【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

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第9話 気持ちのない手紙

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 彼は庇った私の見舞いには来ず、「心労の為に倒れた」として、ついぞ候爵家に来なかった。

(……手紙だけ寄越しても誠意は感じられなくてよ)
 毎日のようにリヴィオが夕方に手紙を持ってきてくれるが、手紙を何通もももらうよりも顔を見せてくれたほうが嬉しいのに。

 傷ついた婚約者の元に一度くらいは顔を出すかと思っていたのだが、それもなさそう。

 手紙の内容も傷や体調を心配する言葉はあるが、謝罪はない。

 多分だが私を押した事はなかったものとして処理されたのだ。

 私は記憶をなくした事になっているし、自分の命惜しさに婚約者を盾にしたなんて醜聞、自分から広める事はしないだろうし。

「ローシュは一体何を考えているのかしら」
 手紙の返事を書くからと自室で一人なのをいい事に、敬称なしだ。

 それ位いいだろう。

 言いたいこと、聞きたいことはたくさんあるのだが、記憶のない私からはまだ何も言えない。

 当たり障りのない事だけを書いた。

「まずリルハを返してほしいのよね」
 何故かローシュの侍女ポエットがあの日から私の侍女となり、候爵家で私の世話をしてくれていたリルハが、ローシュの世話をしているらしい。

「ポエットは気が強いから朗らかで大人しいリルハを連れてったのね」
 リルハも私の付き添いでローシュとよく顔を合わせていたし、ポエットともよく話をしていた。

 誰もいない部屋で私は苛立たしげに机を叩く。

 こんな手紙でも返事を出さないといけないとは、本当に婚約者って面倒臭い。

「まぁローシュもそう思ってるものね、似た者同士だわ」
 綺麗な字だけど、社交辞令な文言ばかりだ。

 急いで返事をしたためて、部屋を出る。

 廊下に待たせていたポエットとリヴィオは何やら話していたようだが、その様子に少し妬いてしまった。

(こんなふうに話せる関係になりたかったわ)
 気心のしれた関係性になりたかったと望むが、もう手遅れかもと自嘲してしまう。

「お待たせしてごめんなさい。こちらローシュ様に渡す手紙ですわ。いつも気遣って頂きありがとうございます」
 リヴィオに手紙を渡そうとして、考え直す。

「いつも手紙を渡すとすぐに帰ってしまうけれど、今日はもう少しお話をしません?」

「えっ?」
 唐突な言葉にリヴィオは戸惑ったようだ。

「間もなくお医者様の許可も出るし、復学するでしょ? その前にもっとローシュ様について知りたいの。ポエットからはよく聞くけれど、あなたから見たローシュ様の話も聞きたいわ」
 そう言ってリヴィオを引き止め、私はポエットにお茶を頼む。

(学園に行く前に、今のローシュの情報が欲しいわ。それにリヴィオが主をどう思ってるかも知りたい)
 このまま見舞いも来ないのであれば、会うのはきっと学園でだ。

 顔を合わせた時に彼はどんな反応をするか、そして私はどのような反応をしたらいいか。

 その為にも話を聞いて不都合が起きないようにしたい。

 本音ではリヴィオともう少し話をしたいというのは秘密だ。







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