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第77話 見つけた
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「ソレイユはどこですか」
僕は確信を持って地母神に詰め寄る。
ソレイユが生きていたなど、最初はシェンヌの妄言かと疑ったが、ルナリアを殺そうとした点以外は、それほど矛盾した話とは思えなかった。
ソレイユが何故生きているかは知らないが、困っていた女性を助け、見返りも求めないという正義漢気取りの行動が実にあいつらしいと思ったのだ
それとルナリアが長い間見つからないということもおかしい。
地母神が二人を匿っているのだとしたら合点がいく。
(どういう理由で二人を手助けしているのかはわからないが、地母神にとって利点があるのだろう)
そうでなければ、天上神と海底界を敵に回してまで隠すのはリスクが大きすぎる。
「ソレイユの居場所など妾は知らぬ。生きていたとした、ら妾のところに報告が入るはずだ。天上神からも見つけたら突き出すように言われているしな」
「こんなにも日にちが経っているのに何の手がかりもないとは、地上界の神はきちんと仕事をしているのでしょうか。それにルナリアの事も遅すぎる。妊婦で、しかも外で過ごすことなどした事がない女性すらも見つけられないとは、まともな神がいるとは思えませんね」
「何だと?」
さすがに地母神は怒り、目を吊り上げ僕を睨みつけてきた。
地鳴りが聞こえ、体が前後に揺れる。
「事実でしょう。無能でないというのならば、手がかりの一つや二つ、あるのですよね」
「曖昧な情報を話すわけにはいかぬ、今情報を精査中じゃ」
口だけならば何とでも言えるだろうな。
「それと、ここで赤い髪の男性を見たと部下が言うのですよね。もしかしたらソレイユではないかと疑っているのです」
「そんな事、あるわけがない」
地母神は顔色一つ変えないが、周囲で待機している神人からはかすかに動揺の気配を感じる。
少しひっかけるつもりで話したのだが、当たりのようだ。
(地母神様、もう少し神人の教育はしっかりしておいた方がいいですよ)
このようにボロが出てしまうから。
「そうですね、もしそれが本当であれば、あなたは二界の最高神と敵対したことになる。ですのでそれを報告する前に僕にここを探させてもらえませんか?」
「何を勝手な。そんな事を許可できるわけなかろう」
「それではこの件を父である海王神と、天上神様にお伝えしてきます。それでも良いでしょうか?」
地母神の顔は苛立ちで赤くなる。
「痛くもない腹を探られて、このように脅されて大丈夫なわけがなかろう。小僧、図に乗るなよ」
怒りの為に髪が逆立ち、鬼気迫る表情は見る者を恐怖させる。
僕の部下も怯え、慄いてしまった。
「そんな怖い顔をしないでください。では、交換条件を出しましょう。宮殿を探させてもらえればシェンヌはお返ししますし、僕を殺そうとした件も不問にいたします」
「何じゃと?」
「僕とてただ地母神様との仲を悪くしたいわけではありませんから。ソレイユの行方、ひいてはルナリアの無事を知りたいのです」
地母神の怒りが収まり、やや思案する。
「本当にシェンヌを帰してくれるのか?」
地母神は敵には厳しいが身内にはとても甘い。
シェンヌの事とて本当は助けたいと思っているはずだ。
「えぇ。このままではシェンヌは死罪ですが、もしもこの宮殿の探索を許してくれるならば、お返しします」
五体満足とまではいかないがな。
「……わかった。しかし一度宮殿の者達に通達を出させてもらう。ここには女神や女の神人が多い。あまり男にうろつかられては困るのでな」
「それは許可出来ません。その間にソレイユを逃がしてしまう可能性もありますからね」
僕は部下の一人に目配せをした。
「外にも海底界からの者は大勢来ています。申し訳ありませんが少し家探しをさせてもらいますよ」
「待て。勝手に宮殿内を歩くことは許可出来ん。せめて地上界の神を共につかせるぞ、何かあっては困るからのう」
「良いですけれど、建物を破壊したり人を攻撃することはしませんから、安心して下さい。僕の部下に失せもの探しが得意な者がいますので」
部下が祈るような姿で力を解き放つと、それは波のように室内に広がっていく。
「もしもどこかに隠れていたとしても、この波が私の目となり、耳となります。こうして見つけることが出来ます」
「何かあればすぐに伝えてくれ」
どこかに匿ってもこの力があれば見つけることが出来る。
外では逃げ切られる可能性もあるが、このような建物内であれば逃げ場などない。
宮殿の外には部下を配置しているから、外に逃げようとしてもすぐにわかる。
(ソレイユの事だ、生きていたらルナリアをすぐに取り戻しにかかるはず。しかし天空界や海底界で、ソレイユの事を見かけたという話はなかった)
ルナリアもソレイユが生きていると知ったら探しに行くはずだ。
そうなれば地上で二人が出会っている可能性も充分にある。
(地上界の神達は何故か二人に協力的だ。ルナリアの出産も間近であるし、ならば一番安全なここにいる可能性は大いにある)
「そんな事をしなくてもここにはおらぬ!」
「それを確かめるためですよ。何ならもう天上神様に伝えてもいいんですからね。ソレイユを庇い、ルナリアを匿っている疑いがあると」
天上神様はルナリアの事を溺愛している。
たとえわずかな手がかりでも、わらに縋る思いですぐに飛んできそうだ。
そうして地母神との問答を続けていると、部下があっと声を上げる。
「赤子の声にこの尊い気配……おそらくルナリア様です」
その名と赤子の存在を聞いてドクンと心臓が跳ね上がる。ようやく会えるのだと歓喜した。
僕は確信を持って地母神に詰め寄る。
ソレイユが生きていたなど、最初はシェンヌの妄言かと疑ったが、ルナリアを殺そうとした点以外は、それほど矛盾した話とは思えなかった。
ソレイユが何故生きているかは知らないが、困っていた女性を助け、見返りも求めないという正義漢気取りの行動が実にあいつらしいと思ったのだ
それとルナリアが長い間見つからないということもおかしい。
地母神が二人を匿っているのだとしたら合点がいく。
(どういう理由で二人を手助けしているのかはわからないが、地母神にとって利点があるのだろう)
そうでなければ、天上神と海底界を敵に回してまで隠すのはリスクが大きすぎる。
「ソレイユの居場所など妾は知らぬ。生きていたとした、ら妾のところに報告が入るはずだ。天上神からも見つけたら突き出すように言われているしな」
「こんなにも日にちが経っているのに何の手がかりもないとは、地上界の神はきちんと仕事をしているのでしょうか。それにルナリアの事も遅すぎる。妊婦で、しかも外で過ごすことなどした事がない女性すらも見つけられないとは、まともな神がいるとは思えませんね」
「何だと?」
さすがに地母神は怒り、目を吊り上げ僕を睨みつけてきた。
地鳴りが聞こえ、体が前後に揺れる。
「事実でしょう。無能でないというのならば、手がかりの一つや二つ、あるのですよね」
「曖昧な情報を話すわけにはいかぬ、今情報を精査中じゃ」
口だけならば何とでも言えるだろうな。
「それと、ここで赤い髪の男性を見たと部下が言うのですよね。もしかしたらソレイユではないかと疑っているのです」
「そんな事、あるわけがない」
地母神は顔色一つ変えないが、周囲で待機している神人からはかすかに動揺の気配を感じる。
少しひっかけるつもりで話したのだが、当たりのようだ。
(地母神様、もう少し神人の教育はしっかりしておいた方がいいですよ)
このようにボロが出てしまうから。
「そうですね、もしそれが本当であれば、あなたは二界の最高神と敵対したことになる。ですのでそれを報告する前に僕にここを探させてもらえませんか?」
「何を勝手な。そんな事を許可できるわけなかろう」
「それではこの件を父である海王神と、天上神様にお伝えしてきます。それでも良いでしょうか?」
地母神の顔は苛立ちで赤くなる。
「痛くもない腹を探られて、このように脅されて大丈夫なわけがなかろう。小僧、図に乗るなよ」
怒りの為に髪が逆立ち、鬼気迫る表情は見る者を恐怖させる。
僕の部下も怯え、慄いてしまった。
「そんな怖い顔をしないでください。では、交換条件を出しましょう。宮殿を探させてもらえればシェンヌはお返ししますし、僕を殺そうとした件も不問にいたします」
「何じゃと?」
「僕とてただ地母神様との仲を悪くしたいわけではありませんから。ソレイユの行方、ひいてはルナリアの無事を知りたいのです」
地母神の怒りが収まり、やや思案する。
「本当にシェンヌを帰してくれるのか?」
地母神は敵には厳しいが身内にはとても甘い。
シェンヌの事とて本当は助けたいと思っているはずだ。
「えぇ。このままではシェンヌは死罪ですが、もしもこの宮殿の探索を許してくれるならば、お返しします」
五体満足とまではいかないがな。
「……わかった。しかし一度宮殿の者達に通達を出させてもらう。ここには女神や女の神人が多い。あまり男にうろつかられては困るのでな」
「それは許可出来ません。その間にソレイユを逃がしてしまう可能性もありますからね」
僕は部下の一人に目配せをした。
「外にも海底界からの者は大勢来ています。申し訳ありませんが少し家探しをさせてもらいますよ」
「待て。勝手に宮殿内を歩くことは許可出来ん。せめて地上界の神を共につかせるぞ、何かあっては困るからのう」
「良いですけれど、建物を破壊したり人を攻撃することはしませんから、安心して下さい。僕の部下に失せもの探しが得意な者がいますので」
部下が祈るような姿で力を解き放つと、それは波のように室内に広がっていく。
「もしもどこかに隠れていたとしても、この波が私の目となり、耳となります。こうして見つけることが出来ます」
「何かあればすぐに伝えてくれ」
どこかに匿ってもこの力があれば見つけることが出来る。
外では逃げ切られる可能性もあるが、このような建物内であれば逃げ場などない。
宮殿の外には部下を配置しているから、外に逃げようとしてもすぐにわかる。
(ソレイユの事だ、生きていたらルナリアをすぐに取り戻しにかかるはず。しかし天空界や海底界で、ソレイユの事を見かけたという話はなかった)
ルナリアもソレイユが生きていると知ったら探しに行くはずだ。
そうなれば地上で二人が出会っている可能性も充分にある。
(地上界の神達は何故か二人に協力的だ。ルナリアの出産も間近であるし、ならば一番安全なここにいる可能性は大いにある)
「そんな事をしなくてもここにはおらぬ!」
「それを確かめるためですよ。何ならもう天上神様に伝えてもいいんですからね。ソレイユを庇い、ルナリアを匿っている疑いがあると」
天上神様はルナリアの事を溺愛している。
たとえわずかな手がかりでも、わらに縋る思いですぐに飛んできそうだ。
そうして地母神との問答を続けていると、部下があっと声を上げる。
「赤子の声にこの尊い気配……おそらくルナリア様です」
その名と赤子の存在を聞いてドクンと心臓が跳ね上がる。ようやく会えるのだと歓喜した。
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