10 / 21
第10話 前倒しと事情
しおりを挟む
アルの忠告を聞いて、すぐにお父様に相談を、と思ったのだが、帰宅した時には既に話は伝わっていた後だった。
「パメラを通して花の女神様から事情を聞いたぞ、対策はもう済んでいる。それにしても厄介な事になったな」
花の女神様ってそのような話も伝えてくれるの? 早馬がなくてもそのような事が出来るなんて、女神様ってやはり凄いのね
「申し訳ございません、私もまさかこのような事になるとは思っておりませんでした。オニキス様に対して認識が甘かったですわ」
ライフォンやアルに対応を任せるのではなく、家として抗議を出せばよかったわ。
今更ながらもう少し早くに対策して何とか出来たのではと、悔やんでしまう。
お父様と対面で座りながら、今後どうしていくかを話し合う事となった。
「ヴィオラのせいではない。そもそも他国の王子とはいえ、決まっていた婚約の話を無くし、受け入れるわけはないのだからあり得ない事をしたのはあちらだ。下手な横槍と茶番に乗って、大事なヴィオラを渡すわけがないだろ。たとえ花の乙女でなくても、このように事件を捏造すれば手に入れられると考える傲慢な王子との婚姻などさせるわけがない」
大切に思ってもらえてると聞いてほっとする。
もしかしたら要求に負けて私を渡してしまうかもと思ったけれど、お父様は乗り気じゃないようで良かった。
家の存続や国の事もあるし、行くわけにはいかないんだけどね。
「今回の話はうちだけでは留まらない者だ。だから先方にも話はしている」
「あちらは何とおっしゃったのでしょうか?」
カミディオンとの王族とのしこりになる可能性が高い事だ、もしかしたら辞退をされたりしないだろうか。
「ヴィオラの事をかなり心配している。それで早めに婚約をし、地盤を固めようという話になった」
女神様と国王陛下が認めた婚約を覆すのは相当難しく、また一度婚約を交わせばライフォンのように花の乙女のパートナーとして相手の事も守られる。
そうなれば少しは執着がおさまり、花の乙女の力を狙われなくて済むかも。
でも、楽しみな反面、不安感が募る。
(次こそは大丈夫なのよね?)
もう女神様に断られたりはしないだろうか。
そして私も婚約者となる方を愛せるかしら。
ずっと会ってもないし、文すらも交わしていない。それなのに。
「パメラやライフォン様のような関係を築けるかしら」
二人のような関係性を築ければいいのだけど、可愛げのない性格の私がそのように出来るか心配だ。
◇◇◇
それから改めて婚約の日が決まった。予定よりも二週間も早まって為に準備が急ピッチで行われる。
私は早く大きくなれるという喜びよりも戸惑いの方が強く何とも落ち着かない日々を過ごす事になる。
あれからまら学園を休むようになったからなのもあるけれど、落ち着かない。
これ以上問題を作らないようにという事と、今回の件でまだ話し合いがあるかららしいが、何もしていないとむしり気が滅入ってしまった。
「緊張する……」
そんな事を部屋で一人呟いていると、パメラが来た。
「お姉様、大丈夫ですか?」
優しい声と言葉に私は思わずパメラに抱き着く。
体格差のせいで姉妹逆転しているけれど、今はそんな事気にならないし、揶揄するものもいないから、うんと甘えてしまう。
「大丈夫かな、私。しっかりとやっていけるかしら」
婚約はゴールではない、スタートなのだ。
それなのにスタートに立つ前から挫けそうで弱音がぽろぽろと口から出てしまう。
普段こんな事をパメラに言った事はないのだけれど、パメラは嫌な顔一つせずに私の話を静かに聞いてくれた。
「大丈夫です、お姉様。私もそうでしたが、すぐに不安はなくなりますよ」
花の女神様が認めてくれた運命の相手というのは、自分達が思っている以上に相性がいいらしい。
会えばビビッと来るそうだ。
「でも最初は女神様のお眼鏡にかなわなかった人よ。本当に私達やっていけるかしら」
今度は認められたというけれど、本当なのかもわからない。
私はまだパメラのように花の女神様の声を聞けていないから、余計に不安になってしまう。
「ふふ。あの時はお義兄様になる方が少し焦り過ぎたそうですよ。お姉様を守る力もないとか、色々な形式を無視したとか女神様がおっしゃってましたもの。だから、反省させる必要があったそうです」
「そうなの?」
「えぇ。だから女神様より試練を与えられたのですわ、お姉様に相応しい人になるまでは会わせないと」
そこまで言ってパメラは少し言いにくそうに声を小さくする。
「……実は女神様なのですが、彼が成長するまでお姉様が思い出せないよう魔法を掛けたそうです。彼について記憶が曖昧で、名前も顔も思い出せないのはそういう事なのです」
えっ、そんな怖い魔法もかけられてたの?
体だけではなく記憶までいじられるなんて……女神様に対して文句を言っても罰は当たらないわよね。
沸々と怒りがこみあげて来る。
「ごめんなさい、私達も口止めされていたの。女神様も反省しているわ」
それを聞いて、はいそうですか、とは許せないが、今パメラが話せたという事は、彼が女神様に認められるほどの男性となったからだろう。
女神様の仕業はともかく彼の努力は本物だと信じたいわ。
でも、そんなに努力をしてくれた彼に対し、私は何かを今まで頑張ってきたかしら。
「女神様のせいとは言え、私何も知らずにただ時を過ごしていたのね。彼はずっと頑張っていただろうに……そんな甘えていた私が、彼にとって本当に相応しいのかしら」
私はただ妹に嫉妬をしたり、様々な事を女神様のせいにしたりと、心綺麗になんても過ごせていない。
勉強等は確かに頑張っていたけれど、正直他の道がなかったから、という思いもある。
敷かれたレール上で生きてきただけの私が、そんな努力家な彼の配偶者でいいのかしら。
「心配になる事はありませんよ。女神様のせいなのもありますし、彼もお姉様の為に頑張る事は名誉な事だとおっしゃってるそうですから」
その口ぶりだと、既にパメラは彼を知ってるようね。
「それと女神様はいつもヴィオラに申し訳ないことをしたって、私に話してきますもの。いっぱい謝罪したい、だそうですわ」
「謝罪ねぇ……それは成長を止めたことについて? それとも記憶を勝手に変えたことについて言っているのかしら?」
「両方ですわね。あと両思いだったのにすぐに認めてあげられ無かった事もでしょうか。これ以上は女神様が直接話したいそうですよ」
そうか。
私ももうすぐパメラと同じく女神様の声を聞くようになるんだった。
それもまた緊張しそうな要因だ。
「常に見られてる感じなのよね。なんか嫌だわ」
守ってくれていると思えばいい事なのだろうけど、何だか監視されている気になりそう。
「慣れると意外と気になりませんわよ。離れているライフォン様の事も教えてくれますし、私はありがたいですわ」
そんな風に割り切って考える事が出来るなんて、意外とパメラは強かね。
でも離れているのに様子を伝えられるのは便利だわ。
今までのお詫びに早馬や伝書鳩の代わりになって貰いましょう。
「パメラを通して花の女神様から事情を聞いたぞ、対策はもう済んでいる。それにしても厄介な事になったな」
花の女神様ってそのような話も伝えてくれるの? 早馬がなくてもそのような事が出来るなんて、女神様ってやはり凄いのね
「申し訳ございません、私もまさかこのような事になるとは思っておりませんでした。オニキス様に対して認識が甘かったですわ」
ライフォンやアルに対応を任せるのではなく、家として抗議を出せばよかったわ。
今更ながらもう少し早くに対策して何とか出来たのではと、悔やんでしまう。
お父様と対面で座りながら、今後どうしていくかを話し合う事となった。
「ヴィオラのせいではない。そもそも他国の王子とはいえ、決まっていた婚約の話を無くし、受け入れるわけはないのだからあり得ない事をしたのはあちらだ。下手な横槍と茶番に乗って、大事なヴィオラを渡すわけがないだろ。たとえ花の乙女でなくても、このように事件を捏造すれば手に入れられると考える傲慢な王子との婚姻などさせるわけがない」
大切に思ってもらえてると聞いてほっとする。
もしかしたら要求に負けて私を渡してしまうかもと思ったけれど、お父様は乗り気じゃないようで良かった。
家の存続や国の事もあるし、行くわけにはいかないんだけどね。
「今回の話はうちだけでは留まらない者だ。だから先方にも話はしている」
「あちらは何とおっしゃったのでしょうか?」
カミディオンとの王族とのしこりになる可能性が高い事だ、もしかしたら辞退をされたりしないだろうか。
「ヴィオラの事をかなり心配している。それで早めに婚約をし、地盤を固めようという話になった」
女神様と国王陛下が認めた婚約を覆すのは相当難しく、また一度婚約を交わせばライフォンのように花の乙女のパートナーとして相手の事も守られる。
そうなれば少しは執着がおさまり、花の乙女の力を狙われなくて済むかも。
でも、楽しみな反面、不安感が募る。
(次こそは大丈夫なのよね?)
もう女神様に断られたりはしないだろうか。
そして私も婚約者となる方を愛せるかしら。
ずっと会ってもないし、文すらも交わしていない。それなのに。
「パメラやライフォン様のような関係を築けるかしら」
二人のような関係性を築ければいいのだけど、可愛げのない性格の私がそのように出来るか心配だ。
◇◇◇
それから改めて婚約の日が決まった。予定よりも二週間も早まって為に準備が急ピッチで行われる。
私は早く大きくなれるという喜びよりも戸惑いの方が強く何とも落ち着かない日々を過ごす事になる。
あれからまら学園を休むようになったからなのもあるけれど、落ち着かない。
これ以上問題を作らないようにという事と、今回の件でまだ話し合いがあるかららしいが、何もしていないとむしり気が滅入ってしまった。
「緊張する……」
そんな事を部屋で一人呟いていると、パメラが来た。
「お姉様、大丈夫ですか?」
優しい声と言葉に私は思わずパメラに抱き着く。
体格差のせいで姉妹逆転しているけれど、今はそんな事気にならないし、揶揄するものもいないから、うんと甘えてしまう。
「大丈夫かな、私。しっかりとやっていけるかしら」
婚約はゴールではない、スタートなのだ。
それなのにスタートに立つ前から挫けそうで弱音がぽろぽろと口から出てしまう。
普段こんな事をパメラに言った事はないのだけれど、パメラは嫌な顔一つせずに私の話を静かに聞いてくれた。
「大丈夫です、お姉様。私もそうでしたが、すぐに不安はなくなりますよ」
花の女神様が認めてくれた運命の相手というのは、自分達が思っている以上に相性がいいらしい。
会えばビビッと来るそうだ。
「でも最初は女神様のお眼鏡にかなわなかった人よ。本当に私達やっていけるかしら」
今度は認められたというけれど、本当なのかもわからない。
私はまだパメラのように花の女神様の声を聞けていないから、余計に不安になってしまう。
「ふふ。あの時はお義兄様になる方が少し焦り過ぎたそうですよ。お姉様を守る力もないとか、色々な形式を無視したとか女神様がおっしゃってましたもの。だから、反省させる必要があったそうです」
「そうなの?」
「えぇ。だから女神様より試練を与えられたのですわ、お姉様に相応しい人になるまでは会わせないと」
そこまで言ってパメラは少し言いにくそうに声を小さくする。
「……実は女神様なのですが、彼が成長するまでお姉様が思い出せないよう魔法を掛けたそうです。彼について記憶が曖昧で、名前も顔も思い出せないのはそういう事なのです」
えっ、そんな怖い魔法もかけられてたの?
体だけではなく記憶までいじられるなんて……女神様に対して文句を言っても罰は当たらないわよね。
沸々と怒りがこみあげて来る。
「ごめんなさい、私達も口止めされていたの。女神様も反省しているわ」
それを聞いて、はいそうですか、とは許せないが、今パメラが話せたという事は、彼が女神様に認められるほどの男性となったからだろう。
女神様の仕業はともかく彼の努力は本物だと信じたいわ。
でも、そんなに努力をしてくれた彼に対し、私は何かを今まで頑張ってきたかしら。
「女神様のせいとは言え、私何も知らずにただ時を過ごしていたのね。彼はずっと頑張っていただろうに……そんな甘えていた私が、彼にとって本当に相応しいのかしら」
私はただ妹に嫉妬をしたり、様々な事を女神様のせいにしたりと、心綺麗になんても過ごせていない。
勉強等は確かに頑張っていたけれど、正直他の道がなかったから、という思いもある。
敷かれたレール上で生きてきただけの私が、そんな努力家な彼の配偶者でいいのかしら。
「心配になる事はありませんよ。女神様のせいなのもありますし、彼もお姉様の為に頑張る事は名誉な事だとおっしゃってるそうですから」
その口ぶりだと、既にパメラは彼を知ってるようね。
「それと女神様はいつもヴィオラに申し訳ないことをしたって、私に話してきますもの。いっぱい謝罪したい、だそうですわ」
「謝罪ねぇ……それは成長を止めたことについて? それとも記憶を勝手に変えたことについて言っているのかしら?」
「両方ですわね。あと両思いだったのにすぐに認めてあげられ無かった事もでしょうか。これ以上は女神様が直接話したいそうですよ」
そうか。
私ももうすぐパメラと同じく女神様の声を聞くようになるんだった。
それもまた緊張しそうな要因だ。
「常に見られてる感じなのよね。なんか嫌だわ」
守ってくれていると思えばいい事なのだろうけど、何だか監視されている気になりそう。
「慣れると意外と気になりませんわよ。離れているライフォン様の事も教えてくれますし、私はありがたいですわ」
そんな風に割り切って考える事が出来るなんて、意外とパメラは強かね。
でも離れているのに様子を伝えられるのは便利だわ。
今までのお詫びに早馬や伝書鳩の代わりになって貰いましょう。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる