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第74話 錯綜
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「海底界の奴らめ、俺の情報を教えろと来たか。何とも厄介だな」
海底界の者達は、シェンヌの話を聞いて俺が生きているかもしれないと思ったのだそうだ。
「ソレイユ様が存命しているならば、地母神様のもとに情報が来ているはずだと。今皆さまそちらの対応に追われています。落着きまでは、しばしこちらに身を隠していてください」
神人の言葉に俺は大人しく室内に戻った。
「ここに、海底界からの使者が来ているの……?」
話を聞いたルナリアは青白い顔をして震えている。
「大丈夫、ここにいれば見つかることはないよ」
安心させるようにルナリアを強く抱きしめる。
(しまった、嫌な事を思い出させてしまった)
ルナリアの震えはなかなか止まらない。
「本当に大丈夫でやすか? 本気で調べようと思うのなら、ここにも来ちまうんじゃ」
シェイプも落ち着かない様子でおろおろとしている。
「たとえ来たとしても俺が追い返す。まぁここまでの侵入を地母神様が許すとは思えないが」
ここは最高神の宮殿だ。いくら何でも他界の者が勝手に調査なんて出来はしないはずだ。
「もう少ししたら兄上もクラウンもここに来てルナリアを守るために尽力してくれる。もう二度とルナリアをどこかに行かせるつもりはないからな、不安だろうがもう少し耐えてくれ」
「はい」
それでもルナリアはぎゅっと不安を押し殺すように唇を噛み、しがみついてくる。
時折地鳴りが起こるが、おそらく地母神様が怒っているのだろう。
俺とシェイプはルナリアを守るように囲み、ただひたすらに時間が流れるのを待った。
◇◇◇
どれくらいの時間が経っただろうか。
地鳴りはいつの間にか収まり、宮殿自体が静まり返ったように何も聞こえなくなった。
何が起きたのか、どう決着したのか、ここにいるのではわからない。
だがドアを開けて万が一海底界の者に見つかるなどしたら元も子もない。
「ルナリア、辛くはないか?」
「えぇ」
そうは言うものの時折苦痛に満ちた顔をする。
「もしかして、もう少しで生まれそうとかでやすか?」
お腹はだいぶ大きく、確かにいつ生まれてもおかしくはなさそうだ。
(こんな所で産ませるわけにはいかない)
ここにはソファーしか体を休める場所がないし、このようなところで出産させるのもしたくはない。
何とか場所を移したい。
その時、ノックの音が部屋に響く。
「シェイプ」
「へい!」
俺の掛け声で、シェイプは自身の体を伸ばしてルナリアを守るように覆っていく。
「誰だ?」
ドア越しに聞けば、聞き覚えのある声が返ってきた。
「ソレイユ様。私です、エリスです」
従姉妹のエリスの声に、俺はすぐドアを開ける。
そこに立っていたのは紛れもなくエリスだ。
「エリス、話し合いはどうなったんだ?」
「それについては後ほどに説明いたします。今はまずここから移りましょう」
エリスの侍女たちが俺達を囲うように入ってくる。
「ルナリア様、もうだいぶお腹が大きいのですね。これではおつらいでしょう」
「あなたは、誰?」
ルナリアは警戒心強くエリスを見る。
「私はソレイユ様の従姉妹です。ですのでそう警戒なさらないで」
エリスは優しくルナリアのお腹に触れる。
「もうすぐ生まれそう……この部屋には十分な設備がないので移動しますよ。ソレイユ様、ルナリア様を支えてあげてね」
エリスに命令され俺はルナリアを抱える。
「念のために皆でルナリア様を隠して移動します。けして声を出しませんように」
そう言うと俺もルナリアもフードのある服を被せられる。
「実はリーヴ様もいらしております。かなり興奮されているようで、何をするかわからりません。念のためにもう少し奥の部屋へと移動します」
その名を聞いてルナリアは激しく動揺し、呼吸が不規則になる。
「大丈夫、大丈夫ですから。私たちがいます、安心してください」
エリスは励ますようにルナリアの手を握った。
「今はまずその子を無事に産むことだけに集中しましょう。それからの事はソレイユ様と共に考えていけばいいのです」
ルナリアが不安そうな視線を俺に送る。
「俺も共に考える。それにしてもリーヴがここに来るなら好都合だ。俺自らあいつを仕留めてやる」
ルナリアを傷つけた張本人だ、ルナリアの痛みを思えば何回痛めつけても足りないだろう。
リーヴに何かすれば海王神が激怒するかもしれないが、知ったことか。
「ソレイユ様の言葉に甘えましょう。いざとなったらソレイユ様に吹っ飛ばしてもらうのです」
エリスもまた拳を握り、素振りをする。
「私ももちろん力を貸します、ぼこぼこにしますから」
エリスの物言いにルナリアはややきょとんとしていた。
(エリス、お前ってこんな性格だったのか)
まぁあの地母神の姪だし、その気質を受け継いでいるのだろう。
海底界の者達は、シェンヌの話を聞いて俺が生きているかもしれないと思ったのだそうだ。
「ソレイユ様が存命しているならば、地母神様のもとに情報が来ているはずだと。今皆さまそちらの対応に追われています。落着きまでは、しばしこちらに身を隠していてください」
神人の言葉に俺は大人しく室内に戻った。
「ここに、海底界からの使者が来ているの……?」
話を聞いたルナリアは青白い顔をして震えている。
「大丈夫、ここにいれば見つかることはないよ」
安心させるようにルナリアを強く抱きしめる。
(しまった、嫌な事を思い出させてしまった)
ルナリアの震えはなかなか止まらない。
「本当に大丈夫でやすか? 本気で調べようと思うのなら、ここにも来ちまうんじゃ」
シェイプも落ち着かない様子でおろおろとしている。
「たとえ来たとしても俺が追い返す。まぁここまでの侵入を地母神様が許すとは思えないが」
ここは最高神の宮殿だ。いくら何でも他界の者が勝手に調査なんて出来はしないはずだ。
「もう少ししたら兄上もクラウンもここに来てルナリアを守るために尽力してくれる。もう二度とルナリアをどこかに行かせるつもりはないからな、不安だろうがもう少し耐えてくれ」
「はい」
それでもルナリアはぎゅっと不安を押し殺すように唇を噛み、しがみついてくる。
時折地鳴りが起こるが、おそらく地母神様が怒っているのだろう。
俺とシェイプはルナリアを守るように囲み、ただひたすらに時間が流れるのを待った。
◇◇◇
どれくらいの時間が経っただろうか。
地鳴りはいつの間にか収まり、宮殿自体が静まり返ったように何も聞こえなくなった。
何が起きたのか、どう決着したのか、ここにいるのではわからない。
だがドアを開けて万が一海底界の者に見つかるなどしたら元も子もない。
「ルナリア、辛くはないか?」
「えぇ」
そうは言うものの時折苦痛に満ちた顔をする。
「もしかして、もう少しで生まれそうとかでやすか?」
お腹はだいぶ大きく、確かにいつ生まれてもおかしくはなさそうだ。
(こんな所で産ませるわけにはいかない)
ここにはソファーしか体を休める場所がないし、このようなところで出産させるのもしたくはない。
何とか場所を移したい。
その時、ノックの音が部屋に響く。
「シェイプ」
「へい!」
俺の掛け声で、シェイプは自身の体を伸ばしてルナリアを守るように覆っていく。
「誰だ?」
ドア越しに聞けば、聞き覚えのある声が返ってきた。
「ソレイユ様。私です、エリスです」
従姉妹のエリスの声に、俺はすぐドアを開ける。
そこに立っていたのは紛れもなくエリスだ。
「エリス、話し合いはどうなったんだ?」
「それについては後ほどに説明いたします。今はまずここから移りましょう」
エリスの侍女たちが俺達を囲うように入ってくる。
「ルナリア様、もうだいぶお腹が大きいのですね。これではおつらいでしょう」
「あなたは、誰?」
ルナリアは警戒心強くエリスを見る。
「私はソレイユ様の従姉妹です。ですのでそう警戒なさらないで」
エリスは優しくルナリアのお腹に触れる。
「もうすぐ生まれそう……この部屋には十分な設備がないので移動しますよ。ソレイユ様、ルナリア様を支えてあげてね」
エリスに命令され俺はルナリアを抱える。
「念のために皆でルナリア様を隠して移動します。けして声を出しませんように」
そう言うと俺もルナリアもフードのある服を被せられる。
「実はリーヴ様もいらしております。かなり興奮されているようで、何をするかわからりません。念のためにもう少し奥の部屋へと移動します」
その名を聞いてルナリアは激しく動揺し、呼吸が不規則になる。
「大丈夫、大丈夫ですから。私たちがいます、安心してください」
エリスは励ますようにルナリアの手を握った。
「今はまずその子を無事に産むことだけに集中しましょう。それからの事はソレイユ様と共に考えていけばいいのです」
ルナリアが不安そうな視線を俺に送る。
「俺も共に考える。それにしてもリーヴがここに来るなら好都合だ。俺自らあいつを仕留めてやる」
ルナリアを傷つけた張本人だ、ルナリアの痛みを思えば何回痛めつけても足りないだろう。
リーヴに何かすれば海王神が激怒するかもしれないが、知ったことか。
「ソレイユ様の言葉に甘えましょう。いざとなったらソレイユ様に吹っ飛ばしてもらうのです」
エリスもまた拳を握り、素振りをする。
「私ももちろん力を貸します、ぼこぼこにしますから」
エリスの物言いにルナリアはややきょとんとしていた。
(エリス、お前ってこんな性格だったのか)
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