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第20話 婚約解消への歩み

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 正直自分の手で下してやりたいという思いはあるが、そんな彼でも慕う者や親しい者がいるからそんな事は出来ない。
 またローシュに何かをしたらお父様やお兄様にも迷惑がかかる。

 それに敬愛するカルロス殿下を支える人が減るのは良くない。
 曲りなりにも彼は王族の血筋、利用価値は他の者に比べれば高いはずだわ。

 賽を振る能力もなく、知恵や知識が乏しくとも、生まれ持った血筋は貴くかけがえのないもの。

 ローシュについてどうするかは、国が決めるだろうからそちらに委ねましょう。
 ただ、やはり婚約解消は駄目でしたと復縁を迫られるのだけは嫌だ。

 ぜひともローシュには私以外の誰かと結婚してもらわなきゃ。
 フロルでもいい。離れてくれるなら誰でもいいの。

「エカテリーナ、少し待っていてくれ。私の方でも調査するから」
 長い沈黙を破り、ようやくお父様は口を開いてくれたわ。

「そのフロルという女が、ただの取り巻きの一人ならば無理だが、もしも恋人などというふしだらな関係になっていたならば、婚約解消はさせてもらう。今まで支えてきて、しかも命の恩人であるエカテリーナを差し置いて浮気なんてことがあれば、王家でも見限るぞ」
 静かに怒りを湛えるお父様の体からは、炎が立ち上っているようにも見える。

(お父様の怒りは当然よね。私が命をかけてローシュを助けたのに、こんな仕打ちをされたら、親として黙っていられないもの)
 お父様の愛情をこうして感じられるのは嬉しいものだ。

 普段は忙しくてなかなか話すことが出来ないが、こうして大事な時には話を聞いてくれて力にもなってくれる。

 心強いものだ。

 対してローシュは私の為に動かない。

 本当に浮気までしていたとなれば、私達侯爵家の者は疎か、他の貴族にも見限られる可能性が高い。

 私の目から見てだと情状酌量の余地はないと思うのだが、果たしてどうなるだろうか。

 彼は何を考え、どのような思いで動いているのだろう。

 私を軽んじてこのような行為をしたのだとしても、よくない事であると考えれば直ぐにわかりそうなものなのに。

 ローシュの将来、ローシュの未来はどうなるのだろうか。

「ぜひ詳しい調査をお願いします、お父様。心当たりはございませんが、私にも非があるかもしれません。その時はぜひ公正なる判断をよろしくお願いします」

「話を聞く限りエカテリーナにそれ程の非があるとは思えない……一つを除いてだが」
 その一つは私の記憶喪失だ。だがその点を言われても、ローシュが私を蔑ろにしたり浮気をしていい理由にはならない。

「片一方の話だけでは不足するところもあるだろう、調査が済み次第、また話をさせて貰う。だがそれまでの間、また変わったことがあれば話を聞かせてくれ。今後の交渉の為にも」
「わかりました。では失礼します」
 私は頭を下げ、お父様の部屋から退室をする。

 お父様に心配をかけるのは心苦しいが、致し方ない。

 婚約解消については家長の許しが要る、私の力だけではどうしようもないもの。

 穏便に済ませるには、だけどね。
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