蕾令嬢は運命の相手に早く会いたくて待ち遠しくて、やや不貞腐れていました

しろねこ。

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第1話 蕾の乙女

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 下校のベルが鳴り、私はため息をついた。

 放課後を示すものではない、学園から出るよう促すベルだ。

(家に帰りたくないなぁ)

 そうは言ってもいつまでも学園にいるわけにはいかない。

 急いで開いていた教科書やノートをバッグに仕舞いこんで図書室を出た。

 この時間まで居るものなどそうはいない。日はもう少しで山に差し掛かるところで、夕日になる一歩手前であった。

 御者には出来るだけゆっくりと帰って欲しいと言ったが、夕暮れの為にそこまで遅くは出来ないだろう。

 馬車に乗り、少しすると我が家が見えて来る。

 夕日が少し山合に入ったくらいのところで到着だ。家の前に来ると見慣れた紋の馬車が止まっているのが見えて、ため息をつく。

(まだ帰ってなかったのね)

 出来るだけゆっくりにしてもらったのに、それでもかち合ってしまった。

 仕方無しに屋敷に入ると抱きしめ合うバカップル、もとい妹とその婚約者がいる。 

 別れを惜しんでいるところだったらしく、まだ私には気づいていない。

「お姉様」

 ようやく気づいた妹が彼の体から離れ、私の方を見る。

 柔らかそうな銀の髪に、大きな黄緑色の瞳。その目はうるうるとしていて、涙を滲ませていたようだ。

「お帰りなさい、ヴィオラ様」

 あなたの家ではないでしょうと内心でツッコミをいれつつも、未来の義弟を見る。

 夜のような紺色の髪を束ねた美丈夫、ライフォン=グラッセ伯爵令息だ。

 義弟といいつつ年は私と一緒で、クラスも一緒。

 妹のパメラにはよく羨ましがられている。

「ただいま戻ったところだけど、ライフォン様はもうお帰りよね」

「そうなのです。名残惜しくて……本当はパメラを連れて帰りたいのに」

 ひしっと抱きしめ合う二人にモヤモヤを感じながら、私は間に割って入る。

「早くしないとお父様が帰って来るわよ。そうしたら一週間は出禁になるわ」

 そう言えば慌てふためき、ライフォンは帰る準備をする。

「パメラ、また明日来るからね。ヴィオラ様も学園で」

「ライフォン、待ってるわ」

 パメラは寂しそうに手を振って、彼を見送る。

 名残惜しそうにいつまでもパメラとライフォンが見つめ合っている、付き合いきれないわね。

 そんな二人を見てどっと疲れが出た為、私は最後まで見送る事無く、部屋に戻ってベッドに横になる。

 制服が皺になるかもしれないが、構っていられない。

(いいなぁ)

 あんなにも近くに婚約者がいて羨ましい。かと言ってそんな不満をぶつけるわけにもいかない。

 二人共私の大事な家族だ。

(私もいつかあんな事が出来るといいな)

 あそこまで過度なスキンシップはいらないけれど、手ぐらいは繋いでデートをしたい。

 当分叶わない夢ではあるが。


 ◇◇◇


 私の家、アラカルト侯爵家は変わっている。

 この家では女しか生まれないのだが、それは花の女神によるものらしい。おかげで女系の家柄なのだけれど、昔からの事で誰も違和感を感じていないらしい。

 それだけではなく花の女神様の力のせいで、十歳で体の成長が一度止まる。

 その女神様が認めるパートナーが現れると、蕾が花開くように一気に成長するのだ。

 妹のパメラはライフォンとの婚約で花開き、十四歳で綺麗な乙女へとなれた。

 だが私には婚約者がいない為に十歳で体の成長は止まったまま、十六となった今も変わらない。

 月のものも来ないし、身長どころか体重も変わらない。

(これはもう呪いでは?)

 そう両親に言ったが、祝福だと否定された。いや、呪いでしょ。

 パメラはライフォンとの出会いで花開いたが、私はまだ相手も見つからない。

 いや、候補はいたのだ。だが、彼と共にアラカルト家にある女神像の前に立っても何も変化が起こらなかったのだ。

 女神様の前で二人で互いの愛を誓い、認められると沢山の花弁が舞い散るそうなのだが、何の反応もなく終わってしまった。

「僕、女神様に認めてもらえるよう頑張る。だから待っていて」

 そう言って彼が姿をくらまし、早五年。

 いい加減待ちくたびれてきたが、彼からは何の音沙汰もなく、文も来ない。

(このままだと他の人に言い寄られてしまうかもしれないわよ)

 何ても思っていたのだが、その心配はなかった。

 成長が止まり、特に美しいとか可愛いとかの特徴もない容姿をした私に、求婚しようという猛者はその後現れなかった。

 奇異の目で見られることはあっても、近づくものはない。

 アラカルト家の事情は知っていても受け入れられないのだろう。

 時折家柄とお金目当て、もしくは妹のパメラに近づきたいという者からのお誘いがあったが、女神の守護の為か、そういうものは弾かれる。

 それにより心無い悪評が流され、また人が遠ざかった。

 酷い、私悪くないのに。

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