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恋(宰相視点)

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レナンは珍しい女性の宰相だ。

ミューズと同じく本好きで数々の本を読み漁った。
好奇心も強く、政治にも興味があったこと。
ミューズの母とも政治談義を重ね意気投合したことにより選ばれたのだ。

もちろんやっかみもあったのでひたすら努力した。
時には冤罪をかけられたりしたが、王家の助けを借りて頑張ってきた。

女性ながら政治を語ると言うことで婚約者探しも難航していた。

女性は男性に尽くすことという考えがまだまだ根深かったので、縁談自体も少なかったのである。
デビュタントでも盛大に転ぶ大失態をしてしまったので出会いすらなかった。

そんな中優しかったのが、目の前のエリック。
太陽のような金髪に優しい緑色の目。
助けて貰ったときは本気で拝んでしまい、「面白い人だ」
と褒められた。いや褒めてないか。

「こんな私を女性扱いしてくれるのは殿下以外おりません」
レナンはありがたやと両手を合わせ、拝んでしまう。

お祖母様にいい事があったときは神様に感謝するのよと教えられ、すぐに祈ってしまう。

「何を言う、君はとても美しい。君は仕事のしすぎで婚期を逃してしまったとミューズから聞いた。ぜひ俺のところに花嫁として来てくれないか?」
「なんと恐れ多い!」

さらりとスマートにプロポーズの言葉を口にするなどさすが殿下。
危うく口から心臓が飛び出すところでした、からかうのはご遠慮願いたい。

「私は27です、殿下よりも年上です。しかし、人性初のプロポーズ。良い経験になりました。この幸せは一生忘れないでしょう、胸にしたためて頑張って生きていきます」
「初めてのプロポーズだったのか、嬉しいな。俺も初めてだよ」
ニコニコと表情は変わらない。

「はい!このように胸がときめくのですね。ミューズ様が恋愛小説にハマるのもわかります、本当に素晴らしい」
ぐっと拳を握り、熱く語る。

「で、返事は?」
「返事?」
返事?Response?何について?

「結婚してくれる?」
2度目のその言葉を理解した後、あまりの衝撃に顔を赤くしてレナンは再び意識を失ってしまった。


「御冗談ではなかったのですか?」
火照る顔に濡れタオルを当て、寝込むレナンの側でじっとエリックが言葉を待つ。

返事を聞くまでは帰れないとずっと待っててくれたのだ。

「冗談ではない。冗談でこんなことは言わない。俺は王になるのだ、発言には責任を持つよ」

熱々の視線に毛布に潜り込みたい。
だが殿下に対しての不敬になってしまう、逃げられない。

「そもそも殿下は何故私などと」
「殿下は止めてくれ、名前で呼んでほしい」
「…エリック様は何故私にそのような世迷い言を申すのですか」

女性にしては背も高く、ミューズのように女性らしい身体つきもしていない。まるで枯れ木のようだと言われた事もある。

「レナン殿は美しい、そして話すととても楽しいのだ。今まで俺の話についてこれたのは君とミューズだけだ」
弟は脳まで筋肉だしなとさらりと毒舌を吐く。

「レナン殿は頭が良いし面白い。見ていて飽きないのだ」
「そのレナン殿というのを止めて下さい、体がムズムズします」

自分より格上の方に敬称で呼ばれるのは落ち着かない。さらに褒めちぎられるともう部屋から走って逃げたくなるほどだ。

「ではレナンは俺をどう思う?」
呼び捨ての方が凄い迫力だ。今にも天国へのぼれそう。

「素敵な方です」
「好き?嫌い?」
「その2択なら好き、です」
「恋人になったら嬉しい?嬉しくない?」
「嬉しい、です」
「じゃあ夫にしたいのは…」
「待ってください、誘導してますよね?!」
その2択でいけば断れない選択肢ばかりではないか。

憧れの方を否定する方など選ぶわけがない。

「私と婚姻なんて、エリック様の足枷にしかなりません。お荷物ですよ」
「10年以上も王宮に務め、ここ数年はひとりでリンドールを支えていたじゃないか。その功績は誰しもが認めている。今度は俺に支えさせてくれ」
「王妃など私には務まりません」
「構わない。公務についてはミューズも手助けしてくれると話していた。俺と結婚すればミューズと義姉妹にもなれるぞ」
「私の女神と義姉妹に…!人間には恐れ多いですが魅力的な話」
堂々と彼女と話せる立場につくのか。

しかし、目の前の太陽神との結婚なんて私には…。

「アドガルムの図書室も入り放題だ。王族にしか見ることが出来ない貴重な資料や、古書をレナンのために開放しよう」

「不束者ですがよろしくお願いします」
ベッドの上で土下座をする。

探究心には勝てなかった。
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