蕾令嬢は運命の相手に早く会いたくて待ち遠しくて、やや不貞腐れていました

しろねこ。

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第16話 再会

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「オニキス様が来てるの?」

 なんでわざわざここまで?

 花の女神様に騒動の詳細を聞いて、心臓がひゅっとなったわ。自分関連でここまで拗れてしまうなんて。

 しかも対応にあたっているのはお父様だそうだ。

 何とかすると言ってくれてはいたが、そんな強硬手段を取られていち侯爵が何とか出来るだろうか。

「お姉様はまだ休んでいて。こちらで何とかするから」

 私を気遣ってパメラはそんな事を言ってくれる。けれど何もしないで待っているなんて嫌だ。

『大丈夫、アーネストも対応にあたってくれてるわ』

 誇らしそうに花の女神様は胸を張るけれど、それを聞いてますます黙ってはいられない。

「彼が頑張っているのなら、私も行かないと」

 アーネストばかりに任せるなんて、そんなの出来るわけないじゃない。

 体を起こし、ベッドから降りようとするも、思うように動かない。痛みは治まっているが、急に大きくなったために体が動かしづらく感じている。

 体の重さや手足の長さが変われば当然だろうが、慣らしている暇はない。

(私のせいでそんな争いになっていて、それをお父様とアーネストが食い止めているなんて……一刻も早く行かないと)

 よろける体で歩き出そうとするがふらふらで、堪りかねたお母様に抱き留められた。

「待ちなさい、ヴィオラ。せめて服を着てからよ」

 そうだった。

 誓いの式の為に用意してもらった折角のドレスも、体が成長するからと脱いでしまい、今は簡素な衣服しかつけていない。

(確かにこのような姿で皆の前に出るわけにはいかないわね)

 かなり冷静さを欠いていたのだと、ようやく思い至った。

「アーネスト様の所に行くならこれを着ていくといいわ」

 お母様はドレスを大量に用意してくれていたようだ。

 大体のサイズも予測してくれたようで、体型との乖離もさほどない。少し詰めるだけで良さそうだ。

 さすが母親だと感心してしまう。

 おかげで早くアーネストの元へと行けそうね。本当にありがたいわ。

 用意された中から青色のエンパイアドレスを選びそれを身に着ける。

 靴も低ヒールで歩きやすいものを用意してくれたようだが、一番選ぶのに時間がかかってしまった。

 靴って本当に難しい。

(なかなかしっくりこないわね)

 一番サイズの近い靴を選んだが慣れていない為、よろけてしまう。

 パメラの支えと、つま先に詰め物をして何とか歩ける体裁が取れた。

「ヴィオラ、これを」

 渡されたのはヴィオラの花の髪飾り。

 精巧な作りをしたその髪飾りは花弁の所々に宝石が散りばめられており、私の目の色と同じものが使われていた。

 これ一つにどれだけの技術と時間とそして資金を掛けたのか……思わず受け取るのを躊躇ってしまう。

「アーネスト様がぜひこれをつけて欲しいと言っていたの。本当は自分で渡したかったけど、髪を整える事が自分では出来ないからお願いしたいって渡されたわ。ねっ、この髪飾りをつけてアーネスト様に会いに行きましょう」

 アーネストからの贈り物と聞いて、驚きと嬉しさがこみ上げる。

(こんな大事な物を私に……)

 彼は途中で私を諦めようとか、嫌いになる事はなかったのだろうか。

 他の誰かを好きになる事はなかったのだろうか。

 会っていた時間よりも会わない時間の方が多かったのに、心配になる事はなかったのだろうか。

 考えれば考える程に、早くアーネストに会いたいという気持ちが強くなる。

 オニキスなんて眼中にはない。

 あのような高圧的で自分勝手な男、早く追い返してアーネストと話したい。

 侍女たちに美しく着飾れせてもらうよう頼んで私は早速と私は向かおうとする。

「……お姉様、やはり少し時間が経ってからにしたらどうかしら。オニキス様ももう少ししたら帰ってくれると思うわ」

 パメラはどうやら行かせたくないようで、ここに来てやや渋めな顔になっている。

「ライフォンからも言われているし、ここで待ちましょう。お姉様がわざわざ行くことはないのよ」

 そう言って止めようとする気持ちもわかる。

「でも今オニキス様が素直にが帰ったとしても、また繰り返すような気がするわ。ならば今日ここで分からせて上げたほうがいいのではないかしら。私が誰を選んだか、そしてそれが変わることはないということを、はっきりとお伝えしたいの」

言いながら心の中で苦笑する。

(そんなの口実に過ぎないわね)

 本当はアーネストに会いたいだけで、この気持ちを肯定するような理由を後付しただけに過ぎない。

 まぁそもそもブルーメ国王とレグリスの王太子も証人としてこの屋敷にいるのだから、たかだか第三王子が勝手に乗り込んできた挙句、我儘を通そうとしたとしても、聞く耳を持つ者はいないんじゃないかしら?

 ならば私が引導を渡しても同じだし、寧ろここに居る誰よりも相応しいと思うの。

 パメラと花の女神様の力を借りて、アーネスト様の元へ向かう。

 途中ライフォンが止めようとはしたけれど、
「止めても無駄そうですね……」

 というセリフと共に引いてくれた。

 薄々花の女神様から聞いてわかっていたのか、パメラが私の味方をしているから諦めたのか。

 どちらにしてもあっさりと済んで助かったわ。

 そうして屋敷の玄関ホールに行くと、異様な光景に思わず目を開いてしまった。

 屋敷の中だというのに青々と茂る草と花。

 その中心にはちらりとオニキス様が見える。

 思わずそちらに視線を奪われたが、私が求めていたのはそちらではない。

 草花を操る様に腕を伸ばすアーネストの姿を見て、これが彼の仕業なのだと気づいて更に驚いた、

 今はそれよりもと、私は大きく息を吸って、愛しの人の名を大声で呼んだ。

「アーネスト様!」

 その言葉にふり向いてくれたアーネスト様の表情は一瞬キョトンとなり、その後気づいたようで笑顔へと変化していく。

「ヴィオラ!」

 彼は嬉しそうに喜ぶように満面の笑みを浮かべ、右手に巻き付いた蔓をあっさりと捨て、そして私を力強く抱きしめてくれた。








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