味もあるのに」
はぁっと父様はため息をついた。
「……これからは気をつけろ」
「はい」
退室を促され、僕は部屋へ帰る。
許された、そう思ったのだ。
(何だかんだ言って父様は僕に甘い)
胸を撫でおろし、僕は自室へと戻る。
お茶を飲み、しばし待ったりしていると、ノックの音が聞こえる。
来たのはカルロス兄様だ。
「今大丈夫か?」
「はい」
何だろう、まだ説教だろうか。
ソファに座ってもらい、侍女にお茶を淹れてもらう。
「彼女は、エカテリーナ嬢の侍女だったな」
「えぇ。ポエットがエカテリーナの為に向こうに言っているために代わりに来てもらっているのです。彼女もここが気に入ったようです」
ぺこりと頭を下げるリルハを兄様は笑顔もなく見つめている。
「……お前は本当に何もわかっていないな」
静かに息を吐いた後、兄様は驚くべきことを口にした。
「エカテリーナ嬢との婚約を解消しないか?」
まさか兄の口からそのような言葉が出るとは。
「それは願ってもない事ですが、父様がきっと反対しますよ」
兄様が出した話なのに、僕の返事を聞いて更に鎮痛な面持ちになっている。
何故だろう。
「……お前が解消したいというなら飲み込むさ。あの人はお前を大事に思っているからな」
苦々しい顔と口調で視線を床に落としている兄様は更に続ける。
「ローシュがエカテリーナ嬢との婚約継続を望まないならば、これを機に解消に持っていけるはずだ」
僕は少し悩んだが、兄様に心情を吐露した。
「そうですね。正直エカテリーナの婚約者でいるのは荷が重いというか大変というか……彼女を助けることが出来るのは僕ではない気がします」
そして僕を支えるのもきっと彼女ではない。以前の彼女はとても頼りになる存在だったが、僕の心には寄り添ってくれなかった。
ならば次は能力が劣ろうとも僕に優しく微笑みかけてくれて、側にいてくれる女性がいい。
「では俺が父上に掛け合う、しかし本当にそれでいいか? 未練はないのか?」
確認するように、そして懇願するような眼差しを感じる。
(兄様は僕とエカテリーナの婚約解消に賛成? 反対? どっちなんだろう)
兄の真意はわからないけれど、僕は僕の心を知っている。
「えぇ。エカテリーナとの婚約解消をお願いします」
「……わかった。俺に任せろ」
兄様はそう言うと僕の頭を撫でてくれる。
「きっといい人がみつかるさ」
やはり兄は優しい、その言葉に僕は勇気を貰った。
◇◇◇◇◇
お読み頂きありがとうございます。
日に日に読む方が増えており、ご意見・感想も増えて嬉しいです。
ですが話はまだ途中でして、疑問に思う部分が多々あるかと思うのですが、先の話で明かされることもありますので、気長にお待ち頂ければと思います。
また建設的な意見はともかく批判はご遠慮下さい。
結構凹みます。
お願いが多くて申し訳ありません。
執筆意欲継続の為に書かせて頂きました。
出来れば完結まで投稿を続けたいのでよろしくお願いします。
19
お気に入りに追加
756
あなたにおすすめの小説
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる