【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

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第29話 嬉しい誤算(ローシュ視点)

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「気が付いたか!」
 嬉しそうな両親と、そして兄の顔が目に入る。

 ぼんやりとした頭で襲われた後の事を聞いた。

 現在犯人達の身柄を拘束していて、取り調べをしていると。
 そしてエカテリーナは今意識不明の重体であるとも教えられた。

「エカテリーナ嬢が身を挺してお前を庇ったと聞いた、今まだ意識は戻らぬらしい。正直どうなるかはわからないそうだが……お礼とお詫びをしに侯爵家へ行こう」
 それを聞いて僕は心臓が飛び跳ねた様な気がした。

(生きている? そんな、あんなに血が出たのに)
 だが重体という事はどちらに転ぶかわからないというものだ。

 そのまま死ねば穏便に婚約は解消できるし、エカテリーナを盾にした事もバレないだろう。

「エカテリーナが目を覚ますことを、僕も祈っております」
 その後は気分が優れないと部屋に籠る日々が続く。

(ばれたらどうする? 僕は終わりだ。婚約解消どころか、婚約者を盾にしたと、と追い出されるかもしれない。下手したら、殺される?)
 今更ながら自分がしたことに怯え、僕は震えていた。

 食欲も落ち、血の気もなくなっていく。

 しかし周囲の者は「婚約者の容態を心配し、元気がないのだ」と優しく丁重に扱ってくれた。

(エカテリーナ、どうかそのまま死んでくれ)
 そんな願いも虚しく、やがてエカテリーナが目を覚ましたと知らされる。

 最初は絶望を感じたのだが、嬉しい知らせも飛び込んできた。

 エカテリーナは何も覚えていない、記憶喪失だという。
 今まで培った知識も教養も、そして魔法も使えなくなったそうだ。

 それを聞いて一気に元気にはなったけれど、懸念もあった。

「僕と会ったら記憶を取り戻すかもしれない」
 だから心労を理由に学園にも行かず、家に閉じこもった。

 手紙だけは欠かさず送ったが、体調不良を理由に代筆させ、しかもそれをリヴィオに届けさせた。

 リヴィオも自責の念に駆られており、嫌がることなく率先してブルックリン侯爵家へと足を運んでいる。

 ポエットもエカテリーナの世話をしたいと言ってあちらに通いっぱなしだ。

 僕は部屋から出ないから、代わりにエカテリーナの侍女が付き添ってくれた。

「殿下のお側にいられるなんて、とても幸せです」
 そう言って頬を紅潮させて甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

 昔から顔を合わせていたから、すんなりと周りに馴染んでいた。

(気難しく、時にピリピリとした空気を放つポエットよりもいいのではないか?)
 そんな事すら思ってしまう。

 逐一リヴィオとポエットが僕にエカテリーナとの話の内容や様子を教えてくれた。

 記憶を取り戻すようなことはなく、以前よりも大人しい性格になったそうだが……そう言われても会う気はしない。

 エカテリーナからの手紙は見ることなく文箱に入れた。
 見ても定型文ばかりなのだから、見る価値はないだろう。

 過去を失って書くこともないだろうし、色々教えて欲しいと言われても僕はエカテリーナの趣味や好みも覚えていない。

 下手に思い出すような事はしたくないし。

 そもそもエカテリーナのそういうものは全て侍従たちには任せていたから、僕に聞かれても困る。そう言った理由からも代筆にての当たり障りのない文通だった。

 数日経ち、兄様が部屋にやってきた。怒りの様子で。

「ローシュ。お前は命の恩人が意識を取り戻したというのに、まだ足を運んでいないのか」
 リヴィオが告げ口をしたのだろう。言わないようにと口止めしていたのに。

「すみません兄様。ですが体調が戻らず、どうしてもエカテリーナの屋敷に行くのが辛くて」
 病弱な僕がそう言えば、兄様は無理強いはさせない。

 ただ少し表情を曇らせ、ため息をつくに留めた。

「……ならば仕方ないが、学園へ行った際はしっかりとエカテリーナ嬢を支えるのだぞ。命の恩人に対する不義理は王家の沽券に関わるし、他の貴族への示しもつかない。婚約者という事もあるが、エカテリーナ嬢を大事にしないとお前の立場もない」

「はい。僕なりに大事にしていきます」

「必ずだからな。ではお前の代わりにエカテリーナ嬢のお見舞いに行く。ここまでしてくれた彼女の元へ、王家の誰もが顔を出さないなど許されないからな」
 そういって兄様は退室し、リヴィオもその後を付いて出て行った。

 今日の分の手紙を届けに行くのだろう。さすがに兄様にお使いなど頼めないし。

(復学したらまた何か手を考えないとな)
 記憶が戻って余計な事を言っても誰も味方にならないように、皆からも遠ざけよう。

 いずれは婚約解消をして王家との関係を断たせる……そうしたら今度こそ何も言えないようにするんだ。
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