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第19話 花の女神様
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「疲れた……」
私は身体がまだ馴染んでいない為に、疲れが溜まり、早々に部屋へと戻る。
アーネストも付いて来ると言ったがお断りした。
私達の為の祝いの席なのに、二人で抜ける事は良くないだろうと説得し、残ってもらう。
「これから二人でずっと居られるから」
そう言えばアーネストは渋々残ってくれた。
ドレスを脱いで楽な格好へと着替えさせて貰い、その後は一人ベッドで横になった。
一気に疲労が押し寄せて来て、自分の意思とは無関係に瞼が下りて来る。
(もう駄目……)
私は眠気に逆らわず、そのまま夢の世界へと旅発つこととなった。
◇◇◇
「ヴィオラ」
私を呼ぶ声に目を開ける。
しかしそこは自分の部屋ではない。
暗闇の中、一人の女性が不思議と見える。
明らかに人ではない
人であれば髪がある場所には蔓がうねり、花が咲いている。
白めのない目は深緑の色。
肌は人と同じに見えるが、足があるだろう部分には根っこが生えている。
「女神様」
人ならざるその姿は私には見知ったものである。
(家にある女神像に色がつけばこうなるのね)
初代アラカルト侯爵が造ったとされる女神像と同じ姿だ。
凄い再現力に驚いてしまう。
「ようやくこうして話すことが出来たわ」
「はぁ」
何とも煮え切らない返事をしてしまう。
だって、話せないのも会えないのも女神様のせいだから。
早くに認めてくれないし、六年もアーネストと会わせてくれなかったからだし。
自業自得な気がするわ。
「ごめんね」
あれ? 私今口に出して言ったかしら?
「いいえ。でも全て聞こえているわ」
もしかしてこれからこうして全て聞こえてしまうの?
「普段は出来るだけ聞かないようにするから」
なかなか信用ならない事を言われ、身構えてしまう。
花の女神様の感覚は人とは違うから、信じるのが難しい。
「そう言わないで、ヴィオラ。今度の今度は信じてちょうだい」
「それならば、心の声に返事はしないでください」
そう言えば刻々と頷いてくれた。
「それでここはどこなのですか? 何故女神様の姿が見えるようになったのです?」
声だけならば聞こえていたけれど、姿が見えるなんて誰も言ってなかった気がするのだけど。
「あなたは特別だから、私の空間に呼んだのよ」
そっと伸ばされた手が私の頬に触れる。
人のように見える肌なのに、どこか硬い。
「ヴィオラはあの子の血を強く受け継いだ子。だからずっとこのままで居て欲しかった。成長させたくなかったの」
アーネストを気に入らない以外にも理由があったという事?
「あの子って、誰の事ですか?」
「一番最初に私と友達になってくれた子の事よ」
女神様は愛おしそうに懐かしむように私の髪を撫でる。
「私がまだ女神と言われるような力もない、ほんの小さな精霊だったころに出会ったあの子。とても優しくて、そして魔力が豊富で、弱い私にいつも分け与えてくれた」
女神様にもそんな時代があったのね。
「あなたはその子に似ている。性格はちょっとアレだけど、見た目も仕草も、そして魂も」
「性格がアレってどういう事でしょう?」
思わず突っ込んでしまうが、昔会った子に似ているなんて、いいんだか、悪いんだか。
「だから成長を止めていたの。いつまでも子どものままならば老いて死ぬことはないから」
普通ならそんな発想にならないと思う。
だってお母様もお父様も私の成長を喜んでくれたもの。
やはり神様って感覚が違うのね。
まぁ普通は老いを止めるなんて望んでも出来ない事だけど。
「でも、それではヴィオラが幸せになれないってはわかっていたから、せめて少しでも長くと願い、アーネストに少し難題を出したのよ。まぁアーネストもあなたを守るのにはまだ早いし、不安だったのも本当だけど」
最終的には許してくれたから、今はもうその心配はないという事だろうか。
「安心してください。守られるばかりではいたくないので、共に力を合わせて生きたいと思っています」
夫婦というのは助け合っていくものだから、片一方に負担を強いるわけにはいかないと思っている。
「だから、安心して私達を見守っていてくださいね」
変わらずアラカルト家やこの国を守ってくれる、というならば文句を言うつもりはない。
いざという時はあの時のオニキスのように手助けしてくれるはずだし、女神様は頼もしい存在だ。
「そう言えばオニキス様がはどうされたのですか?」
「あまりにもヴィオラを困らせるから、蔓と草で包んでカミディオンにまで戻ってもらったわ。少しおまけをつけて」
おまけというのはどういう事だろう。
「簡単な物よ。カミディオンの植物の精霊達に頼んで来ただけ。この男がブルーメ国に来ないようにしてちょうだいって」
女神様に言われたのでは精霊達もいう事を聞かざるを得ないのだろうな。
「女神様はアラカルト家、そしてこの国の守護神ですね」
何の気なしに言った言葉に女神様は少し眉を寄せて微笑んだ。
「そうね、この国は私の大事な子達の母国だから」
撫で撫でされ、そうして手が離れると今度は暗い空間に光が差してくる。
「そろそろ起きる時間ね」
女神様の手が私の髪から離れる。
「不本意だけどアーネストも待ってるし、帰してあげる」
花の女神様はそう言うと私の目に触れ、何かを呟く。
「あなただけは私を介さなくても、植物達と話せるようにしてあげる。草や花の生えている場所ならば聞くことが出来るわ。これからの生活に役立てて欲しいわ」
どうやらこれが私だけの特別な事なのだろう。
まぁ女神様を介さないという事は自分の好きな時に発動させることが出来る。
家を継いだ時やちょっとした証拠集めに便利そうな魔法だ。
私は身体がまだ馴染んでいない為に、疲れが溜まり、早々に部屋へと戻る。
アーネストも付いて来ると言ったがお断りした。
私達の為の祝いの席なのに、二人で抜ける事は良くないだろうと説得し、残ってもらう。
「これから二人でずっと居られるから」
そう言えばアーネストは渋々残ってくれた。
ドレスを脱いで楽な格好へと着替えさせて貰い、その後は一人ベッドで横になった。
一気に疲労が押し寄せて来て、自分の意思とは無関係に瞼が下りて来る。
(もう駄目……)
私は眠気に逆らわず、そのまま夢の世界へと旅発つこととなった。
◇◇◇
「ヴィオラ」
私を呼ぶ声に目を開ける。
しかしそこは自分の部屋ではない。
暗闇の中、一人の女性が不思議と見える。
明らかに人ではない
人であれば髪がある場所には蔓がうねり、花が咲いている。
白めのない目は深緑の色。
肌は人と同じに見えるが、足があるだろう部分には根っこが生えている。
「女神様」
人ならざるその姿は私には見知ったものである。
(家にある女神像に色がつけばこうなるのね)
初代アラカルト侯爵が造ったとされる女神像と同じ姿だ。
凄い再現力に驚いてしまう。
「ようやくこうして話すことが出来たわ」
「はぁ」
何とも煮え切らない返事をしてしまう。
だって、話せないのも会えないのも女神様のせいだから。
早くに認めてくれないし、六年もアーネストと会わせてくれなかったからだし。
自業自得な気がするわ。
「ごめんね」
あれ? 私今口に出して言ったかしら?
「いいえ。でも全て聞こえているわ」
もしかしてこれからこうして全て聞こえてしまうの?
「普段は出来るだけ聞かないようにするから」
なかなか信用ならない事を言われ、身構えてしまう。
花の女神様の感覚は人とは違うから、信じるのが難しい。
「そう言わないで、ヴィオラ。今度の今度は信じてちょうだい」
「それならば、心の声に返事はしないでください」
そう言えば刻々と頷いてくれた。
「それでここはどこなのですか? 何故女神様の姿が見えるようになったのです?」
声だけならば聞こえていたけれど、姿が見えるなんて誰も言ってなかった気がするのだけど。
「あなたは特別だから、私の空間に呼んだのよ」
そっと伸ばされた手が私の頬に触れる。
人のように見える肌なのに、どこか硬い。
「ヴィオラはあの子の血を強く受け継いだ子。だからずっとこのままで居て欲しかった。成長させたくなかったの」
アーネストを気に入らない以外にも理由があったという事?
「あの子って、誰の事ですか?」
「一番最初に私と友達になってくれた子の事よ」
女神様は愛おしそうに懐かしむように私の髪を撫でる。
「私がまだ女神と言われるような力もない、ほんの小さな精霊だったころに出会ったあの子。とても優しくて、そして魔力が豊富で、弱い私にいつも分け与えてくれた」
女神様にもそんな時代があったのね。
「あなたはその子に似ている。性格はちょっとアレだけど、見た目も仕草も、そして魂も」
「性格がアレってどういう事でしょう?」
思わず突っ込んでしまうが、昔会った子に似ているなんて、いいんだか、悪いんだか。
「だから成長を止めていたの。いつまでも子どものままならば老いて死ぬことはないから」
普通ならそんな発想にならないと思う。
だってお母様もお父様も私の成長を喜んでくれたもの。
やはり神様って感覚が違うのね。
まぁ普通は老いを止めるなんて望んでも出来ない事だけど。
「でも、それではヴィオラが幸せになれないってはわかっていたから、せめて少しでも長くと願い、アーネストに少し難題を出したのよ。まぁアーネストもあなたを守るのにはまだ早いし、不安だったのも本当だけど」
最終的には許してくれたから、今はもうその心配はないという事だろうか。
「安心してください。守られるばかりではいたくないので、共に力を合わせて生きたいと思っています」
夫婦というのは助け合っていくものだから、片一方に負担を強いるわけにはいかないと思っている。
「だから、安心して私達を見守っていてくださいね」
変わらずアラカルト家やこの国を守ってくれる、というならば文句を言うつもりはない。
いざという時はあの時のオニキスのように手助けしてくれるはずだし、女神様は頼もしい存在だ。
「そう言えばオニキス様がはどうされたのですか?」
「あまりにもヴィオラを困らせるから、蔓と草で包んでカミディオンにまで戻ってもらったわ。少しおまけをつけて」
おまけというのはどういう事だろう。
「簡単な物よ。カミディオンの植物の精霊達に頼んで来ただけ。この男がブルーメ国に来ないようにしてちょうだいって」
女神様に言われたのでは精霊達もいう事を聞かざるを得ないのだろうな。
「女神様はアラカルト家、そしてこの国の守護神ですね」
何の気なしに言った言葉に女神様は少し眉を寄せて微笑んだ。
「そうね、この国は私の大事な子達の母国だから」
撫で撫でされ、そうして手が離れると今度は暗い空間に光が差してくる。
「そろそろ起きる時間ね」
女神様の手が私の髪から離れる。
「不本意だけどアーネストも待ってるし、帰してあげる」
花の女神様はそう言うと私の目に触れ、何かを呟く。
「あなただけは私を介さなくても、植物達と話せるようにしてあげる。草や花の生えている場所ならば聞くことが出来るわ。これからの生活に役立てて欲しいわ」
どうやらこれが私だけの特別な事なのだろう。
まぁ女神様を介さないという事は自分の好きな時に発動させることが出来る。
家を継いだ時やちょっとした証拠集めに便利そうな魔法だ。
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