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第23話 婚約解消成立
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「僕はね、エカテリーナ。君を大事に思っていた。でも君は僕に笑顔を向けることもなかったんだ」
「はぁ」
何とも言えない。ローシュは私が笑顔になれるよう努めていたかしら?
淑女教育で、むやみやたらに感情を露わにしないようにと言われているけれど、それを除いてもそんな場面はない。
(イラッとさせられた事しかないのに、心からの笑顔なんて出来ないわ)
しかも大事だったなんて……あんなにも冷たく当たられていたのに?
「君も僕の事を好きだった」
「そう、だったのですか?」
突然の言葉にびっくりした。記憶がないからと言って、捏造良くない。
「本当の君ならばこうして僕に迷惑をかけることを望まないはず。だから解消を受け入れる代わりに慰謝料の放棄をしてもらいたい」
何を言ってるのかわからない。
意味不明だわ。
私を大事に思っているのならば、慰謝料を払って解放して頂戴な。
「長年の娘の努力をなしにするわけには行きません。殿下、その要求はのめませんよ」
お父様が溜まらず言葉を発した。
私が流されないようにと助け船を出してくれたのだろうけど、さすがに記憶がなくともこのような無茶な要求を是とはしないわ。
カルロス殿下も呆れた顔で口を挟む。
「ローシュ、これ以上恥の上塗りは止めろ。お前はエカテリーナ嬢に対して誠実な対応を取ることを怠ってきたんだ。その結果こうして彼女から婚約解消の話が出た、それはお前が側にいる事以外で償わなければいけないという事だ。お前に非があるのは明らかだから、慰謝料を払うのは決定だ。それ以外に彼女の為に出来ることはない。ローシュ……残念だがお前には、婚約者を笑顔にする力はなかった。だから出来ることでエカテリーナ嬢の力になるのは、当然の事なんだよ」
カルロス様も口を開き、皆でローシュを説得にかかる。
だが憮然としたローシュだけは納得していない。
「非があるのはエカテリーナもですよ。だって記憶がないのですから」
部屋の空気が凍り付いた。
(誰のせいだと思っているのかしら)
全く悪いと思っていないのがこの発言でわかる。
ならば、だ。
「では、さっさと解消なさってください。記憶のない婚約者などお嫌でしょうから」
にこやかな笑みで私は言う。
こんな男とはもう一秒だって婚約者としていたくないわ。
「記憶がないことは不可抗力ですし、ただそれを非と言われるのは耐えられません。継続はやはり無理ですわ。ですから別な条件を飲んでもらえれば、ローシュ様からの慰謝料支払いはなしにしてもいいですよ」
「別な条件?」
ローシュは食いついてくる。
「えぇ。代わりに私の元にポエットとリヴィオが来ることをお許しください」
私の宣言に皆が驚いた。
「彼らは我が王家で雇っている者達だ、いくら君の頼みでもそれは」
「僕はそれで受け入れます」
陛下の言葉を遮り、勝手にローシュは了承した。
自分の懐が痛まないならばいいという思いがありありだ。
まぁ私も勝手に提案したからお父様も固まってしまっているけれど。
お兄様も口を挟みたいけれど、私の意見を尊重してくれたようで拳を握って口を噤んでくれている。
「ならばそれで終わりにしましょう。今の発言はすぐに書類に起こして改めて制約しましょうね。まぁ証人がいますから、大丈夫でしょうけれど」
何も口出しはしないが宰相と騎士団長もいる。
余計なことは一切しないし、言わないが、確かに聞いたという為の保証人だ。
地位もあり人望もある彼らと、そして弁護士がいる。これらの事はもう反古されないだろう。
「これで婚約はなくなりましたね」
サインした書類は見届け人に確認され、滞りなく受理された。
気づかれないように安堵のため息をつき、全てが終わったことにホッとした。
(ようやく終わったわ)
まだ詰める話はあるものの、もう婚約者関係は終わり。
「今までありがとうございました」
私は心からの笑みで婚約者に感謝を伝えたのに、同情するような蔑むように眉を顰めてこちらを見ている。
このような笑顔を見せる度に同じような顔をしていたが、一体何なのだろう。
(そんなに私が気に入らないのね)
きっと私が幸せそうにするが許せないのだろうな。
でももう関係はない。
私はようやく愛してもいない婚約者から解き放たれたのだから。
「はぁ」
何とも言えない。ローシュは私が笑顔になれるよう努めていたかしら?
淑女教育で、むやみやたらに感情を露わにしないようにと言われているけれど、それを除いてもそんな場面はない。
(イラッとさせられた事しかないのに、心からの笑顔なんて出来ないわ)
しかも大事だったなんて……あんなにも冷たく当たられていたのに?
「君も僕の事を好きだった」
「そう、だったのですか?」
突然の言葉にびっくりした。記憶がないからと言って、捏造良くない。
「本当の君ならばこうして僕に迷惑をかけることを望まないはず。だから解消を受け入れる代わりに慰謝料の放棄をしてもらいたい」
何を言ってるのかわからない。
意味不明だわ。
私を大事に思っているのならば、慰謝料を払って解放して頂戴な。
「長年の娘の努力をなしにするわけには行きません。殿下、その要求はのめませんよ」
お父様が溜まらず言葉を発した。
私が流されないようにと助け船を出してくれたのだろうけど、さすがに記憶がなくともこのような無茶な要求を是とはしないわ。
カルロス殿下も呆れた顔で口を挟む。
「ローシュ、これ以上恥の上塗りは止めろ。お前はエカテリーナ嬢に対して誠実な対応を取ることを怠ってきたんだ。その結果こうして彼女から婚約解消の話が出た、それはお前が側にいる事以外で償わなければいけないという事だ。お前に非があるのは明らかだから、慰謝料を払うのは決定だ。それ以外に彼女の為に出来ることはない。ローシュ……残念だがお前には、婚約者を笑顔にする力はなかった。だから出来ることでエカテリーナ嬢の力になるのは、当然の事なんだよ」
カルロス様も口を開き、皆でローシュを説得にかかる。
だが憮然としたローシュだけは納得していない。
「非があるのはエカテリーナもですよ。だって記憶がないのですから」
部屋の空気が凍り付いた。
(誰のせいだと思っているのかしら)
全く悪いと思っていないのがこの発言でわかる。
ならば、だ。
「では、さっさと解消なさってください。記憶のない婚約者などお嫌でしょうから」
にこやかな笑みで私は言う。
こんな男とはもう一秒だって婚約者としていたくないわ。
「記憶がないことは不可抗力ですし、ただそれを非と言われるのは耐えられません。継続はやはり無理ですわ。ですから別な条件を飲んでもらえれば、ローシュ様からの慰謝料支払いはなしにしてもいいですよ」
「別な条件?」
ローシュは食いついてくる。
「えぇ。代わりに私の元にポエットとリヴィオが来ることをお許しください」
私の宣言に皆が驚いた。
「彼らは我が王家で雇っている者達だ、いくら君の頼みでもそれは」
「僕はそれで受け入れます」
陛下の言葉を遮り、勝手にローシュは了承した。
自分の懐が痛まないならばいいという思いがありありだ。
まぁ私も勝手に提案したからお父様も固まってしまっているけれど。
お兄様も口を挟みたいけれど、私の意見を尊重してくれたようで拳を握って口を噤んでくれている。
「ならばそれで終わりにしましょう。今の発言はすぐに書類に起こして改めて制約しましょうね。まぁ証人がいますから、大丈夫でしょうけれど」
何も口出しはしないが宰相と騎士団長もいる。
余計なことは一切しないし、言わないが、確かに聞いたという為の保証人だ。
地位もあり人望もある彼らと、そして弁護士がいる。これらの事はもう反古されないだろう。
「これで婚約はなくなりましたね」
サインした書類は見届け人に確認され、滞りなく受理された。
気づかれないように安堵のため息をつき、全てが終わったことにホッとした。
(ようやく終わったわ)
まだ詰める話はあるものの、もう婚約者関係は終わり。
「今までありがとうございました」
私は心からの笑みで婚約者に感謝を伝えたのに、同情するような蔑むように眉を顰めてこちらを見ている。
このような笑顔を見せる度に同じような顔をしていたが、一体何なのだろう。
(そんなに私が気に入らないのね)
きっと私が幸せそうにするが許せないのだろうな。
でももう関係はない。
私はようやく愛してもいない婚約者から解き放たれたのだから。
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